どんなにフットボールが好きでも、彼はフィールドに立つことができない。どんなにRushersの勝利のためを想っても、彼はフィールドの外から選手を信じることしかできない。
   「大学に入るときは、相談した誰からも他競技を勧められた。実際に、他競技で活躍する大学生活と最後まで悩んでいた」。
   大学の部活動・サークル活動の選択は4年間の全てを注ぎ込む大事な選択である。一体、彼ほど苦しい決断を迫られた男がいたであろうか。他のスポーツには目もくれず、大学でもやると決めていたスポーツが、出来ない。本特集は、そんなどん底を味わった男の話である。



  急性硬膜下血腫(きゅうせいこうまくかけっしゅ)。彼が医者から宣告された病名であり、彼の競技生活をあっけなく終わらせる合図でもあった。コンタクトスポーツであるアメリカンフットボールでの脳の病気。選手生命どころか生死が危ぶまれるため、発症したその日から、ヘルメットを被ることが禁じられる。
  話はさかのぼること、昨年の夏。立教新座高校に在籍していた彼は、4兄弟全員がRushersに所属する、まさに「Rushers一家」であった。中学まではテニスに没頭していた彼も、あたかも入部が必須であるかのように、高校1年からアメリカンフットボールの虜となっていた。2人の兄に追いつくため、必死で努力すること2年。1日も無駄にすることなく、夢中になって競技に打ち込んでいた。チームの中心となる日は、確かにそこまで来ていた。
  「その日は試合中も頭が痛くて、最初は脳震とうだと思った。だから、試合途中だったが控えの選手と交代してもらった。それでも頭痛は治らなかった。徐々に吐き気も増していた。そんな中での翌日の休み時間。トイレで倒れて、起きたら病院のベッドでした」。
  あまりにもあっけないフィールドとの別れであったことであろう。医者から病状を説明され、彼は夜な夜な枕を濡らし続けたという。
  それでも、彼はチームのために全力を尽くした。ヘルメットは被ることがないため、一際目立ってしまう手術で丸刈りになった頭。たとえフィールドでプレーできなくても、選手を信じ続ける彼のキラキラと輝く眼差し。そんな彼の行動すべてが、他の部員の心に火をつけたのである。
  「(高校)日本一になるために欠かせない存在だったので本当に悔しかった。同期全員が涙を流したと思います。少なくとも彼は、生死をかえりみずにプレーしていた。その姿勢は間違いなく日本一を目指していました。そんな姿を見て、自分たちが中途半端なプレーはできない、と彼の分までという思いを持ってプレーしました」。彼らの代の主将を務めていた田邉(#67LB/観1)は当時をこう振り返った。同じく当時の副将・荒竹(#30RB/法1)、岡(#64DL/営1)も「彼を含め、全員で勝つことを目指した」と口を揃えた。同期の選手がそれぞれのヘルメットにつけた、彼の選手としての背番号「91」。それは、グラウンドで共に「91」が戦っている、とそれぞれの胸にしっかりと刻むことを意味していた。

  今季、全ての試合に出場し、1年生ながら既にチームの核である荒竹のヘルメットには今も「91」が光る。田邉、岡も公式戦デビューを果たし、チームの勝利のため日々練習に励んでいる。もちろん、同期の他の選手たちも、彼の想いを背負ってプレーし続けている。「日本一をとれなかった後悔は、彼も含めて皆が持っている。役割は違うけど、また同じ目標を目指して互いに刺激しあいながら頑張りたい」。(岡)

  そう、現在も彼はRushersのために戦っている。彼の大学でのポジションはAS。アナライジングスタッフといい、チームの勝利のため、敵チームの分析や自チームの戦略を練る、選手とは違う新たな形で身を粉にしている。ASはオフェンス、ディフェンス、スペシャルチームの3つに分かれ、彼はスペシャルチームを担当している。試合で随所に鍵となるプレーの担当であり、戦略を練り、出場する選手の決定権を担うなど、このプレーの全責任を負う。選手全員の特徴を把握することはもちろん、試合の状況、雰囲気に合わせて出場させる選手を変える、そんな細心の注意力、決断力が求められるポジションである。そのやりがいについて、「キックプレーは試合の流れを変えられるのが魅力です。自分がリーダーとなって仕切って、自分の理想通りのプレーを選手がする。そんな光景を見ることができるのが楽しい」と彼は語った。そして、彼に一番達成感を覚えたプレーを聞くと、真っ先にRushersが初勝利を挙げた試合でのプレーをあげ、「やはりキックプレーが得点につながり、結果として勝利に貢献することができた。本当に嬉しかった」と続けた。彼にとってグラウンドの中では決して経験することのできない、新たなアメリカンフットボールの楽しみ方であっただろう。

  最後に、改めてこの部活に入って良かったと感じているかを確認してみた。 「怪我があったから今があるとは素直には思えない。怪我はしないほうが良いし、アメリカンフットボールはプレーするのが一番楽しい。今の立場は、新たなアメリカンフットボールの視点を与えてくれて自分を成長させてくれた。だから自分がいることで、選手の皆にプレーを楽しんでもらいたい、と思った。日頃の練習から楽しんでもらえればな、と思う。Rushersはこれから絶対に強くなる。強くなって、新しくアメリカンフットボールに興味を持った人がたくさんRushersに入部してもらいたい。本当にそれを願っています」。


  彼の名は、岩月 朗(いわつき あきら)。観光学部観光学科に所属する、ごく普通の大学一年生だ。彼も、選手と同じようにRushersの勝利を願い、Rushersの勝利のため全力を尽くす。そしてそれはまた、Rushersのファンとて同じこと。彼らの勝利を願い、そのプレーに一喜一憂する。それらは全て、Rushersファミリーで勝利を勝ち取るためである。今日、そして岩月を知った今この瞬間、あなたの心にも消えることのない「91」が刻まれた。また一つ、チームが強くなった瞬間であろう。アメリカンフットボールを知る、Rushersを知る、全ての人の力によって。これからも、全員で勝利を掴み取る。
(11月17日 取材/編集 川村健裕)

編集後記

  10月29日。RushersがTOP8で挙げた初勝利。歓喜の瞬間を肌で感じ、フィールドの選手の喜ぶ姿はRushersファンの表情も緩ませていました。私がこの部に入って約半年。アメリカンフットボールほど男の意地が垣間見えるスポーツはないと思います。本特集を読んでいただき、Rushersに興味を持たれた皆さん。一度、競技場に足を運んでみてください。そこでの声援が選手の力となり、選手の一生懸命なプレーがあなたをRushersの虜にさせます。フィールドで輝く選手の姿。一度見てみることを、強く勧めます。


◆リーグ最終戦予告◆
対日体大 11月26日 13:30K.O. @アミノバイタルフィールド(京王飛田給駅下車)


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