空手部

「優しい」者から「強い」者へ 〜空手部の主将交代〜


  2011年11月20日の全日本大学空手道選手権大会。4年生にとっての最後の大舞台で立大空手部は女子は初戦敗退、男子は2回戦敗退に終わった。
  「もっとこうすれば良かった、とか思い浮かぶ。自分の力が及ばなかった…」と悔し涙を流した前主将・猿山(文4)。
  「下が個性豊かなおれらについて来られるか不安はあるけど、ついて来いや!!」と強気の新主将・松本(済3)。
  正反対なキャラクターの立大空手部新旧主将の姿があった――。

  創部76年目で史上初となる女子での主将を務めあげた猿山は「優しさ」でチームを引っ張ってきた。
  高校時代に全国ベスト8を経験したエリートだが、彼女からおごりは一切感じられなかった。試合で完勝しても「後輩のおかげ。自分は課題が…。」ある日のインタビューでは「あー。何言っているのかわからない。本当にごめんなさい…。」私たちの取材にいつも誠実かつ的確に応えているのに。謙虚すぎるとも思えるような姿勢は、決して私たちだけに向けられたものではなかった。
  「1年生でも意見を言わせたい。」彼女が主将に就任する上での決意は実行された。「本当に優しい人。後輩の意見をよく聞いてくれた。まじめだから安心して部活に取り組めた。また、猿山先輩は一人一人を大事にしていた。自分には無かった。見習わないといけない。」(松本)強い力でチームをまとめ上げた印象的な言葉を残すのではなく、部員全員をしっかり見て声をかけ後押しする形でのキャプテンシーを発揮してきた。その結果は形となって現れる。下級生は「空手部は楽しい。良い雰囲気。良い先輩のおかげで楽しく競技に取り組める」といつも語っていた。そんな部の通気性の良さを猿山が作り上げたことは明らかだ。「4年生全員に助けられた」と謙虚な本人は自らの口では語らないが、女子が創部史上初となる東日本3位を成し遂げたのは猿山の「優しさ」が導いた気がしてならない。
  次世代に向け「大学生活はあっという間。人生最後の部活。全力でやってほしい」とメッセージを送った猿山。最後の試合では涙を流していたが「今になって考えれば、すごく良い経験ができた。すごく貴重な体験だった。4年間やってすごく良かった」と満足げに自身の4年間を振り返った。次を託す松本には「松本君はすごく成長した。まわりを見られるようになった。後輩は必ずついていく。がんばってほしい」とエールを送る。常に真摯(しんし)にチームと向き合ってきた彼女の魂は必ずや立大空手部に受け継がれるはずだ。

  高校時代はインターハイで全国制覇。頂点を極めた松本は「強さ」を前面に押し出してきた。
  チーム戦では強豪相手に勝利しても「おれは勝って当たり前」と自分の試合については軽く触れるのみで、チームについて語ろうとする。エースとしての高い意識を持つ男の姿がある。
  彼のチームへの思いは部に好影響を与えてきた。入学早々当時の上級生を連携し、練習メニューを一新。上級生となった今は部員の就活状況を改善しようと競技にとどまらない部の進化を実現している。下級生の頃からチームを引っ張る存在だったが、先輩を軽んじていたわけではない。猿山を「破天荒な自分らをしっかり締めていただいた。だから、しっかり付いてついていけた」と尊敬していた。
  さらに「みんなに色々言っている以上責任を取らないといけない。自分が見せないといけない。」強い自覚は部活のみならず生活面にも反映されている。「頭は良くないのかもしれないけど、しっかりやれば単位は取れる。」大学生の本分である授業にも真剣に取り組み、3年生にして卒業に必要な単位を取り終えた。その姿を下級生も見習い、順調に単位を修得している。高い競技力の中での文武両道を実現できる土壌を作り上げた。
  さらに「大学生は大人。高校時代結果だけを求められて、実際結果を残してきた自分からすると、競技だけ、っていうのはもったいない。大学は「大きく学ぶ」って書くように色々なことが学べる。大学に入ってから幅広い価値観に刺激された」とも語る。深い思考と強い自覚を持ち、日々の生活に臨んでいる。
  そんな松本は「エースとして誰にも負けるわけにはいかない」と常に圧巻の試合内容でチームを勝利に導く「強さ」を見せつけてきた。主将就任にあたり「大学の主将は求められる部分が多くなる。単に強いだけとか、ムードメイカーなだけでは足りない。リーダーシップとか、学力も求められる。でも、まずは結果を出す!」と意気込んでいる。

  キャラクターや方法の違いはあってもチームへの熱い気持ちに変わりはない。猿山から松本へ。互いに信頼しあう者同士の主将交代。最高の形でバトンは受け継がれた。
(2月15日・野口一郎)





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