| 新潮45 2005年1月号 カッコウってすごい! たけし 二〇〇五年の干支は酉。というので、今回は鳥の達人に登場していただこうと(笑)。先生はいつ頃から、鳥に興味をお持ちだったのですか。 上田 僕は、小学校六年生の時から日本野鳥の会の会員なんです。当時、会長の中西悟堂さん(歌人、野鳥の会創設者)に「入会させてください」と手紙を書いたんです。それで「会費はいくらですか」と尋ねたら、「君は小学生だからただでいいよ」と返事が来ました。その頃、バードウォッチングをやっている人はそんなにいなかった。僕は大阪だったのですが、バードウォッチングの会が年三、四回あって行くと、おじさん、おばさんばっかり。小学生は僕ぐらいのもんだったから可愛がられてましたね。 京都に淀競馬場があって、その近くの田んぼに鳥がいっぱいいるんです。中学生の頃、鳥を見るために双眼鏡を持って京阪電車に乗ってそこに向っていると、おっさんが赤い鉛筆を持っていっぱい乗ってる。その中の一人が、僕の双眼鏡をじろじろと見て、「にいちゃん、競馬か」(笑)。あの頃は、競馬に行くおっちゃんぐらいしか双眼鏡を持ってなかった。 たけし まず図鑑で鳥を調べて、「あっ、あの鳥だ」って、図鑑と同じものを見つけた時の感動は大きいでしょう。 上田 僕らが小学校の時、鳥の図鑑はほとんどありませんでした。たった一つ保育社の高価な図鑑が学校の図書館にあったんです。それで、いつも放課後に学校の図書館に通って、ノートに図鑑の絵を色鉛筆で写して、自分用の図鑑をつくりました。あの頃の集中力や熱意は今どこへ行ったんでしょうね(笑)。 たけし おいらはスズメばっかり捕まえていたな。ブロック四つ使うんですよ。スズメを餌でブロックの中におびきよせて中に入ったところで、入り口のブロックが落ちてきて捕まえる。だけど、逃げないようにスズメを取り出すのが難しいんだ。 上田 僕もやりましたよ。スズメが落ちてくるブロックに挟まったりしてしまうんですよね。 たけし ブロックで頭打って死んだりなんかする。 上田 それがかわいそうだから、僕はやめました。 たけし あとうちの近所では、シャモ。みんながシャモを持ってきて、金をかけてケンカをさせる。負けたほうが、シャモ鍋にされて食べられてしまうから、おいらはそれが楽しみで見に行っていたんですよ。おいらが住んでいたところは、今考えてみれば、まったくろくなところじゃなかったな(笑)。 上田 シャモ鍋っておいしいですからね(笑)。僕も北河内だったから、そういう風習はちょっと残っていましたね。 たけし おいら、子どもの時、シャモに追っかけられたもの。 上田 あれはもとから闘鶏用につくられたんです。タイあたりでつくられたから、シャムからシャモという名前になった。もともと鶏は赤色野鶏という、インドネシアにいる、野生のキジ類を改良してつくったものなんです。単に卵や肉だけが目的じゃなくて、鶏は改良されていろいろな種類がつくられています。日本の中でもオナガドリとか、鳴き声のすごくいいトウテンコウとか、いろいろなものがつくられています。 たけし おいらは鳥の習性で一番面白いと思うのが托卵。カッコウが他の鳥の巣で自分の卵を産んで、そこの鳥に自分のヒナを育てさせちゃう。ところが托卵される側は、それではたまらないから、お互いの作戦が変化していく。産みつけられたほうがいつの間にか自分の卵に柄を入れて、見分けがつくようにする。すると、カッコウも似せた柄の卵を産むようになっていく……。 上田 何万年もものすごい駆け引きをやってきていますね。最初から自分で育てたほうが早いんやないかと思うらい(笑)。 たけし おいらが勉強したところでは、カッコウは普通の鳥よりも体温が低いから、卵を孵すほどの力はないという。だから、自分の卵を他の鳥に孵させようとするようになったって。 上田 それは原因なのか結果なのかわからないんです。卵を孵すのをサボっていたからそんな体温になったのかもしれない。 たけし カッコウのヒナはちゃんと背中に他の鳥の卵を乗せるくぼみもある。他の鳥の巣で、先に自分が生まれると、その背中に自分以外の卵を乗っけて下に落としてしまうんでしょう。 上田 あれも、よくすごいと言われますが、たまたま背中にくぼみがついているヒナがうまいこと卵を乗っけて落とすので生き残った。くぼみのないヒナもいたと思うんですが、そうしたやつはうまく卵を落とすことができないので、他のヒナが生まれた時に生存競争に負けて死んでしまう。くぼみは「結果」であって、「目的」でも何でもないんです。進化というのはすべて単にうまくやったやつだけが生き残れたというだけで、うまくやれへんかったやつは、九九・九%死んでいく。その屍を乗り越えて今存在しているものは存在しているわけです。 たけし 自分のヒナを他人に育てさせてしまう鳥がいるならば、逆に誘拐はないんですかね。子どもが欲しくてしようがないから、卵を誘拐しちゃう(笑)。 上田 オーストラリアの鳥で、グループで生活しているオオツチスドリという鳥がいるんです。そのグループのメンバーが多いほど縄張りが広くなるからリクルートするんです。そのために、隣の縄張りで生まれた子どもをさらってきて、自分の仲間に入れて縄張りを広げるんです。やくざの縄張り抗争みたいですけどね。 鳥は頭がいいのか たけし あと、おいらが鳥で不思議だなと思うのは、ペリカンなんか、水の中に飛び込んで魚を獲るじゃないですか。あの時の目はどういう状態になっているんでしょうか。おいら、プールで水中眼鏡をするのを忘れて目を開いたまま飛び込んだら、目がものすごく痛くなっちゃったんですけど(笑)。 上田 鳥には瞬膜っていう薄いまぶたがあって、このまぶたは下から上に上がるんです。ですから、もろに眼球に水が当たるということは多分ないと思います。 たけし ペリカンは、その目で魚を探しているんですか。 上田 飛んでいる時に上で魚を探します。それで水面下にいる魚の群れを見つけて突っ込むんです。その時に、あのくちばしで一気に魚を吸い込むわけです。 たけし クジラがイワシとかの群れをバクッとやるみたいなもんですね。 上田 ええ、ああいう感じです。ペリカンの下くちばしの袋は伸縮性に富んでいて、わっと広がって魚を吸い込むことができます。 たけし そうすると、狩りをするときには、単独行動ばっかりになるわけですか。 上田 ペリカンは魚を獲るときは集団で行動しますね。集団で魚の群れを囲んで密集させておいてから、狩りにかかるんです。これはペリカンだけではなく、ペンギンもしますし、ウミガラスとかウミスズメという、北の海で繁殖している連中もそうです。あらかじめ魚の群れを密集させておかないと、いきなり突っ込んでもなかなか獲れないですから。 たけし 囲い込む役割と突っ込む役割とで分かれるんですか。 上田 それは決まっていなくて、あるときは囲い込む役目、あるときは突っ込むほうで、その場その場で順番が変るんです。 たけし だれかリーダーがいるとか。 上田 全然いないですね。よく聞かれるんですけど、ガンの群れにはリーダーがいるのかって。あれも見ていると、しょっちゅう後ろと入れかわっています。疲れたら下がって、元気のいいのが前へ行って、また疲れたら下がっているんです。 たけし ところで、鳥って頭がいいんですか。昔、おみくじを嘴で取ってくる芸を仕込まれた鳥もいましたよね。 上田 ヤマガラですよね。あの芸は今の日本では、ほとんどなくなってしまったようです。 たけし おもちゃの神社みたいなのがあって鈴を嘴で鳴らしていませんでした? それからおみくじをとってくる。 上田 そう、とても賢いですね。ただ、鈴を鳴らしたり、おみくじ取ってくることをしつけるのは、そんなに難しくないらしいです。鳥の研究者で、実際にヤマガラを飼ってしつけられるかどうかやってみた人がいました。そうしたら、そんなに難しくなかったらしい。そもそもヤマガラって何かをすき間に隠したりするのが好きなんです。ヒマワリの種でも何でもすき間に隠します。それは冬に備えて貯蔵しておくわけです。そういう性質がもともとあるから、おみくじを小さなところから持ってきたり戻したりすることをしつけるのは、わりにやりやすいんです。 たけし でも、芸を仕込もうとしても鶏は難しいんじゃないかな。鶏はどうしてあんなに物忘れが激しいのかな。二秒前に見た同じ場所や地面を何度も見てる。一回見れば、もういいだろうって(笑)。鳥にも頭の良さ悪さってあるんですか。 上田 一般的にカラスは頭がいいと言われています。宇都宮大学の杉田先生がカラスを飼って、頭の良さをいろいろ調べてみました。ハシブトガラスというのとハシボソガラスといるんですが、調べてみたら、ハシボソガラスのほうが頭がいいらしい。東京で見かけるのはハシブトで、ハシボソは農村地域でわりと畑なんかから上手に作物をとってくる。昔から農家の人に追われたりした中で鍛えられたんでしょうね。 鳴き声の秘密 たけし カラスなんかカーカーしか鳴かないけれど、鳴き声にも音痴とかあるんですかね。 上田 音痴の鳥はいっぱいいます。さえずるのはスズメ目の小鳥だけです。ケンケンとかギャーギャーとかガーガーとか汚い声で鳴く鳥はたくさんいます。ただし、ああいうのは音痴以前の問題だと思うんですが(笑)。鶏なんかは別に誰も教えなくてもコケコッコーと鳴けます。ところが、ホオジロとかオオルリとか、そういうきれいな声でさえずる鳥は、ヒナの頃から鳴けるには鳴けるんですけど、何か変な下手な声になるんです。こういう鳥たちは大きくなっていく中で、お父さんの声を聞いたり、お隣のおじさんの声を聞いたりして、脳の中でさえずりを組み立ててきれいな鳴き声を学習していくんです。 たけし 台湾かな、鳥の鳴き声のコンテストがあるって? 上田 中国の人は鳥を飼うのが好きだから、台湾でも香港でもありますね。インドネシアやマレーシアでもそうですが、アジアの人は小鳥を飼うのが好き。欧米にはああいう文化はないですね。日本は江戸時代なんか飼い鳥文化がものすごい。ヤマガラだったらヤマガラ専用の鳥かごがあって、他にもヒバリかごとか、ウズラかごもあった。それを作るのが専門の職人さんもいたぐらいですから。 たけし 外国へ行くと、向こうの人は虫の鳴き声は雑音としか感じないけど、日本だとその鳴き声に風情を感じる。鳥の鳴き声も同じようなもので、基本は音文化だと思うんですよ。 上田 こんなことをデータもなしに言ったら、ダメなんだろうけれど、音を処理する脳の部位に、モンゴロイドはコーカソイドとは遺伝的な違いがあるんだと思います。より反応しやすい音とか、聞いてて心地よいと思う音とか、それは人種によってかなり違うように思います。 たけし 鳴き声で気になるのは、鳥はどもるのかどうか(笑)。 上田 多分、どもると思いますよ。千葉大の先生で鳥のさえずりと鳥の神経系の研究をしている方がいるんです。鳥の脳にいろいろ電極を入れたりして、さえずりがどう発達するか研究したんですね。キンカチョウとか、ジュウシマツで実験しているんですけれども、脳のある部位を破壊すると、さえずりがすらすらと出ずに、つっかえつっかえになってしまうことがあるそうです。 たけし 鳥がどもるかどうかで前にもめたんですよ。二、三年前だと思うんだけど、所ジョージとゴルフに行ったんです。そこでウグイスが鳴いているので、所が「いいな、この鳴き声」って。「『ホーホケキョ』にあわせてボールを打つと、いい当たりをする」とか言う。それで、おいらの番になったら、「ホーホ、ホーホ、ホーホ、ケケケキョ」なんてね。だから、打ち損じて、球がコロコロって前に転がって、大爆笑された。なんだ、ウグイスもどもるのかって。 上田 それって三月ごろとちがいます? たけし 三月ごろだったと思う。 上田 ウグイスは二月、三月はまださえずりが下手なんです。 たけし 鳴き声に上手下手ってあるんですか。 上田 一年間でサイクルがあるんです。繁殖期の四、五月ぐらいになって初めてきれいに鳴ける。八月ごろまで鳴いてて、また秋になったら、パタンと鳴かなくなってしまうんです。冬の間は笹鳴きといって、「チャッチャ、チャチャ」、こんな声しか出ないんですね。二月ぐらいになると、だんだんホーとかケキョとか、そのぐらい言えるようになって、次第に「ホー、ホケ、ホケ、ホーホケ、ホーホケ、ホーホケキョ」というふうになっていくんです。 たけし メスとの交配が近いときれいに鳴き出すんだ。 上田 そうなんです。日が長くなると、生殖腺が発達して、さえずり用のホルモンが出て、初めて鳴けるようになります。それを一年のサイクルで繰り返しているだけなんです。 たけし 「ネエちゃん、どうや」って、ナンパ用の声なんだ。 上田 はっきり言えばそういうことです(笑)。 たけし オスはきれいに鳴くだけではなくて、見た目もメスよりオスのほうがきれいじゃないですか。生物は天敵に捕獲されないように擬態とかカモフラージュをするんだけど、きれいな鳥というのは、目立ちやすいから損でしょう。あれはモテるためなんだという説があるんだけども。 上田 天敵から食われるかもしないけど、それでもモテたい(笑)。ただ、種類によりけりですが、きれいなのは夏の間だけ。カモなんかは繁殖期だけオスはきれいな色彩になって、冬になるとメスみたいに地味になる。やっぱり生き残るには基本的には地味なほうがいいんです。天敵にも見つかりにくい。だけど、繁殖期だけはメスを引き寄せるために、きれいにならざるを得ないという。ジレンマですね。きれいな色は、非常にコストの高い形質なんです。 たけし 目立つのはリスクを背負うこと。目立つから他の敵に見つかりやすい。それでも生き残ってきたというオスの力強さを示すことにもなるわけでしょう。それで、メスはそういうオスを選ぶというわけですね。 上田 そうですね。メスをだますにはコストが必要だということです。だますことにコストがかからなければ、誰でもだませるわけで、そこには自然淘汰が働かない。 たけし カッコよくないオスは相手にされないし、カッコだけのオスでも天敵にやられてしまう。残っているのはカッコがよくて、たくましいというオスだけなんだ。 上田 そういうふうに淘汰されていく。だから、モテる鳥のDNAばっかりが残るというわけです。 たけし ヨン様鳥ばかりが増える、と(笑)。でも、そんなにきれいにしても、鳥には色がわかって見えているんですか。 上田 人間が見えている世界は三原色から成り立っていますけれど、鳥はそれ以外に紫外線が見えます。人間には紫外線は日焼けするから存在はわかるけれども、見えません。しかし、鳥はそれを色彩で見ている。紫外線色というのがどんな色なのか、これは見えない僕らにはわかりませんが、それは人間が見るよりもかなり鮮やかな世界を鳥は見ていると思います。 たけし モンシロチョウは紫外線をあてると、オスとメスとで羽についている模様が違うんですよね。 上田 僕らから見ると、モンシロチョウのオスもメスも一緒。しかし、鳥たちが見たらオスメスの違いはハッキリわかります。 たけし ゴクラクチョウもすばらしい色しているんだけど、あれは鳥が見たらもっとものすごいものになる。もう龍宮城を見ているような感じだろうな。 上田 だけど、ゴクラクチョウのメスは茶色い地味なスズメみたいな鳥ですからね。オスだけがあんな色彩なんですね。 年寄りがモテるって? たけし 鳥ってモテるためには痛々しいほどいろいろなことをするじゃないですか。メスの気をひくために変なカコイみたい構造物を作って、綺麗な石をパラパラまいて、メスが来るとカーカーカーカー鳴いて、ものすごい呼び込みをする。それで、メスが無視して行っちゃうと、しょぼんとする。それで、またメスが来ると、いそいそしちゃって。メスが卵産むための巣を先に作っておいて待っているんだよね。独身の男性がマンション買って嫁さんを待っているようなもの(笑)。 上田 メスを呼び寄せるために、すごい体力を使っています。それだけ必死に、しかもコマメにならないと子どもが残せない。それをやらなかったやつは子どもを残せないから、そういうのをしないようなズボラな性質のやつは滅びてしまうわけです。まめにそういうのを作るやつの子孫だけが残っていくわけです。 たけし ツバメは尾の長さでモテ方が変るとか。 上田 長いオスのほうがモテるんですね。理由の一つは年齢の 問題です。鳥って普通大人になったら、爬虫類とは違うから成長の差はない。でも、尾羽の長さとかを比べてみると、一センチか二センチの差なんですけど、長いほうが年とっています。これはものすごく大事なことなんですけれども、我々の社会では、お年寄りは余り大切にされなくなっていますが、基本的に動物の世界では年寄りというのはすごく価値が高いんです。尾が長ければ生存競争の中でそれだけ何年も生き残ってきた証ですから。そうした個体からは生き残れる遺伝子がもらえる可能性が高いわけです。 たけし 今度おいらも燕尾服を長くして着ようかな(笑)。 上田 年齢がいって頑張っているやつをちゃんと選ぶのは、メスにとって子孫を残すための正しい選択です。一方、オスはどちらかというと、若いメスを選んだほうが得なんです。いっぱい子どもを産んでくれるし、卵も新しいから質がいい。そこにオスとメスとの生き方の葛藤というのがあるんですね。 たけし 哺乳類だと、メスはある程度年を取ったほうが、子育てが上手いからいいって言われますけど。鳥は単に卵を温めるだけだから、若いほうがいいのかな。 上田 いえ、鳥でも、子育てに関しては年のいったほうが上手いみたいです。イギリスでカモメを三十年ぐらい研究している人がいて、生まれた時からカモメに足環をつけて、集団全部に足環をつけて観察しているんですが、年齢のいったつがいのほうがより多くのヒナを育てることができると言います。若いペアは子育てが下手。これは人間なんかもそうでしょう。鳥だって、だてに年を取っているわけじゃない(笑)。 たけし つがいの鳥が子育てしているのを見ると、人間は仲のいい夫婦を思いだすじゃないですか。でもオシドリ夫婦と言うけれど、あのオシドリは実は毎年相手が変っているとか。 上田 オシドリはカモの仲間で、ペアを変えるのはカモの宿命なんです。カモ類は、夏はつがいを作っているますが、冬は越冬地域へ行って、ゴチャゴチャに混じって集団になります。集団が大きいと、個体を識別なんかできないですね。 たけし ダンナが誰かもわからなくなっている。 上田 そうです。そして春になると、日が長くなって性ホルモンが出るので、「そろそろ頑張らなあかんな」という気持ちになって、ようやく異性を探し始めて、近くにいいメスがいれば求愛をしてつがいになるんです。 たけし オシドリは毎年カミさんを変えても家庭争議にはならない。おいらもオシドリ夫婦を目指すよ(笑)子育てが終わると誰が誰だかわからなくなるのか。 上田 それは別に識別の必要性がないからでしょう。イヌワシとかツルとか、ガンとかハクチョウは、一度つがうと、十年、二十年同じつがいでずっと巣をつくります。それはつがいの相性というか、お互い気の知れた者同士が巣をつくって子どもをつくるのが彼らにとって有利だということだと思います 子育てに協力的なオス たけし 個体識別でいうと、自分の子どもは識別できているんですか。 上田 それは鳥の種類によっても違うんですけれども。ペンギンなどは子どもの数が少ない。ペンギンは集団保育所みたいな感じでヒナばっかり集まっていて、親鳥は餌を取りに行って戻ってきて、自分のヒナに餌をあげる。その時、鳴き声で完璧に自分の子どもを識別していますね。 どういう状況でヒナを育てるかによって、また鳥の種類によっても識別の差というのはかなりあります。カモなどの子どもは、そんなに世話がいりません。生まれたらすぐに歩けるし、パッパッとついばんで自分で餌を取ります。だからこっちの家族とあっちの家族が一体になってしまうと、どっちの子どもかわからんようになってしまう。こっちから十羽ヒナを連れて、むこうからも十羽ヒナを連れてくる。ぱっと一緒になって別れるとき、こっちは十五羽になっていて、むこうは五羽になることとか、そういうのはしょっちゅうあります。ヒナも適当についていっているし、親のほうも適当に連れていくんです。 たけし イワトビペンギンというんですかね、眉のあたりの毛が黄色で伸びているペンギンがいて、巣を作るためにどんどん山の中へあがっていくでしょう。あれは延々歩いていきますよね。コウテイペンギンも何キロも歩いていくじゃないですか。 上田 内陸部のほうへ何百キロも行きますよね。 たけし それで何百キロも歩いた先に巣をつくる。コウテイペンギンはメスが卵を産んだ後、メスが餌を獲りに海に行ってしまった後は、オスがただずうっと足の上で卵を暖めている。ヒナが孵った後は、喉にある「そ嚢」という袋から出るミルクをあげながら二ヶ月ぐらいメスが帰ってくるまで待っているわけでしょう。なんで、そんな海から遠いところで卵を産むのかなと思うんです。昔は海の近くだったということですか。 上田 おそらく海の近くだったと思います。 たけし その名残りであそこまで歩いていくのか。 上田 海までの距離は二百キロぐらいになるのかな。それを歩きで行くから片道十日か二週間ぐらいかかります。 たけし ペンギンに限らず、鳥はオスが子育てをするケースも多いですよね。 上田 水辺の鳥ではわりとオスが卵を抱いていますよ。シギとかチドリとか。 たけし 哺乳類のように、オスが種をつけっ放しでどこかへ行っちゃうのは余りないみたいですね。 上田 いや、そういうのもいますよ。オスは基本的にはそれをしたいんですけれども、いろいろな事情があってできないんだと思います。鳥は哺乳類みたいにおっぱいで子どもを育てなくていいから、子育てはオスでもメスでもできる。哺乳類ではオスは子育てでは何もすることがないから、実質的には種つけさえすればフリーになれる可能性は残されている。だから哺乳類は九割以上は乱婚か一夫多妻ですね。鳥は九割以上は一夫一妻、つがいです。 たけし ところで、卵を産むというのは子孫を作るためでしょう。それなのに、何で鶏は無精卵を産むんだろう。鳥のメスとして定期的に卵を産むことが習性になっているんですか。 上田 産まないやつもいるとは思うけれど、生理的なものとしてサイクルがあるんでしょう。 たけし そうすると、養鶏場の鶏は毎日卵を産むじゃないですか。あれは生理的なサイクルも狂っているんですかね。 上田 産んでる最中に人間が卵を取ってしまうと、また産み出します。キジなんかも十個ぐらいしか、普通は産まないんですけど、人間が巣から卵を一つずつ抜き取っていくと、二十数個は産んでしまうんです。鶏はそういう性質の強い個体を選んで人間が改良したから、その性質に拍車がかかったんです。 たけし 鶏は、無精卵は温めようとはしないんですか。 上田 いえ、無精卵でも何でも温めるんです。ですから、温める前に卵を取ってしまうわけです。鶏とかキジは十個だったら十個、卵を産み終わるまで抱きません。一個産んだ段階から抱いていくと、ヒナが孵るのがばらばらになるでしょう。そうなると世話も大変。だから、まず全部を産んでおいて、後から温めはじめる。一斉に孵るような仕組みになっているんです。 だけれど、オオタカやイヌワシの猛禽類、サギの仲間は、一つ目とか二つ目の卵から温め始めます。ですから、ヒナが孵るのに差が出るんです。これは餌不足が起きた時は、後から生まれたヒナが死んで、先に生まれたヒナだけが生き残る仕組みになっていると言われていますね。 不倫も同性愛も・・・・・・ たけし 餌の少ない 場所に生息する鳥は、メスの縄張りが広がって、そこに多くのオスも入ってくるから一妻多夫制になりやすいって、そう先生の本に書いてあったのが読んでいて面白かったですね。 上田 メスの縄張り広がる環境だと一妻多夫になりやすいですね。 たけし 逆に餌の多い環境だと一夫多妻のほうになりやすいというわけだ。今の日本とかでも、女性の縄張りが広がって、OLとか奥さんたちも出会い系サイトやホストクラブに行って、浮気や不倫が多くなっている(笑)。 上田 そんなに女性はホストクラブに行っていますか(笑)。 たけし 先生は本のなかではメスの中には不倫する鳥もいっぱいいると書かれていますけれど、亭主である夫の鳥も、かみさんが不倫していること知っていたりするんですよね。 上田 旦那も負けずに自分が不倫にしによその巣に行っていますね。旦那にとっては不倫をすればそれだけ自分の種が残せるので、利益があるんだけれども、同時に自分がよそへ行っている間に妻が不倫してしまうリスクも負うわけです。それはどっちもどっちなんですよ。基本的には鳥の世界も、自分だけが不倫できて、妻が貞淑で子どもをちゃんと守ってくれるというのが旦那にとっては理想なんだけれども、なかなかそれはないようですね。 たけし 嫉妬深い鳥というのもいないんですか。 上田 ツバメなんかでもメスが外に飛び出すと、オスがぴたっと後ろについて飛んでいて、外から見て「あの鳥、仲がいいな、ほほえましいな」と思うのは間違いで、あれはメスが不倫しないように、オスが見張っているんです。 たけし 鳥には不倫もあれば、同性愛もあるらしいけど。 上田 オス同士のペアとかいうのもあります。動物園のペンギンなんかはオス同士のペアとかメス同士のペアはわりとあるんです。動物園では自由に恋愛できないから、そこにいるやつだけでつき合うことになりやすい。 たけし 刑務所は、ホモが多くなるのと同じか(笑)。 上田 上野の不忍池にカワウが巣をつくっていますけども、あこそのカワウもオス同士のペアが毎年何例か出ます。それは性のアンバランスというか、メスの数のほうが多分少ないと思うんです。つがいの時期に相手がいないから、相手のいないオス同士が巣をつくる。巣をつくる時、彼らは木の枝で巣づくりの儀式みたいなのをします。両方とも巣材の枝をくわえていて、お互いに何かしているうちに……。 たけし 恋が芽生える(笑)。 上田 いや、相手の性なんか別にお構いなく、巣の場所が大事なんです。巣場所が少ないから。巣材の枝を運んでくるものとつがいになるという、そういう仕組みだと思うんです。 たけし オス同士でも交尾のまねごとをするんですか。 上田 巣もつくるし、交尾のまねごともします。 たけし 本当にホモセクシャルと同じなんだ。メスとオスの役割分担もされているんですか。 上田 決まっている場合もあるし、変る時もあります。 たけし さあ、今度は君の番だよ、チュンチュンって(笑)。 上田 多くの鳥はオスもメスも生殖器の外観は一緒です。人間のようにはっきりわかる生殖器があるわけではありません。生殖器官と排泄器官が一緒になった穴があるだけで、それを合わせるだけ。たまにペニスのある鳥もいます。サギとかカモとかダチョウとかは、ペニス状のものが内側に入っていて、反転してパッと外に出てくるんです。そういう鳥が何種類かいます。交尾の時間はいろいろです。七面鳥は交尾時間が長くて、十五分ぐらいしていますけれど、スズメなんか〇・五秒ぐらいです。スズメなんか見ていたら、屋根の上で何回もしていますよね。 たけし メスに貞操帯をはめさせちゃう鳥もいるんでしょう。 上田 まだはっきり貞操帯とは確かめられていないんですが、ウズラなんかはそうですね。ウズラは交尾した後、メスのほうにゼリー状の栓、ふわふわとしたものを詰めこんでしまうんです。ただし、それで他のオスの精子を完全にブロックできるかというと、そうはいかないみたいですが。 たけし 「あっ、ゼリーがある。この女、さっき他の男としたんだ」と不倫相手の意気はそぐかも(笑)。 たけし 先生の本に出てくるヘルパー鳥っているじゃないですか。三羽で子育てしているうちの一羽がヘルパー鳥で、つがいの子育ての手伝いだけにやってくる。あれもあわよくば、カミさんを狙ってしまおうというわけでしょう。 上田 そういうのもあります。 たけし 本当はメスとつがいたいけれど、相手が見つからなかったから、子育てを手伝っている。「奥さん、手伝いますよ」とか親切げにやってきて、実はその奥さんを狙っているわけだから、あれもすごいなと(笑)。 上田 鳥は自分自身ではそんな目的意識があってやっているわけではないんです。たまたまそういう行為をするようなやつが遺伝子を残せてきた。自分がつがいをつくれない時はお手伝いに行くようなやつが残ってきたというわけで、本人は意識していない。お手伝いしていると、たまたまつがいになれる確率が高まるということですね。つがいになれなかったやつの次善の策なわけです。 たけし でも、鳥に関しては、完全に女性上位。メスのほうが得しているような気がするな。そんなことないですか。 上田 それは僕らが哺乳類だから。女性は損していると言われていますけれども、鳥はやっぱりさっきも言ったように、オスでもメスでも子育てができるので、メスの優越性は人間よりはずっと大きいみたいですね。 たけし おいら人間でよかったよ(笑)。鳥だったら、たけし種は絶滅だけど、とりあえず孫までは残せそうだから。 |