新人選手。「経験者」の肩書きを持ちながら競技に打ち込む選手がいれば、大学入学後に一念発起し新たな活路を見出した選手もいる。期待や不安を抱き、理想や現実を見つめながら、その中で描いた「アシタの自分」を目指し歩んでいく選手たち。その飾らない素顔に迫っていく。


ゴルフ部女子

新人たちのアシタ(上)
「紅一点」



 ゴルフ部には8人の1年生がいる。内訳は、男子が7人、女子が1人。中島(文1)こそ、そのただ一人の女子部員である。


   「私が家族で一番ゴルフを始めるのが遅かったんです」

 彼女の家庭は、さながら「ゴルフ一家」と表現できる。
 毎週日曜日には必ずゴルフに行くという父は本学ゴルフ部のOB。母と2人の妹も、中島が中学生の頃からゴルフを始めるようになった。その影響もあって、小学4年生からテニスを続けていた中島も高校入学後、ついに本格的にクラブを握ることとなる。
 「はじめはお遊び程度」ではあったが、そこから彼女のゴルフ歴は始まった。


   「間違っても体育会に入るなんて思っていませんでした」


 そんな折、ゴルフ部の勧誘を受ける。だが、OBの父をもつだけに抵抗はあった。「入部してすぐに辞めるようなことがあったら父も嫌がるだろう…」。ゴルフ部に居心地の良さを感じながらも、そんな気持ちもあり決心しかねていた中、原(経3)が声をかけた。

 「ゴルフがうまくなりたいなら絶対ゴルフ部がいいよ」

 その言葉に心が動かされ、入部を決意した。


   「一時は五月病そのものだったんです…」

 「心細かった…ですね」
 そう振り返った一瞬、中島の眼差しから少しだけ明るさが消えた。

 本格的に活動が開始された4月下旬。中島は愕然(がくせん)とした。女子の新入部員が自分一人であることを知ったのだ。
 「最初に同期が何人かいて、退部者が出てから一人になるのとは違う。私は最初から一人なんだ…」
 思いもよらぬ戸惑いに、春季リーグの結果が拍車をかける。
 1打差でBブロック昇格を逃したことで、普段の練習は量を増し、その雰囲気も以前より格段に厳しくなった。部の方向性と「自分がやりたかったゴルフ」とのギャップ。“楽しめる程度に上達していくこと”を望んでいた彼女の悩みは徐々に深まっていった。

 「こんなに厳しい部を、この先一人でやっていくんだ…。わかってくれる人、ありのままに言える人が自分にはいない」
 孤立感に苛(さいな)まれた。
 同じ1年生とはいえ、男子と女子ではやっていることも考えていることも違う。自分が弱音を吐いても「おれたちの方が辛いんだよ」と言われたら返す言葉がない。けれど、自分には女子の同期がいない…。
 苦悩は極限に達しつつあった。

 5月下旬、中島は練習中に過呼吸で倒れた。
 その前後から何度も発熱するようになったり、精神状態が体調に現れるようになっていた。

 それが契機になった。

 同期の男子部員や、女子では唯一の2年生・伊東(経2)に、自分が溜め込んでいた本音をぶつけた。
 それまでは男子に対しても伊東に対しても「肩身が狭くてギクシャクしていた」が、これを境に打ち解け合え、距離が縮まったという。
 中島は特に同期の存在を強調する。「女の子はいないけど、自分にはいい同期がいる」。そう思うと、また前向きにゴルフに取り組めるようになった。


   「先輩の姿に、いろいろ考えさせられました」

 女子の夏は、昇格への再挑戦だった。スコアが採用される3・4年生の4人に不安がないはずはなかった。「それでも先輩は不安がっているところを自分には見せなかった」と語る。そして、有言実行の昇格劇。重圧と戦いながらも「常に堂々としていた」その姿が、中島の胸に強く残った。

 4年生はこの大会で引退し、残った4人で来春に照準を合わせることになる。大会では、各校上位3人の合計スコアがチームの成績となり、また、そこで並んだ際には4人目のスコアが勝負を分ける。つまり、来期は中島の成績が勝敗に影響を及ぼすことが非常に濃厚なのである。
 そのことについて、楽しみに思う気持ちもあるだろうと尋ねてみたが、「責任重大で…。楽しみなんかじゃないですよ」と笑う。

 「先輩が残してくれたBブロックという場で、自分もちゃんとそれに続いていきたい。自分の練習不足でCブロックに落ちるようにはしたくない」
 その気持ちは、昇格を決めた直後に武藤(経4)が後輩に残した「今まで以上にゴルフに染まっていってほしい」という言葉に対応する。Bブロックで戦う上での自分の課題は、調子が悪いときでもスコアを安定させることと、飛距離をもっと伸ばすこと。それらを克服するため、これからは個人的にもゴルフに費やす時間を増やしていくつもりだ。



 
 最後に、ゴルフという競技の醍醐味を聞いてみた。
 「楽しみが多くて極めるのが難しいスポーツ。その分、続けていたら得るものが大きいと思います」
 そして言葉を続けた。

 「だからこそ…この部に入ったからには『上手くなってやろう』って思いますね」

 その向上心があったからこそ、悩みを乗り越えた今の自分がいる。
 もう、迷いはない。




   ◆中島 由美子(なかじま・ゆみこ)
   1984年7月10日生まれ
   文学部英米文学科1年 立教女学院高出身
   ゴルフ歴は3年
   高校時代は料理部に在籍し、今でもよくお菓子を作るという一面をもつ

                                                       
(2003年9月26日・小見)