取材雑記B

洋弓部女子「瞬間」

 5月6日、12:16p.m.時計がその時刻を告げたときがその瞬間だった。

 8:46a.m.東武東上線、朝霞駅に着く。45分に集合なのでちょっと遅刻だ。南口に出ると後輩の車が待っている。
向かう先は武蔵大朝霞グラウンド洋弓場―――。
 9:13a.m.到着が少々遅れる。何はともあれ、着いた。天気は前回同様で良い。しかし今回は前と違い、風が弱い。コンディションは良好だ。会場を見回すと、青学大、玉川大、明治大、そして立大の姿が見える。まず驚いたのは選手達の掛け声の大きさだった。その声を聞き、改めて今回が大きな大会なのだと実感する。
 10:00a.m.「結構、点差が開きましたよ」と、得点を見てかえってきた後輩の声。「もしかしたらいけるのだろうか」と密かに心の中で思う。選手でもなく、洋弓部の部員でもない自分がこんな事を書くのは少し妙な感じもするが、実はかなりの不安があった。と、いうのは私の知っている限り昨年を除いて数年間は1部との入れ替え戦に出ている。が、昇格できない。「今年こそ」ともちろん期待はしている。だがそれは毎年同じことだ。選手達にしてみれば「今年こそ」という言葉も希望であると同時にプレッシャーの一部に違いない。数年という重みのある「今年こそ」を背負いながら、かつ、1部の学校と戦うために実力を出し切らなくては昇格に辿り着けない。そういうことを考えると「もしかしたら」という気持ちもすぐに打ち消され、悪いイメージが浮かぶ。
 11:07a.m.気が付くと風が少し強くなっている。選手達に悪影響を及ぼさなければいいが、と思う。しかし、その時点でその心配は無用。着実に点を取っている。リードも今のところ保っているようだ。先刻より期待がはっきりとした形で胸の中に現れる・・・。
 11:25a.m.的の方から声が響く。「立教、半田、56!」。30m、3本目。半田が56点という高得点を挙げる。50mが終わった時点で渡辺が会場内最高総得点を取っていた。立教に良い勢いが次から次へと舞い込んでくる。「もしかしたら」が「きっと」に変わる。
 12:13p.m.試合は既に終わり、スコアを見る。スコアの表は不完全でそれぞれの得点は全て出ているのだが個人の総得点は出ていない。少しづつ、係の人間が点を記しているのだが、待ちきれず、取材用ノートの隅に本学の得点を計算する。玉川大は明らかに四校の中で1位だと分かったので明大と青学大に勝って2位に食い込めば昇格である。
 2181点。
他の部員が青学大と明大のスコアを見ている。近付いていって「どうだった?」と聞く。スコアを聞くと、勝っている。僅差だが、勝っている。
 「計算が合ってれば、だけど・・・」
控えめなその言葉を聞き、自分と同じような不安と期待を抱いているのだと気付く。勝っている、それは1部昇格を意味する。数年来、成し得なかった1部昇格。その数年の重みが取材する側にも、ある。
 12:16p.m.スコアを見ていた立大の選手が声をあげる。喜びの声だ。1部昇格が決まったのだ。ある者は涙し、ある者は抱き合ってその想いを表現している。こちらも微笑まずにはいられない。
「でも1部昇格というのはゴールじゃなくて、その上に王座というのがまだあるので・・・」
女子リーダー瀬田が言う。
 「自分達はそこへの扉を開いただけ」
とは言うものの、長年開けられなかった「扉」を開いたのだ。その業績は大きい。
 今年の春は終わった。次に桜が咲く頃「今年こそ」はもう、ない。
(篠原)