科学研究費補助金 (基盤研究(B))
2006年度〜2008年度
   ■研究課題名
グローバル・イノベーション・ネットワークの形成と進化に関する研究
研究目的
2006年度研究計画 / 2006年度研究成果 
2007年度研究計画 / 2007年度研究成果 
2008年度研究計画 / 2008年度研究成果 
研究成果
■研究代表者 秋野 晶二 立教大学経営学部准教授
■研究分担者
林 倬史 立教大学経営学部教授
  坂本 義和 千葉経済大学経済学部准教授

山中 伸彦 立教大学ビジネスデザイン研究科准教授(2008年度より)
■研究協力者 鹿生 治行 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構常勤嘱託(2007年度より)
■研究の目的
 本研究は、諸構成要素をも含むパーソナル・コンピュータ産業を対象として、イノベーション・ネットワークという観点から、グローバルに展開するエレクトロニクス産業の生産・開発の企業間ネットワークの歴史的な形成と進化、不断のイノベーションの構造化の過程を実態面と理論面から明らかにすることを目的とする。究期間内では、パーソナル・コンピュータ産業の形成・発展過程およびそこにおける競争の展開、生産・開発ネットワークのグローバルな形成・進化、イノベーションの構造化の過程を分析して、その現代的な位置づけを歴史的、理論的に解明し、継続的なイノベーションによる企業発展モデルを明らかにする。
   
■2006年度研究実施計画  
平成18年度の研究計画は以下のとおりである。
   
1.文献調査を理論文献と実証文献に分けて実施する。
   各分野における理論文献、実証文献、企業内部資料などを収集し、整理する。
   
2.企業・工場の訪問による実態調査を実施する。
 
   日本とアジアに立地しているパーソナル・コンピュータ産業に関連のある企業から、訪問する企業・工場を選定してリストを作成し、それぞれについて調査項目を決定し、また予備的な文献調査を行ったうえで、特に日本国内に立地する工場、外資系を含めた企業・工場を中心に訪問調査を実施する。
   
3.文献調査および企業・工場訪問調査の成果をデータベース化して公開する
 
   文献調査、企業・工場訪問調査、定期的な研究の会合によって得られた成果は、可能な限りデジタル化した上で整理し、データベースを作成する。
   
4.研究方針・計画の決定、研究成果の共有化、研究促進のための会合を定期的に開催する。
 
  1〜2ヶ月に1度程度の定期的な会合を開催し、研究方針や研究計画を決定・確認を行い、各自が研究を進めた成果を共有する。
■2006年度研究成果  
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 今年度は、5回の研究会および2つの工場への調査を実施した。その結果、研究成果として得られたおもな知見は、以下の通りである。
 PC産業は、既存のコンピュータ、電卓やエレクトロニクス産業において1970年代前半までに蓄積されてきた部品やコンポーネントの産業を基盤としていた。またPCメーカーを中心に、それに部品、周辺機器を開発・生産する企業群、またソフトウェアを供給する企業群が創出され、PC産業は、もともと細分化された分業構造の中で形成してきた。80年代になり、このような構造を積極的に活用することで、IBMはPC市場に迅速に参入し、支配的な地位を獲得するとともに、この分業構造をより強固に構造化していった。
 このような構造によりPC産業は参入障壁が低く、差別化も困難となり、競争が激しくなって、部品や周辺機器、PC本体をも、日本や韓国、台湾などのアジアを中心に低価格で委託生産する体制が築かれた。その結果、80年代にアジアのOEM企業群が成長し、グローバルな分業構造を形成・強化させていった。
 その後、PC産業は、90年代初頭の停滞を経ながらも、80年代のビジネス市場から、一般家庭市場へ市場を大きく拡大させながら、2000年半ばまで成長が持続した。この過程で、以前にも増して、激しい価格競争と技術革新による価格低下に加え、短期間での新機種投入と多機能化とを伴う多品種化が同時に進行していった。それを可能としたのは、細分化されたグローバルな分業構造の中で、その一端を担うにすぎないインテルやマイクロソフトが、PC産業全体の発展を主導する形でイノベーションを進めると同時に、他の部品・コンポーネント・完成品・ソフトを生産する諸企業に対してイニシアティブを取りながら、そのイノベーションを波及させ、絶えず新製品を生み出す仕組みをグローバルな分業構造が構造化していったことにある。
▼研究発表  
<論文>
著者名 

論文標題

秋野晶二 パーソナルコンピュータの特徴と発展傾向(上)−現代生産システム分析の予備的考察−
雑誌名 

巻・号 

発行年
ページ
立教経済学研究
60・3
2 0 0 7
83-103
著者名 

論文標題

Takabumi Hayashi ‘Cross-Border Linkages in Research and Development: Evidence From 22 U.S., Asian, and European MNCs’
雑誌名 

巻・号 

発行年
ページ
Asian Business and Management Vol5, No.2 2 0 0 6 271-289
著者名 

論文標題

Takabumi Hayashi ‘Internationalization of R&D Activities of Electronics MNCs, and R&D Capabilities of East Asian Countries - focusing on Japanese electronics companies’
雑誌名 

巻・号 

発行年
ページ
In the proceedings of IFSAM conference   2 0 0 6  
<図書>
著者名 
出版社
林倬史・関智一・坂本義和共著 税務経理協会
雑誌名 

発行年 

ページ
経営戦略と競争優位:理論とケース 2 0 0 6 179
著者名 
出版社
林倬史 唯学書房
雑誌名 

発行年 

ページ
イノベーションと異文化マネジメント 2 0 0 6 168
著者名 
出版社
坂本義和他共著 中央経済社
雑誌名 

発行年 

ページ
経営戦略論(十川廣國編著) 2 0 0 6 203
著者名 
出版社
林 倬史他共著 税務経理協会
雑誌名 

発行年 

ページ
ユビキタス時代の産業と企業 2 0 0 7 256
著者名 
出版社
鹿生治行他共著 財団法人 社会生産性本部
雑誌名 

発行年 

ページ
ホワイトカラーの管理と労働 2 0 0 7 264
■平2007年度研究実施計画  
 今年度は、生産、開発、経営戦略、設計に、企業組織の面も加えて、パーソナルコンピュータ産業のグローバルに分業構造の中から生み出されるイノベーションのメカニズムを解明していく。企業組織については、尚美学園大学総合政策学部総合政策学科専任講師の山中伸彦氏に研究協力者として新たに参加してもらい、研究を一層深めることとする。なお具体的には以下の内容で研究を進める予定である。
1.文献調査を理論文献と実証文献に分けて実施する。
  昨年度に引き続き、各分野における理論文献、実証文献、企業内部資料などを収集し、整理を行う。
   
2.企業・工場の訪問による実態調査を実施する。
 
  アジア(台湾あるいは中国を予定)に立地しているパーソナル・コンピュータおよび関連企業を選定して、それぞれ調査項目を決めて、実態調査を行う。日本での調査に関しては、外資系企業も含めて、関東に立地している工場および設計・開発部門を中心に訪問調査を実施する。
   
3.文献調査および企業・工場訪問調査の成果をデータベース化して公開する
 
   文献調査、企業・工場訪問調査、定期的な研究の会合によって得られた成果は、可能な限りデジタル化した上で整理し、データベースを作成する。
   
4.研究方針・計画の決定、研究成果の共有化、研究促進のための会合を定期的に開催する。
 
  1〜2ヶ月に1度程度の定期的な会合を開催し、研究方針や研究計画を決定・確認を行い、各自が研究を進めた成果を共有する。
   
5.研究成果の公開
 
  昨年度および今年度の研究において得られた研究成果を随時論文や学会等での報告を通じて公開する。またその後の出版等による公開についても検討を続ける。
■2007年度研究成果  
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 今年度は、8回の研究会、国内1工場と1研究所への訪問調査、および中国深セン6企業への訪問調査を実施した。文研究等の結果を踏まえて、研究成果と訪問調査で得られたおもな知見は以下のとおりである。

 パソコンは多くのモジュールから構成され、そのイノベーションの特徴は各周辺機器・モジュールの発展のなかで展開されている。とりわけその中心にあるのが、CPUである。CPUは、高速度化という発展傾向を持ち、それはPCを多機能化、汎用化させる方向で発展させてきた。すなわち、CPUの高速化は、より複雑で多様なソフトウェア活用を可能とし、またそれに伴い多種多様な周辺機器・モジュールの活用を実現させ、こうしてPCは多機能化・汎用化の道をたどることとなった。
 またCPUの高速化は多種多様な周辺機器との接続が可能となって初めて効果を持つのであって、CPUとの接続の規格をあらわすバスアーキテクチャの発展がPCのイノベーションの段階をなすものと考えられる。このようなPCの発展を主導したのはインテルであり、マイクロソフトであった。CPUを高速化することは、インテルにとっての差別化による競争優位の源泉であり、そこで先導するためには、CPUを活用する周辺機器もまた高度化し多様化させ、ひいてはPCを汎用化・多機能化する方向をPC全体で追求していく体制を構築する必要がある。しかしながらPC産業はきわめて分業化された産業構造持つがゆえに、インテル単独での産業コントロールは困難である。インテルは、90年代において、PC産業の分枝を構成する諸企業群がともに拡大成長していくようなリーダーシップを取りながらPC産業のイノベーションを主導し、各構成企業と産業全体を成長軌道に乗せていった。この過程は、同時にグローバルなイノベーションプロセスを実現するこくさい的な分業体制の構築と一致している。とりわけアメリカ−台湾−中国−インドの間での人的交流=知識の移転を伴う、各モジュール、部品の開発における細分化された分散的な分業構造と、製造面における台湾系を中心とする大規模受託製造業の集中構造が形成されていった。この過程は同時に迅速に開発を進める構造的仕組みの形成でもあった。 
 PC産業はその構成要素および最終製品の産業はきわめて分業化された産業構造を持ちながらも核となるCPUとOSという構成要素における高度な独占状態を持つところに特徴がある。このような構造は、これらの構成要素を担うインテルとマイクロソフトが、産業のイノベーションを主導的に担うことで、細分化された分業構造を持った企業群にとっても成長を持続させ、持続的な成長軌道をPC産業にビルトインさせることで実現されていった。この過程において、グローバルな分業のもとでイノベーションプロセスを実現する体制が構築されていった。とりわけアメリカ−台湾−中国の間での人的交流=知識の移転を伴う、各モジュール、部品の開発における細分化された分散的な分業構造と、製造面における台湾系を中心とする大規模受託製造業の集中構造の形成が明らかにされている。
▼研究発表  
<論文>
著者名 

論文標題

坂本義和

「A. D. Chandler, Jr.の組織能力概念再考 ―チャンドラー・モデルとポスト・チャンドラー・モデルの比較において―」

雑誌名 

巻・号 

発行年
ページ
立教経済学研究
62・2
2008
207-225
著者名 

論文標題

坂本義和

「チャンドラー・モデルの再検討 ―取引コスト理論と組織能力概念の観点から―」

雑誌名 

巻・号 

発行年
ページ
三田商学研究 50・3 2008 421-435
著者名 

論文標題

林倬史

「欧米多国籍企業の研究開発グローバル戦略」

雑誌名 

巻・号 

発行年
ページ

月刊 グローバル経営

  2007 4-7
<図書>
著者名 
出版社
Takabumi Hayashi 税務経理協会
書籍名 

発行年 

ページ
Internationalization of R&D Activities and the Emergence of Global R&D Networks, in A.Ghosh and G. Banerjee(eds), Strategic Management For Firms in Developing Countries. 2 0 0 7 354
■2008年度研究実施計画  
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 今年度は、これまでの調査・研究を踏まえて、テーマであるパーソナルコンピュータ産業のグローバルなイノベーション創出メカニズムについて、報告書をまとめるための研究を進めていく。昨年同様、研究協力者として、鹿生治行氏(独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構常勤嘱託)に研究開発過程・労働分野の調査・研究を継続してもらうとともに、昨年度、研究協力者として研究に加わってもらっていた山中伸彦氏を研究分担者として組織論、トップマネジメント論の視点から研究を進めてもらうこととした。なお具体的には以下の内容で研究を進める予定である。

1.文献調査を理論文献と実証文献に分けて実施する。

 
  報告書作成を念頭に、各分野の理論文献、実証文献、企業内部資料などの収集・整理を行い、既存研究のとりまとめを行う。
   

2.企業・工場の訪問による実態調査を実施する。

 
 
  すでに在中国企業も含めて、パーソナル・コンピュータおよび関連企業の実態調査を行ってきたが、今後報告書を作成するに当たって必要となる工場があれば、国内外問わず、調査対象を検討し、調査を実施する。
   

3.文献調査および企業・工場訪問調査の成果をデータベース化して公開する。

 
  すでに2年間に実施された研究会の概要、研究成果、および調査された企業・工場訪問調査について、公開可能な限り、デジタル化した上で整理し、データベースを作成して、インターネット上に公開する。
   

4.研究方針・計画の決定、研究成果の共有化、研究促進のための会合を定期的に開催する。

 
  1〜2ヶ月に1度程度の定期的な会合を開催し、研究方針や研究計画を決定・確認を行い、各自が研究を進めた成果を共有する。今年度は、特に報告書作成に当たっての各研究員のテーマ・内容を検討・決定し、随時報告会を開催しながら、報告書作成を進めていく。
   
5.研究成果の公開  
 
 

 昨年度および今年度の研究において得られた研究成果を随時論文や学会等での報告を通じて公開する。またその後の出版等による公開についても検討を続ける。

   
■2008年度研究成果  
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 今年度は、8回の研究会、国内1工場と1研究所への訪問調査、および中国深セン6企業への訪問調査を実施した。文研究等の結果を踏まえて、研究成果と訪問調査で得られたおもな知見は以下のとおりである。

▼研究発表  
<論文>
著者名 

論文標題

秋野晶二

「EMSの現代的特徴とOEM」

雑誌名 

巻・号 

発行年
ページ
立教ビジネスレビュー
創刊号
2008
82-97
著者名 

論文標題

林倬史・中山厚穂

「戦略的知識創造とダイバーシティ・マネジメント」

雑誌名 

巻・号 

発行年
ページ

三田商学研究

51・6
2009
25-51
著者名 

論文標題

林倬史

「新製品開発プロセスにおける知識創造と異文化マネジメン」

雑誌名 

巻・号 

発行年
ページ

立教ビジネスレビュー

創刊号
2008
16-32
著者名 

論文標題

Takabumi Hayashi, Atsuho Nakayama

「Knowledge Creation and the Management of Diversities」

雑誌名 

巻・号 

発行年
ページ

異文化経営研究

5
2008
85-96
著者名 

論文標題

坂本義和

「組織能力とは何か? ―組織能力向上のメカニズムに関する試論―」

雑誌名 

巻・号 

発行年
ページ
三田商学研究
51・6
2009
145-160
著者名 

論文標題

山中伸彦

「人的資源の価値と組織の意義」

雑誌名 

巻・号 

発行年
ページ

ロジスティクスシステム

18・2/3
2009
54-55

 

<学会発表>

発表者名
発表標題
秋野晶二

エレクトロニクス産業における分業構造の新展開とEMSの国際化

学会等名 

発表年月日 

発表場所
多国籍企業学会東部部会 2009.11.29 立教大学
発表者名
発表標題
秋野晶二

エレクトロニクス産業における分業構造の新展開とEMSの発展

学会等名 

発表年月日 

発表場所
日本経営学会関東部会 2008.11.29 中央大学後楽園キャンパス
発表者名
発表標題
秋野晶二

分業構造のグローバルな変化とアジア企業−EMSの検討を通して−

学会等名 

発表年月日 

発表場所
アジア経営学会第15回全国大会統一論題 2008.9.14 福岡大学
発表者名
発表標題
山中伸彦

経営者の交代と組織ポリティクス-研究の現状と課題-

学会等名 

発表年月日 

発表場所
経営哲学学会第25回全国大会 2008.9.9 慶応義塾大学
発表者名
発表標題
林倬史 知識の戦略的創造とダイバーシティ・マネジメント
学会等名 

発表年 

発表場所
研究・技術計画学会全国大会 2008.10.12 東京大学生産技術研究所
発表者名
発表標題
Takabumi Hayashi, Atsuho Nakayama

Strategic Knowledge Creation and the Management of Diversities

学会等名 

発表年 

発表場所
IFEAMA Oct. 2, 2008

State University of Management, Moscow, Russia

<図書>

著者名 
出版社

佐野嘉秀・鹿生治行・高橋康二・山路崇正・中川功一

東京大学社会科学研究所人材ビジネス寄付研究部門

書籍名 

発行年 

ページ

『設計部門における外部人材活用の現状と課題(2)―事例調査編―』東京大学社会科学研究所人材ビジネス研究寄付研究部門研究シリーズNo.12

2 0 0 8 273
■研究成果の概要