笑顔のわけ


それぞれの笑顔

  立大の女子バレーボール部と言ったら「笑顔勝利」。そう私は思っている。昨年の記事でも「笑顔勝利」に触れているし、普段から部のことをチェックしている人なら耳にタコができるくらい聞いている言葉だろう。他にも取り上げるべきことは多くある。しかしやはり、2年半の取材で、一番考えたのはこの「笑顔勝利」についてだった。

  私がこの部の取材を始めてからずっと、なんであんなに笑顔なのだろうと疑問さえ抱いていた。勝って喜ぶ。得点を取って喜ぶ。ここまでは普通だ。それだけでなく、試合前や試合後、セットとセットの間までも笑顔が絶えない。私の疑問は、取材をすれば誰しも一度は考えたことがあるに違いないと思い、他の担当記者に聞くと、「強くあるために」、「笑顔が勝利につながることを確信している」、「徳納(コ2)がいるから」など様々だった。肝心の選手たちはというと「やることをきっちりやって、自分たちのやりたいバレーができたとき、自然と笑顔になっている」とよく口にしていたのが印象に残っている。それぞれの解釈や感じたことがあるだろう。ここでは、私が一番長く見てきた4年生たちの「笑顔」について書こうと思う。

  まず知っておいてほしい背景がある。部を取り巻く環境だ。関東リーグ2部に所属しながら、毎日練習を見てくれる監督がいない。監督が練習に来られるのは土日だけ。自分たちでメニューを考え、試合のメンバーを決めていた。体育館の使用も他の部との兼ね合いで決して多いとは言えない。「ずっとバレーのことだけを考える環境ではなかった」。そんなこともあり、4年生は、トレーニング前にミーティングをしてきた。2部では異色であった。

変化

  2011年の秋リーグ。4年生にとっては最後の舞台。部では、過去最高の2部5位という結果を残した。しかしコート上の4年生は、主将の鈴木雅(文4)だけだった。アスリート選抜が始まり、下級生にレベルの高い選手が多く入ってきたからだ。きっとベンチにいた4年生はうれしい反面、悔しさもあっただろう。私も取材を始めてから、鈴木雅や、五十嵐(済4)、丸山(文4)、白井(観4)が試合に出ている姿を見ていただけに、結果を残したことは嬉しかったが、少し寂しくもあった。不思議だったのは、試合に出ている姿を見ることが少なくなったにもかかわらず、私の中で4年生の印象は「笑顔」のままだったことだ。
最後のリーグが始まる前、副将の五十嵐は「試合は雅希に任せてるから。後輩が思い切りよくできるような環境を作る」と笑顔だった。他の4年生たちもいつものように。このとき、私が2年半で見てきた笑顔は少しずつ変わってきたと感じた。彼女たちが2、3年生の頃は、試合を笑顔で盛り上げていく、笑顔が勝利につながることを知っていたからこその笑顔だった。しかしこの最後の秋リーグは、それだけではなかった。4年生になってからよく耳に「後輩が楽しめるように」という言葉が象徴している。自分たちは試合には出られない。だが、他の役割がある。チームの一員として、自分の役割をこなしていくことで、それがチームに還元されることを知ったのだ。




7人7色

  「一番いろいろな考えを持った人が集まっているのが4年生」。鈴木雅、五十嵐、丸山が、同期を振り返ったときに出た言葉である。高校でも「ガツガツやっていた」3人。確かに2年次、3年次とコートに立っていたのはこの3人だ。とは言ってもこの3人も、強豪校の主力、ベンチなどそれぞれの境遇は違う。金子(コ4)、白井、高橋(コ4)、中間(文4)のように試合に出ていない側もそれぞれの道を歩んできた。お母さんのような存在の丸山が「見てないとどっか行っちゃうんじゃないかと思うくらい」と言う自由な7人。鈴木雅は「こんなに180度考えが違う人が集まってまとまんのかな」と思っていたという。

  練習前のミーティングを重ねる上で、どうしても試合に出ている側の意見が強く、出ていない側は、意見が言いにくいこともあった。しかし「試合に出ていない側の意見」もあることに気付かされたという。「勝つために、だけではないということを知った」(丸山)、「自分が当たり前だと思って、気付かないとこに気付いてくれる」(鈴木雅)。普段から後輩の細かな様子の変化に気付いたり、試合でも、ボトルの補給やモップがけをしたり、いわゆる雑務を4年生がやることもしばしば見られた。これも、チームのことを考えた時に、自分の役割を分かっているからだろう。ミーティングを重ね、お互いに知らなかった世界を知り、自分にできること、チームに必要なことを探してきたのだ。

  様々な見方があり、様々な意見があり、様々な人生を歩んできた人たちが集まる。食い違いや、お互いに理解できないこともある。それでもみんなで話し合い、思っていることをぶつけた。各自にできる役割を見つけ、それを全うし、部を支えてきた4年生。7人が納得する結論を導き出してきたからこそ、彼女たちは心から笑顔でいられたのだろう。




最後に

  私たちは、秋リーグの打ち上げに参加させていただいた。そこでは、引退する4年生が一人一人言葉を残した。下級生の涙が、4年生への気持ちを物語っていたように思う。また、それに対応する7人が笑顔だったのも印象的だ。最後まで彼女たちに「笑顔」は絶えなかった。新主将となった田中(観3)が、「4年生が作ったチームが理想」と話すほど信頼もされていた。ここまで魅力的な部を作り上げた4年生のみなさん、お疲れ様でした。
(渡邊智哉)





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