スケート部フィギュア部門

〜貴公子の挑戦〜


   高橋大輔(関大大学院)、小塚崇彦(トヨタ自動車)、羽生結弦(東北高)ら世界でもトップクラスの選手が揃う日本男子シングル。昨年末行われた全日本選手権はその最高峰の舞台だ。2日目のフリースケーティング。最終グループで滑れるのは前日のショートプログラムの上位6人のみ。そこに中村(営2)がいた。

公式練習にて振り付けを確認する中村
  端正な顔立ちに加え、優雅な雰囲気を醸し出す中村。リンクの上で舞う姿はさながら貴公子のよう。以前からフィギュアファンの間では日本スケート界一の色男と呼び声高かった。そんな彼がついに全日本のトップ6に入ったのだ。これが話題を呼ばないはずがない。Googleの急上昇ワードにも名前が入り、"イケメンスケーター"中村健人は広く知られることとなった。

  元々、スケーティングスキルと音楽の表現に定評がある。今シーズン用いた楽曲も自身で選び抜いたこだわりの2曲だ。ショートプログラムはタンゴの権威、ピアソラの『フガータ』。昨シーズンのフラメンコとどう差をつけるかがポイントとして挙げられた。社交ダンスのホールドを思わせる振り付けが印象的なプログラム。中でも、本人が意識したのは目線だという。まるで一緒に踊るパートナーがいるかのように、腕の中の女性に視線を送った。フリースケーティングはサン=サーンスの最高傑作と言われている『交響曲第3番オルガン付き』だ。こちらは変化に富んだ曲調であるため表現力が問われ、荘厳なフィナーレが感動を呼ぶ。

  そして今シーズンから取り組んでいるのが4回転ジャンプだ。今や表彰台にあがるには必要不可欠なこの大技に彼もまた、挑んでいる。公式戦での成功はまだ無く、練習でも数回しか決まっていないものの、フリースケーティング冒頭に4回転トーループが組み込まれている。「全日本の最終グループ入り」を目標にしていた中村にとって、この大技への挑戦こそがその目標を達成し、さらにはその上を狙うための鍵だった。

全日本フリースケーティングでの演技
  そして、彼はついにその目標を成し遂げた。日本のトップ6。そうそうたるメンバーが名を連ねた。グループ内での滑走順はくじで決まる。神様はどうしてこうもいたずらなのだろう。中村の出番は最終滑走となった。

  「甘さが出てしまった」。演技後、彼はそう語った。4回転は回避した。しかしその他のジャンプで転倒。納得のいく演技とはほど遠かった。「これ以上できないというところまで練習で追い込んでいく必要がある」。夢見た舞台で力を発揮できなかったやるせなさを、彼はその顔に浮かべた。

  それでも、収穫は多い。高橋の演技を見て、そのスケールや世界観に感動したという中村。「彼みたいなスケートが、いつかできるようにしていきたいです」。いつの日か、中村健人の最高の演技を全日本で。きっと幾多の観客を魅了するに違いない。

(2月23日・佐藤優)





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