そして、ウェイトリフティング場に活気が戻った。



未経験者であった原だが、地道なフォーム練習も着実にこなし、確かな成長を見せ続けていく。
播木は高校時代からウェイトリフティングの経験を積んでいた。
これまで大学から競技を始める入部者しかいなかった重量挙部に、新たな風が吹く。
もしかすると、彼の姿を自分自身と重ね合わせたのかもしれない。

河村は決意した。

「もう一回やりたい。」


選んだ道は、決して楽なものではない。
部の仕事をいきなり全て後輩に任せる訳にもいかず、しばらくは自分が続けなくてはならなかった。
もちろん、怪我も抱えている。
さらに後輩の育成や、自分の練習に割く時間も必要となる。
やるべきことは、むしろ増えたといっていいだろう。



しかし今はもう、逃げたいなどとは思わない。
「昔と違うのは、目標があるから。簡単に"もうやめ"とはならない。」
ある日練習場を訪れた我々に、心境の変化をこう話した。


そして10月。
3名の部員、全員が全日本インカレの出場権を獲得した。
少しずつではあるが、確かに3人としての重量挙部が形成されていく。
さらに播木が5位入賞を果たし、努力に華を咲かせた。
本学の入賞は、3年振り。
河村が1年の時に在籍した先輩が成し遂げた以来の出来事だった。
彼が繋いできたものが、全国に示された瞬間。


河村が以前話した、簡単に諦めなくなった理由、"目標"とは何なのか。

「播木を抜くことです」

少し笑みを見せながら答えた。
後輩を目標に据えるのは、簡単なことではない。
他の人間が口にすれば、もしかすると気の利かない冗談のように聞こえてしまうかもしれない。
だが、河村は本心からそう思っている。
ウェイトリフティングという競技を通じて果たした、出会い。
この奇跡のような変化を、彼は全身で受け止めたのだ。


彼の歩んできた道は、後輩にもしっかりと届いている。
その苦労を直接は知らない。
それでも河村が守ってきたもの、これまで部から受け継いできたものは理解出来た。
彼の努力を尊敬している。

「だから、ついていける」

全日本インカレでの河村の試技を我々と観戦しながら播木は、はっきりと口にした。


まだ発展途上、完成形には達していない。
他の強豪校と比べると、練習場に響き渡る声量の差は歴然としている。
だが確かに、彼ら独自で築き上げつつある"カタチ"が、ここにある。




戻る





Copyright (C) 立教スポーツ編集部, All Rights Reserved.