水泳部

水交寮物語


   新座キャンパス敷地内の一角に、水交寮(通称:合宿所)はある。水泳部の男子部員には、入部が決まるともれなくこの"合宿所"での生活が付いてくる。鉄筋コンクリート屋上付き2階建て、築70年を超える雑然とした佇まいは、敷地内の他の建物とは一線を画した、ただならぬ雰囲気を放っている。今回はそんな合宿所で繰り広げられる生活を紹介しよう。

   十則というルールの下、部員たちは生活を送る。その内容は「規則正しい食生活をする」、「部屋は綺麗にする」といった単純なものだが、3回破ると合宿所の前でこの十則を唱えなければならないというペナルティがある。現役部員の中で実際に課された者はおらず、炊事、洗濯、掃除などの一切を男だらけで営んでいく中にも、最低限の秩序が保たれていることが伺える。

   部屋の中は、綺麗にしている者、普段は足の踏み場も無い者(土曜日の寮長チェック前に簡易的に片付け、十則を守る)など様々。進みゆく老朽化によって床に穴が開いてしまうことも多々あるようで、そのつど穴に週刊少年誌を詰めたり、上からカーペットを敷いたりすることで凌いでいる。壁には30年以上前に先人が描いた落書きやOBが掲載された黄ばんだ新聞などが、トイレには「根底に哲学を持て」といった歴代主将たちの言葉が残されている。ありとあらゆる全ての空間に70年分の生活の跡が刻まれているのだ。

   盛りの男たちが一つ屋根の下に暮らすとあれば、笑いが絶えるはずがない。夜には誰かの部屋に集いテレビを囲んで流行りの芸人をマネしたり、ミラーボールを買ってきてクラブ風に仕立てた部屋で洋楽と共に踊ったり、トランプやスマホのゲームをするだけでも大盛り上がり。また風呂には大勢で入るのが習慣で、足を伸ばせば定員4名ほどの浴槽に、膝を折って8人で浸かることも珍しくない。焼肉パーティや餃子パーティ、ししゃもパーティなどの催し物もコンスタントに開かれており、その時は食卓を囲んで写真を撮る。誰かの誕生日の際は皆で当人の部屋に詰めかけ、0時になった瞬間に手厚い祝福をするなど、挙げればキリがないほどの風習や、珍事件、面白いエピソードで溢れている。

   そんな合宿所での生活で一番痛感することは、実家の有り難味だという。小、中、高とただ水泳に打ち込んでいれば良かった環境から一転。朝起こしてもらうことも、家に帰れば温かい風呂とご飯が待っていることも、入寮して自分でやるようになって初めて、当たり前ではないのだと気付かされる。そういった面も含めて、ここでの生活は貴重な経験なのだ。


   水泳部と共に様々な時を重ねてきた水交寮であるが、今年の3月で取り壊され、部員は新しい寮へ移ることが決まっている。節目に立ち会える嬉しさの反面、無くなってしまうことは寂しくもある。廊下を歩いただけで一人一人に蘇ってくる記憶があり、開いた穴一つにも誰かの逸話が詰まっているからだ。楽しい時を共有したのはもちろん、時には悔しさを受け止めてくれたこともあったはずだ。そんな場所が無くなるのは、やはり寂しい。しかし、完全に消えてしまうわけではない。10年後も、20年後も、何十年後であっても、部員たちの思い出話の背景には、いつも水交寮がある。
(1月23日・末藤亜弥)




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