ボート部

「セミのヌケガラ」

 2002年、夏。
 花火大会が終わった。帰省の渋滞情報も、24時間テレビも、地方大会からずっと見ていた高校野球もみんな終わってしまった。日が短くなり、だいぶ涼しくなってきた。夏は着実に終わろうとしている。
 
 そんな夏と秋の境目に全日本大学選手権が毎年、戸田漕艇場で行われる。ボートかかわる人間にとって最後のイベント。4年生にとってラストローとなる夏物語。このインカレ、他の大会と一味違う。観客の数もさることながら声援のすごさに驚かされる。そこには魅せる「何か」があるのだ。

 本学からは5クルーが出漕した。それぞれのこぎが、またそれぞれの思いを生み出していく――。ここでは選手の声、表情を伝えたい。
 
 男子シングルスカルの福島(観2)はこのインカレを「精神力がついた」と語った。インタビューを受けるその表情からもたくましくなったことがよく分かる。さらにインカレで手に入れたものは何かと尋ねたところ「まだまだ伸びる可能性」と返ってきた。不敵な笑みに嘘はない。
 男子舵手付きフォアの小田嶋(コ3)、梅沢(法3)、細谷(法3)、木下(法2)、本田(社2)は「力不足だ」と口をそろえた。その悔しそうな姿からは来年の雪辱がにじみ出ていた。このインカレは彼らにとって確認、そして決意の場であったように思う。
 男子舵手なしフォアは4年生クルーとして堂々たるものだった。佐藤(理4)、中田(観4)、岡本(法4)、刑部(おさかべ=社4)が見せた歓喜のアクション。彼らはレース後「やればできる」と連呼した。そしてインタビューの中で一番多く語ってくれたのが、後輩に向けての言葉だった。それは、4年間こぎ続けた者だからこそ分かる心の声にほかならない。
 女子舵手なしペアの川田(コ4)は最後のレースを終えた直後、一緒に同乗する小島(文3)と固い握手を交わした。その光景を見てとれるように二人はインカレを十二分に満喫できたようだ。川田はインカレを「わたしの人生にとって大きな節目」と語った。高校からボートを漕ぎ続けた彼女にとって忘れられない夏になるだろう。
 女子ダブルスカルの多胡(文4)、坂井(文3)は最後に最高のレースを見せてくれた。昨年からずっと組んでいた二人だからこそできるこぎは、本当に強く、そして鮮やかだった。
 
 レース結果にはあえて触れない。力をすべてを出し尽くし、前進するボート部の姿を分かってほしい。こういった思いにさせてくれるのがインカレが魅せる「何か」なのかもしれない。

 戸田漕艇場にはたくさんのセミのヌケガラが落ちていた。飾りのない、すべてを出し尽くしたであろうセミのヌケガラを手に取ると、なぜか希望がわいてきた。そんな異常な自分が不思議と自然体に思える夏のひとときだった。
                                                       
(田代)