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  研究5:古代アマゾン文明(モホス・プロジェクト)

古代アマゾン文明(モホス・プロジェクト)




発端と経緯

筆者がボリビア・アマゾンにおける古代文明の存在を初めて知ったのは2000年のことである。滞在先のラパスでボリビア国立考古学研究所(UNAR)のフレディ・アルセ博士より話を聞き、2年後の2002年、現地ベニ県の県都トリニダードを訪れた。目の当たりにした文明の痕跡は想像を超えて大きく、現在では誰からも忘れられたこの僻地に、かつて巨大な古代文明が存在していたことを知った。この文明は通常「古代モホス文明」と呼ばれる。その後の文献調査に基づいて、2004年に、この未知の文明について解説した拙著『衝撃の古代アマゾン文明―第五の大河文明が歴史を書きかえる』(講談社)を刊行した。これらがきっかけとなり、その後、筆者自らが現地ボリビア・アマゾンにおいてこの文明の本格調査に関わることとなった。



文明の概要

古代モホス文明とはどういうものか。

古代アマゾンにおいて、かつて巨大な規模の文明が存在した。場所はアマゾン川の上流にあたる、ボリビア北東部の低地、モホス大平原である。モホス大平原は25万平方キロもあり、日本の本州に匹敵する広大な氾濫源である。現在でも毎年定期的に氾濫を繰り返しているが、その全域に、太古の昔に存在した文明の痕跡が発見されている。20,000個に上る、盛り土による居住地跡(ロマ)、総延長5,000キロに及ぶ直線道路網(テラプレン)、さらにそれを上回る規模の水路・運河網、2,000個の巨大な人造湖、広大な農耕地跡、大規模な養魚場跡などである。



古代モホス文明の特徴はアマゾンの自然を大規模に改変したことである。モホス大平原に残されている景観は自然のものではない。古代人の大土木工事の結果作られた一種の人工生態系である。この未知の民族は高度な技術力と生態系の知識を持っていたと思われるが、この厳しいアマゾンの大自然において、巨大な農耕文明社会を築き上げた。

モホス・プロジェクト

モホス・プロジェクトは日本・ボリビア合同の学術調査プロジェクトである。すでに数年にわたり調査が実施されているが、現在も続行中で、将来はボリビアの国家プロジェクトとして継続されることになっている。プロジェクトの目的はボリビア・アマゾンに存在した古代文明を、学際的、かつ実証的な方法で調査研究し、とりわけ大規模に自然を改造した古代人の構想とその結果創出された人工生態系がいかなるものであったのかを解明することである。これまでの調査では主に古代の居住地の発掘調査に重点が置かれてきたが、筆者は共同責任者のボリビア人考古学者と共に調査を実施してきた。またこれまで、発掘調査に加えて、民族調査、測量調査、衛星探査、生態学調査等の調査を行った。その結果何が判明したのか。ここでは古代の居住地ロマ・チョコラタリトの発掘調査を中心にその概略を述べてみよう。



ロマ・チョコラタリトの発掘調査



古代の居住地ロマ・チョコラタリトはベニ県県都トリニダードの東方33キロに位置する人口500人程度の小村、ペロト村にある。ロマ・チョコラタリトは中規模のロマで、面積は約7・5ヘクタール、最高高度は11・3メートルである。このロマの発掘調査は2006年8月に開始されたが、その後3年間にわたり、毎年乾期である8月初旬から9月中旬にかけて実施された。発掘調査は2008年9月に終了した。ロマ・チョコラタリトは形の崩れた方形をしているが、周囲には大規模な水路網が存在し、北東の方向に半島のように突き出している。発掘調査ではロマ中心部のピラミッド状構造物を中心に、合計で8つの発掘ユニットを設置し、周到な発掘を行った。また発掘調査と同時進行で、ロマ及びその周辺の測量調査を実施し、ロマとその周辺の詳細な等高線図を作成した。以上に加えて、調査ではまた、ロマ及びその周辺の植物生態系の調査を行った。ロマ一帯に自生する植物、草木を調査し、うち主要な種類約70種類の用途等を調べて記録した。2009年は―発掘調査は実施しなかったが―ロマ・チョコラタリトから出土した人骨、土器等の詳細な分析を実施した。またロマ近隣地域に存在するロマ、テラプレン、運河、人造湖等の測量調査を行った。

これまでの調査でこのロマに関して何が解明されたのか。

ロマ・チョコラタリトはモホス・大平原中央部に位置する、規模的には中規模の、平凡な居住地跡にすぎない。しかし非常に興味深い古代の居住地であることが判明した。ロマからは膨大な量の、じつに多種多様な古代の遺物が出土したのである。出土物の中では土器片が最も多く、その総量は33、000点近くにも達した。また同時に夥しい量の動物の骨、及びカラコル(スクミリンゴ貝)が出土した。出土物が最も多かったのはユニット3で、土器片だけで21500点にも達した。さらにはロマから多くの人骨、甕棺、壺、装飾品等が出土した。以上のように、ロマからは膨大な量の出土物があったが、そのうち合計で1300点以上を重要出土物として整理して記録し、分析のためにカタログ化した。

これら夥しい量の土器片等の存在は、この土地の過去においてかなり大きな人口を持つ社会が存在したことを示唆する。また大量の動物の骨、魚の骨、またカラコルの出土は古代人の食文化の一端の解明につながる。そのためこれらの動物の骨、魚の骨の大半を同定して、そのリストを作成した。




重要出土物の中でとりわけ興味を引いたのは、緑石製の装飾品、動物の骨製の釣り針、地図らしきレリーフのある土器片、土器片にある多様なパターン化されたデザイン、十字架模様の円盤型装飾品、人形(ヴィーナス像)、等である。

また石製の装飾品、土器片の模様等から、他の文明圏、とりわけアンデス文明との交易、文化交流を示唆する事実が明らかとなった。

さらには高度な文化の存在を示唆するいくつかの出土物があった。骨製の古代の笛、洗練されたデザインを持つ香炉、土器製のビーズ、骨製の鳥の彫像等である。笛は埋葬された人物―おそらくはシャーマンであろう―の右手に握られていた。これにより古代文化に音楽が存在したことが確認され、また独特なシャーマニズム、宗教文化が存在したことを推測させる。


最後に、ロマからは多くの人骨が出土したが、その埋葬形態は古代人の埋葬文化、及び死生観に関して興味深い示唆を与えている。埋葬は土葬と甕棺の二種類が同一文化層に混在した。土葬のほとんどは伸展葬であるが、屈葬も存在する。また頭、または足は北北西―南南東の方角を向いていた。これは古代人の死生観を表すものと考えられる。甕棺の中には複数の人骨が発見されたものもある。

出土した人骨の中で興味深いのは身長約70cmの完全体人骨である。この人骨はユニット3の深さ約190cmで発見されたものだが、歯がすべて生えそろっているように見えたことから当初は小人の人骨であると思われていた。しかし後日の人類学的分析により4歳程度の男子であることが判明した。この人骨は西暦700年頃のものである。

またこれまで分析を実施した10体の人骨の推定年齢は、5歳未満の子供男女が2人、10代の男子が2人、20代の男女が3人で、47歳以上の男子が2人、年齢不明が1人であった。古代人の平均寿命がかなり短かったことを暗示させる結果である。

ロマの居住年代を知るために採取したカーボン・サンプルを日本に持ち帰り、これまでにそのうち36点の年代測定を行った。その結果、これまでに発掘したこのロマの上半部分の年代がほぼ西暦100年〜1200年であることが判明した。さらに下の基盤部分がどの程度古いのかは推測するほかはないが、紀元前に遡るのは間違いないと考えられる。


その他の調査

以上の発掘調査に加えて、プロジェクトはこれまでいくつかの調査を実施したが、その中には生態学調査、測量調査、航空調査、民族調査等が含まれる。生態系調査はロマ周辺の植物生態系、及びモホス大平原中央部の動物生態系の調査を実施した。測量調査はロマ・チョコラタリトそのものに加えて、その周辺地域約100平方キロに存在する主要な古代建造物の測量を実施した。その中にはペロト湖、ロマ・サムライ、ロマ・デル・テソロ、テラプレン、運河、そしてロマ・コトカ等が含まれる。その結果に基づいてロマ・チョコラタリト一帯の遺跡地図を作成した。航空調査ではモホス大平原全域の古代文明の遺構を確認し、その分布を詳細に調べた。とりわけ人造湖の調査を重点的に行い、モホス北西部レイエス近郊の巨大人造湖地域の地図を作製した。

以上がこれまでの調査の概要であるが、調査結果から、この地域に過去においてかなりの規模の社会が存在し、かつその社会は洗練された文化を持っていたことが確認された。またその起源は予想以上に古いことが判明した。ただこの文明は細部において依然として不明な部分が多く、その解明にはこれからの調査研究を待たなければならない。

筆者の古代アマゾン文明研究に関しては、以下の著書、記事、サイトを参照されたい。また民族調査については、「アマゾン文化」の項目を参照されたい。



『アマゾン文明の研究―古代人はいかにして自然との共生をなし遂げたのか』 現代書館 2010年2月 376p.
日本・ボリビア共同調査で探る古代アマゾン文明 「日経サイエンス」2010年1月号 pp.59-60
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/1001/201001_059.html
ボリビア・アマゾンの古代文明(at home「こだわりアカデミー」)
http://www.athome-academy.jp/archive/history/0000000257_01.html