サッカー部

主将・要田章「神様のおぼしめし」 

 年が明けた、一月。場所は、テスト時で混み合う第二食堂。昨季の戦い振りを総括してもらうため、そして、本人の進路を訊くため、普段着のサッカー部主将、要田(ようだ)章(文4)と会う機会を作ってもらった。

いままでやってきて、今年ほどサッカーが難しいと感じたことはありませんでした。

要田 「ぼく自身の調子が悪すぎました。正直なところ、『主将』というのが重荷でしたね」。昨季を振り返って、苦戦した原因を淡々と、それでいて丁寧な口調で話しはじめる。「ぼくの代で降格したら面目ないというプレッシャーもありましたが、なによりフィールド以外で気を遣うことが多かったです」。チーム全員に気を配ってやる必要があった。

 しかし、それでいて自身もチームにつきっきりというわけにはいかなかった。四年生。最後の年。卒業後の進路決定にもエネルギーを割かざるを得なかった。「そういった意味では、いままでやってきて、今年ほどサッカーが難しいと感じたことはありませんでした」。ジレンマ。その心労たるや、一介の編集部員には察しがたい。

 降格を懸けた入れ替え戦までもつれこんだが、チームはなんとか二部に残留。今季、再度一部への階段を駆け上る。もちろん、要田はこの結果に満足はしていない。それでも、「ほっとしています」という言葉に偽りはないであろう。残留を決めたことで、まずはひと安心といったところか。

ひとつでもいいから、他者に勝るものがあると自信になります。

 リーグ戦がひと段落して、代替わりを終えたこの冬。彼はプロテストを受けた。臨んだのは、某浦和は某自動車会社のチーム。リーグを代表するFW。過去、選抜チームにも選ばれた。補足しておけば、これは無謀なことではない。むしろ可能性は十分にあったと言っていい。

  結果を先に言えば、合格の判はもらえなかった。「まだほかにも受けてみようかと思っていましたし、周囲からはここで諦めるのはもったいないとも言われました」。事実、ほかのチームから受けてみないかという誘いはあった。「でも、やめておきました」。ひと足先に、兄がプロの世界で揉まれている。テストを受けたのにも、そして、ここで受けるのを止めようと決意したのにも、その影響があった。「自分の中途半端な気持ちで受けることは、兄貴にも失礼だと思いました。ぼくは彼ほどの情熱を持ち合わせてはいませんから」。

 ただし、悔いは残っていない。「すこし甘やかされているな、と感じる選手が多かったようです。彼らを見ていると、プロになったことですでに満足している気がしました」、とテストを受けた率直な感想。もちろん収穫もある。「やはり、確固たる一芸を持っていることは強みですね。足が速いとか、視野が広いとか。ひとつでもいいから、他者に勝るものがあると自信になります。プロの選手はそれを持っていました」。

振り返ったとき、留学を選んで良かったんだと思いたいし、そう思えるようにしたいですね。

 プロ選手への道を捨て、彼が選んだのは留学。迷っていたが、これで吹っ切れた。異国にてしばらく勉強することで、また新たな道を切り拓くつもりだ。だが、これで学生時代、大半の時間を費やしてきたサッカーからひとまず足を洗うことになる。「留学してもプレーする機会はありますからね。でも、いままでみたいにがむしゃらにはしないつもりです」。苦笑い。すこし寂しそうではあった。

 「でも、ぼくはこう思います。テストに漏れたこと。これは神様のおぼしめしなんだと。お前にはほかにも才能があるじゃないかっていう」。誇りと信念に貫かれた彼の存在は、ただただ眩しい。「自分が選んだ道です。振り返ったとき、留学を選んで良かったんだと思いたいし、そう思えるようにしたいですね」。

サッカーってこんなもんなんだと、あらためていろいろ勉強になりました。

 四年間、充実していた。「小さな大学でしたけれど、逆に強い相手とやって自分たちの力を試すことができました。いい経験になりましたし、それなりに通用したと自分では思っています」。「立教には勝てるんだけど、39番には勝てそうにないよね」。取材中、相手ベンチから漏れてきた言葉。それを聞いて、複雑ながらとても嬉しい気持ちがしたのを、よく覚えている。終了間際に手痛いゴールを許したこともあった。「サッカーってこんなもんなんだと、あらためていろいろ勉強になりました」。悔恨もまた、糧になる。

 現在、彼は留学の準備をすすめている。「FWの仕事はゴールです」と断わっておきながらも、彼は試合後、何点獲ったかよりも、何本シュートを打ったかについて訊かれることを喜んだ。ゴールよりも、そこまでのプロセスを大事にするストライカー。人生をスポーツに例える気は毛頭ない。しかし、何処へ行こうとも本人の性情は変わらないと思う。目標に到達するまで、どれだけ納得する過程を踏むことができるか。主将として、またエースとしてチームを支えてきた要田は、これから先もその追求を止めることはないだろう。

  最後に。この春も多くの選手やマネジャーが本学体育会を後にする。そのひとりとして、サッカー部主将の要田章を書いた。体育会で過ごした黄金の四年間を胸に、社会へと巣立っていく彼ら。その歩む道に、幸多きことを願ってやまない。月並みな表現ではあるが、書き置いておきたかった。

                                        

(黒川)
〜( )内は旧学年〜