創刊によせて


 

 

 



(以下は,1999年3月刊行の第1号に,本研究科課程主任(当時)の前田勇教授が,
「創刊によせて」と題して寄稿した全文です)



 立教大学大学院観光学研究科に所属する大学院生が編纂する『立教観光学研究紀要』が刊行されるようになったことに深い感慨を覚えるものである。

 わが国最初の大学院観光学研究科設立に至る経緯を概観すれば以下の通りである。

 本学は第二次大戦終結直後の1946年秋、学内外の人々を対象に公開講座として「ホテル講座」を開設しており、この講座は「ホテル・観光講座」として現在に至っている(管理者注:2001年度より「ホスピタリティ・マネジメント講座」に名称変更)。その後、ホテル事業ならびに観光に対する社会的関心の高まりを背景として、わが国最初の4年制度大学における独立学科として社会学部観光学科が1967年に設置され、以来30年余にわたって、観光領域を対象とする高等教育機関として、学術研究と人材育成の両面にわたる社会的要請に応えてきた。そして近年、観光領域に関する学術研究の重要性に対する認識ならびに観光関連産業の発展に対応すべく、国際観光・観光産業等、“観光”の名称を冠した学科が全国各地の大学に開設されるようになった。

 本学はこのような状況をふまえ、観光を対象とした総合的かつ学際的な教育研究体制を本格的に整備する段階に達していると考え、観光学科を新たに独立した観光学部に改組・拡充することを文部省に申請し、1997年12月認可を受け、1998年4月より観光学部観光学科として新たにスタートしたのである。

 本学は1958年の社会学部創設とともに、大学院社会学研究科応用社会学専攻修士課程・博士課程を開設していたが、観光学科設立後は、同研究科・専攻内において、観光領域の研究を目指す学生を対象として教育指導にあたってきた。1980年代半ば以降には、諸外国での観光の社会的重要性に対する認識の高まりを背景とする留学生志願者の継続的増加、産業人の再学習ならびに生涯教育に対する社会的要請に対応するため、留学生を対象とする入試制度を導入し、併せて社会人としての経験を活用しようとする大学院志願者に対応するために入試制度と指導制度を変更してきた。この間、観光学領域担当者は、観光領域のカリキュラムの充実と教育指導体制整備とを図り、1994年度以降は、前期課程における観光学領域専攻者対象カリキュラムの明確化と後期課程における指導体制を確立し、応用社会学専攻から観光学部分を分離するための準備を進めてきた。

 1998年4月、観光学部の発足と合わせる形で、観光学領域の“専攻分離”が文部省に認められ、わが国最初の、大学院観光学研究科(観光学専攻)博士課程前期課程ならびに後期課程が設置された。なお、観光学研究科は既存大学院研究科からの“専攻分離”によって設置されることにより、大学院社会学研究科応用社会学専攻博士課程前期・後期課程それぞれの観光学専攻者が移籍したため.開設初年度から後期課程3年次(以上を含む)以下の全学年次から構成されており、1998年度においては、前期課程46名、後期課程11名が在籍している。なお、研究科在籍者の約半数は諸外国からの学生であり、その国籍も6カ国にわたり、国際交流と相互理解を重要な役割とする観光研究にふさわしい状態となっている。

 また、1998年度には、研究科開設記念の意味も含めて、それ以前から関係研究所を窓口として国際交流協定を締結していた韓国・漢陽大学大学院観光学研究科との合同研究会を開催しており、その内容等は本誌に記載されているところである。

 新たにスタートした観光学研究科は、観光学部とともに武蔵野新座キャンパスに設置されているが、博士課程前期課程においては、会社・官公庁等に勤務しながら、学業に励もうとする社会人を対象としては授業科目の一部を、池袋キャンパスを「サテライトキャンパス」として、夜間に開講する制度を採り入れていることも大きな特徴である。本学では初めて採り入れたこの措置によって、観光学研究科で学ぼうとする人々の範囲は拡大されており、相互研鑽の場と機会の拡大とともに、研究成果の社会的還元をより有効なものとする可能性も広がっている。

 設立に至る経緯と現状は上記の通りであって、観光学に関するわが国唯一の独立大学院研究科として観光学の確立とその深化に向けて、同時に、アジア地域をはじめ国際的規模での役割を担うことのできる観光学研究教育センターとして、さらに大きく発展させることが目標であり、また願いである。

 独立研究科としての観光学研究科に対する社会的評価が、最終的には高い学識と独創性のある優れた研究者をいかに輩出するかによってなされることは当然である。そしてまた評価の前提として,そこに至る過程として、積み上げられていく研究実績が問われていることはいうまでもない。その意味において、研究科に在籍する学生諸氏の研究成果を発表する場として、『立教観光学研究紀要』が創刊されたことは誠に意義深いものがある。研究科院生紀要という、自分たちの手になる自分たちのための研究報告の場を、より有効なものとしていくためにも、互いに甘えを排して切磋琢磨を図り、さらに内容あるものへと育っていくことを望んでやまない。

 本創刊号の編纂は、研究科在籍者から選出された編集委員による幾度もの熱心な検討の結果であり、以てその労を多とするものである。

 『立教観光学研究紀要』の刊行に関してご理解とご支援をいただいた観光学部教授会・観光学研究科委員会構成員の方々にお礼を申しあげるとともに、大学当局の予算面での配慮に対しても感謝の意を表したいと思う。

 

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