児玉佳祐-高速水着の呪縛を打ち破った男-



  「おっ、またニヤニヤしてんなぁ」。取材に行くと、真っ先に話しかけてくれ、笑ってくれる男がいる。それが児玉佳祐(済4)だ。学業の話もさることながら、私生活の話まで気軽に話す。オフの日は、食事の席を共にしたこともある。彼の周りには常に、穏やかな、人を自然と笑顔にするような空気がある。立大水泳部が誇る超高速のスプリンター。その言葉は普段の振る舞いからは全く想像できない。

  キャップを被り、ジャージを脱げば、緊張感をまとったアスリートになる。 その空気感と、スタート台を前にしたときの気合い十分といった表情は観客に「何かやってくれそう」といった期待を抱かせる。 両手を回し、ドルフィンを蹴り続けるバタフライ。そのダイナミックで人の目を惹く泳ぎは彼の性格に絶妙に似合っている。 普段の振る舞いからは想像できないアスリートの一面には少しだけ、彼の性格が潜んでいるのかもしれない。 それが、彼の大きな魅力の一つだ。

  しかし、彼は不遇の時代を迎える。
  高校時代に高速水着が流行した。 「水を蹴っている感覚がまるで違う。軽いというか、普通の水着とは比べ物にならないくらい進む。」その時、はじき出した。 23秒81。全盛期のタイムだ。その後、高速水着は禁止され、児玉はベストを更新出来なくなる。さらに、拍車をかけた出来事があった。



  「時間が止まっていた」。大学2年次、足首を故障したときから、水泳に対して正面で向き合えなかった時間があった。 実際にいまでも足首が痛むこともあるという。 そのせいもあり、全盛期のタイムどころか24秒の壁を越えることが出来なくなる。 24秒を切ることは、同時に自身の立教新記録を更新することを意味している。 「24秒の大台を切ることは自分にとって非常に重要。だからこそ、もう一度24秒を切りたい。」そう思っていた。 しかし、それどころか、昨年度の関東インカレでは中村(社2)にレギュラーの座を奪われた。「俺が泳ぎたかった」。 悔しさを顔ににじませる。それでも児玉は諦めること無く、練習を積み重ねた。

  そして迎えた今年4月下旬の六大戦。50mバタフライで、Japan Openの出場可能タイムにあと少しと迫り、Japan Openへの出場をかけたチャレンジレースへ出場することになる。
東京六大学の選手たちが、大学の垣根を越えて全力で応援するチャレンジレースは、児玉の集中力をさらに高めた。「短距離は力みがちだから、肩の力を抜いて泳ごう。」そう考えながらスタート台に立つ。スタート音が鳴り響くと、勢い良く飛び込み、水を蹴り続ける。周りからの声援を背に受けゴールをタッチ。その瞬間会場に歓声が響き渡る。高速水着に頼らずとも、自らの実力を証明した。自己ベストにはわずかに及ばなかったが、高速水着の呪縛から確かに解放された瞬間だった。23秒97。24秒の壁を越えた。

(5月9日 川村亮太)


◆ジャパンオープン 2013(50m)◆
5月24日〜5月26日
さがみはらグリーンプールにて



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