硬式野球部

「涙の似合う男」

 9月29日、対慶大2回戦。劇的なサヨナラ勝ちを収めた本学ナインの中に、人目をはばからず涙を流していた男がいた。背番号29番、学生コーチ・木村勝徳(経4)である。
 前週、本学は東大にまさかの勝ち点を奪われた。彼はそのすべての責任を一人で背負い込んでしまっていた。それも、自分が今まで練習メニューを作成するなど、チームを作ってきたという自覚があったからだ。本人も本当に野球を辞めようかと思うくらい落ち込んでいたという。だから、サヨナラ勝ちしたことで、ため込んでいたすべての感情が涙となってあふれ出たのである。安どの涙―彼がようやく苦しみから解き放たれた瞬間だった。
 毎年通常役職は主将から決まる。だが、「主将を決めるよりも前に、まず木村を学生コーチにしたい」という監督の強い要望があった。1年生の頃からだれよりも「声出し」を一生懸命やってきた木村に、監督は絶対の信頼を置いていたのだ。もちろん選手として続けていきたい気持ちもあった。しかし、「俺の右腕になってくれ」という監督の言葉が、彼をその道に歩ませることなったのである。
 学生コーチとしてのモットーは「見て見ぬふりはしないこと」。どんなに小さなミスでも気付いた時は絶対に言うようにしていたそうだ。また、技術的な面よりも、個々の性格を見極め、精神的にケアしてあげることに力を入れていたとのこと。「学生コーチは嫌われ役だよ」と彼は笑って言う。だが、後輩たちには木村の気持ちが痛いほど伝わっていたに違いない。木村の背中は後輩たちの目に大きく映っていたことだろう。
 引退時には「お前はもう指導者やらないのか。俺がこんなに入れ込んで育てたのにもったいない」と監督に言われ、本当にうれしかったという。「声出し要員」であっても、「嫌われ役」であったとしても、彼にとってはすべてが貴重な体験だった。そんな彼の野球人生は今年でいったん幕を閉じる。しかし、「将来的には高校野球の監督になって、甲子園にいければなあ、と思う」と語ってくれた彼の行く先には、すでに新たな野球人生への道がひらけている。
 最後に彼の言葉を紹介したい。
 『楔 くさびだから大事なところへうつ
    くさびだからみえないようにうつ
  平成14年度立教大学野球部
            学生コーチ木村勝徳』
 
 彼の4年間に乾杯!   
(西野)