定期演奏会の主役

   応援団と聞いてどんな姿を想像するだろうか。学ランを身にまとい、日々応援に魂をこめる熱きリーダー部の男たち。この答えは3分の1当たっているが3分の2外れている。今回活躍するのは吹奏楽部とチアリーディング部。「半年間続けてきたことが1日で終わってしまうから、この2時間にどれだけ集中できるかがカギ」。吹奏楽部長、高梨(法4)の言葉にはこの演奏会にかける思いの強さがにじみ出ていた。そんな演奏会、今年のスローガンは"TUTTI"だ。この単語の意味を私は知らなかった。しかし演奏会を見てからパンフレットを読み、やはりそういうことだったのかと納得した。この瞬間の私の感動を味わってもらいたいが故に、"TUTTI"の意味はこの記事の最後まで取っておきたい。

"TUTTI"への道のり

   チアリーディング部長の岡崎(営4)は、定期演奏会前の練習を「みんなの意識を一つにするのが難しくて」と振り返った。チアダンス、チアスタンツ、フィナーレという3つの演技があり、場の盛り上げ方やスタンツのキレは意識次第でいくらでも変えられる。分かってはいるものの、本番が迫らないとできないという課題が彼女を焦らせていた。演奏会前の合宿から本番まで、例年時間がない中、今年は少し余裕があり、その期間にパフォーマンスを磨けるという良さがあった。だが高梨と岡崎は同じ不安を抱えていた。みんなの意識を維持し、さらに高めていかなければならない。ここで安心して気を緩める部員がいたらスローガンは達成できない。そこで彼らは「伝える」「支える」ことに注力した。高梨は、発言の場でどれだけ自分たちが残せるものを伝えられるかを考え、精神面で部員を支えた。岡崎は、緩んだ空気を感じたら自分が感じている危機感をみんなに伝え、スタンツを組む仲間同士での声がけを意識した。不安を取り除き、集中力を高める。徐々に一体感が高まっていった。

「部長」ではない部長

   部長と聞いて誰もが持つイメージ、前に立ってみんなをまとめ、部の方針を考え実行する。そんな固定概念は彼らにはなかった。「下級生がみな個性や自分の考えを持っていることは経験上知っているから、下級生と幹部たちの間に立つことでその自主性や創造性を僕が上から守れればいい」と高梨。また岡崎は「下級生のために厳しいことを言ってあげられる立場を利用して、下級生たちを成長させてあげられるのが部長としてのやりがい」と語った。2人はまとめたり指示を出したりする以前に部員を守ること、みんなが成長できる環境を作ることを大切にしていた。彼らの考える部長は仲間を支える存在だった。


体現された"TUTTI"

   定期演奏会当日。「幕が開く前は緊張感があった」。高梨は開幕前の心境について、そう答えた。日々の鍛錬の成果を2時間で出し切らなければならないという思いで表情が硬くなる。この日は一人一人が主役となり、全員でステージを完成させる。スローガンを心に刻み、本番を迎えた。
   第一部POPS STAGEは魔女の宅急便コレクションや「ザ・ドリフターズ」メドレーなど良く知られた曲で、会場は序盤から盛り上がった。魔女の宅急便メドレーを演奏するときには、指揮者がキキの衣装をまとうなど工夫が凝らされた親しみやすいパフォーマンス。年代を問わず楽しめるコミカルな舞台となった。
   第二部SYMPHONIC STAGEで「キャンディード序曲」に続き2番目に演奏された「シンフォニア・ノビリッシマ」は、高梨にとって感慨深い曲だった。この曲の指揮を担当したのは高梨と同じく4年生の島倉(法4)。様々な時を共にした仲間が大好きな曲を生き生きと振っている姿を見て、一緒にステージに立てた感動に浸った。

   第三部DRILL STAGEには岡崎のお気に入りの演技があった。以前は吹奏楽をやっていたという彼女。「やはり吹奏とカンパニー歩くところが好き」。吹奏楽部とチアが共に行進する場面で嬉しさを噛み締めた。第三部ではチアリーディング部の弾けるパワーと、吹奏楽部によるマーチングの力強さの両方が体感できる。「自分が絶対落とさないから自信を持って上で決めてほしい」。岡崎は下級生の不安を無くすことに努めてきた。精神面を支えることで、みんなが胸を張ってステージに立てるという彼女の考えは大当たり。個々の笑顔がまぶしく元気なダンスに、私は心からの幸せを感じた。最後は吹奏楽部が劇を交えたマーチングで「オペラ座の怪人」の舞台を表現。喜び、苦悩、怒り、悲しみ。細かい感情の起伏までもが曲調や出演者の動作によって見事に描き出され、美しい世界に会場が引き込まれた。この演奏会にふさわしい気持ちの良いフィナーレだ。

TUTTIの意味
   "TUTTI"とは何か。目に見えるのか、見えないのか。答えは両方当てはまると私は感じた。この演奏会では皆が主役だった。各個人が自分の役割を果たし、光って見えた。しかし全員が息を合わせなければならないとき、仲間への信頼は目には見えない。"TUTTI"を体現するのに決まった形はないのだ。"TUTTI"とは「全員の力で演奏する」という意味の形容詞、"solo"の対義語だ。「ああ、やっぱり」と思ってもらえただろうか。そう感じてもらえれば私も嬉しい。

(取材=玉真拓雄、南はるか、宮武瑞季/編集=南はるか)


◆コメント◆
   ―定期演奏会を終えて心境は
   高梨さん:僕は四年間活動してきた中で一番のステージを作ることができたという満足感と、逆に3個下の後輩と二度と定期演奏会に出ないという悲しさの両方かな。あの子たちと舞台に乗れるのも人生最後だし、僕らが幹部として望める定期演奏会ももう死ぬまで、死んでも、人生変わっても二度とないステージだったからその時間は僕にとって本当に大事なものだし、一生残る思い出だと思います。

   岡崎さん:4年生になって任せてもらえることも増えたから、それを全うできた達成感はすごくあります。下級生も本当に楽しそうに演技していて、みんなで楽しんで作り上げようと感じがあって。しっかり準備を重ねた分本番は本当にみんな輝いていたから、その時間を共有できたのは良かったと思います。




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