2015年8月23日。全日本の頂点に立大の選手が立っていた。創部67年、13年ぶり2度目の「学生日本一」。去年はあと一歩、届かなかった。そして「今年は優勝するだろう」と周囲からの並々ならないプレッシャーがあった。その重圧の中、無我夢中で闘い続け見事栄冠をつかみ取ってみせた。ずっと待ち望んでいた瞬間。その時、彼らは何を感じたのだろうか。





「なんか夢のよう」  勝又晋一(法3)

  去年、別種目の舵手付きペアで出場し準優勝。2年生ながら、全種目の中で最もパワーが必要とされる舵手付きの船で躍動した。さらなる活躍が期待された今年のインカレ。勝又は去年同じく準優勝を果たした舵手なしフォアのメンバーに抜擢された。
   「やっぱり3人のレベルが高くて最初はついていけなくて。選ばれたのは自分で良かったのかな、他の人が乗ったほうがいいんじゃないかって思う時期もあった」。 それでもがむしゃらに練習をし続けた。やはり中心となったのは去年負けた部分の修正。冬場には本格的に体力を作り直した。自分の役割は「あほみたいに力を出すこと」。無理に上手く漕ごうとしない。先頭で船を漕ぐクルーリーダー・菱木を体力面でいかに支えるか。それだけを考えて漕いだ。
  決勝のラスト500mでは「本当にぶっ潰れてもいい」と最大限の力を出し切り、"エンジン"としての役目を果たした。「去年以上の成績を残さないといけないと思っている中でうまくいかないこともあったし、去年のほうがいいんじゃないかと思うこともあったんですけど、ゴールした瞬間そういう気持ちが全部どうでもよくなって、なんか夢のようです」。これまで立大の主力選手として躍動し続けてきた彼も、来年はいよいよ最後のインカレを迎える。最高学年として、これからはさらにインカレ優勝にこだわって練習を重ねていく。「また来年同じ舞台に戻ってこれるようにしっかり一年間努力して、またこの喜びを味わえるように」。




「本当にホッとした」  安藤大智(コ3)

  「敗復まで一回も勝てなくて準決勝も日大は流している感じだったので、不安と緊張が今までになくすごかった中で優勝できて本当にホッとしています。」 去年、初めて立った決勝の舞台。決勝というものがなにもわからない状態の中、"優勝"を手探りするような感覚だった。しかし今年1年間は、「あと一つ」と目標がハッキリと見えた中で常に練習をし続けてきた。「誰よりも練習してきた自信はあった」。
  本番はいつも、1年間繰り返しやってきたことを出し切るのみだった。「スタートから全力を出してリードを奪い、あとは体力と気力でどこまで粘れるか」というレースプラン。最終日の決勝もそれをやろうと、全員で1500mあたりまで潰れるくらいに力を出し切った。普段行っていた1500mを3本、4本続けて漕ぐというハードな練習がここに来て自信となっていた。「とにかく今までやってきたことを信じてやったら、パンっと出れた」。立大はスタートからリードを守り切った。それは自信を持って全力で漕ぎ続けたから。
  しかし、彼がゴールまでトップで走り続けられたのは「自信」だけではない。 「ラスト500mは本当に声援がすごく聞こえてきて体がスッと軽くなったので不思議な感じがしましたね。それは応援してくれた人たちのおかげですね」。今までは、よくアスリート選手が口にする「感謝」という言葉をなんとなく軽く捉えてしまっていたという彼。しかし、今回のインカレで支えてくれている周りの人の大切さを痛感した。「感謝」の気持ちを胸に彼はまたあと一年、ひたすらにオールを引き、進化を遂げていく。




「1流選手としてのスタート地点」  中田悠介(コ3)

   同期の勝又、安藤が舵手付きフォアで優勝した昨年の全日本新人。以前から抱えていた腰のけがが悪化し出場することができなかった中田は言う。「ようやく全日本級で1位の表彰台に上がれたなって感じ。やっとここに来れた。ある意味スタート地点ですかね、一流選手としての」。
  コールを掛けクルー全体の調子を整えるバウとして、他の3人を支えた中田。最も技術が必要とされるポジションを担う彼は、いかにクルー全員が漕ぎやすい環境を作るかを常に考えていた。「自分が主役っていうよりは下からしっかり土台を作る。クルーをまとめるのは菱木さんに任せて、いかに身長の高い、パワーのある真ん中2人をうまく漕がせられるかが、勝ちに繋がると思った」。
  どんな状態でも強い心を持ってボートと向き合ってきた。自分に言い訳をせず、全力で行動を起こし続けてきた。 彼のそのスタイルは去年、船を同じくしてインカレ準優勝を果たした樋口前主将の影響を受けている。「樋口さんを見ていて、男っていうのは辛いもの、背負うものを全部背負い込んで突っ走っていくのが一番人間としてかっこよく見えるかなと。両親とかにもそういう姿を見せたいなって気持ちがあって、一つ人間として成長できたかなと思います」。来年度から新主将としてチームを引っ張っていく中田。彼のボートに対する姿勢と強い心は立大ボート部を更なる高みへと導くことだろう。




「役目果たした」  菱木大輔(理4)

  舵手なしフォアのクルーリーダーであり、主将も務めた菱木。「一人のボート選手として勝ちにこだわること。それが仕事。クルーリーダーとしてはクルーを勝たせる。主将としてはどうしたら勝てるのかをみんなに示す。インカレではその役割をしっかり果たせた」。3年生3人をまとめる役割だが、学年は気にしない。それは「一人だけめちゃくちゃ漕いでもたかが知れている」から。全員が全力を出せるよう、全員で優勝を勝ち取れるよう、ただひたすらに練習をし続けた。
  言うまでもなく他の3人は菱木に絶大な尊敬の念を抱いている。「練習第一な人。誰よりもストイックだからこそ信じてついていけた」(安藤)。「主将でありながら技術も持っていて、体力面でもすごい能力を持っている。自分もそこに追いついて追い越したい」(中田)。そんな菱木が主将だったからこそ、インカレ優勝を成し遂げることができた。「主将になった時から日本一になるぞってずっと言われていて、必死について行って本当に日本一にしてくれたので本当に感謝しています」(勝又)。
  インカレの3週間後に行われた全日本選手権にて引退となった。社会人も含む大舞台での優勝は果たせなかったが、菱木が残した功績は立大ボート部史に深く刻まれた。そして菱木が抱く後輩たちへの期待は大きい。「日大や明大のように、ほとんどのクルーが決勝に残るような部に」。男子舵手なしフォアだけではない。全日本選手権で女子エイトが3位入賞を果たすなど、今まさに勢いに乗っている。世代交代をしてもなお、立大ボート部は走り続ける。「絶対王者」と呼ばれる日まで。


(10月6日・編集=岡村章秀)
(取材:赤津亮太、佐々倉杏佳、平野美裕、吉川由梨、岡村章秀、新井智大、板橋文惠、谷崎颯飛)



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