野尻拓〜15年間氷上に乗り続けた男〜
野尻拓(法4)。立大アイスホッケー部2017年度主将。立教小学校から今まで立教一色。「将来は立大アイスホッケー部でプレーする」。そう小さいころから漠然と描きながらも、何度も岐路に立ち、選択し続けた。12月25日、インカレ初戦、対専大。彼がその日八戸の地で、立大の#22を背中にプレーしていたら、それはとんでもない奇跡だ。引退目前の今、こう語る。
「このチームだから、この環境だからこそ勝ちたい」。
◆どこでプレーするか◆
小学1年の3月。幼稚園の幼馴染が入っていたチームに誘われ、アイスホッケーに出会った。「こんなスポーツ出会えない」。
サッカーもやっていた。所属していたサッカーのクラブチーム遠征と、アイスホッケーの練習がかぶるようになった小3の頃、「中途半端になって、どっちつかずになる」とアイスホッケーに絞る決断を。魅力に引き込まれていた。そこからはアイスホッケー一筋だった。初めてアイスホッケーに出会ってから中3までは高田馬場のシチズンジュニアでプレーしていた。中学はアイスホッケーのための部活選び。陸上部の長距離で基礎体力をつけた。
シチズンジュニアは中学までしかないクラブチーム。高校に行くにあたって、様々な選択肢があった。東京都選抜の仲間は北海道や青森へ旅立つ。誰にも言わず一人で悩んだ時期もあった。その頃から立大アイスホッケー部を見ていた。いつかはここで。「付属を捨ててまで行こうとは思わなかった。みんなが大学で東京に戻ってきたときに負けないくらいになろう」。そして、高校でのフィールドを西武ホワイトベアーズに決めた。今、引退を目前にして振り返ると「この選択に迷いはあった。でも、間違いはなかった。一番良い選択をした」。
「立大に入るか悩んだ」。1部B、ある程度勝てない状況にあることは想像できていた。強豪他大でやるか迷った。ではなぜ立教に決めたのか。小さい頃から見ていて、この環境でやると思っていたこともそうだ。何より、「自分が入って勝てるように、強くさせたい」という気持ちがあったからだ。たとえ2部や3部だったとしても、結局立教を選んでいたのかもしれない。「立教で勝つことに意味がある」。
◆孤独感◆
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仲間の得点を自分のことように喜
べるのは、チームスポーツの醍醐味
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強く言うことはしない。先輩と後輩の差を縮め、なんでも言い合える環境。近付きがたい怖さ、威厳を発せられるとも思っていなかった。それなら自分から近付き、意見を集約しながら引っ張ろう。小中高大のすべてでキャプテンを経験する中で、彼の主将としての姿は確立していった。
15年間氷上に乗り続けてきたことは事実。どんな岐路に立たされても、アイスホッケーが嫌いになったり練習に行きたくなくなったりすることは一度たりともなかった。しかし、大学の体育会でやることにきつさはあった。勝てないこともそうだが、一人だということを感じさせられていた。
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今年度リーグ戦を共に戦った留学生の
エリック(文4)。インカレには同席しない
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今思うと、「高校までは何も考えていなかった」。ただアイスホッケーを楽しんでいた。大学は経験者と未経験者が融合するという高校までと違う困難さがわかった。役職をやっていくにあたり、自分よりもチームを考えなければならない局面も増えた。自分だけが強くても勝てない。しかし、チームスポーツを選んだ理由もそこにあった。
大学に入ってチーム状況を見ると、経験者ゆえの葛藤もあった。プレー面での良し悪し。しかし、経験がモノを言うスポーツだからこそ、チームスポーツだからこそ割り切ることもあった。そんな中でのモチベーション。それは、ずっと負け続けていても「どこかで勝ちたい」、その思いだった。負けず嫌いの勝ちへの執着。だからこそ、リーグ戦だから、インカレだからなどの試合によって思いが変化することはなかった。
◆「やっぱりインカレは違うんだ」◆
一番悔しかった試合であり、インカレへの思いが強くなった試合がある。1年の頃のインカレ予選、対日大。強豪1部A相手に2−2、PSに突入するも一本も決めきれず負けが決まった。PSで勝っていれば――。なおさら悔しかった。1年生ながらも、「4年生を勝たせてあげられなかった」と、そう思わせるほどの代であり、主将だった。そのときに涙している姿、「連れていってあげられなくてごめんね」という言葉。
インターハイに出られなかった経験から、インカレへの思いはもとからあったが、戦うイメージはできていなかった。それが自分事として捉えられた。2年生になり、実際にインカレに出て身に染みた雰囲気の違い。あの舞台でもう一度。その最後のチャンスが今、目の前にある。
◆リンクを去るとき◆
4年生として出るインカレなんて想像すらできない。それでも今は、インカレしか見えない。勝てるチャンスはあと1回。これはゆるぎない事実。インカレで勝ったときの気持ちを想像しても、勝ってみないとわからない。それくらいインカレは緊張感に包まれるまだまだ未知の世界。
15年間同じ競技をしていても、1部A決勝は違う競技を見ているように感じることがある。それでも世界から見たらちっぽけな世界だ。「こんな難しいスポーツない」。チャレンジすべきことがあり続けたからこそ続けられた。彼が氷上から降りるとき。それは、自分がどこまでやれば、どこまで上手くなれるかが明確になったとき。それを自分自身で感じ取れたとき、彼はそっとリンクを後にするだろう。それがいつになるかなんてまだわからない。
彼は立教に導かれた。
「立教大学に入って、立教のアイスホッケー部に入ってよかった」。
そんな彼の姿を八戸で目に焼き付け、こう思うだろう。
「立教大学に入って、立教のアイスホッケー部と関われてよかった」。
◆試合情報◆
第90回日本学生氷上競技選手権大会 ファーストディビジョン
1回戦 立大(関東Div.T−B 6位)VS専大(関東Div.T−B 3位)
12月25日(月) 16:00F.O.
@青森・テクノルアイスパーク八戸
(12月21日/取材・編集=田中慶子)
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