科学研究費補助金 (基盤研究(C))
2014年度〜2016年度
   ■研究課題名
規模と革新による持続的成長と新たな生産体制に関する研究
研究目的
2014年度研究計画 / 2014年度研究成果 
2015年度研究計画 / 2015年度研究成果 
2016年度研究計画 / 2016年度研究成果 
研究成果
■研究代表者 秋野 晶二 立教大学経営学部教授
■研究の目的
 本研究の目的は、20世紀以降に形成・発展してきた大量生産体制の進化の過程と今日におけるその新たな構造を解明することである。その際、大量生産体制の形成・進化の担い手を近代企業ととらえ、これに対して、1980年代以降の技術特性、競争特性、市場の状況、関連産業の成長を踏まえ、新たな大量生産体制を支える企業の構造および重層的な企業間関係の構造の歴史的な発展過程の特徴を明らかにする。具体的には、PC産業を対象とし、大量生産体制の変化を主導した主要企業の分析を通じて、グローバルで重層的な企業間分業・協業関係の発展により、規模・範囲の経済を活用した生産と連続的で迅速な革新による持続的な成長を実現する大量生産体制が創発的に形成されていった過程とその特徴を明らかにする。
   
■2014年度研究実施計画  
2014年度の研究計画は以下のとおりである。
   
1.先行研究の週主・整理・検討
   大量生産体制の特徴と動揺についてChandlerの近代企業、企業概念に関する理論的および実証的な議論、先行研究を整理する。これにより大量生産体制の形成とその維持に必要な企業行動の特性と生産体制の基礎理 論を構築する。
   
2.1970年度以降の大量生産体制の変遷の検討
 
 

 1970 年代以降、大量生産体制や近代企業の動揺? 変容? 解体に関する議論、新たな生産体制の形成に関する実態一M E 技術の普及、トヨタ生産方式に代表される日本的生産システムの台頭、電子機器メーカーにおける 生産の国際化の進展一を上記の基礎理論に基づいて位置づける。

   
3.PC産業・企業の実態分析
 
   現代の生産体制について主としてP C産業および企業の実証分析を実施する。@ 7 0年代後半以降のP C 産業における技術特性、競争特性、市場の制約、関連産業の歴史的な各種資料の収集と分析を実施する。A 企業の歴史的な発展について実証分析を行う。初年度はアップルと鴻海を予定している。B アップルと鴻海についての生産体制を中心に詳細に分析する。製造機能の変遷、その分離? 分業の過程、両社の協業関係の変遷の過程とその原 因等について解明する。C 企業への訪問調査を実施する。初年度は、候補となる内外の企業の調査を行いながら 訪問先の候補のリストを作成する。それに基づいてまずは台湾のP C メーカー、受託製造業者、周辺機器メーカー
、部品メーカーなどの調査を実施する。合わせて台湾での資料収集を行う。
   
4.研究成果の吸収と公開
 
 

. 研究成果を吸収するため、学会等への参加を行う。初年度はアジア経営学会、工業経営学会などへの参加を行い、研究を深める。 . 調査. 研究成果を随時、学会報告、論文などの形で公開する。

■2014年度研究成果  
トップへもどる
   
2014年度の研究成果は以下のとおりである。
 

 Chandlerの近代企業の形成・発展と関連付けて、企業成長に伴う企業構造の特徴を整理し、先行研究、特にラングロワを中心にその考え方を整理した。これにより分業構造の下での大量生産体制の形成と企業成長における規模の経済・範囲の経済の活用という近代企業との共通性について明らかにした。
 
1970年代以降、大量生産体制や近代企業の動揺・変容・解体については、大量生産市場の飽和と分業化された大量生産体制の形成期と位置付けられる。この時期には、生産における緊密な企業間関係の形成、生産工程への情報技術の導入、企業間の情報ネットワークの形成がみられた。
  また、現代の生産体制としてPC産業のアップルを取り上げて具体的に研究を行った。80年代前半における大量生産体制の形成と確立戦略転換に伴う90年代における大量生産体制の動揺とアウトソーシング、2000年代における生産機能の分業化、外部企業の活用による生産ネットワークのコントロールに基づく大量生産体制の確立、多角化と多品種化の推進、コンテンツ・アプリ事業の垂直統合による急成長について明らかにした。 鴻海精密工業の研究も進めたが、2000年代以降を中心に、多角化と国際化による成長の過程を分析するのが中心であった。
  また台湾への調査を実施し、90年代後半以降のアウトソーシングの景となった台湾企業の受託製造業における台頭の解明とサプライヤの実態、生産と設計・開発の連携の実態を解明、鴻海精密工業分析のための基礎的調査を実施した。これらの成果は、2014年の工業経営研究学会全国大会で報告し、すでに2本の論文を執筆し、2015年中には、刊行される予定である。

キーワード:(1)近代企業、(2) PC産業、(3)アップル、(4)受託製企業、( 5 )企業成長、(6)規模の経済・範囲の経済
▼研究公開  
<学会報告>
1.秋野晶二「現代エレクトロニクス企業の成長と生産体制の展開ーアップル社を中心に」工業経営研究学会全国大会(於:北海学園大学) 2014年09月11日
■平2015年度研究実施計画  
 2015年度の研究計画は以下のとおりである。
   
1.イノベーション、開発に関する研究
 

1.現代の大量生産を支えるイノベーション、製品開発のプロセスや組織について解明することで、今日における製品開発における階層性を明らかにする。

   
2.PC産業の発展と現状に関する研究
 
   PC関連産業の歴史的な発展とそれに伴うPC産業の分業構造との関連について、資料・データを収集し、分析を行う。
   
3.PCおよびEMSにおける産業・企業の実態分析
 
   PC産業・企業の実証分析を継続する。@アップル、鴻海の実態分析を、分析枠組みを含めて実施する。これに加えて、PCメーカー、EMS各社の資料・データを収集しながら、歴史的な成長の過程、組織構造、企業間関係の特徴を分析する。A前年度同様、各社の製造機能の変遷、その分離・分業の過程、両社の協業関係の変遷の過程とその原因等について解明し、生産体制の分析を行う。B前年度に作成したリストに基づいて、中国と台湾を中心に企業への訪問調査を実施する。企業調査のみならず、調査機関や図書館での資料収集を行う。
   
4.研究方針・計画の決定、研究成果の共有化、研究促進のための会合を定期的に開催する。
 
   内外の研究成果を吸収するため、研究協力者も含めて学会等への参加を行う。調査・研究成果を随時、学会報告、論文などの形で公開する。ホームページにも可能な範囲で経過と成果を公開する。昨年度に引き続き、各分野における理論文献、実証文献、企業内部資料などを収集し、整理を行う。
■2015年度研究成果  
トップへもどる
   
 2015年度の研究成果は以下のとおりである。
   

 本年度は、中国、台湾に調査を実施し、特にアップル社および鴻海精密工業の創業期から成長期にかけての事業構造の変遷を明らかにした。
  アップル社については、70年代半ば以降の創業期を経て、80年代の成長期において大量生産体制が構築され、並行して販売機能や研究開発機能も統合しつつ、生産・販売拠点の国際化も徐々に進めながら、すでに近代企業としての事業構造を構築し、成長軌道を実現していった。2000年代以降、アップルは事業を新たなハードウェアとソフトウェア・コンテンツの配信事業へと事業を多角化し、またアメリカ市場中心から国際化をすすめることで、近代企業の事業構造により成長を継続していった。他方、生産体制は、90年代半ばより、受託製造企業へとアウトソーシングを始め、製造機能を分離し、受託製造企業との分業による生産体制を形成することで多角化を実現していった。
 鴻海精密工業については、70年代半ば、プラスチック部品の射出成型を事業として創業したが、その後、80年代の半ばまでに金型、プレス、メッキ、組立といった製造諸機能を統合する一方、事業をコネクタ、ケープル分野へと絞り、成長し始めた。80年代半ばにはアメリカを中心に、国際化を進める一方、販売、開発機能も統合し、また大量生産体制を構築して、近代企業へと展開していった。
  90年代には、受詫製造の分野を携帯電話、ノートPCなどへと多角化し、また部品製造を垂直統合する一方、製造を中国中心に、東欧や南米にも拡大し、グローバルな生産体制を構築していた。鴻海精密工業も製造機能、販売、研究開発など諸機能を統合しつつ、多角化と多国籍化を通じて持続的な成長を実現する近代企業の事業構造を形成した。
 またPC産業の発展に関しては、半導体産業、コンピュータ産業、家電産業など、先行的な諸産業の70年代までの発展を基盤とし、部品産業、コンポーネント産業がすでに確立していたために、PCメーカーは、多くの部品を外部調達に、また一部の組立を外部の受託製造企業にそれぞれ依存する形で実現していった。また各種部品、コンポーネントは、相互に事実上の標準をインターフェイスとして構成されるようになり、共通した規格に依拠した企業がそれ以外の規格に依拠する企業に対して優位を持つにいたった。
  しかしながら、これらの企業はこの規格に依拠するという点で差別化ができず、この規格を創出する機能もOS、CPUを事実上独占したマイクロソフトとインテルによって掌握されるにいたり、PCメーカーそのものの産業全体における優位性は低下することとなった。そこで展開されるPCメーカー同士の競争は流通をも巻き込んだ外部化によるコスト削減競争と規格に準拠した新製品の相次ぐ投入による優位性獲得競争へと移行することになった。規模の経済性の追求と迅速な多品種化による差別化の追求は、製造機能のEMS、ODMへの切り離しであった。この垂直分業化の推進は、規模の経済性の失効ではなく、社会化された形でのより大規模で広範囲な規模・範囲の経済性の追求を意味し、新たな現代の大量生産の特徴と考えられる。

  キーワード: (l) EMS、(2) ODM、(3)鴻海精密工業、(4)アップル社、(5)大量生産体制、(6)近代企業
▼研究公開  
<論文>
1.秋野晶二「アップル社の成長過程と生産体制の現状に関する研究」『立教ビジネスレビュー』第8号、1-10頁、41-60頁
2.秋野晶二「アップル・コンビュータ社における成長過程と事業構造の転換」『工業経営研究』第30巻第1号(査読有)、73-84頁
<学会報告>
1.秋野晶二・黄雅ブン「EMS企業の成長と事業構造の変化に関する研究ー鴻海精密工業を中心に」工業経営研究学会第30回全国大会(於:明治大学)2015年08月28日
■2016年度研究実施計画  
トップへもどる

 今年度は、最終年度となるので、これまでの研究をまとめることを目的とする。

1.現代の大量生産体制の形成の整理

 
 

現代の大量生産体制の創発的な形成プロセスを明らかにするとともに、その構造的特徴について、企業の内部構造の変化、企業間関係の新たな展開から解明し、現代の大量生産体制をその新規性と連続性から特徴づける。

   

2.PC産業の発展と現状に関する研究

 
 
   前年度に引き続きPC企業と受託製造企業の分析を実施し、訪問調査に基づいて、相互の協業関係を詳細に分析し、新たな生産体制における企業の構造的特徴を明らかにする。@以前の実証分析の枠組みに基づいて、アップル社、鴻海精密工業に加えて、アメリカPCメーカーや台湾EMSの分析を行う。各社の資料・データを収集しながら、歴史的な成長の過程、組織構造、企業間関係の特徴を分析する。A訪問調査については、最終年度なので、これまでに行けなかった地域・企業、あるいは再確認が必要な地域・企業を念頭に、中国企業あるいは台湾企業への訪問を計画し、実施する。あわせてBこれまで分析してきた各社の製造機能の変遷、その分離・分業の過程、両社の協業関係の変遷の過程とその原因を総括し、生産体制の変遷と特徴の分析を行う。
   

3.研究の総括と整理

 
   本研究全体の取りまとめと総括を行うとともに、その成果を様々な方法で公開する。@文献調査・訪問調査によって得られた資料や成果は、必要に応じて随時、可能な限りデジタル化した上で取りまとめるまた研究成果を総括したうえで、これを最終報告書あるいは外部に公開する。Aこれらの成果は随時論文、学会等での報告・発表という形で公開する。また作成された資料、報告書、論文等は可能な範囲で報告書やインターネットなどで一般に公開する。
   
 
■2016年度研究成果  
トップへもどる
   

 

  キーワード:
▼研究公開  
<論文>
1.秋野晶二「アップル・コンピュータ社の成長と近代企業(上)」 『立教ビジネスレビュー』第10号、2017年7月予定
<学会報告>
1.「A.D.チャンドラーJr.の「近代企業」概念の検討−現代産業企業における示唆−」工業経営研究学会第31回全国大会(於:福岡大学) 2016年9月 9日
■企業・工場訪問  
 
   
■研究成果の概要