立教スポーツ第222号

<6月7日更新>
   

    
【空手部】  
沖縄で望未叶えた!
完全勝利も「まだやれる」五輪に繋がる第一歩
アジア制覇
山中
男子個人形
 

   立大空手部の山中望未(のぞみ=済1)が鮮烈デビューを飾った。インハイ優勝、世界大会3位など数々の賞を取ってきた期待の新星が今回、大学デビュー戦のアンダー21男子個人形で見事アジアチャンピオンに輝いた。9月には世界大会を控える。目指すはもちろん世界王者!

決勝で鋭い眼差しで構える山中。迫力ある演武で会場が沸いた【提供/空手道マガジンJKFan】奄ヘ得意とする雲手の動作

【提供/空手道マガジンJKFan】奄ヘ得意とする雲手の動作



誕生したアジア王者

  5本の赤い旗が上がった。その瞬間、日の丸を胸に山中はアジアを制した。得意の「雲手」で沸き起こる会場からの喝采と仲間からの称賛。期待と声援が緊張を力に変えた。「勝てるだろうなと思っていた」。
  山中には3年前から指導者がいない。だから、伸びている実感が湧かず、「何をやってもためにならないと感じる」ときも少なくない。そんな不安を抱えた中行われた初戦。相手は4年前にも戦ったオーイ・サンホン(マレーシア)。 そのときは白星を挙げたものの3−2の接戦だった。今回も試合前の相手の練習は成長を感じさせる気迫ある演武。それは、山中をさらに不安にさせた。初戦にして最大の山場が立ちはだかった。
  「前日まで悩んだ」。 1つの大会で同じ形を使うのは一度のみ。初戦で雲手を使うのか、決勝まで残しておくのか。熟考した末、雲手を使わずしても勝つべき相手だと判断。進化している相手の状態も把握し、今まで練習してきた。4年前に感じた「もしかしたらやばいかな」と今は違う。「気を引き締めて」臨んだ。
  初戦で打ったのは「五十四歩小」。 11年間の空手人生の中で、この形で負けたことは一度もない。この試合も4−1で勝利。4年越しの対戦で確実な成長を見せつけた。
  決勝の山中は入場から堂々としていた。残していた十八番が自信につながった。本番はダイナミックかつ落ち着いた雲手を披露し満場一致の優勝だった。
 

帯に刻み胸に刻み

  雲手を初めて打ったのは小3の時。「ちょっとやってみろよ」。 初めて全国大会で優勝し、才能を見込んだ道場の先生の言葉がきっかけだった。雲手は形の中でも最難関。とても小学生が手を出すような形ではない。周囲も絶句し、驚きを隠せなかった。だが、「見せてやるという気持ちでやり切った」。 年齢は関係ない。憧れの雲手をただひたすら練習した。9歳の全国王者は、自分で限界を決めなかった。
  それは座右の銘である「青雲之志」があるから。この言葉は、中学まで通っていた道場の先生が選んでくれた。高校のときには、帯に刻み共に過ごしてきた。今でも胸に刻み、日々1人の練習に奮起している。どこまでも高い志で、自分自身に挑戦している山中の姿がここにはある。
  東京五輪を目指すのかと問われれば、「今のランキングだと厳しい」と客観的に自分の立ち位置を見据えている。目標とする場所に届くにはまだ遠いかもしれない。超えなくてはいけない敵もたくさんいる。しかし今の状況は、10年前周りの言葉に流されず雲手に挑んだときと似ている。そして今、再び挑戦が始まる。18歳のアジアチャンピオンは、これからも自分で限界を決めない。(林朋花)  
 

 





【洋弓部】
よっ射ー!
59年目で射止めた
王座進出  


  洋弓部男子が創部59年で史上初の王座進出を決めた! リーグ戦を3勝2敗で通過し、5位決定戦で専大に勝利。肌がひりつくような激闘は最後の一矢まで行方が分からなかった。ついに挑む全国の大舞台。王座での戦いは6月16日から始まる。     

専大に勝利し、王座進出を決めた選手たち。須藤(一番右)は最高学年としてチームをけん引した【撮影・東海林航平】



 

「いつもとは違う」

  
  勝利が絶対条件だった。相手は専大。実力は五分五分、厳しい試合になることは優に想像できた。
  50b離れた場所から的を狙う前半は「緊張との戦いだった」と粕谷(済4)。 そもそも須藤(済4)以外の7人にとっては初めての大舞台。硬くなるのも無理はなかった。ペースをつかみ切れず、35点の大差が開いた。捉えるには遠過ぎる距離。厳しい展開になることは目に見えていた。
  これまでの立大は後半に弱かった。だが「いつもとは違う感じがする」。 後半の30bに臨む前に大川(コ3)はそう感じていた。これまでになく、味方からの声援が聞こえる。
  応援を先導していたのは主将・有村(社4)。 部員全員が声を張り盛り上げ、何度も流れを引き寄せた。王座に行きたい。弓を構える者と応援する者、思いは一つだった。
  立大の猛追が始まった。全員が捨て身で攻めていく。その姿勢は放つ矢にも表れていた。誰かが良い点数をマークすると、チーム全体が盛り上がる。繰り返すうちに相手は射程圏内に入っていた。
  合計1920本。両大学でそれだけ矢を撃ちながらも、決着はたった4点の差でついた。立大の勝利だった。

「勝てる気がする」
  起きた瞬間、有村はそう思った。靴を履き家を出ると、空が青く風が気持ちいい。予感は当たる気がした。
  この日、自分が弓を持てないことは知っていた。前日告げられたメンバーの中に自分の名は無かった。実力が足りない。分かってはいたが落ち込んだ。「有村さんらしくないです」。 普段の明るい彼を知る後輩からも心配された。
  しかし、頭を切り替えた。あいつらはきっとやってくれる。だから誰よりも俺が声を出そう。喉がつぶれて声が枯れようと、一度も声援はやめない。そう誓った。
  一時は35点の大差がついてしまった。脳裏には不安もよぎったが、ひっくり返せると信じて声援を送り続けた。チームに終始漂っていた明るく元気な雰囲気。他でもない彼が作り出したものだった。
  勝利が決まった瞬間は鳥肌が立った。同じ日に女子が1部昇格を果たし、自分たちも王座に行ける。全員に抱き付きたいぐらいのうれしさが込み上げた。お疲れ、よく頑張ってくれた、ありがとう。心からそう伝えたくなった。
  ついに勝ち取った王座への出場権。歴史を動かしたのはチーム全員の力だった。勝てる気がする。予感はまだ続いている。   (酒井大河)

 




【水泳部】
55秒台見えた!自己ベストタイでも夢の決勝へ0秒61及ばず
石森100b自準決勝11位
「もっと上を目指したい」悔しさかみしめ前を向く


  立大のエース石森瑞奈(観3)が国内最高峰の日本選手権で準決勝11位。自身最高成績をつかんだ。3日前の200b自由形は20位で予選敗退に沈むも100bで本領を発揮。しかし今年の石森はここで満足しない。次戦、夢の55秒台へ再び挑む!

準決勝へ向けて足取り確かに入場する石森【撮影・池田真由香】塩]み及ばず額に手を当てる









 

55秒台「出たと思った」


   「悔しいです」。 レース直後、質問には笑顔で答えながらも石森(観3)の声は暗かった。
   「何秒が出るだろう…」。 朝一番のレースのため体が動くかは泳いでみないと分からない。3日前の200bの結果が20位と思わしくなかっただけに、予選は不安でいっぱいだった。緊張と静寂の中、水に飛び込んだ。結果は自身にとって2番目の好タイム。自己ベストの更新はもちろん、夢の決勝で十分戦える“55秒台“はすぐそこ。予選を終えた石森の顔は安どと自信に満ちていた。
   準決勝の緊張は予選とは一味違った。「何秒が出るかな」。 わくわくしていた。予選でつかんだ感触が心を軽くする。
  ホイッスルが鳴り響いた。得意の前半は27秒14と好ペースで泳ぎ切り持久力が課題の後半も必死に食らいついた。そのまま勢いよくゴールの壁をタッチ。泳いだ感覚は確かに良かった。「55秒台が出たかも…」。 期待を寄せ電光掲示板を見上げる。
  56秒31―。自己ベストタイ記録だった。タイムをじっと見つめ、すぐに水から出た。“自分”を超えることはできなかった。









 

裏には変化


  入学以来、水泳を純粋に楽しめない時期が続いた。エースは知らぬ間に後ろ向きになっていく。「結果を出さなきゃ」。 その一心だった。
  そんな彼女に転機が訪れたのは去年のインカレのとき。4年ぶりに待望の自己ベストを更新し、初の表彰台で喜びを爆発させた。「水泳が楽しい。楽しいときこそ結果は出る」と確信した。「もっと上を目指したい」。 一つ上の段階へ進もうとしていたその矢先、災難が彼女を襲う。
  練習の帰りに自動車と衝突し、ろっ骨を骨折。W杯を直前に控えた、昨年10月のことだった。仲間が泳ぐ姿から感じるもどかしさ。「泳ぎたい」。 けがから3日後、誰もいないプールに向かった。痛みを我慢し必死にもがく。乱れたフォームに修正を重ねた。水に入らない時間はけがに関する本を読んだ。逆境でさえも自分の成長の糧に。水泳への思いがまた、彼女を前に向かせた。
  「悔しい。もうだめだ」と予選敗退で涙をのんでから1年。今年は様々な経験をしたからこそ、感じられた苦みがあった。「だけど強くなりたい」。 下は向かない。新しい“自分”がそこにはいた。(中條万緒)   
 

 



 

 


 
 

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