第七回:「かけがえのない4年間・福岡竜太の場合(後編)」

取材:ボクシング部担当  記事:野口一郎


チーム戦4年間全勝で4年連続昇格を牽引
矢印を自分に向けろ
  最も親しい体育会の仲間としてラグビー部主将・福田(済4)を挙げた。昨秋、関東大学対抗戦Aグループ復帰を果たしたラグビー部を率いた福田。ともに東福岡高出身で、寮も一緒だった。様々な語らいの中で福岡(社4)は「矢印を自分に向けろ」という福田の考えに感銘を受け、自身の中に取り込んでいった。自分に厳しい目を向け、言い訳をせずに問題から逃げない姿勢を持ち続ける―。
  昨年4月のオープン戦で2年生4人がデビュー戦を戦い、3人が敗れた。言い訳はいくらでもできた。不慣れなデビュー戦では力を発揮するのは難しい。さらに、高校で全国トップクラスだった福岡からすればボクシングへの姿勢が甘い。後輩が良くなかったと考えれば楽だった。それでも、福岡は自身に「矢印」を向けた。「後輩を指導してきたのもおれら。そういう勝てる練習をしっかりさせてこなかったことも、これくらいで勝てるとか思わせてしまったのもおれら。後輩のせいじゃない!おれら4年生のせいだ!」また、昨春に教育実習に行った際に授業で寝てしまう生徒がいた時も同様だった。「最初は起きるよう指導した。でも、考えてみれば自分が眠らせている授業をしているということ。おもしろい教え方をしたり、自分が魅力的だなと思われれば生徒は寝ないはず」。
  さらに「授業ならば生徒自身も寝てしまう理由を考えるべき。つまらないと思っていても、実は昨夜遅くまでゲームしていたから眠いんだよな、とか。そういう風に互いに矢印を自分に向け合うってことが、すごく大事だと思う」と考えている。
  そんな福岡は困難に屈しない。就職活動がうまくいかなかったときには、原点に立ち返り履歴書から考え直した。すると、わずか3週間で内定を得た。「環境のせいにしたりとか、タイミングのせいにしたりとか。人間ってそうなりがち。だけど、よく考えたら絶対に自分がやってないからだろ?ってなる。辛いって言っているうちは本当に辛くない。どんな時でもよく考えれば絶対にやれることがある。何かできるはず」と常に前を向いている。

福岡流後輩育成論
  「後輩が大好き」。そこに至る過程では葛藤や苦労があった。
  3年夏に代替わりが行われる立大ボクシング部。当初は後輩への指摘は控えていた。自分はキャプテンではないから――。それでも、問題点は修正したい。成長できない組織にいるのは嫌だ。周りに相談し考えた末、思っていることをどんどん言うことにした。「指摘するハードルが低い。口うるさい」という福岡は細かい点も妥協せずに注意した。すると、苦しくなってしまった。「自己満足なのではないか。後輩も指摘した通り動いてはいない」と自問自答を繰り返した。
  出した答えは「後輩が勝って、喜んで、この部に入って良かったって思えば、自分がうれしい」というものだった。すると、気持ちが楽になった。「自分の考えだけで叱らなくなったし、フォローもできるようになった。自分のためではなく後輩のためだから。人間関係ができていないと指導はできない。関係が浅いと単に「はい!はい!」って返事だけで終わる。関係が深ければ、後輩はわからないことを聞くことができる。すると、一緒にボクシングを模索できる」。

聞き上手
  「人の話を聞くのが好き。ぼくはこう思う、けど、あなたはどう?って。で、話し合いで完璧に打ち負かされれば、なるほどねって。そういう関係が好き。話し合って、議論し合って。そこに人を受け入れる気持ちがあって、みたいな」。
  福岡と話していていつも感じていたのは否定が無いことだ。普通ならば考え方や感性の違いで「あれ?」となることでも「なるほど、そうとも言える」と受け止め、そこから考えを展開していく。常に貪欲に、真摯(しんし)に。他人の考えを否定する前に、まず自分が考える。本人は「自分には絶対的な力が無い。だから、人を巻き込む。一人でできるパワーがあるのならば、一人で行けるのだけど」と言うものの、なかなか実現できることではない。

心に刻み続けたナポレオン・ヒルの言葉
引退か、現役続行か
  一昨年の9月。福岡は大学での最大目標にしていた全日本アマチュアボクシング選手権大会出場を逃した。ハイレベルな東京都で準優勝。あと一歩まで迫ったが、届かなかった。引退か、現役続行か。当初は春のチーム戦で終わりにしようと思っていた。ところが、彼は現役続行を決意する。
  引退を考えていた頃、帰郷した際に小学校1年時の担任だった先生からこんな言葉をもらった。「うまくいったらもうけもの、うまくいかなくて当たり前。若い人はスマートに生き過ぎていないかい?」心が揺らいだ。さらに、井崎からは「決めたなら良いよ。でもな、後悔は絶対にしてはダメ!後悔は先にはできないから!」そんな中、母校・東福岡高に教育実習に出向き、ボクシング部の後輩がひたむきに全国を目指している姿を目にする。自身の原点を目の当たりにした。後輩に「がんばれ!やれよ!」と激励しているうちに「じゃあ、おれは何なの?」と思った。すると、悔しさがこみ上げてきた。「まだできる自分がやらないのか。それこそ、うまくいってもうけもん、うまくいかなくて当たり前!全日本を目指そう!」

最後の闘い
最後の決戦
  最後に向け、福岡は徹底的にボクシングと向き合った。地元に帰り国体メンバーとともにトレーニングをし、どんな天候状況でも走った。教育実習の際に発見したナポレオン・ヒルの熱い言葉を毎日読み続けた。最も厳しい実戦トレーニングであるスパーリングを、1日も欠かさず行った。調子は最高潮に達した。「今までで一番練習をした。東京都の優勝はおれだ!って、みなぎる自信があった。絶対勝てるって」
  やるべきことを全てやり、臨んだ最後の時――。福岡は初戦で散った。目標を達成することはできなかった…。それでも――。
  「完結した。自分の中では完全燃焼した。未練は無い。この終わりに持っていきたかったから、全力を尽くしたのかもしれない」と晴れ晴れとした表情で語る。試合を振り返るうちに「あー、あの試合を分析することも成長する上で大事」と更なる進化の方法としてとらえていることからも未練は感じられない。ボクシングを始めて10年。様々な経験を重ねた福岡は悔いなく、競技生活に幕を引いた。

これから
  大学卒業後は一般企業に就職する。これからの長い人生を次のように見据えている。「社会人になっても日々ベストを尽くしていきたい。楽しい時間を送りながら成長していきたい」。全身全霊でボクシングに打ち込んだ高校時代のように、深い思考を開花させた大学時代のように。
  福岡は今、社会に飛び出す。
(第七回・2012年2月16日)


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