去る者あれば、来るものあり。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。「立教スポーツ」編集部では、日々努力を続ける体育会アスリートの皆さんを取材させていただき、年5回発行の「立教スポーツ」にて、その活躍を取り上げさせていただいています。
   今回は、そんな体育会の取り組みを皆さんに少しでもお伝えするため、「もう一つの216号」と題した本特集にて、普段は見ることができない体育会員の一面をお届けいたします。この文章を読んで、大学4年間を捧げるスポーツと出会えていただけたら嬉しいです。
   ※本特集で取り上げる部活動は、4月1日発行の「立教スポーツ」216号で活躍が取り上げられた部活動の特集が組まれております。キャンパスのいたるところで配られる紙面も是非手に取ってください!




   まさに、それは「新エース」の誕生を意味した。関谷(観4)、澤部(済3)が支えていたこれまでの立大自転車競技部。ともに、全国の強豪が集うクラス2以上に所属し(2016年度現在)、確実に部の中心となっている選手であった。そんな中、2017年1月8日。行田クリテ第10戦クラス3において、橘田(現2)が優勝を果たし、クラス2へと昇格した。部として3人がクラス2以上に所属することは、部としても成長を意味する。それだけに橘田の優勝は、待ち望まれていた、やっとの思いで掴んだ優勝でもあった。

まさかのレース前
橘田は優勝を確信し、右腕を高々と突き上げた

   レースは残り10b。勝利を確信した橘田は右腕を大きく掲げる。人差し指は天へと向かい、表情は確かな自信に満ちあふれていた――。
   その1時間前。レース前の橘田を振り返れば、この日の彼が自信を手にするとは誰も思わないだろう。「直前までインフルエンザに感染していたので、今日のレースは厳しいです。優勝というよりは自分の今できる走りをしますね」。毎度のレース前、橘田は必ずと言ってよいほど自分のこれからの走りに対する弱音を吐いてくる。高校時代にインターハイへの出場実績もある彼は、常にレース内の注目選手の1人であることは明白なはずなのに。足を擦りむいたから、同じレースに実績のある選手がいるから、直前まで練習不足だから。理由はレースごとに異なるものの、必ずと言ってよいほど口にする弱音。これまでのレースでは、惜しい結果を残すことはあったものの誰をも納得させる結果を残すことはなかったため、弱音はさらに悲壮感を増すようになっていた。この日も自身の体調不良を真っ先に告げ、どこか心もとない背中が、それでもいつも通りのスピードでレース前の練習に向かっていったのであった。

躍進のレース後
表彰台に上がる橘田。照れながらも、自然と笑顔がこぼれていた

    全6周で行われる本レース。序盤、橘田は先頭集団にはいるものの、集団内では先頭に立たない。まったくと言いてよいほど上位を狙う仕掛けは見られなかった。もちろん、レースは待ってくれるはずもなく、4周、5周と徐々に周りの選手の駆け引きが熱を帯びてくる。そして、あっという間に最終周を告げる鐘が鳴らされた。
   このまま集団後方から仕掛けることができずに終わるのか、そう思われた瞬間であった。橘田の自転車のスピードが明らかに周りより速くなる。5周目までも駆け引きに神経を削られていた他の選手はあっけにとられ、橘田についていくことができない。最終周にして、橘田が先頭に立ったのだ。その後の橘田はレースを優位に進め、1位でゴールラインを越えた。大逆転劇であった。

   レース後、橘田はこう語る。
「今日までにインフルエンザであったことは確かです。事前の練習で、自分の脚力を計る練習がありましたが明らかに数値が落ちていた。でも、たとえ数値が落ちていても自分にやれることはあるのではないか、と思った。そこで、今日はレースプランを大きく変えました。最終周まで先頭に立たなかったのは計算内。最終周で飛び出す予定でしたから。今までのレースでは冷静になれず、このような戦い方でもおそらく負けていた。今日勝てたのは、1年間の練習である程度の自信があったから、冷静になれたんだと思います」。

   自らの状態を見極め、時に戦い方を変える。これもまた、選手として向き合わなければならない課題の一つである。この日の橘田の言動からは、そんな課題とも向き合い楽しんでいるようにすら感じられた。発する言葉一つ一つに、いつになく言葉の重みを感じ取ることもできた。弱音を吐くだけだった入部当時からもう1年。選手にとって、1つのレースが練習では得ることのできない成長を見せる場となったのである。この成長こそが、私たちにエース誕生を予感させた一番の要因。今年も、立大自転車競技部から、橘田から、目を離すことができない。

(4月3日 取材/編集・川村健裕)



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