硬式野球部
若き力の躍動 〜雪辱の秋への分岐点〜
 どのスポーツにおいても必然の現象がある。若い選手が台頭していくことだ。そこには何かのきっかけが必ず存在する。そして若手がスターへと上り詰めたその時、きっかけは転機となり、いつしか必然のものとして受け止められていく――

 開幕8連敗と例年にない苦しい戦いを強いられた今季の本学硬式野球部。そんなシーズンの中でも若い芽は開花のときをひっそりと待っていた。先発の一角に定着した戸村(社2)、スタメン二塁手としてフル出場した中山(営2)を始め、末藤(コ2)、五十嵐(済2)、山神(済2)、菊沢(コ1)、仁平(コ1)ら下級生たちは今季神宮の土を踏み、はつらつとしたプレーを見せた。そんな彼らの今春の集大成となったのが6月5〜7日にかけて行われた春季新人戦だった。下級生にとってリーグ戦での経験を形にする、またとないこの機会。チームが掲げる目標は当然のごとく「優勝」。天野新人監督が「今年の立教は違うと思わせたい」という意気込みを語って臨んだ戦いが始まった。
 初戦の慶大戦。先発のマウンドを踏んだのは、法大一回戦以来の登板となる山神。秋は二番手の候補の一人として期待される存在だ。だが序盤から制球に苦しみ、毎回のように走者を背負う。三回を無失点に抑えるものの、新人監督も「予想外」と言うほどの出来だった。試合は五回に中山の失策からピンチが拡大し、二番手・菊沢が失点。2点の先制を許す。反撃に出たい本学は慶大投手陣の乱れにつけ込み、2−2の同点に追いつく。その後も全員が一丸となって粘り、幾度となく好機を作り出す。そして迎えた十回裏。四番・末藤の四球を足がかりに生まれた満塁のチャンスに渡辺(観2)が「人生で初めて」という満塁弾を左翼席へ叩き込み、6−2でサヨナラ勝ちを収めた。投手陣の力投が良いリズムを生み、その結果攻撃陣に好影響を与えたゲームだった。我慢の一戦を、天野新人監督が「集中力を切らさずにやれた」というように、選手は粘り強く戦い抜いた。
昨秋の新人戦では3−10で敗れた早大との準決勝は立ち上がりから本学の速攻が炸裂する。小川(コ2)、中山が連打でチャンスを作ると、四番・末藤がきっちりと犠飛。前日の勢いそのままに先制点を奪った。だがその後は得点を奪えず、逆に五回には早大に逆転を許してしまう。守りでは宇津井(観1)、仁平の一年生投手陣が早大の強力打線相手に奮闘を続ける。何とか同点に追いつきたい本学。五十嵐が持ち前の俊足を生かした打撃をみせるなど再三にわたって好機をつくりだすも、最後は早大・大前に封じ込められ、1−2で試合終了。優勝を狙ったチームの戦いは、三位決定戦へ下方修正を余儀なくされた。
 今春の最後の一戦となる法大戦。このゲームの主役となったのは、新エース候補・戸村だった。立ち上がりから自己最速の148キロのストレートを武器に法大打線から凡打の山を築いていく。七回まで1四球のみのノーヒットノーランを継続。「三振は意識せず、打たせてとることを意識した」というこの日の投球は文字通りのエースの投球だった。一方の打線も法大・二神の前に無得点が続く。だが八回の失策から生まれた好機に、代打・早瀬(大)(文2)が値千金の適時二塁打。「好投している戸村を助けたかった」という思いが実った二塁打だった。ついに本学が先制すると、その後は理想的に加点し、3−0とリードする。戸村はノーヒットノーランこそ逃したものの、法大打線を一安打完封。彼が語る「勝てる投手」の姿がそこにはあった。
 今回の新人戦の結果は三位。課題は残った。だが特筆すべきことがある。ベンチでもグラウンドでも全員が声を出し、得点を入れたときには全員が喜びをあらわにしていたことだ。彼らはチームのスローガンである「戦闘集団」の姿勢を体現していた。「チームが一つになった気がした。同級生の輪というか『絆』が得られた」と今回の新人戦で主将を務めた中山は語る。早くから先輩たちに混じってつけてきた実力に抜群のチームワークが加わっていく。そこには「勝てるチーム」の雛形が見える気がした。

 チーム全員が優勝を目標に挑んだ今回の戦い。リーグ戦での経験をそれぞれが表現してみせた。ある者は一段と成長した姿を見せつけ、またある者は春の不振を抜け出す足がかりとなるプレーを攻守に体現した。メンバー全員が「優勝」を合言葉にしていただけに、3位という結果には皆が「満足できない」と口を揃える。今回の経験と悔しさが秋のリーグ戦での雪辱へ糧となっていく。彼らは決して立ち止まらない。春の借りを返すために。「(秋は)どこにも負ける気はない。全勝優勝するつもりでやる」(戸村)。「(秋は)優勝します。リーグ戦も新人戦も」(中山)。今回の戦いが彼らの飛躍のきっかけだった。そう気づく日は意外に近いのかもしれない。



                               
(2007年7月12日・鈴木(雄))