ハンドボール部

「傷だらけのカリスマ」

  圧巻のプレーの連続だった。正確なパスに鋭いシュート、絶えず走り続ける運動量と味方を鼓舞し続ける声…。コートは、主将・細口(理4)の独壇場と化していた。

 4月20日、春季関東学生4部リーグ第2戦、対産能大。劣勢からの本学の猛追によって、終盤は壮絶な展開となった。カウンターの応酬、1点差と同点を繰り返す得点板――。24−25で迎えた残り20秒、雄叫びとともに倒れこみながら渾身のシュートを決めたのは細口だった。土壇場で引き分けに持ち込んだこの試合で、彼は11得点・9アシストをマーク。チームの25得点中20点に絡む大活躍だった。

 ところが、悪夢は突然訪れた。翌週の対帝京大、前半9分に相手と激突して倒れた細口。その瞬間を、彼は「右膝がゴキバキッと鳴って、どこかが切れた気がした」と振り返る。この負傷による症状は、全十字靭帯損傷、内側(ないそく)靭帯損傷、半月板損傷、骨挫傷…。いまだかつて経験したことのない大ケガだった。この試合に敗れ4部残留に黄信号をともした本学だったが、チームを襲う暗雲は一敗以上に大きなものだった。

 しかし、続く対千葉大のコートに、細口は立っていた。(=写真) 走ることはおろか、歩行すらままならない状態であるにもかかわらず、痛々しくテーピングを巻いた姿での強行出場。だが、前半途中でプレー続行を断念、ベンチに退き声出し役に徹する苦渋の判断を下すこととなる。人数不足に悩む本学はそれ以降、チームの大黒柱を欠いただけでなく、5人対6人の戦いを余儀なくされたのだった。

 細口の不在と数的不利によって攻撃のパターンは激減し、守備でも粘りを発揮できず大量失点を重ねた。1分6敗、最下位での5部降格は必然であった。しかし、そんな不本意な戦いの中でも彼は己の“キャプテン像”を貫き通した。「弱みを見せない」こと。前主将・浅井(02年度卒・守護神参照)から学んだというその姿勢を、逆境の中でこそ、細口は自分なりの形に昇華させてきた。浅井が「守護神」ならば、細口はまさに「カリスマ」である。コートに立てない時でさえ、彼はチームをけん引する力を失わなかった。出場の可否に左右されない唯一無二の存在感が、細口のカリスマ性を証明した。

 負った傷は、短時間で癒えるものではない。それでも彼は「(ドクターストップが解ける)8月になったら走りまくる」と不敵に笑う。秋季リーグの開幕は9月。与えられた時間は短いが、チームの4部復帰は彼の復活にかかっている。そして、誰よりもそれを認識しているのは細口自身だ。彼は決して「孤高のカリスマ」ではない。自分がコートに立てない時、一人少ない中で必死に戦い続けた仲間たち――。再び彼らと共に戦う日が訪れたとき、カリスマの眼差しはさらに鋭く光を放つ。
                                                       
(2003年7月8日・小見)