上大岡衝突転倒事件




上大岡衝突転倒事件 第1回公判傍聴記録    written by MS          
      東京高等裁判所第2刑事部  安廣 文夫 裁判長

日時:03年7月10日(木)11:10-12:00 718号法廷
 少々長い傍聴記になるので、結果から先に記しておこう。
○証拠採用なし、被告人質問なし。次回、判決。
 字面だけだと、最低の裁判、のように思えるのだが、実は、結審後の印象と
して、破棄差し戻しの可能性があるのではないかという希望的観測もなりたつ
よ うな裁判の内容、裁判長の物言いであったのである。
 これで「破棄」だったら、裁判長のだまし討ちに、暴動だって起きかねない、
と私は思うのだが。
 というわけで、この奇妙な裁判の雰囲気がうまく伝わるかどうか分からない
が、大体の流れを知りたい方は、以下をお読みいただきたい。

○被告人の人定質問が終わると、裁判長は、今日は時間がないので急ぎましょ
うといった趣旨のことを言い、わざわざ「昼休みにも、仕事が入っております」 
と今日の公判は何があっても50分だよと弁護団に念を押して始まる。
 まずは、予定通り小沢年樹・主任弁護人の陳述から始まった。
○小沢弁護人の陳述内容
1. 一審の認定について
 一審判決は、被告人が暗い夜道においてワイセツ目的で被害者にぶつかり転
倒させキスを強要したが未遂に終わった、と事実認定をしている。しかし控訴
審 では、その衝突の真相(視界の悪い、幅6メートルの道路における左右から
の交差衝突による事故)、及び転倒の真相(被告人がいきなり面前に現れた被
害者にぶつかり、驚き、自分のせいで被害者を倒してしまうと思い、助けよう
として引き上げたがバランスを崩し、結局一緒に倒れ込んでしまった)を明ら
かにしたい。
2.一審の誤認原因について
(1)被告人と被害者が道路上でぶつかり、転倒したという争いのない事実から、
被害者、目撃者、更に警察、検察が、最初から、被告人は痴漢に間違いないと
思い込んでいた。
(2)裁判官に明らかな見過ごしがあった。被害者は、被告人とぶつかってから
転倒までを3分くらいあったと証言しているが、判決ではこのことにふれてい 
ない。目撃者が悲鳴を聞いてすぐに駆けつけられる距離にいたことや、目を閉
じて唇をとがらせて迫ったというキスの強要の不自然さを考えると明らかにお
か しい。
(3)証拠が不十分だった。原審の検察側証拠は員面調書と検面調書、計五つしか
なく、物証はない。一枚の現場写真もなければ、地図も図面もない。実況見分
もなく、目撃者の書いた誤った図面のみをもとに証言が行われた。さらに、被
害供述と異なる可能性の高い被害届と最初の員面調書(多分、被害者はキスを 
されそうになったとは言っていないはずだ)を隠している。供述証拠では歩行
経路が明らかになっておらず、衝突の真相を明らかにするものは何もない。
(4)被告人は、供述において、キスの否認は一貫しているが、衝突転倒について
は、なぜ自分が衝突し転んだのか全く理解していないため、答えられない。
(5)原審の弁護人もまた、衝突転倒の真相を理解しておらず、弁護側証拠もゼロ
で、弁護が全く不十分であった。
3.立証方法
(1) ビデオと写真による衝突転倒の再現
(2) 現場付近の地図
(3) 全ての供述調書に同意する。一見、被告人に不利に思える供述も、全てが
無罪証明につながる証拠となる。
 全ての真相を全面的に解明する。被害者や目撃者が嘘をついているという弁
論を展開するつもりはない。彼らの誤解の理由を解明したいと思う。
4.結び
 裁判所におかれましては、全ての証拠を取り上げ、証人尋問、被告人質問に
十分な時間を与えてほしいと思います。   
 被告人は、名誉回復のために頑張っています。

○小沢弁護人の明快な陳述が終わると、裁判長から弁護団に質問があった。
裁判長「控訴趣意書、補充書を読むと、原審弁護人は不活発で不十分な弁護を
したために、このような判決になったのであり、裁判官の判定が間違っていた
というわけではない、(つまり弁護士が悪かったからこうなった)とも読める
のですが、原審の証拠からでも、このような判決はでなかったと確信している
わけですよね」
 裁判官の質問の意図が、分かりにくかったが、弁護側としては、当然、原審
での有罪判決は、提出された証拠から判断しても不当である、と答えた、と思 
う。(すいません、とにかく、ここら辺から何となく裁判官の意図がよく分か
らなくなってくるので、弁護団の受け答えも歯切れが悪くなってくるのでした)
 で、裁判官はこの控訴に対して検察官の意見を聞いた。検察官は、長く喋る
のはもったいないと言わんばかりに、短く吐き捨てるように「棄却されるべき」 
とだけ言った。
 続いて、証拠採用についてのやりとりが始まる。
裁判官「検察官は、原審において、供述調書の請求をすでに取り消しているの
で、弁護人が不同意を撤回しても、証拠採用の効力はありません。弁護側から
新たに請求してください。弁護人の証拠開示の請求について検察は?」
検察官「開示しません。控訴審でありますから、いずれも必要ありません。検
察官から証拠請求するつもりもありません」
 この展開は、十分予想できたものであった。
○続いて裁判官から、再び弁護人へ質問があった。
裁判官「補充書(2)の原審弁護人批判についてですが、一審の弁護活動が不十分
だったから審理のやり直しをしてほしいということですか。つまり、新たな証
拠調べをしない限り真実は明らかにならない。原審の裁判官は、原審の証拠か
らでは、やむをえない判決したということでしょうか。だとするなら、弁護人 
の問題に裁判所は介入できませんから、そういう理由で審理をすることはでき
ません。原審の弁護人も20年くらいの経験がある方のようですし、裁判所とし 
ては、弁護士の能力がなかったから、裁判をやり直すという判断はできません」
 わざわざ原審の弁護人の履歴までも取り上げて、裁判官が「弁護人批判」を
批判するような物言いで質問するその意図をはかりかねる弁護団。
小沢「図面も地図もない、目撃者のいいかげんな図面による誤認。真相解明も
つくされていない。審理を十分つくしてほしいということです」
裁判官「この法廷(控訴審)で証拠調べをすることはありません。これだけの
証拠関係で判決した原審が、審理不十分であると是認できるかどうか判断しま 
す。その上で是認できれば、証拠調べに踏み込みます。もう一度、第一審をや
ってもらうしかない。それと、原審の検察官が求めて、弁護人が不同意とした
ものは、すでに原審の検察官が撤回し、控訴審の検察官が請求しないのですか
ら、証拠にしようがありません(この話も繰り返しのような気がしたが、また
念を 押すように言ったのである)」
 そして、弁護側の意見を聞くでもなく、一方的に断言した。
裁判官「被告人質問は、新たに思い出した事実があるわけではありませんので、
この場でする必要はありません」
 もはや、弁護人の意見を聞くというよりは、何かを諭し、反論も許さないと
いう裁判官の弁論大会になっていたが、高圧的な態度では決してなかった。
裁判官「裁判所としては、趣意書、補充書を読んで判断します。時に控訴審で
弁護側から新たな証拠提出があったとき、検察官も、そこまでやるならこちら
も新しい証拠を提出するということがありますが、その点、検察官はどうです
か(この質問も、控訴審では一切証拠調べはしないという念押しを検察官にも
確認 するという感じでなされたような気がした)」
検察官「有罪立証方向での証拠提出はしません」
 ついに、一切の証拠を認めず、被告人質問すらも許されず、今日で結審とい
う最悪の事態となった。
 ここで弁護団は、少し時間をもらって協議したが、結局、次回判決を了承し
た。
 裁判終了後、あの喋り続け、何かを弁護団に悟らせようとしていたとしか思
えない裁判長の訴訟進行に、もしかしたら「審理不尽、破棄差し戻し」ではな
い かという声があがったのだが、果たして・・・・・・

次回 2003年7月22日(火)14:00 718号法廷
STOP!痴漢えん罪!

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