どの部活にもいるマネージャーやトレーナー。彼女らは戦う選手たちを影で支える仕事をする。
今回はそんな彼女たちにスポットをあてた。4年間の活動はお金には返られないほど尊いものであり、彼女たちの人生を大きく変えたに違いない。



長谷川 知香
経済学部 会計ファイナンス学科 都立小石川

 身長144cm。がたいのいいアメフト部員に埋もれながらも、トレーナーとして高い評価を受ける彼女。オープンでさばさばした性格はキュートな外見とのギャップを感じさせる。目が合うといつも駆け寄ってきて笑顔で挨拶、愛敬があふれる。
始めはバスケットボール部に入部してマネージャーをやろうとしていたが、アメフト部の盛り上がりのいい雰囲気に惹かれたという。
 トレーナーとしてテーピングを上手く巻けるよう頑張ろうと目標を決めると、周りの人もあたたかく迎えてくれた。それに応えたいと強く思い、もっと練習しようと努めた。
 「基本的に人には悩みを言わないんだけど、親しくしてくれる選手や同期にどんどん相談することで、一個一個解消していった。自分も必要とされているんだなと思うこともできたし、このチームみんなで卒業したいなって思うこともできたので、今日までやってくることがでました」。彼女を見ていると、意思にブレがなくいつも明るいので、落ち込むことも少ないと感じてしまう。しかし「めげそうになったときもありました。」と、彼女が笑顔で答えた瞬間、本当にたくさんの苦難を乗り越えてきたことが伝わってくる。
 そんな知香さんのモットーは「人間性よりもまずは技術を磨く」こと。「技術が高いから信頼されるんだって思う。選手から信頼される接し方をしなくちゃとか考えるよりも、まず自分の技術をあげる、それで信頼してもらう。だから、人間性よりもまずは技術面を考えるようにしました」。
 天真爛漫に振舞い、違うフィールドで活動する人まで憧れさせる魅力があるのは彼女、長谷川知香。



茶山 真美
社会学部 メディア社会学科 Overseas Family School

 "ちゃまみ"という愛称があり、誰よりも大きな声を張って部員たちをまとめる姿が印象的。選手たちからちょっかいを出されては「もうー!」っと元気に応え、その場に明るさをもたらしてくれる。表情が豊かで、話掛けやすく、海外への長期滞在経験もあるという。
 「大学1年生の歓迎会のときに当時3年生の先輩に勧誘されて、それ以外の他の勧誘は受けなかったので入りました(笑)」。もともとマネージャーをやるつもりはなく、海外の高校に通っていたことから、サークルなどでいっぱい遊べる大学生活にしようと思っていたという。
 「勝利に向かっていくときに、どうしても自我が出てしまうもの。やっぱり、一人ひとり隠された気持ちが強くて、いい意味でぶつかり合ってしまうことがあった」。いくら明るいとはいえ、失敗を重ねて落ち込むこともあったという。けれど、同期の励ましが大きな支えとなった。大好きなアメフト、大好きなこのチームを思って頑張ってくることができた。どんなに辛いことがあっても、その思いだけは簡単に崩れなかった。「その気持ちを曲げないように、自分が何を思って部活を頑張ってきたかっていうのを再確認することを心がけてきた」。
 働く姿を見てもわかるように、彼女のモットーは「誰よりも元気に」。「声が大きくて、元気なこと、それしか取り柄がないので、部活の中ではどのマネージャーよりもできるようにっていうのを心がけました。あと、どんなときも笑顔でいられるようにしてます」。
 心の底から笑う彼女に、私たち取材をしている側も元気とパワーをもらいました!



逸見 知世
社会学部 現代社会学科 立教女学院

 高校時代はハンドボール部に所属し、かなりスポーツマンな知世さん。体育会本部員でもあり、与えられた仕事はしっかりとやり遂げる。コツコツと仕事をこなす頑張り屋だ。そんな姿は後輩からも厚い信頼を置かれる。
 取材時には4年間を振り返り、涙を流して語ってくれた知世さん。小学校から女子校に通っていただけに、男の人が苦手であったという。トレーナーという仕事を始めた理由は、大学入学と共に、今まで選手という立場でしかチームのことを考えて来なかったことに気づいたから。客観的な目でスポーツチームを見られるようになりたいと志し、最初からトレーナー志望で入部した。
 「想像と違った・・・」想像を絶する男社会に馴染むことができず、基本であるテーピングをするにも「(顔の距離が)近っ!」と、男の人と同じ空間にいることでさえも苦手だったと話す。それでも苦手なことを避けずに、目標を決めて達成することができたのは、後輩のおかげだった。
 「信じてついてきてくれたことが嬉しくて感謝したい」。4年間ずっと考え続けてきた"チームを支える"ということ。そこから出てきた答えは「メリハリをつける」ことだった。選手の考えていることも理解しつつ、言うときはしっかりと言う。「キツく接してばかりだと信頼がもらえないが、だからと言って許してしまうのはよくない」。時に厳しく時に優しく。最初はトレーナーという仕事に逃げ出してしまいたくなるくらいだったが、4年間続けたことで壁を乗り越えるどころか、壁をぶち壊し新たな目標も達成できた。
 2年生と3年生の思い出が混ざるくらいがむしゃらに突っ走ってきたと、最後は笑顔に涙で答えてくれた。



麻田 花梨
文学部 フランス文学専修 立教女学院

 副務として、誰よりもチームを愛した。「楽な方を選択し、辛いことから逃げるような芯の曲がったことが嫌い」という言葉通り、努力の人だ。周りに感謝することを決して忘れず、ラッシャーズ愛に満ちあふれている花梨さん。
 「何を得たかって聞かれるとすごく難しいけど、いろいろな人に出会って、いろいろな経験をさせてもらったので、自分の糧になったなって思います」。インタビューを始めると彼女の口から"最高"、"幸せ"という言葉が幾度となくこぼれた。
 アメフト部の新歓で学年問わず仲の良い雰囲気に惹かれ入部を決めた。4年間の大学生活で何かに打ち込み、最後にはやり抜いたと満足できる環境に身を置きたかったという。
 しかしマネージャーという仕事を続ける中で、何度も辞めたいと思ったことはあったそう。「何かが上手くいかなくて、というよりも息詰まってしまったり、先が見えない努力の積み重ねから解放されたかったかな」。頑張った結果が目に見えないものほど辛いことはないだろう。「新歓時に出会ったあたたかい先輩やその先輩たちが誇らしげに語るチームを支えたい、守りたいって想いを貫かなきゃって思った」と切実に語る。「どんなに辛くても、あたたかい環境や人が周りにいてくれたから」と最後まで続けられたことに、ただただ感謝をしていた。
 「無償の愛を注ぎ続けること!」とモットーについて、可愛げに答える花梨さん。自分の今があるのは周りのおかげであり、引退後もずっとチームを応援し続けていく。
 愛という目に見えないモノほど、素敵なものはなかった。






 マネージャー・トレーナーという仕事をする限り、悩みは尽きない。選手は競技と向き合うのに比べ、マネージャー・トレーナーは人間と向き合う。それだけに精神的な痛みを負うことになる彼女たち。でもだからといって、関わりなくしては仕事が成り立たない。
 今回の特集を通して初めて彼女たちの勤める仕事について、深く話を聞くことができた。選手のために、勝利を目指すチームのために何ができるのかを考え、答えを出すのは簡単ではない。仕事の内容は直接目に見えないことばかりだ。選手たちは自分自身のため、試合に勝つため、筋トレをし、試合に出て活躍する。自分自身に返ってくることを感じやすいだろう。一方でマネージャーやトレーナーは、どんなに頑張っても縁の下の力持ちのポジションは変わらないことであり、成果を認めてもらえることは難しい。努力をしている人にとって、これは限りなく辛く、苦しいことに違いない。それでも辞めずに続けることができるのは、あたたかく支えてくれる家族、友達、先輩、同期、後輩、関係者、チームに関わるすべての人がいるからだ。人間だから悩み、人間だから人からの温かみに感動して、壁を乗り越えることができる。

 マネージャー、トレーナーの仕事を始めた理由は様々だ。しかし、この偶然が生み出した奇跡は、他の何にも比べることができないくらい貴重であり、誰しもが得ることのできないモノを彼女たちに贈った。「辞めたい」と思うことは多くの人が経験することだ。その思いを抱くことは決して恥ではない。逃げたくなったときに初めて、周りにいてくれる人の大切さに気づく。そして自分がどんな思いで入部したかを思い出し、また立ち上がることができる。
 「だから、今悩みにぶち当たっている後輩には、とにかく辞めることはしないで!って言いたいです。」
 最後まで愛と勇気をくれた彼女たちに、改めて感謝の気持ちを伝えたい。
 4年間、本当にお疲れ様でした。
(4月20日・大瀬楓)








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