私の研究の目標は、究極的には二つしかありません。
1. 宇宙はなぜ現在のような構造を持っているか
2. 物質は究極的には何から構成されているのか
を明らかにすることです。
これら二つの問題は、現時点ではまったく違うレベルの問題に見えるかもしれません。
前者は宇宙全体の問題であり、後者は極小の世界の問題だからです。実際、前者は相対
性理論の問題、後者は量子力学の問題に見えます。
ところが、例えば前者の問題に取り組む場合、「宇宙はどのように始まったのか」、あ
るいは「宇宙の始まりはどのような様子だったのか」を解明することが必要不可欠です。
宇宙が膨張していることは観測事実ですから、宇宙は始まって間もないころ、非常に小
さかったと思われます。宇宙初期を解明するためには、宇宙全体を扱う相対性理論と、
極小の世界を扱う量子力学両方を考慮しなければいけないことが分かります。
ところが、残念なことに、相対性理論と量子力学を一緒に考えようとすると、くりこ
み不可能性という、理論としての矛盾があることが分かっています。理論的矛盾を来た
すということは、この両方の理論がまだ完全でなく、その背後にさらにこの二つの理論
を統合する究極の理論があることを意味しています。そこで、相対性理論と量子力学を
統合する理論の最有力候補として考えられているのが弦理論と呼ばれる理論です。弦理
論は、宇宙のあらゆる物質、力の根源、それらがすべて極微の弦の振動によって生ずる
とする理論です。このようにして、1 番目の問題を考えることは、自動的に2 番目の問
題も考えることになります。このような宇宙開闢を通して極大の世界と極小の世界が繋
がることは、とても示唆的であるし、物理学の進歩が最終段階に来ていることを意味し
ていると考えています。
弦理論は確かに、その振動を詳しく調べてみると現在私達の周りにある様々な素粒子
を含んでいることが分かります。また、エネルギーが低いときは相対性理論を含んでい
ることも分かっています。弦理論は量子力学に基づいて構成されていますので、弦理論
こそ、相対性理論を含み、量子力学的に記述された、両者を統合する理論に見えます。
しかしながら、弦理論には致命的な欠陥があることが分かっていて、それがこの20 年
以上も未解決のまま残されています。実は弦理論が定義できる空間は無限個あります。
また、その中には私達が住んでいるような4 次元の時空だけではなく、10 次元の時空や
0 次元の時空(点) のような、私達の宇宙とは似ても似つかないようなものさえあります。
これでは1 番目の問題に答えることができません。たくさんある時空の中で、なぜ私達
の宇宙が実現されたのかを説明できていないからです。
私達の時空がなぜ4 次元に選ばれたのか、という問いは謎のまま残されていると述べ
ましたが、まったく手がかりがないわけではありません。弦理論を詳しく調べてみると、
弦理論は弦だけで構成されていると考えるべきではないことが分かってきました。弦と、
弦が張り付いている壁のような物体(ブレーン) 両方を考えた方が自然であるというこ
とが分かってきたのです。ブレーンを記述するには行列を使うとよいことが知られてい
ます。そうすると、弦ではなく、行列をむしろ基本的な存在として弦理論を記述し直し
てみたらどうかと考えたくなります。私の研究内容は、大雑把に言うと、このように行
列こそが基本的な存在と仮定して、弦理論そのものを再構築しようとする試みです。こ
のような立場から、なぜ我々の時空が4 次元であるか等、宇宙の始まりと成り立ちを基
本原理から解明する研究を行っています。