市野秀一にとってのホッケーとは 自分を成長させてくれたもの。心に余裕をもってプレーすることがホッケーにおいても人生においても。それを教えてくれた。 その姿、まさに「熱男」。コート上では誰よりも檄を飛ばし、プレーは豪快。出口とともに部を支えたのは、穏やかな主将とは対照的に熱い心を持つ副将・市野(観4)だった。 見事な強心臓だ。昨年の6月18日に行われた2部優勝決定戦・対東大のSO戦。大雨の中の試合で有利はキーパー。3-3まで持ち込まれ、シューター・浅見(営4)が一本でも外すと敗退が決まる。勝負の行方を見守っていた市野は試合後のインタビューで笑って振り返った。「嫌なコンディションだなと感じていたけど、条件はお互い同じで。ここで勝ってしまえば優勝だと思えたのが大きかったです」。そんな市野、華々しい人生で今の”頼れる男像”が形成されたわけではない。 「1年生の頃はホッケーを嫌いになっていたんです」。中学で始めた野球では小学校から少年野球を続けているメンバーの存在が大きく、ベンチ入りできず。高校で始めたラグビーでは入部して間もない頃に全治1年の怪我を負った。「今度こそ活躍するんだ」。気合い十分に乗り込んだ今のホッケー部でも1年生の間はベンチメンバーに入れない。不完全燃焼な日々が続いていた。 だが、2度あったことは3度起きなかった。「2年生になってから何でここにいるのか、何で上手くいかないのか考えるようになったんです」。そこから市野はコーチ陣、先輩の話を以前の何倍も聞くようになった。そして、3年生になった頃??レギュラーの席にようやく辿り着いた。 「(この四年間は)本当に、感謝かな。ホッケーを通じて自分の気持ちをしっかり押さえて、考えて行動するっていうのが大事だって気付けたので。ホッケーというスポーツに感謝してますし、それを取り囲むみんな。マネージャー、チームメイト、コーチ陣。そしてこうしてインタビューしてくれるリスポにもね。本当に思ってます」。 泥臭く、まっすぐに駆け抜けた熱男の引退間際はまっさらな感情のように見えて、それでもどこか寂しそうで。誰よりも輝いて見えた。
石井雄にとってのホッケーとは めっちゃめっちゃ青春 部内一の愛され男とは石井(営4)のこと。「部内でどういう立ち位置なんですか?なんとなくクールな印象があって…」と私がインタビューで尋ねると、近くにいた彼の友人が大きく吹き出した。それを見て小さくこぼす。「こういう感じです。」 部では随一の実力者だ。FWとして陸上競技部上がりの俊足を武器に素早い攻めで相手を翻弄。1年の秋からベンチメンバー入りを果たしていた。 それでも四年間に決して満足していない。後輩に伝えたいことは、と尋ねると「今できることをやって、後悔ないようにして欲しい」と返した。1年の秋以来、3年の秋に初めてベンチメンバーから外されたこと、引退試合の試合終了間際に足をつってしまって最後までフィールドに立っていられなかったこと。感情を表に出さないクールガイは「もっとうまくできた」と裏では悔いを頭に巡らせていた。 そんな石井だが、チームの話になると一転。「(自分にとってホッケーとは)めちゃめちゃ青春って感じ。恥ずかしいんだけどホッケー部入ってなかったらこの人たちにも出会えてなかったし」とポーカーフェイスを緩ませた。 クールに見える男も人知れず頭を抱えている。それでも引退間際にすっきりした表情を見せられたのは、自分を愛してくれるメンバーと四年間駆け抜けられたことに一切の後悔がないからだろう。 「ええ??俺にインタビュー?最後にして初めてだわ、嬉しい」。少年のように笑う姿を見て、愛される理由がよくわかった。
兼頭康輝にとってのホッケーとは 絆をつなぐのがホッケー この男、どこまでふざけ倒すのか。チーム内で大笑いが起きると十中八九、中心には兼頭(営4)がいる。部内恋愛をつついて大目玉を食らったこともある。それでも「そこも含めて楽しい四年間だったかな」。芸人魂はピカイチだ。 兼頭にとってホッケー部が特別になったのは2年次の秋リーグ最終戦・一橋戦だ。4年生にとっての引退試合で兼頭は初めてのスタメン入りを果たすも、ミスを連発。試合終了後、意気消沈する兼頭のところへすぐフォローに行ったのは??引退試合を黒星で終えた当時の4年生たちだった。 「この人たちの分まで自分はあと2年間、ポジションを守って明るくやらなきゃなって」。有言実行だった。天性のギャグセンスと周囲を見渡す力で見事に盛り上げ役として定着してみせた。 兼頭たちの代が4年生になり、最後の1部昇格のチャンスとなった秋季リーグ。2部優勝決定戦で敗れ、雰囲気が落ち込むチームでも盛り上げ隊長はいつも通り??もしくはいつも以上だった。「もしかして次勝っちゃうんじゃね?(笑)」。夏に0-6で大敗した相手を前にしてもなお、逆境を笑い飛ばした。泣いても笑っても最後になる瞬間を、どうせなら楽しみたい。彼なりの集大成だった。 「今まで迷惑かけました!ありがとうございました!」。引退間際、爽やかな笑顔でマネージャーに頭を下げる。その姿に、どこまでも憎めない男だと思った。
福田輝にとってのホッケーとは 親友じゃないけど、仲良いやつができた。同期に恵まれた。 いいチームだと心から思う。引退試合でも出場が叶わなかった福田(異4)の話を聞いて一層感じた。 体育会に所属してから引退までの間、誰しも様々な場面で”退部”の2文字は頭をちらつくものだ。 「1年生の頃、監督とかめっちゃ怖くて…やめたいなと何回も思ったんです」。「2年生の時に留学に行ったんです。そこでしばらくホッケーから離れてて、いざ日本に帰ってきたらあまり(部に対して)気が乗らなかったんです」。 福田の“退部したいと思ったエピソード”は質問を重ねずとも次々と口からこぼれた。 だが、昔の葛藤を正直に口にした後には必ず「でも同期はめちゃくちゃ仲が良くて。続けてよかったなと思います」の一言を添えた。後輩に伝えたいことも「続けて欲しいですね。サークルの友達と比べて遊ぶ回数がずっと少なかったり、不自由なこともあったりするけど、大変な分いざ振り返ると自分としては良かったなと」とホッケー部愛を見せた。 「やってきてよかったと思った」。引退試合でグラウンドに立てなくとも、仲間の活躍を目に焼き付けて素直に感動する。それだけでこのチームの、この代の色がよくわかる。 ユニフォームを脱ぎ4月からスーツを着ようとも、10年後・20年後、彼らの引き締まった体に脂肪がつく時が来ようとも。スティックを手に駆け抜けた頃と同じように集まって、青春真っ只中のような笑顔をするのだろうと思う。 |