ラグビー部
〜ALL OUT(後編)歴史を刻む時〜


 この夏、彼等は長野県にある菅平高原にいた。毎年夏になると日本全国のラグビー部が集まるこの場所で、第三次合宿をしていたのだ。8月19日、佐久山荘グラウンドで行われた中京大との練習試合、アップの段階から本学の士気は高まり、全員が勝つことに集中していた。結果は22−5の大勝。昨年、同じ菅平で17−56というスコアで敗退している相手から奪ったこの勝利は、本学の大きな成長を示していた。小雨が降ると思えば突然突き刺さるような日差しの差し込む高原の空。変わりやすい天気のなかで、本学の選手たちは毎日のように楕円を追い、スクラムを組み、志を曇らすことなく走り続ける。


そして夏は過ぎ、ついに対抗戦が幕を開けた。



(写真=公式戦初スタメンの井原が覇者・早大のゴールラインを割った)
初戦の相手は昨年度選手権覇者の早大。この日札幌の空が遥か東京からの訪問者を歓迎してくれていた。東京は曇りだというのに、月寒は快晴。爽やかな肌寒さが北の大地を感じさせる朝。そして歓迎してくれたのは空だけではなかった。この日月寒屋外競技場に集まった観客は2600人(関東ラグビー協会の発表)、子供から大人まで、大勢の人が伝統ある両校の戦いを見ようと集まった。そんな中で、本学は熱のこもった戦いぶりを見せる。王者を相手に何度も敵陣に攻め込み、前半38分に会場を沸きあがらせた本学のトライはWTB井原(経3)にとって公式戦初トライ、バックスのサインプレーの成功を示すものだった。前半を終えた時点でスコアは5−31。王者・早大にとっては予想外だっただろう。後半、本学は反則が多く、ミスから相手の得点を許す場面もあった。しかし金澤(コ2)のトライで追加点をいれるなど、10−78でノーサイド。決して僅差とは言えないものの、強いチームとの戦いから学ぶものは多く、次へとつながる試合になった。

(写真=北海道の観客が本学の見せた熱いプレーに拍手を贈る)

そして2戦目は昨年度、対抗戦準優勝の慶大との戦い。開始早々本学のペナルティから相手のラインアウトにつながり、先制される。しかしそこから30分は何度も敵陣に攻め込み、引き締まった試合を展開。0−19で前半を終えた。後半は立ち上がりでマイボールを失い、トライを奪われる。本学も何度もライン際まで攻め込むもののあと一歩のところで得点ができず0−52でノーサイドとなった。試合後西田は「研究していたのでアタックなど、やってきたことはできた。前半の終了間際、0−12が0−19になったが、そこを5−12、7−12にしていくことができればもっと戦っていけたし、勝てる」と語った。

次に長野で行われた帝京戦。長野県、松本平アルウィンで行われた試合。前半は前にでるディフェンスで敵陣に切り込み、何度も攻め込むもスコアは0−19。後半、つよい相手FWに攻められ、スクラムトライなどを奪われる。終了間際に立て続けに4トライをきめられ、0−62で試合を終えた。西田は「慶大戦と同じような展開。BKではやられていなかったが、FWはやはり慶大よりもさらに圧力が大きく強かった」と振り返った。



「関東大学対抗戦Aグループ」、そこは「勝ちへの執念」と「伝統校の誇り」がぶつかり合う激戦の地だ。

4年前、Bグループ最下位の雪辱を味わったその時から本学の飛躍はスタートしていた。最下位の原因はセレクションがないからでも、選手の努力が足りなかったからでもない。4年前の本学に足りなかったものは「勝つ」ことへの「覚悟」、ただひとつではないだろうか。事実、重い腰をあげ、勝利への誓いをたてた濃紺のジャージは、次の年にBグループ全勝優勝、そしてAグループ昇格。1997年に対抗戦が2グループに分かれてから初の昇格校となった。順調に上り続けるかに見えた彼らだが、Aの洗礼を受けることになる。一昨年。Aグループとして一年目の年に全てのチームから
大差をつけられ
(写真=モールの場面で指示を出している副将・高橋)
全敗。「『Aで勝つ』ことの意味」を知った。そして、「なんとしても負けられない」として挑んだ昨年、青学大を相手に誇りと感動の初勝利をあげた

そして三年目の今年、本学の掲げる目標は「勝つべきところ(日体大、筑波大、青学大)に勝って、そしてさらに上(慶大、明大)を見る、『3プラス2勝』」。今の時点で慶大戦の勝利はなくなった。4強(早大、慶大、帝大、明大)はやはり強い。しかし、本学ラグビー部は決して下を向くことなく、真っ白なユリのエンブレムが刻まれた胸を張り、Aグループの尊き芝を駆け続けている。
なぜか。
それは彼らが「勝利」の意味を知ったから。
 最下位の屈辱、大差の敗戦、大事な試合での怪我、意見の衝突、熱くて苦い血と汗と涙の一滴一滴をすべて噛み締め、面(おもて)をあげ、進んできた。「勝利の意味」も「敗北の味」も知っている濃紺のジャージは、芯から強い。そして濃紺の歴史を新たに紡ぐ彼らの言葉に、眼差しに、鍛え上げられた肉体に、嘘はない。
次に本学を待ち構えるのは筑波大、本学が「勝つべき相手」として見据えるチームだ。確かに、容易なことではない。前評判も筑波大優勢。しかし、全員が「覚悟」を決めているならば、「勝利」はぐっと近いものになる。

(写真=風をきって疾走する副将・武藤)

(写真=チームを率いる主将・西田(中央))



これからの彼らの試合予定は以下のとおり。
10月23日 対筑波大  熊谷ラグビー場 12:00〜
11月 6日 対日体大  熊谷ラグビー場 12:00〜
11月13日 対明大  秩父宮ラグビー場 14:00〜
12月 3日 対青学大  熊谷ラグビー場 14:00〜

今年で本学ラグビー部は創部82周年を迎える。81年の歴史を背に82年目を紡いでいく彼らの足取りは確かだ。

この文章をここまで読んでくださった方に、心からお願いしたい。西田創の息遣いを、武藤和秀の切る風を、高橋務の声の響きを、その場で共有してほしい。一度その空気を感じてしまったら、もう離れられなくなるはずだ。なぜならそれは、82年の歳月の一番先頭でひた走る男たちのかけがえのない「今」であり、その一つ一つこそがやがて濃紺の歴史となっていくものだから。
 

見にいらした方は後悔しません。
残る4試合、濃紺の戦士たちは絶対にいい戦いを見せてくれます。
一番先頭を全速力で駆けるダークブルーのジャージを、一緒に応援してください。
 
                                               前編へ

 

(2005年10月7日・麻田)







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