硬式野球部

神宮の主役達 vol.3 今村泰宏
 〜扇の要は大黒柱〜

 存在感の大きさは、だれにも追随できないものがある。中軸を担う勝負強さに加え、扇の要(かなめ)としての信頼感もまた同様だ。そして、今年は主将を任された。今村(観4)はまさに本学の大黒柱である。

捕手というポジション

 甲子園にも出場した盛岡大付高時代、今村は中堅手だった。大学デビューとなった99年の春のリーグ戦では一塁手を務めていた。そして99年の秋、四番スタメンの開幕戦こそ中堅手だったが、2戦目からは捕手に定着。以降昨年の春にけがで戦線を離れた以外、本学の本塁を死守し続けている。

 大学から本格的に取り組んだ捕手というポジションは天職だったのだろうか。昨秋ベストナインに選ばれたのを契機に、全日本大学選抜、さらには全日本代表に選出され国際舞台も経験した。昨秋巨人にドラフト2位指名された上野も「自分の後についてきてくれる」というように、今秋のプロ野球ドラフト会議での指名候補にも挙げられている。捕手というポジションは、今村に劇的な変化をもたらした。

 昨年就任した斎藤監督は、東農大二高時代から捕手の育成に定評がある。昨年の上野を含め教え子を10人プロ野球に送り出しているが、そのうち3人が捕手だ。現役でも千葉ロッテの清水将海捕手が正捕手で活躍している。その監督をして、今村は「捕手らしい捕手」という。
 スローイング、キャッチング、インサイドワークといった技術、強肩などの素質は元より、「今まで指導してきた捕手の中で人間性は抜群」と監督はその性格を高く評価してきた。声を出すが決して怒り散らすわけではなく、包容力がある。そういった温かさがあるのが今村だ。
 昨年も持永(経4)や上重(コ3)が初勝利を挙げるたびに、自分のことのように喜んでいた。インタビューでも投手のことばかり。今村の勝負強さも、「頑張っている投手のために」というところに源泉があるのかもしれない。

国際舞台のもたらしたもの

 昨秋の全日本大学選抜の中南米遠征では4カ国を転戦。現地のプロチームや代表と8試合戦い4勝4敗だった。プロ注目の左腕・石川(青学大)とバッテリーを組んだほか、打撃でも本塁打を放つ活躍。試合以外でも、中南米の選手の野球へのどん欲な姿勢、目の肥えた観客の声援に刺激を受けた。
 年が明けて、3月16日から台湾で行われたアジア選手権の代表にも選出される。初の全日本フル代表への選出だった。予選のインドネシア戦で先発、韓国戦に途中出場し、準決勝の韓国戦では社会人を押しのけてスタメンマスクをかぶるなど計3試合に出場。「自分にとってプラスだし、いい経験になった」。さらにこの大会で、今村は本学投手陣のレベルの高さをあらためて実感する。新垣(九州共立大)、杉内(三菱重工長崎)といった「松坂世代」の好投手の球を受けたが、特にすごさを感じなかった。それは普段から受けている多田野(観3)や上重が、彼らと同等の力を持っている証(あかし)。国際舞台での思いもかけない発見だった。
 東京六大学を代表する捕手から大学球界、アマチュア球界を代表する捕手へ。実力を認められたにもかかわらず、「ほかの捕手がけがしたからですよ」「ほかのリーグ戦の日程の関係です」などと今村は謙虚な姿勢を崩さず、少しもおごる様子を見せない。むしろ「行くのが嫌なんです」と弱気なコメントをする。しかも、これだけ実績を残していながら「自信はない」という。

 このネガティブな発言の裏にあるもの、それは飽くなき向上心だ。自信を持つことは、自分に満足してしまうことを意味する。一度満足してしまったら、それまでの選手で終わってしまう。野球をやり続ける限り、伸び続けていきたい。そんな思いが、今村を駆り立てている。
「(国際大会に)行くのが嫌」というのもまたしかりだ。自分はまだまだそんなレベルではない。自信を持って臨めない。だからこそ、そこで経験し、学ぶことも多い。社会人選手の野球への取り組み方を見て、学生の甘えを感じた。また石川、杉内など好左腕投手から聞いたことをチームの左腕たちにアドバイスした。国際舞台で得たものは、今村の糧となり、チームの糧となっている。
ただ、リーグ戦前に体重が5・6`も落ちるなど、度重なる遠征が知らず知らずの間に疲労を蓄積させていた。今春の成績は打率こそ自己最高の.317をマークしたが、打点はわずかに4。監督は打点の少なさに調子の悪さを感じており、「体調が万全ではなかった気がする」とリーグ戦後に気遣っていた。

「とにかく優勝したい」

 新チームを作り上げていく中で、今村はチームを離れざるをえなかった。台湾遠征中は副将の内田(コ4)が代理を務めていたが、チーム状態は下がり気味に。「早く帰ってきてほしい」と歯がゆさのあまり涙を見せていたという。不在となって、その存在感は逆に際立った。
 「主将だから、ではなく4年生なのだからチームを引っ張っていくのは当然のこと」。今村自身は、主将だからといって特別意識することなく今まで通りやっていると言い、「(主将の仕事は)監督とミーティングすることぐらいですよ」と笑って話す。確かに、昨年の主将・石田拓(現日本生命)と違い、強烈なキャプテンシーでチームを引っ張るというタイプではない。抜群の人間性で部員から信頼を集め、チームを「導いていく」といった感がある。

 その今村が大切にしていることが二つある。一つが「チームの和」だ。「(スタメンの)9人で戦うよりも、(ベンチ入りの)25人で戦った方が絶対に強いはずですから」。監督も「ウチの財産」と語る「チームの和」が、本学の目指す全員野球の礎となる。
 二つ目が「意識の統一」。これは心構え、プレー両方に言えることだ。本学は3季ほど優勝から遠ざかっているが、その原因を今村は「明大のような負けん気、気迫、闘争心が足りなかったから」と分析する。シーズン前にも、まだ全員持っていないと語っていた。だが悔しい春を経て、ナインもその意識を持ち始めただろう。全員で共有して初めて、天皇杯が近付いてくる。
 また実際の試合で、勝つために「意識を統一」することも重要だ。4月7日の国士大とのオープン戦、下手投げの左腕に対し、徹底した右打ちで攻略するなどシーズン前からその意識は芽生え始めていた。この点に関しては今村も、「外から見てそう思ってもらえると嬉しいですね」と顔をほころばせていた。今春の対早大2回戦、逆転の口火となった和田の二ゴロもそういった意識の産物といえよう。「今村イズム」は確実に浸透しつつある。

 主将として初めて迎えたシーズンは、勝った方が優勝という大一番に惜敗して3位に終わった。法大の胴上げを、目の前でまざまざと見せ付けられただけに悔しさもひとしおだ。優勝できただけに、納得できないという気持ちが大きいという。個人成績でも、幾度か均衡を破る一打を放った印象はあるものの、本来の成績には程遠い。「和田(コ3)がいたので、ちょっと(気が)緩んでしまったのかもしれない」というが、監督は各校からの徹底したマークに今村らしい打撃ができていなかったと見ている。加えて前述した疲労の蓄積が、思うようなプレーを阻んでいたのだろう。その中で自己最高の打率を残すあたりはさすがだ。
 昨季は慶大戦からの6連勝もあって、神宮球場へ大勢の学生が詰めかけた。だが最終戦、その期待にはこたえられなかった。それでも、降りしきる雨の中、学生席前にあいさつに並んだナインへ惜しみない拍手が送られた。例年は振るわない春のリーグ戦。今までになかった雰囲気の中で、ナインは悔しさをかみしめる。連投の多田野を援護できなかった野手は、ただただ多田野に申し訳ない思いでいっぱいだった。その多田野はベンチで泣いていた。今村はベンチでは不思議と冷静だったが、寮に帰ってから込み上げるものがあったという。
 大学最後のシーズンに向けて、プレッシャーはない。昨年の春は指を骨折し、秋は肩痛に悩まされた。今春はシーズン前の遠征続きと、ここ3季は万全の体調でシーズンに臨めなかった。悔しい春を経て、期するものもある。「とにかく優勝したい」。今村は力強く言い切った。
 
今村泰宏(いまむら やすひろ) 背番号10 捕手 右投右打 176a、80`
 観光学部観光学科4年 通算成績 55試合 186打数 55安打 27打点 打率.296
(坂本)