立教スポーツ第180号

<12月3日更新>
   

    
【野球部】  
神宮の杜から杜の都へ
戸村 楽天ドラフト1位指名
 

 10月29日に行われたドラフト会議で、戸村(社4)が東北楽天ゴールデンイーグルス(以下楽天)から1位指名を受けた。四年間の集大成となる秋季リーグ戦で確かな成長を見せ、念願のプロ入りを果たした本格派右腕。努力によって開花した「RIKKIO」のエースが今、新たなる世界へと足を踏み入れた。

運命の日
 野球部智徳寮の記者会見場は、一種異様な雰囲気に包まれていた。多数の報道陣が詰め掛け一人の男の行く末を見守る。男は緊張した面持ちで、食い入るようにテレビ中継画面を見つめていた。そして各球団の1位指名選手発表が始まる。
 「楽天、戸村健次」。その名が呼ばれると、それまで静まり返っていた記者会見場にどよめきが起こる。同時に、こわばっていた戸村の表情が一瞬にしてほころんだ。まるで戸村を祝福するかのようにたかれる無数のフラッシュ。夢の扉が開いた瞬間だった。
「本当にとてもうれしく思います。ずっと支えてくれた両親に感謝の気持ちを伝えたい」と指名を受けた率直な気持ちを話す戸村。本人も「驚いた」という最上位での指名に、喜びを隠し切れない様子だった。
  入団する楽天の印象を聞かれると、「守りが堅く、投手陣がすごくいい」と答え、目標とする選手には同じ先発完投型である岩隈久志投手の名を挙げた。「小さいころからあこがれをもっていたので、技術的な面精神的な面も含めて話してみたい」と入団後のことに思いをはせ、胸を躍らせていた。
  本学野球部の選手がドラフト1位指名されるのは、長嶋一茂(87年度卒)以来実に22年ぶりのことだ。ドラフトにおいて1位で選ばれることは、球団から最も評価された証しであり、ファンやマスコミからの注目度は自然と高まる。そんな状況にも戸村は「高く評価されるのはうれしいこと。たくさんの人から期待されると思うが、プレッシャーから逃げずに、まずがむしゃらに頑張る」と前を見据えている。
  「楽天で優勝したい」。そう抱負を語った戸村の瞳は、確固たる決意と自信にみなぎっていた。

プロへの軌跡
 偉業を成し遂げた戸村だが、入学当初から注目されていたわけではない。
  下級生のころは制球が定まらずに、痛打される場面が多かった。戸村は「投げても打たれるイメージしかなかった」と挫折しかけていた当時を振り返る。
  3年生の秋、実力に手応えを感じる試合があった。早大2回戦で、8回1失点と好投。敗れはしたものの強打の早大打線を抑えたことで、自分の球に自信が持てるようになった。
  そしてエースに抜てきされた4年生の春、早大1回戦で6安打2失点と結果を残す。だが、第3戦までもつれる展開で序盤に大量失点し降板する試合が続いたことから体力不足を痛感。これを克服するため、秋田での夏季キャンプでは肉体改造を試みる。「野球人生の中で一番きつかった」と語るように、走る・投げるの繰り返しで極限まで己を追い込んだ。 加えて成長したのが精神面。今までは要所で失点してしまうケースが多かったが、キャンプで投手チーフを務めたことにより、チームの柱としての自覚も芽生えた。
  迎えた今季、ついに成果が表れる。慶大3回戦で完投勝利を収め、慶大から10季ぶりの勝ち点をチームにもたらした。早大2回戦では連投の疲れを感じさせず見事5安打完封勝利。直球に頼らない幅広い投球術があることを証明する。戸村はこのシーズンで自己最多の4勝を挙げ、本学では小林(06年度卒)以来となる通算10勝を達成した。    これらの活躍により、一躍ドラフト候補へと名を連ねた戸村。「ストレートには自信を持っている。プロではぜひ、そこを見てもらいたい」と意気込んだ。
プロという夢舞台へ上がる戸村。彼が思い描く物語の1ページが、間もなく開かれる。  
                                          (菊地、名古屋)

     



【ソフトテニス部男子・ソフトテニス部女子】 切磋琢磨し 3部昇格


  冷たい風が吹き付ける中、コート脇にはためく紫の校旗の周りは、常に選手たちの熱気に満ち溢れていた。
 本学はリーグ戦で男女同時昇格を果たす。男子は25年ぶり女子は14年ぶりの3部復帰。3季連続昇格に向け勢いに乗った男子と春の雪辱に燃えていた女子。互いの思いが重なった瞬間、男女共に快挙達成への道が開けた。

 

優勝への道程
 今リーグ戦はまさに壮絶な戦いとなった。本学男子は、連勝を含む3勝1敗で神奈川大と並ぶ。最終戦の優勝を懸けた直接対決。両者は2勝を分け合い入れ替え戦への切符は、増山(コ4)・箕浦(理4)の最終ペアに委ねられた。
 「最後の試合を優勝して四年間の集大成としたい」と奮い立つが、緊張からかミスが出てリードを許す。しかし落ち着きを取り戻した二人は勝負を最終セットまで持ち込む。負けたくない。その一心で打ち返す。得点が入るたびに上がる歓声。勝利を信じる後輩、二日間誰よりも声を出した同期。コートに響き渡る応援が、何よりも彼らの力になった。あと一球。長く続いたラリーの末、敵陣へと打ち込まれたボールはネットにかかり、自陣へと戻ってくることはなかった。両手を突き上げる二人。駆け寄ってきた仲間たちと喜びを分かち合う。
 チーム一丸となって勝ち取った優勝。死闘の果てに見せた底力は、続く入れ替え戦への弾みとなった。

 

進化する男達

青学大との入れ替え戦。最初は山下(コ2)・百田(済1)ペア。百田の強烈なスマッシュやボレーで流れに乗り快勝し、幸先良いスタートを切る。しかし続く小瀬(理3)・山崎(社2)ペアは一度はリードするもののペースを崩され、立て直せず逆転負け。その後村上(文2)が相手のドロップショットに苦戦するも、激しい接戦を制す。本学に勢いを与えると同時に昇格へ王手をかけた。
 最後は榎並(コ3)・丸尾(済4)ペアが相手に1ゲームも許さず実力を発揮し勝利。見事25年ぶりとなる3部昇格を決めた。主将の榎並は「結果を出してやろうという気持ちがあったので昇格できてうれしい」と笑顔を見せる。一方、チーム内における競争意識が足りないことを3部で戦う上での課題として挙げた。
 「内容は良くなかったが結果は出た。みんなが強くなった」。最後のリーグ戦を戦った丸尾はこう話す。着実に力をつけ続けている本学。新たなステージへ向けて、彼らの進化は止まらない。
                                         (佐藤、渡辺(智))

もっと上へ
  昨シーズンは昇格を期待されながらも、4部4位という結果に終わり苦汁をなめた女子。ただ上だけを目指し、コートに立つ。
  リーグ戦初日から本学は好調な滑り出しで、3試合すべてストレート勝ちを収めた。翌日、大一番となった4戦目の相手は法大。まず永見(現1)・石田(文1)ペアはストレートコースへの打球で敵を揺さぶり勝ちを物にする。続くシングルスの田村(文2)も安定した返球を見せ、順調かと思われた。しかし終盤でサイドアウトが目立ち3−4と競り負けてしまう。勝負の行方は、林(観1)・岩渕(コ1)ペアに託された。キレのあるボレーがさえ渡り、試合の主導権を握る。二人はそのままゲームを奪取。2−1でこの戦いを乗り切り、その後明学大に快勝した本学は全勝優勝を成し遂げた。
  リーグ戦を終えて、「相手に合わせないことを意識した」と語る石田。彼女を含む1年生ペアはその存在感を示し、優勝に大きく貢献した。格の違いを見せつけ、いよいよ昇格を懸けた決戦へと駒を進める。

共に踏み出す
  この日のために精進してきたチームが群馬大を相手に、力を試す時が来た。
  満を持して臨んだ本学だったが、最初の永見・石田ペアはサーブで乱され、劣勢から巻き返しを図るもゲームを落とす。悪い流れを断ち切ったのは、二番手の田村だった。自分のペースで着実に点を重ねて圧勝し、望みをつなぐ。1−1で迎えた林・岩渕の最終ペア。後に、「不安はあった」と話した岩渕だったが、それを感じさせない豪快なボレーを決めていく。そして林の力強いリターンが勝利を決定づける一打となった。
  入れ替え戦を2−1で制した選手たちは安どの表情を浮かべる。だが、悲願を達成した彼女たちはもう次を見据えていた。リーグ戦を見守ってきた主将・別當(べっとう=文3)は「3部の重みを感じてプレーしてほしい」と後輩へエールを送る。部員たちはその言葉を胸に、気持ちを新たにしていた。
  アベックで昇格を実現した今大会。刺激し合って一緒に練習してきたからこそ、最高の結果がついてきた。男女で栄光を手にした彼らは、更なる高みへ向かって共に一歩を踏み出す。
                                               (谷口)

 



 

【男子ラクロス部】 見せたSAINTSの「本気」 1部昇格


  グラウンドが大きな歓声に包まれる中、試合が終わった。悲願達成の瞬間、選手たちの喜びの笑顔が輝く。
 爆発的な攻撃力を武器に、リーグ戦を全勝優勝。勢いはとどまることを知らず、入れ替え戦でも力を遺憾なく発揮。見事2年ぶりに1部へと返り咲いた。

獅子奮迅
 経験豊富な4年生が主力である今年のチームは激しい攻めが生み出す得点力と、安定感のある守りを誇る。一年に一度のチャンスをつかむため、彼らは「本気」を合言葉に団結を強めていく。
 リーグ戦が開幕し、本学は初戦から第3戦まで難なく勝利する。続くはヤマ場となった明大戦。試合開始直後は劣勢の展開となり、DF陣は素早い攻撃に押され先制点を許してしまう。しかしすぐに流れを取り戻して4連続得点で逆転。そのままペースを保ち白星を挙げた。「DFに課題が残るものの立教らしいプレーができた」と主将の岩崎(法4)は振り返る。この試合の経験が次に向けての自信になった。
 そしてリーグ最終戦は全勝優勝を懸け横国大と対戦する。アタッカーの常重(つねしげ=現4)を筆頭にOF陣が積極的に攻め、DF陣もそれに呼応して危ないシーンも焦らず守り抜く。「攻めにつながるしっかりとした守りができた」とゴーリーの豊岡(済4)が言うように、課題であったDFが成長を感じさせる活躍を見せた。終始相手を圧倒し戦いを制した本学は、2部Aブロック全勝優勝で入れ替え戦出場を決める。
 「リーグ戦を通しチームの連携は良くなった。入れ替え戦は自分たちのやってきたことをいかに出せるかが大事」と岩崎はすでに先を見据えている。目指すはあくまで1部昇格。彼らがこれほど1部にこだわるのには、理由がある。

大願成就 
 2年前、本学は1部リーグで全敗し2部に降格した。復活を誓い戦った昨年も、入れ替え戦進出を懸けた試合でまさかの逆転負け。悔しさはもう味わいたくない。何としても昇格したい。2年越しの思いを抱え、駒大との入れ替え戦に挑んだ。
 本学は矢吹(現3)のゴールで先制。しかし、その後逆転を許すなど激しい攻防が続き、前半を4−3で折り返す。緊迫した展開。だが、岩崎は「自分たちの試合をするだけ」と戦いに向けて意気込んでいた。その言葉通り、選手たちが焦りを見せることはない。  そして、真の「強さ」が試される後半戦へ。時間の経過とともに、力の差は歴然と現れた。堅い守りに屈せずOF陣は着実に得点を重ね、豊岡は次々とシュートを止める。点差は広がるたびにチーム全員から巻き起こる歓声。会場の興奮が最高潮に達した時、戦いの終わりを告げる笛が鳴り響く。11−4で勝利し、念願の昇格を決めた。
  「周りがボールを運んでくれたからシュートが打てた」。6得点を挙げた常重が言うと、豊岡は「自分が守れたのはDFのおかげ」と話す。4年生は口々に「みんなに支えられた」と仲間たちへ感謝の気持ちを表した。
 2年前に突き付けられた、気持ちを一つにするという課題。それは今、1部昇格と共に果たされた。岩崎が部を引っ張った一年間。最後の試合を終えて、彼は「本当に良いチームだった」と笑顔で語り、喜びをかみしめた。 
                            (水田、村松)

 




【剣道部】 戦友の声を力に 全日本出場


  肩を抱き合う選手たちの目は潤んでいた。チーム一丸となってつかんだ17年ぶりの全日本出場。幾多の歳月を越え、皆の思いを胸に再び強者ひしめく場へと歩を進める。
 全国を懸けた関東大会は難なく初戦突破。だが一番のヤマ場である2回戦が待ち構えていた。

 

つながる思い
 対するは青学大。「実力は互角、全日本に懸ける気持ちの強い方が勝つ」と女子主将・杉本(営4)は語る。彼女たちには負けられない理由があった。
 夏前から今大会に向け厳しい稽古(けいこ)を積んできた本学。特に男子は3年連続の出場に加え、全国でも上位を狙っていた。だが1週間前に行われた関東大会でまさかの予選敗退。試合後のミーティングでは悔しさを隠し切れない4年生の言葉に誰もが泣いた。男子の分も絶対に全日本に行きたい。願いは決意となり彼女たちを突き動かす。
 先鋒(せんぽう)が一本負けし劣勢に陥るが、本学は勝利を信じ攻め続ける。その粘りは勝負を分けた。副将・今井(文1)が一本勝ちでタイに持ち込み、大将・名取(理3)が意地の面を決め逆転勝利。見事3回戦へと駒を進めた。
  関門を突破した彼女たちは大きく勢いづく。続く山梨学大戦では増田(法1)が先勝しつかんだ流れを後続がつなぎ、相手に一本も与えず完勝。4回戦で早大に敗れるもベスト16入りし全日本出場を17年ぶりに決めた。試合を終え部員の拍手に包まれると、安どの涙が選手のほおをぬらした。
  男子の敗北から苦しかった七日間。支え合った仲間とのきずなが夢への原動力となる。命運を分けた2回戦を、後に名取はこう語った。「思いは一つ、まさにチームプレーでした」と。自信を手にした彼女たちを遮るものはもう何もない。

 

手応え十分
   迎えた全日本。新たな挑戦が始まる。初戦は大阪体大。関西第2位で出場を決め、過去にはベスト8入りもしている強豪だ。誰もが厳しい試合を予想した。
 先鋒は増田。果敢に面を打ち込み、終始優勢の試合を展開する。一本が決まらず惜しくも引き分けとなったが、この戦いぶりが後の選手たちに力を与えた。次の原(コ2)は集中力を切らさず、一瞬のすきを突いた面で勝利。「積極的にいけた」という原。客席からは大きな拍手と歓声がわき起こった。敵陣からは焦りも見え始め、本学が優位に立ったかと思われた。
  しかし相手は全日本常連校。簡単には譲らない。中堅・星野(現2)は近間での攻防に苦戦し、敗北を喫す。続く今井も先取した後連続で二本決められ敗れ去った。
ここまで1勝2敗1分。本学は、すべての望みを大将・名取に託す。彼女は序盤、押し出されて場外反則を取られてしまう。「力負けで情けなかった」と振り返る名取だが、最後まで強気で挑み続け手ごわい敵将と引き分ける。結果、初戦敗退に終わったものの選手たちの表情は晴れやかだった。
  「チームとして(気持ちが)つながった」。今大会で引退の杉本は満足げに話した。「来年は全日本で勝ち進みたい」と皆が語る。大舞台で多くの収穫を得た彼女たち。新たな目標に向かって、今日も胴着に袖を通す。
                                        (石田、伊藤(衣))

 



 

【ボクシング部】 この男、規格外 フェザー級関東準優勝 水谷


  わずか5カ月。デビューから間もない一人の男が、歴戦の強者たちを打ち破った。
 アマチュアボクサーが頂点を狙う戦いで水谷(済2)は神奈川を制し、関東でも準優勝に輝く。大学から競技を始めたとは思えない、キレのあるステップと鋭いパンチ。抜群のセンスと飽くなき向上心を併せ持つ怪物は驚異的な速さで進化していく。

最強の素人
 9月5日。この日、新たな神奈川フェザー級チャンピオンが誕生した。2年前までグローブを着けたことすらなかった水谷である。もっとも、彼にとってこのタイトルはまだ通過点。予選3戦を振り返り、「もっとうまい勝ち方ができたはず」と反省を口にする。キャリアを考えれば十分な結果だが、彼はあくまで上を目指す。過酷な練習に裏打ちされた自信、そして全日本出場という夢があるからだ。
 「去年はきつかった」と水谷は言う。連盟の規定上、未経験者は1年間公式戦に出場できない。アスリート選抜で入部した同期の関東(済2)と福岡(社2)の試合を見つめ、唇をかみしめた。傍観の悔しさが、彼を練習へと駆り立てる。二人に追い付きたい。強くなりたい。その一心で流した汗が、彼を神奈川チャンプまでのし上げたのだ。
 満を持して迎えた関東予選1回戦。棄権者が出たために事実上の準決勝となったこの試合の相手は、強豪・日体大の根本である。1、2Rとも気負うことなく思い切りぶつかっていった水谷。自分よりも大きな相手にボディーから攻め込み、常に先手を取る。そして勝負は互角のまま3Rへ。ガードのすきを狙って飛んでくる根本の右フック。技術と経験で上回る相手に対し、水谷は自慢のスタミナを生かして粘った。両者とも決定打を欠くまま試合終了のゴングが鳴る。緊張のジャッジ。会場に響いたのは水谷の名前だった。見事1部校の選手を下し、いよいよ全日本まであと1勝に迫る。
 

いつかのために 
 しかし、決勝で立ちはだかった敵はあまりにも強大だった。昨年、北京五輪に出場した清水(自衛隊体育学校)である。水谷にとってはまさに雲の上の存在。両者の実力差は誰の目にも明らかだった。
 それでもあきらめられない夢がある。「最初に一発当てる」と水谷は果敢に立ち向かっていった。持ち味のトリッキーなステップですきをうかがい、大きく踏み込んではフックを仕掛ける。ただがむしゃらに振るわれていた拳は、やがて的確に清水をとらえ始めた。だが同時に、水谷の攻勢は世界トップレベルのボクサーを本気にさせてしまった。断続的に続くボディーが効いていたのか、ハーフタイムを過ぎて清水が一変。攻撃に転じ、積極的に拳を繰り出してくる。そして1R終了間際。左フックを食らい意地で踏み込んだところに受けた、右カウンター。マウスピースが飛び、水谷はひざから崩れ落ちた。デビューから9戦、初めての敗北だった。
 試合後「1年でここまで来れたのは奇跡」と笑う水谷。しかしふと視線を落とす。こぼれた本音は、ボクサーとしてのプライドだった。「リベンジしたいけどね」
 人よりスタートが遅れた分、水谷は一戦一戦から確実に経験を得ようとしている。ビデオで何度も見返す9戦目。倒れこむ自身の姿の中に、明日の勝利を求めて――。
 敗北がもたらしたものは悔しさと、自信。あの時、彼の拳は確かに清水に届いていた。その感触を思い出すかのように、水谷は言う。「雲の上にも当たっているから」。彼の瞳は、敗者のそれではなかった。
                             (太田(佳))


 

 


 
 






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