「戮力同心」全日本選手権優勝記念

〜日本一を支えた正妻・藤野隼大〜



  35季ぶりに六大学を制した。51年ぶりに頂点を獲った。大学野球の頂に立った約2か月に及ぶ戦いに、全立教ファンが歓喜する。そんな、立大野球部栄光のVロード――。
  藤野隼大(営2=川越東)。昨年までリーグ戦出場0試合ながら、今季は全日本選手権含む19試合に捕手として先発出場。今季、最も飛躍した選手のうちの一人と言っても過言ではない。
  そんな男の今季の紆余曲折に迫った本特集。彼の神宮でプレーする熱い想いに迫った。

2016年11月 新チーム発足 定位置争い。2年目で掴んだ神宮の扇の要
  「革命」をスローガンに掲げ、優勝争いを繰り広げた昨季。澤田圭(16年度卒=現オリックス)を中心とするチームにおいて、正妻のポジションは澤田と同学年の上野敦(16年度卒=現Honda鈴鹿)が務めていた。堅実なリードで、チームを引っ張る上野。投手陣からの信頼も厚く、確実に、彼は立教の守備のリズムを作っていた。

  そんな偉大な先輩の引退。バッテリーは田村(16年度卒=現埼玉西武)を含め、大幅な戦力低下が危惧された。投手陣の争いを制したのは田中誠(コ2=大阪桐蔭)や手塚(コ2=福島)ら下級生。チームは世代交代の時期を迎えていた。捕手のポジションもその一つ。「正捕手」のポジションを、藤野は田(コ4=浦和学院)らと争っていた。

  「投手陣が下級生だったから、コミュニケーションはとりやすかったと思います」。そう謙虚に語る藤野であるが、彼の守備力は日を追うごとに成長を見せていった。キャッチング力やスローイングの正確さ。捕手に必要不可欠な守備力を備えた藤野は、徐々にレギュラーの位置を確固たるものにした。そして、迎えるリーグ開幕戦。彼の背中には、卒業した上野の背番号である「27」がーー。藤野は、神宮のホームで若い投手陣をリードしていた。

   2017年4月24日 対慶大3回戦 困惑。「27」が試された2試合
 着実に勝ち点をつかんでいく今季。一方で、リーグ戦にて唯一勝ち点を落とした週があった。慶應義塾大学との戦いだ。立大にとっては2カード目の対戦相手であったが、4戦にも及ぶ熱戦の末に惜しくも勝ち点を落としてしまったーー。

  「あの時は、本当に抑え方がわからなくなっていました。本当に悔しかった。初めて出させてもらって出る大学の公式戦。法政(開幕カード)から勝ち点を取れて、失点も少なく来ていただけに、苦しい試合でした」。

 慶大4回戦、藤野は試合途中で田(コ4=浦和学院)への交代を告げられベンチから戦況を見つめた。「あの交代があって、自分の配球面を見つめなおした。あの試合が、今季の自分のターニングポイントだったと思います」。今季一番心に残っている試合として、真っ先にこの試合を上げた藤野。快進撃は続いている中にあってもなお、彼は反省の気持ちを忘れなかった。

     2017年5月15日 対早大2回戦 飛躍。思い切り振った先に
  悔しさは人を成長させる。優勝争いをするうえで重要であった早大戦。藤野は、バットで結果を残してみせた。2回戦で3安打2打点、大学初本塁打と結果を残すと、3回戦では打順は6番に。高校時代からその打棒は折り紙付きで、右打席から時に左翼スタンドへ、時にチームバッティングで右方向への当たりを打つその打撃は、下位打線の中で上位打線へのつなぎの役割を十二分に果たした。終わってみれば打率はリーグ9位、安打数はチーム内3位となる17安打にも及んだ。

   2017年6月11日 全日本選手権決勝 歓喜の瞬間。「日本一の捕手」にーー
  勢いは全国の舞台でも止まらなかった。今世紀初の東京六大学制覇の勢いそのままに、チームは各地の強豪校を次々に撃破していった。もちろん、その勝利の中に藤野は不可欠となっており、決勝までの3試合でわずか5失点の投手陣を支えたのは、まぎれもなく彼だ。

 そして迎える決勝。日本一の瞬間をその目で見ようと、全国の野球ファンが神宮球場に集結した。晴天の中、試合は始まる。決勝ならではの緊張感の中、藤野は手塚(コ2=福島)、中川(コ1=桐光学園)を巧みにリードしていった。守備の良い流れは攻撃にーー。打線は、打者一巡の猛攻を見せるなど、点差は確実に開いていった。日本一は、着実に近づいていた。

   9回。選手たちが、それぞれのポジションに散っていく。藤野は、下級生である中川とサインの交換を行う。下手投げの角度を生かした直球で相手打者を詰まらせ投手ゴロにーー。歓喜の瞬間、初めての経験なのか、どこかぎこちない動きで藤野らはマウンド上で喜びを爆発させた。その光景は、彼らの努力が報われた瞬間であった。

2017年6月18日 「日本一の捕手」ではない、「日本一のチームの捕手」にーー。
  シーズン終了1週間後。今季の活躍を振り返り、「僕は日本一の捕手ではない。日本一のチームの捕手。全員で勝ち取った日本一だからこそ、日本一のチームの捕手になれることが嬉しいんです」と語った藤野。どこまでも謙虚な男が、立大投手陣の女房役を担っていることが分かる。

  インタビューを終え、とても印象に残っている瞬間がある。話が投手陣の話題になると、彼は今季の投手陣の中心であった田中誠(コ2=大阪桐蔭)、手塚、中川の魅力について嬉しそうに語りだした。自分のことのように話しているその姿に、どんなにきつい練習でも手に入らない「良い捕手」である条件を彼は満たしていると感じた。「捕手はやっぱりやりがいがありますね」。そう、嬉しそうな顔で話す背番号27。彼は必ず秋もやってくれる。さらに成長した姿で神宮に戻ってくる、彼の活躍に要注目だ。

(8月6日 文・川村健裕)

プロフィール
藤野隼大(ふじの・はやた)



  181a82`、経営学部経営学科2年、埼玉県出身、右投げ右打ち、捕手、川越東 小学2年から野球を始める。当時のポジションは投手、三塁手。小学5年で捕手に転向後は、捕手一筋。川越東高校時代では時に4番を打つなど、慶大・高橋佑らとともに埼玉県準優勝に導き、チームの主力として勝利にけん引した。普段はクールな彼だが、野球のことになると真剣なまなざしで己の野球観を語る。