剣道部

個人として、チームとして、見えた「成長」


  昨年度、3年連続となる団体での全日本学生大会出場をかけて挑んだ関東大会。誰が予想しただろうか、立大は初戦(シードのため2回戦)で姿を消したのである。
  課題は「精神力」と「チームワーク」。部員全員が一丸となって取り組み、足りないものは何かを模索しながら稽古をする日々が続いた。
  そして迎えた2013年度。立大は生まれ変わった。試合では各選手が自分の役割を意識し、存分に力を発揮。全日本学生への出場を決めた。
  リベンジの立役者となったのは、昨年度の悔しさを身を持って感じていた4年生。ここでは 主将・谷口 (文4)、個人で関東学生3位の実力を持つ 齋藤 (コ4)、大将を務めた 鬼倉 (社4)の3人の言葉を借りながら、この1年の道のりと試合や剣道に対する思いに迫る。


○主将・谷口賢人(文4)【中堅】
  昨年の関東学生敗退を、最も悔しく思っていたのはこの男だろう。大将として出場し、2−2の同点で谷口に回ってきた。絶対に負けられない場面の中、相面を決められて敗退を喫してしまう。彼は誰よりも責任を感じていた。
  「この1年間はずっとプレッシャーとの戦いでした。去年私が3年生ながら大将をやらせて頂いて、私が負けた。それで私が主将になって、今年はこの代で全日本(学生)に絶対行くっていう気持ちが強かったので、そういう気持ちがやはりプレッシャーになって自分の中にあったと思います」
  そして今年の関東大会。0−3で中堅の谷口の出番を迎えた。昨年と同様の状況。負けは許されない――。だがその中で彼は見事に2本を奪って勝利を収め、後ろへと望みをつないだ。重圧を受け止め、己との戦いに勝った瞬間だった。

  谷口はアスリート選抜で立大にやってきた実力者。1年次から試合に出場し、すぐにチームの中核を担う存在となった。すると、谷口の姿に刺激を受けた選手たちも徐々に変化を見せる。「全国でトップに立ちたい」。そんな意見が増え始めた。やがて谷口は主将としてチームを引っ張る役割を果たし、学生最高峰の戦いへ向けて部の結束も徐々に高まっていく。
  最初はまとまりがあんまり無くて、まとめるのに苦労したんですけど、自分自身が先だって行動するとか、全員の模範となるように個人的に練習量を増やしたりとか。自分が行動を起こすことによって発言の重みも増して、しっかりと現段階まで良いチームワークでできたのではないかと思います」
  その過程で、己の剣道も変化した。
  「自分の勝ちでチームに勝利を導きたいというのを1年生のころからずっと強く感じていまして、(1本)取りに行く剣道を心がけていました。高校では周りがトップアスリートばかりでその中の一人だったんですけど、勝たなくてはならないという存在ではなかった。逆に立教に入ったことで自分が勝って勝利へ導くっていう剣道に、この4年間でなれたんじゃないのかなっていうのは思います。主将を最後に務めて、自分自身を見つめ直したりだとか、剣道以外にも人間性っていう面でも高められたのではないかと思っています」

  真面目に、ひたむきに稽古を重ね、ついにリベンジを果たした谷口。全日本では2回戦で敗退し、「非常に悔しい気持ちでいっぱい」と言うが、彼が立大剣道部に残した功績は計り知れない。最後に、新主将・伊東(文3)をはじめとする後輩たちへの思いを語った。
  「まだ勝ちに慣れていない。(今年は)勝ちへの執念っていうのがもう一歩二歩足りなかった。主将はこうしなくてはいけないという縛りは無いので、自分の芯をしっかり持っていただいて、良いチームワークで来年全日本に行って、今日よりいい結果を出して欲しいと思います」


○齋藤勝将(コ4)【五将】
  今年度の齋藤の活躍はすさまじかった。5月の関東学生選手権では強敵を次々と破り、関東3位という快挙を成し遂げた。そして他大学の厳しいマークの中、最後の団体戦へと挑む。大将としての出場も噂されたが、あえて三番手となる五将として起用された。ヤマを外して使ってもらっている。その期待にこたえるべく彼は奮闘した。
  「去年シード権を落としてしまって、今日は厳しい戦いが予想されていたので、本当に周りに助けられました。チーム全体としては前できちんとつなぐ試合をして、リードしてから後ろに回すっていうことを意識して、もし負けてしまったら後ろでしっかり返すということです。他の大学と比べてうちはスター選手がいないので、繋ぐ試合を意識しました」
  齋藤も1年生の頃から試合に出るほどの実力の持ち主。一時はレギュラー落ちというスランプも味わった。しかし、後輩たちの手本となるべく、日々の努力を怠ることはなかった。
  「自分はもともと華のある剣道ではないので、しっかり地道に努力していくしかない。最上級生になって、自分のこと以外にやらなければいけないこともあって、そこは大変でした。ただ、4年生で実績も身につけて、言葉だけではなくて試合の結果だったり取り組みの姿勢だったりで、後輩を引っ張っていけたらなと思ってやってきました」

  そして、4年間をこう振り返った。
  「いい時も悪い時もあったと思うのですが、最終的に今年自分たちの代で全日本出場を決められて、後輩の力を借りながらやってこれて、欲を言えば結果を残して終わりたかったですけれど、決してやってきたことは無駄じゃないと思いますし、これからの剣道人生に活かしていきたいと思います」
  様々な思いを味わってきた4年間。だがそれはまだ序章に過ぎない。剣道は年を重ねても続けることができ、一生高みを目指すことができる武道。齋藤はこれから先の「剣道人生」を見据え、新天地へと足を向けた。




○鬼倉利尚(社4)【大将】
  この男ほど「大将を気にしない男」はいない。ここ一番で勝負を決めなくてはならない役割を持つ「大将」だが、プレッシャーに臆すことのない鬼倉をここで起用したのはまさに「適材適所」と言えよう。関東大会では抜群の安定感を見せ、チームの勝利に貢献した。そんな鬼倉の中にも昨年のわだかまりがあった。
  「まずは全日本に出場するっていうこと。そこから始めようと思っていたので。強い気持ちを持って、目標を持ってしっかり取り組んでいこうっていう考えでやってきました。夏合宿などで個人の力だけでなくチームの団結力っていうのも高まったのかなって思います。(同点で回ってきた)東大戦で(勝ちを)取ってチームを勝利に導けたことはすごく良かったと自分の中では思っています。やっぱり『前がダメでも後ろで取り返す』。そういったチームになれたっていうのは大きいので」

  勢いそのままで全日本へと挑んだ。表彰台を目標に奮闘を見せたものの、悔しくも2回戦で敗退。賞状を手にすることはできなかった。
  「今日は集大成。最後の最後でいい試合をして終わりたいなって思っていたんですけど…結果を見れば今日調子も悪くてダメダメで…、前のみんなに助けられてばっかりで、2試合目も大将まで繋いでもらったんですけれど、自分もかたじけない。でも自分のことを棚に置くと、自分たちがいなくなってからも前のみんながしっかりしていると思うので、次の代にしっかりとつながるのかなと思います」
  学年が上がるにつれて「試合の重さ」を感じてきた。それでも1日1日しっかりと稽古を重ね、自らを磨き続ける。それはとても難しいことだ。
  「多分どんなにやっても優勝しない限りはもっとやれば良かったなとか、すごい後悔があると思うんですよ。今日こういう結果になって悔しい思いはあるんですけど、もう終わってしまったので今は4年間頑張ってきたな―、と(笑)。自分が今まで背中で見せてきたものを後輩たちが受け継いでいるかはわからないですけど、後は頑張ってほしいかな」
  努力を怠らなかった鬼倉の姿勢は立大剣道部の、いや剣道家としての模範だ。後輩たちも彼の姿勢を見習い、さらに前進していくだろう。

  今後も強豪の社会人チームで竹刀を振り続けるという鬼倉。最後に彼にとって「剣道」とは何か、聞いてみた。すると「いやー、ちょっとわかんないっす」と笑いながらも、 まだまだ22年間じゃわからないものなので、これからまた探していきたいと思います」 愚問であった。剣道に答えは無い。その答えを探すために今日も鍛錬に励むのだ。


  ここでは3人の4年生しか掲載できなかったが、大会で活躍した選手や、裏で部を支えてきた選手など、立大剣道部は「人」が揃っている。真面目な選手が多いのはもちろん、インタビューの最中どこからともなく他の部員たちが集まってきて、代わりに質問に答えたり、歌いだしたりと、ひょうきんな人が多い部でもあった。それが立大の良いところであり、チームワークの証だろう。
  立大剣道部の今後のさらなる繁栄を祈っています。
(2月28日・小野錬)



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