エースのラストイヤー
柔道部・出口賢斗


  勝ってほしい場面で勝つ。エースと呼ばれる者にこの要素は欠かせない。大一番では無類の強さを発揮し、先鋒(せんぽう)としてチームの火付け役を担う。それが出口(文3)だ。

  「出口みたいな選手がうち(立大)に来たこと自体が奇跡」(稲田監督)。監督が思わずこんな言葉を漏らすのも無理はない。世界の舞台で活躍する田知本愛(綜合警備保障)、遥(東海大)姉妹と同じ名門の小杉高校(富山)出身。彼は個人、団体ともにインターハイに出場するなど圧倒的な実績を誇る実力者なのだ。

  出口が柔道を始めたのは小学4年生の時。柔道界では名の知れた柔道一家だったが、強制されることなく自らの意志で競技を始めた。そんな彼の強さの原点は輝かしい成績を残した高校時代ではなく中学時代にある。成績は奮わなかったというが、「とにかく練習が厳しかった。試合に負けたら腕立て500回。その他にも毎日腹筋、腕立て、スクワットを100回こなしていた」と厳しいウエートトレーニングで体を強化。飛躍のための下地を作っていた。そして高校で一気に才能が開花。インターハイに出場するなど、大舞台で多くの経験を積んだ。彼が大学に入ってからも結果を残し続けられるのはフィジカル、メンタル両面を着実に鍛えてきた成果が実を結んでいるからなのだろう。
  力強いプレースタイルに豪快な言動を見ていると初めは誰しもが出口に対して「豪快奔放」なイメージを持つ。だが彼と付き合えば付き合うほど見た目からは想像のできない姿が垣間見える。


  本人が「柔道向きではない」と話すほど試合前は周囲が思っている以上に緊張しており、繊細な一面をのぞかせる。あるいは多くの後輩とこまめにコミュニケーションをとり、親身になって後輩の相談に乗る、気の優しい面もある。強いけど周囲への気づかいも忘れない。まさに「剛と柔」の両面を持つ魅力的なアスリートだ。
  そんな出口も今年が競技者としては集大成の一年となる。これまでチームの主力を担っていた4年生が引退。昨年より出口の負担が増えることが予想される。出口とともに二枚看板として活躍していた前主将の勝又(済4)も「エースは賢斗(出口)だから賢斗が負けたらチームが負ける」とエースにかける期待は大きい。これに対し出口は「負担は増えるかもしれないが気負いはしない。主将を支えつつ自由に自分の柔道をする」とエースとしての自覚を感じさせる発言で不安を一掃した。
  出口は4年連続でベスト4の壁に阻まれている二部大会で「優勝。最低でもベスト4に入って来年5月の東京学生の指名権を獲得すること」を迷いなく今年の目標に掲げた。主力が抜けたものの実力者は揃っているだけに、頼もしさを増したエースの出口、主将の結城(文3)を筆頭にチームが一枚岩となって悲願の優勝を成し遂げてほしい。

  私自身はこれで柔道部を取材することはない。今年は一人のファンとして会場に足を運びたいと思う。歓喜に沸く彼らが見られることを信じて――。

(2月16日・太田真敬)





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