立大男子ラクロス部には今、急激な成長曲線を描く1人の若武者がいる。MF・桑原優多(社2=立教新座)。競技歴わずか1年にして、彼はすでに攻撃の要を担う。先日の全国プレシーズントーナメントでは6試合8得点5アシストの活躍でMVPに輝き、チームを4年ぶりの優勝へと導いた。1部昇格への機運が高まるSAINTS、その象徴的な存在となっているのが、この男だ。


抜群の連係を見せる桑原(左)と伊藤【右】
変幻自在の攻撃パターン
  彼の最大の魅力は、攻撃の引き出しの多さだ。上島ヘッドコーチ(2009年卒)は「彼はオールラウンダー。今大会で評価されたのは得点だけではなく試合展開、アシストですね」と評価する。的確な判断で味方の得点をアシストしたかと思えば、自ら敵陣を切り裂きショットを叩き込む。攻めの起点であり、ポイントゲッター。自分自身と周りの「個」を最大限に活かし、攻撃を加速させる。  
  同期のAT・伊藤(理2)との連携はまさに阿吽の呼吸だ。プレシーズン決勝・早大戦では桑原がふわりと出したパスにゴール裏にいた伊藤が反応、鮮やかに得点を決めた。
  「光祐(伊藤)とはすべてが合う。あの日一番のガッツポーズはそのアシストの時でした。1on1をしかける時は光祐を探して、あいつに最後のパスを繋げるために攻撃を組み立てたりします。空いたスペースに向かってパスを出すとそこにちょうど飛び出してくれます。自分の思ったように攻撃が決まった時がラクロスをやっていて一番楽しいですね」。桑原は楽しそうにそう語る。

チームで一人関東ユースに選出される桑原
関東ユースとの出会い
  「人生が一気に変わった」。  
  飛躍のきっかけは、関東ユースとの出会いだ。1月のオフ期間のこと。ウィンターステージ(関東新人戦)での活躍が認められ、桑原はチームで唯一ユースに選出された。「努力が目に見える形で報われたので、うれしかった。そして本当に自信になりました。その一方で初練習への緊張がものすごかったです」と喜びと不安が入り混じった当時を振り返る。

  良い意味で自信家な性格の桑原。その自信は日々のたゆまぬ努力に裏打ちされるものだ。ユースの初練習に向けて、年明けはオフ返上で毎日グラウンドに通い詰めた。緊張、不安を振り払うかのようにひたすら練習、練習――。後期試験が控えていても、グラウンドに一人しかいなくても、空いた時間を見つけ黙々とシュート練習、壁当てに明け暮れた。彼は胸を張ってこう言う。「1年生の時はとにかくグラウンドに通いました。特にオフ期間は誰よりも」。
  そしてユースでの初練習。猛特訓の日々を積み重ねた彼は「やってきたことがあっていた感じがした」と、確かな手ごたえを得た。それと同時にひしひしと肌で感じた強豪校の実力。ユースに選出されたことで、その成長速度はさらに速まっていく。

上島新指揮官の下、SAINTSは順調に結果を出していく
「接点」で勝つ立教ラクロス、新境地へ
  今年度から新たに就任した上島ヘッドコーチ。新指揮官が掲げるのは、あらゆる「接点」で勝つラクロス。コンタクトスポーツであるラクロスは、球際の競り合いがボール支配率を左右する。立大には、早大、慶大など1部強豪校のような芸術的なパス回し、"技"で相手を制する力はまだない。それでもDFを"力"で突き破り、泥臭く1点を奪いにいくスタイルで果敢に立ち向かう。これこそが立教ラクロスの新たな形だ。  
   新たな立教ラクロスは、順調に結果を出していく。六大学交流戦では近年全敗が続いた中で明大に価値ある一勝。東大や早大には力の差を見せつけられたものの、「接点」では負けないという自分たちのスタイルを確立した。そして全国プレシーズントーナメントでは優勝という目に見える形で成果が表れた。
"力"と"技を併せ持つ桑原が、チームの攻撃の幅を広げる
しかし、立教ラクロスはまだ完全なものではなく、成長段階だという。その完成のカギを握るのは桑原だ。
  "力"のラクロスで勝負する立大にありながら、桑原はパスで周りを活かす"技"を持つ。これは関東ユースでのハイレベルな環境に身を置くことで磨かれた技術だ。「自分は立教の中では綺麗なラクロスができる方ですし、ユースの中では「接点」で勝つ力がある」。その技術をチームに還元できれば、立大の攻撃のバリエーションはさらに広がる。
  "華麗なパスでDFを翻弄し、勝負所では「接点」で相手をねじ伏せ豪快に得点。見る者を魅了し、勝つ。
  "そんな"力"と"技"を兼ね備えた立教ラクロスが完成した時、その強さは1部校をも凌駕するだろう。

「日本一」になりたいという確固たる意志が彼を突き動かす
「日本一になりたい」
  意外なことに、入部したのは同期の誰よりも遅い去年の5月下旬のことだった。新歓期間を経て選んだのは、全国で指折りの実績を誇るモーターボート・水上スキー部。彼には、一つの大きな志がある。「日本一になりたい」。その目標に近いところに、大いに惹かれた。  
  そんな彼に、転機が訪れる。5月に行われた1年生初の対外試合・学習院大戦。弓田(社2)、町田(法2)ら立教新座高校サッカー部時代の同期に誘われ、一友人として応援に駆けつけた。

  そこで目の当たりにしたのは、かつて苦楽をともにした仲間たちが新たな競技「ラクロス」に果敢に挑戦する姿。全力でコートを駆け激しく相手にぶつかり真っ向勝負、不器用ながらも全身全霊で相手に喰らいつく。彼らの競技に向ける情熱が、桑原の心を強く突き動かした。「俺はラクロスがやりたい。またこいつらと一緒に戦いたい」と。
  現在、立大男子ラクロス部は関東2部に所属。「日本一」への道のりは長く、険しい。それでも、桑原は仲間とともにその夢に挑戦することを選んだ。「ラクロスはスタートが一緒。だから可能性は無限大です」。彼は限界を定めない。そして自信満々にこう宣言した。「今年絶対に1部昇格しますよ。絶対に」。この男ならやってくれる。漠然と、だが強くそう感じさせてくれる揺るぎない意志を持つ言葉だった。1部昇格は通過点とすら思えるほどに。
  「日本一」という果てしなき野望。夢を現実に塗り替えるため。彼は今日も最高速度で走り続ける――。

(7月14日 取材・編集/大宮慎次朗)