「戮力同心」全日本選手権優勝記念

〜「最後の1年」で覚醒・山根佑太〜

  男が描くアーチは多くの人々を魅了した。今春、59年ぶりの日本一に輝いた立大野球部。打線の中核を担い、その快進撃をけん引したのは山根佑太(営4=浦和学院)。エリート街道を歩み、彼の野球人生は順風満帆であった。しかし、大学入学後には思うような成績を残せず、数々の挫折を経験することとなる。大学野球ラストイヤーを前に彼が導き出した決意。そこに今季彼が大ブレイクを果たした理由があった。

輝かしい球歴
  彼がこれまで歩んできた道はまさにエリートそのものだ。小学校で日本一、中学校では全国2位。


  浦和学院高3年次には、主将として同校初の全国制覇へと導いた。埼玉県勢としては45年ぶりとなるセンバツ制覇の快挙。「今までの浦和学院の選手では自分しか優勝旗をもらっていない。歴史に名を刻んだというのは嬉しかったですね」。高3夏の甲子園では、初戦で熊谷(コ4=仙台育英)を擁する仙台育英に激闘の末に敗れ、春夏連覇の夢は途絶えたものの、「春の王者・浦和学院の主将」として将来を嘱望されていた。そして、熊谷や高校の同期である田(コ4=浦和学院)等とともに、アスリート選抜入試で立大に進学。再び日本一へと昇り詰めるために大学野球生活をスタートさせた。

反骨心
  大学ではこれまでに味わったことのない挫折を経験することになる。1年次から他の同期より一足先にリーグ戦での出場機会を得たものの、伸び悩んだ。周囲から寄せられる期待との大きなギャップ。結果を残さなくてはいけないという強い思いがプレッシャーとなっていた。3年間、リーグ戦で放った安打はわずか2本。思い通りの成績が残せなかった。
  さらにケガも追い打ちをかける。2年次に左肩を手術。運動制限により、仲間が練習する姿をただ見つめるだけのもどかしい日々が続いた。「やっぱりあの期間は野球がしたかったです」。 3年次春のリーグ戦で復帰したものの、万全な状態にはならず。苦悩の日々は続いていた。それに加え、アスリート選抜入試で入学した自身に対する、辛辣な意見などが耳に届いた。このまま日の目を浴びないまま、大学野球が終わってしまうのだろうか。誰もが諦めてしまうような状況であった。だが、座右の銘が「反骨心」である男はくじけなかった。そういった声をエネルギーへと変える。「かっこ悪いままで終わりたくないので、見返してやりたいという気持ちでした。活躍すれば、手の平を返して拍手する人が多いと思っていたので、見とけよという感じでした」。

一大決心

  そして、悩みぬいた末に、昨年末にある決断をした。「この先はもう野球を続けない。残り1年は野球を楽しもう」。大学卒業後はユニフォームを脱ぎ、これまでとは違った道へと進んでいく。社会人野球チーム等から寄せられるオファーは全て断っている。「好奇心旺盛なので、これからはいろんなことをやってみたいです。野球に懸けるのもすごくかっこいい人生ですし、良い人生だと思いますが野球が全てではないので」。卒業後は就職せず、経営者としての道を探っていくことを考えている。自らが行く道を定めたことが、彼が「野球人生最後の1年」として位置付けた2017年を大きく変えていくこととなる。「これまでは打たなかったら社会人やプロを目指して結果を残さないと声がかからないというプレッシャーを無駄に感じました。もう打てても打てなくても終わりだと決めたので、それが良かったと思います」。心の迷いが消えたことにより、彼本来の思い切りの良い打撃を取り戻していく。


開花の時
  野球人生に区切りをつけることを決めたことが、飛躍のきっかけとなった。主軸として快打を連発し、4年目にして大ブレイクを果たした。くすぶっていた男の豪快な打撃はファンの心に残るものであった。
  ポジション争いを制し、7番レフトとしてスタメン出場を果たした春季リーグ開幕戦、対法大1回戦。1点ビハインドで9回2アウト走者なしと絶体絶命の場面で打席に立った。カウント0−2、ストレートだけを待つ。思い切りよく振りぬいた打球は、すさまじい打球スピードでレフトスタンド後方へ。起死回生の同点ホームランであった。ベンチへ戻ると仲間からもみくちゃにされた。山根自身が最も手ごたえを感じたという目の覚めるような一発は、山根にとって、そして立大にとって、最高の春の始まりであった。

  そこから3試合続けて無安打に終わり、勢いは止まったかに見えた。しかし、またも勝敗を左右する場面で男のバットが火を噴く。対慶大2回戦、1点ビハインドの逆境から今度はライトスタンドに逆転2ランを放った。その後は笠松(コ4=大阪桐蔭)の故障により、一時4番に据わるなど打線の中心的存在としてチームとともに上昇し続けた。負ければ優勝の可能性が潰える対明大2回戦では、2本塁打4打点でチームの大勝に貢献。終わってみれば、打率2割7分7厘、リーグ2位タイとなる4本塁打でベストナインにも選出されるなど圧倒的な成績を残した。日本一を経験したものとして、全日本選手権でもチームをけん引した。準々決勝の対天理大戦で反撃の狼煙を上げる2ランホームラン、決勝の国際武道大戦での初回逆転2点適時打など、チームを勢いづける活躍で59年ぶりの全日本優勝に大きく貢献した。


  野球人生の最後として位置付けた今春、見事な放物線を描き、見る者を魅了してきた彼。日本一から2カ月以上経過した今、秋季リーグに向けてキャンプ・オープン戦をこなし、新シーズンの幕開けに備えている。8月24日に行われたオープン戦、対東北楽天ゴールデンイーグルス戦ではプロの投手から2本の本塁打を放つなどホームランアーチストとしての実力を確固たるものにしている背番号1。大学で野球人生に終わりを告げるのは惜しい気もするが、彼が下した決断が揺らぐことはないだろう。まもなく開幕を迎える秋季リーグが、野球選手・山根佑太を球場で見ることができる最後の機会になる。大きな期待とともに、新シーズンの開幕を待ちたい。


(8月25日 取材/大宮慎次郎 編集/渡邉紘也)





Copyright (C) 「立教スポーツ」編集部, All Rights Reserved.