沖田国賠事件



第一回口頭弁論傍聴記録

第二回口頭弁論傍聴記録
第二回口頭弁論傍聴記録ーその2

第三回口頭弁論傍聴記録
第四回口頭弁論傍聴記録
第五回口頭弁論傍聴記録
第六回口頭弁論傍聴記録
第七回口頭弁論傍聴記録
「文書提出命令」経過報告(9/01/04)
第八回口頭弁論傍聴記録
第九回口頭弁論傍聴記録
ホームページもご覧ください
             訴    状                          2002年4月19日    東京地方裁判所八王子支部民事部 御中            原告訴訟代理人                弁護士    鈴   木   亜   英                 同     林       勝   彦                 同     吉   田   健   一                 同     山   口   真   美                 同     安   原   幸   彦   同    佐   藤   誠   一   同    生   駒       巌   同    今   村       核                 同     鈴   木       剛            原   告     X   〒163−8001 東京都新宿区西新宿2丁目8番1号               被   告    東     京     都    上記代表者東京都知事   石  原  慎  太  郎 〒100−0013 東京都千代田区霞が関1丁目1番1号       被   告         国 上記代表者法務大臣    森   山   真   弓        被   告   Y 損害賠償請求事件  訴訟物の価額  金1,135万5,800円  貼用印紙額   金    6万3,600円          請 求 の 趣 旨  1 被告らは,原告に対し,各自金1,135万5,800円及びこれに対する本 訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。  2 訴訟費用は被告の負担とする。  との判決並びに仮執行の宣言を求める。          請 求 の 原 因 第1 事実経緯  1 原告    原告は環境関係の機械メーカーであり東証1部上場企業である株式会社○○に 勤務する会社員で,本件当時同社のシステム運用センターに所属する課長の職にあっ た。    また,原告は妻と円満な生活を送っている。  2 本件の真相   1999年9月2日午後11時過ぎ,原告はJR吉祥寺駅より,帰宅のため高 尾駅行き快速電車に乗車した。   原告は,上記電車の中央付近進行方向右側乗降口付近に立ち,つり革に掴まっ ていた。車内の混雑状況は,乗客の身体が互いに触れあわない程度であった。   電車が吉祥寺駅を発車した頃,原告のすぐ目の前に立っていたY(以下「Y」 という)が,携帯電話で通話していた。   Yの通話は,車内の迷惑も顧みず,かなり大きな声であり,傍迷惑であった。 電車が三鷹駅を通過してもなお通話をやめる気配がないので,原告はYに対して, 「電車の中で携帯電話は止めなさい」と注意をした。   注意されたYは,原告に対し,吐き捨てるように,「分かったわよ」と大声で 怒鳴って電話を切った。 Yにあまりにトゲのある声を出され,その場にとどまるのが気まずくなった原 告は,つり革に掴まっている乗客の間を通って移動し,Yから離れた座席の前のつり 革に掴まって立っていた。 3 虚偽の被害申告 電車がJR国立駅に到着すると,Yは電車を降り,国立駅南口交番あるいはそ の付近に居た警視庁所属の警察官(以下「警察官」という)に対し,実際は痴漢の被 害を受けていないのに,自分が原告より痴漢の被害を受けたという,虚偽の事実を申 告した。  4 逮捕行為    原告はJR国立駅で電車を降り,駅南口改札を通り,駅前道路の横断歩道を 渡ってバス停付近の歩道を歩いていた。この時,背後から近づいてきた警察官が原告 に「今電車の中で痴漢をしませんでしたか」と尋ねた。原告は「何のことですか」と 応対した。すると,もう1人の警察官が小走りに近づいてきて,原告に対し,「逮捕 する」と告げた。これに対し原告が逮捕状を見せるよう求めると,警察官は,「そん なものは要らないんだよ。女がやられたと言ってるんだから」と言いながら,両脇か ら原告の腕を抱え,その身体を拘束し,原告を逮捕した。   2人の警察官は原告の腕を抱えて,近くにあったパトカーに連行し,立川警察 署に引致した。  5 勾留請求及び勾留延長請求    1999年9月4日,原告は送検され,弁解を録取された。その際,原告は, 犯行を否認したが,東京地方検察庁八王子支部検察官は,原告の勾留を東京地方裁判 所八王子支部裁判官に対し請求した。この結果,9月5日に,原告に対する勾留決定 がなされた。    原告に対する被疑事実は,以下のようなものであった。 「被疑者は,平成11年9月2日午後11時26分ころから同午後11時29 分ころまでの間,東京都三鷹市下連雀3丁目46番1号所在東日本旅客鉄道株式会社 三鷹駅から東京都武蔵野市境1丁目1番2号所在武蔵境駅に至る中央線下り東京駅発 高尾駅行快速電車(列車番号第2229H号)10両編成中央付近進行方向右側乗降 口付近において,同車両に乗車中の大学生Y(20歳)に対し,同女の左外側大腿転 子部付近に自己の股間を押しつける等し,もって公共の乗り物において同女を著しく 羞恥させ,且つ,不安を覚えさせるような卑猥な行為をしたものである。」    さらに1999年9月13日,東京地方検察庁八王子支部検察官は,原告に対 する勾留期間の延長を東京地方裁判所八王子支部裁判官に対し請求した。その結果, 勾留延長がなされ,原告は9月22日まで勾留された。しかし原告は処分保留のまま 釈放され,同年12月28日嫌疑不十分で不起訴処分となった。 第2 被告らの行為の違法性  1 Yの行為の違法性    Yは警察官に対し,実際は痴漢の被害を受けていないのに,自分が原告より痴 漢の被害を受けたという,虚偽の事実を申告したものである。Yの同行為は,刑法第 172条の虚偽告訴罪に該当する違法行為である。  2 警察官の行為の違法性  (1)  本件警察官は,1999年9月2日午後11時過ぎ,JR国立駅南口ロータ リー付近において,原告を公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する 条例違反の嫌疑で現行犯逮捕した。 本件現行犯逮捕に際し,原告が現に罪を行い,又現に罪を行い終わった者に該 当しないことは明らかである。すなわち、本件現行犯逮捕行為は,現行犯逮捕の要件 である「犯罪と犯人の明白性」及び「犯行の現行性・時間的接着性」のいずれも存在 しない。  (2) 現行犯逮捕手続上の違法   ア 「犯罪と犯人の明白性」の要件の不存在     逮捕の時点において,原告を逮捕した警察官に与えられた資料は,自称被害 者であるYの通報以外には存在しなかった。     原告はJR国立駅で電車を降り,自宅へ帰るため,同駅南口のバス停留所付 近を徒歩で通過していたところであった。そこに至るまで,原告は誰かに呼び止めら れたり,非難を受けるというような事実はなかった。     犯罪の存在及び犯罪と原告を結びつけるような客観的事情は全く存在しな かったのである。     このように,本件逮捕においては犯罪と犯人の明白性の要件が存在しないこ とは明らかである。  イ 「犯行の現行性・時間的接着性」の要件の不存在     本件被疑事実によれば,犯行があったとされるのは,JR中央線の三鷹駅か ら武蔵境駅の間のわずかな区間に過ぎない。その後,原告は車内で場所を移動し,国 立駅に至るまで,相当な時間も経過していた。さらに,電車を下車した後,原告は歩 いて自宅に向かう途中本件逮捕現場に至ったのである。     このように,本件逮捕においては,犯罪の現行性,時間的接着性の要件が存 しないことも明らかであり,現行犯逮捕手続の要件をいずれも欠くものであった。   (3) 準現行犯逮捕手続上の違法     また,本件逮捕行為は,準現行犯逮捕手続の要件も欠くものである。  ア 準現行犯逮捕が適法とされるには,以下のような刑訴法第212条第2項の 1号ないし4号のいずれかにあたることが必要とされる。 [1] 犯人として追呼されているとき。 [2] 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる凶器その他の物を所持し ているとき。 [3] 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。 [4] 誰何されて逃走しようとするとき。 しかし、本件逮捕時,原告には以上の要件にあたるような事実は一切存しな い。 イ また,アの要件の存在を前提にして,準現行犯逮捕では,犯人が特定の犯罪 を行ったこと,及びその犯罪を行い終わってから間がないことが逮捕者に明らかであ ることが必要とされる。  ところが,本件逮捕の時点で,警察官に与えられた情報はYの被害申告のみ なのであるから,この要件も存しない。   ウ さらに,犯罪の実行行為終了後,時間的に相当接近していることも必要とさ れる。しかし,本件被疑事実によっても、原告とYの乗車した列車がJR武蔵境駅に 到達した時点ではすでに犯罪の実行行為は終了しているというのであるから,この要 件も存しない。    このように,本件逮捕行為が,準現行犯逮捕手続における適法性の要件をも 全く欠き,違法であることは明らかであった。 (4) 以上より,本件逮捕時に現行犯もしくは準現行犯逮捕の要件を満たしていな いことは当該警察官らにとって明らかであった。にもかかわらず,原告を逮捕し,そ の身柄を拘束した本件逮捕行為の違法性は明白である。  3 検察官の勾留請求手続の違法 (1) 違法な逮捕に基づく勾留請求  本件は,勾留請求の時点において,明らかに異常な経緯による逮捕であって, 現行犯ないし準現行犯逮捕の要件をいずれも充たさないことは前述のように明らかで あり,これらの事情は,現行犯人逮捕手続書等により検察官の知りうるところであっ た。当該検察官は本来このような違法な逮捕をチェックするべき立場にありながら, 何らその役割を果たさなかった。  このように本件では勾留に先立つ逮捕手続が違法だったのであるから,本件 勾留請求自体も明白に違法である。 (2) 被疑者を勾留しうるためには,勾留の理由と勾留の必要性がなければならな い(刑事訴訟法60条)ところ,本件被疑事件については,下記のように当該検察官の勾 留請求の時点において勾留理由及び勾留の必要性は全く認められなかった。 ア 相当な嫌疑の欠如 勾留の理由として,罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること, すなわち,通常逮捕における相当な理由よりも,ある程度高度な嫌疑が必要とされ る。しかし,下記のように,本件については罪を犯したことを疑うに足りる相当な理 由は全く認められなかった。 本件勾留請求時において,本件が普通に聞けばありえない話であることは検 察官にとって明白であった。すなわち,上記のように原告は,携帯電話による通話を 行ない,迷惑行為をしていたYを注意しただけであった。そして、原告自らYと離れ た場所に移動した。そもそも,Yは,虚偽の被害申告をするまでの間に、被害を訴え たり、原告に対する非難や注意の言動を何らとっていなかったのである。これらの経 緯を普通に聞けば,原告が痴漢をしたなどということはありえない話であった。 さらに,本件勾留請求の時点において,十分な証拠のないままなされた逮捕 であることは検察官にとって明白であった。すなわち,本件においては,被疑事件の 嫌疑を基礎づける資料は実質的にはYの被害申告しかなかったのであるから,少なく とも,原告に対して任意同行を求めた上で,Yの申告の内容を十分に聞いてから原告 を逮捕するか否かを判断すべきであった。そうであるにもかかわらず,本件では,そ のような事情聴取すら何ら行なわれていない。本件被疑事件の嫌疑を基礎づける客観 的・合理的な証拠はなかったのである。 このように,本件勾留請求は,罪を犯したと疑うに足りる客観的・合理的根 拠のないまま行われた違法なものである。 イ 逃亡のおそれなどの欠如 次に,勾留の理由として,住居不定,罪証隠滅のおそれ,逃亡のおそれのう ち,いずれか1つの理由が必要とされる(刑事訴訟法60条,207条1項)。 しか し、下記のように,本件被疑事件について本件勾留請求時には逃亡のおそれ及び罪証 隠滅のおそれは全く認められなかった。 [1] なんら逃亡のおそれはなかった。  原告は,〇〇製作所に勤務し,月55万円の収入を得ている課長職にある者 であり,妻との円満な生活を送っている者である。罰金5万円の軽微な犯罪のために 仕事を捨て,妻と家庭を捨てて逃亡することなど到底ありえない。 [2] 罪証隠滅のおそれもなかった。  隠滅すべき対象となる証拠はなく,証人も被害者と称する女性Y以外には存 在しない。 また,本件被疑事実に関しては,Yの供述が重要な証拠となりうるとして も,原告がYと面談し,原告に有利な供述をするように強要するおそれはまったくな かった。すなわち,原告は,これまでYとはまったく面識がなく,その住所や電話番 号等の連絡先も知らなかったものであり,原告からYに対して連絡を取ったり,面談 したりすることは全く考えられない状況であった。また,原告は,日ごろは,JR南 武線谷保駅から登戸駅,さらに小田急江ノ島線を利用して,藤沢市にある勤務先まで 通勤しているものであり,JR中央線は,原告の通常の通勤経路とも異なっていたの であるから,日常の通勤などで原告と顔をあわせるおそれもなかった。そもそも,本 件のような法定刑が5万円以下の罰金又は拘留・科料という軽微な犯罪の容疑を晴ら すために,証人等威迫罪(刑法105条の2 法定刑が1年以下の懲役又は20万円 以下の罰金)ような重い犯罪に該当する行為を犯してまでYと強いて面談し,証拠の 隠滅を図るようなことは通常考えられない。 以上のように,本件について罪証隠滅のおそれはまったくなかった。  [3] このように,本件勾留請求の時点において,原告には逃亡のおそれも罪証隠 滅のおそれもなかったことは明白となっていたのであり,本件勾留請求は,勾留の理 由のないままに行われた違法なものである。  ウ 勾留の必要性の欠如 本件被疑事件は,法定刑が5万円以下の罰金という軽微な事案である上に, 原告は安定した家庭生活を営み,勤務先にとっても必要な仕事を任され課長職につい ている者だったのであるから、本件は勾留するまでもない事案であった。 このように本件には勾留の必要性も全くなかった。 エ 不当な目的による身柄拘束  以上のように,原告には,逃亡のおそれも証拠隠滅のおそれも全くないので あるから,原告に対する身柄拘束の真のねらいは,原告を家族や仕事から切り離し, 原告を長時間にわたって孤立させ,精神的・肉体的に苦痛を与える一方で,自白すれ ば略式起訴による早期の釈放が可能になるなどと誘導することで自白をさせることに あるというほかない。現に,取調の中で検察官は,原告に対し,「クロがクロと認め るのとクロがシロと言い張るのとでは罪の重さはどっちが重い」「情報が知りたいだ ろう。証拠があるけど教えないよ。どうする。」等と自白をせまり,原告が無実を訴 えると「私は何もしていません,無実ですを繰り返す,それだけしか言うことができ ないのか。自分のことしか考えていない,自分だけの小さな世界に閉じこもっている に過ぎない,自分中心の小さな生き方しか分からない,そんな人間だ。」と原告を罵 倒し,また,「覚悟しとけ」と怒鳴りつけるなどし,執拗に自白を迫っている。  勾留は,被疑者から自白を獲得するための制度ではないし,供述調書に署名 捺印させるための制度でもない。自白を得ることを目的とする勾留制度の運用は,黙 秘権を保障した日本国憲法第38条1項や刑事訴訟法第198条2項に違反するもの である。 (2) 以上のように,本件被疑事件について,本件勾留請求時に勾留の要件を充たし ていないことは当該検察官らにとって明らかであった。にもかかわらず,原告に対す る勾留請求をし,その身柄を拘束した検察官の行為には明白な違法がある。  4 検察官の勾留延長請求手続の違法について (1) そもそも本件においては,逮捕,勾留自体が違法であり,不要だったのである から,勾留延長も不要だったのであり,原告は当然に釈放されるべきであった。 (2) また,被疑者に対する勾留延長請求が認められるためには,「やむを得ない事 由」があることが必要とされる。しかし,本件勾留の基礎となった本件被疑事実は, 前述のように単純な一個の事実であり,関係者もY1名にすぎず,勾留期間を延長し てまでさらに取調べをするのでなければ起訴もしくは不起訴の決定をすることが困難 な場合とは到底いい難い事案であった。実際にも,嫌疑がないことは明白であって, 原告に対する取調べが不要であることは当初から検察官にとって明白であった。  このように本件について「やむを得ない事由」は全く認められない。  にもかかわらず勾留延長がなされた。その目的を強いて言うならば,自白を獲 得するための引き延ばしであったというほかない。 (3) その上,本件勾留延長は「被疑者取調べ未了」を理由とするものであるが,被 疑者の取調べを目的とする勾留延長は,許されない。勾留は,被疑者の取調べを目的 とするものではないから,これを理由とする勾留延長が許されないことは当然であ る。「期間満了により効力を失うべき勾留が,被疑者の取調べ未了を事由として延長 されることになれば,この延長された勾留は被疑者の取調べを目的とするものに変質 し,被疑者の出頭拒否権を剥奪して,出頭を強制する手段に転化する」(井上清「逮 捕,勾留の目的と被疑者の取調べ」『刑事実務ノートV』134〜135頁)。 (4) 以上のように,本件被疑事件について,本件勾留延長請求時に勾留延長の要件 を充たしていないことは当該検察官らにとって明らかであった。にもかかわらず,原 告に対する勾留延長請求をした検察官の行為には明白な違法がある。 5 著しい違法性 (1) 本件逮捕時,原告は,自宅最寄り駅である国立駅で下車し,国立駅南口バス停 留所の前を徒歩で通過して,家族の待つ家へ帰ろうとしていたのである。    このような原告の行動は,まさに一般の会社員が帰宅しようとしている日常の 行動といえる。  ところが,本件で警察官は,Yの被害申告を鵜呑みにして原告を痴漢犯人と決 めつけ逮捕したのである。  仮に被害申告一つで,日常生活を送っている市民を逮捕することが可能である とするならば,一般市民は,いつ何時,自らが逮捕されるかもしれないというおそれ を抱かざるを得なくなり,安心して生活することは到底できない。  逮捕行為は,被逮捕者の身体の自由を奪い,著しい名誉権の侵害をもたらすも のであるから、本件のような場合、仮に被疑者を逮捕するとしても,少なくとも事前 に任意で事情を聴取するなど,慎重な手続がなされなければならない。  にもかかわらず,本件において警察官は,極めて安易に原告を痴漢行為の犯人 と決めつけ,原告の言い分を全く聞かないまま逮捕している。  本件において原告は,このようなあまりにずさんな逮捕行為により,痴漢犯人 のレッテルを貼られ,その身柄を拘束されたのである。  (2) 本件において検察官は,直ちにこのような不当な身柄拘束を止め,原告を釈放 すべきであった。   もちろん,前述したように,検察官にとっても,勾留の理由や必要性がないこ とは明白であった。にもかかわらず,事実に反する自白獲得を目的として,勾留請求 さらには勾留延長の請求を行い,そのために,原告は,20日間にわたって不当な身 柄拘束を受けたのである。しかも、原告は痴漢犯人のレッテルを貼られ,家族や社会 と切り離され,失職の危険に直面しながら過ごすことを余儀なくされた。 以上のように,本件警察官及び検察官の違法性は著しいものである。 第3 被告らの責任 1 被告国の責任  検察官は国の公権力の行使に当たっていた公務員であって,前記検察官の各行 為はその職務を行なうにつきなされた不法行為にほかならない。したがって,被告国 は,国家賠償法第1条第1項に基づき,原告の被った後記損害を賠償する責任を負 う。 2 被告東京都の責任  警察官は東京都の公権力の行使に当たっていた公務員であって,前記各行為は その職務を行なうにつきなされた不法行為にほかならない。したがって,被告東京都 は,国家賠償法第1条第1項に基づき,原告の被った後記損害を賠償する責任を負 う。 3 Yの責任  本件逮捕勾留の発端となったYの虚偽の被害申告行為は,刑法上の犯罪行為に も該当する違法行為であり,不法行為にほかならない。したがって,Yは,民法70 9条に基づき,原告の被った後記損害を賠償する責任を負う。 第4 損害 1 慰謝料  原告は,逮捕勾留によって,21日間にわたって違法に身柄を拘束され,生活 及び行動の自由を全く奪われた。その間、原告は,捜査における指紋・写真等の採 取,身体検査,手錠をはめられ腰縄につながれての押送,検察官らによる人格に対す る罵倒などにより自尊心を傷つけられるなどの耐え難い屈辱を受けた。身体・行動の 自由の侵害のみならず、人格そのものに対する攻撃、侵害は重大である。 しかも、痴漢という汚名を着せられ,原告がこれまで築いてきた社会的信用を 大きく傷つけられた。  また,原告の逮捕勾留によって家族の平穏な生活が破壊された。そのうえ,原 告を釈放させ,不起訴を実現するために,原告自ら多大な犠牲を余儀なくされるとと もに、家族に多大な負担をかけた。そのこと自体が,原告にとってもたいへんな精神 的苦痛であった。  さらに,原告は,本件逮捕勾留を原因として会社に対して始末書を提出して謝 罪することを余儀なくされ,多大な屈辱を受けた。のみならず,原告は,当時,情報 通信制御事業本部に配属されており,当該業務に不可欠であるパソコン技能を修得す るために,会社のパソコン研修を受講する予定であったが,本件逮捕勾留により,そ のパソコン研修を受ける唯一の機会を失った。同パソコン研修を受けなかったことに より,原告はいまだに仕事に不便をきたしており,大きな損害を受けた。  このように原告は,警察官及び検察官の不法行為により肉体的,精神的に極め て大きな損害を被った。この原告の精神的苦痛を慰謝するには,少なくとも1,00 0万円を要する。 2 休業損害等  原告は,逮捕拘留されていた間,会社も休まなければならなかったのであり, その間の休業損害が生じている。  原告の一か月の収入は,金55万1,500円であり,1日あたり1万7,7 90円であるから,20日間で合計35万5,800円である。 3 弁護士費用  原告が本件訴訟を提起,遂行するためには,弁護士の協力が不可欠であるか ら,弁護士費用も本件違法行為と相当因果関係のある損害というべきである。その額 も着手金・報酬合わせて,請求額の1割に相当する金100万円を下回ることはな い。 第5 よって,原告は,国家賠償法1条1項に基づき,被告らに対し,各自金1,1 35万5,800円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所 定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 附 属 書 類      1 訴状副本              3通      2 訴訟委任状             1通

STOP!痴漢えん罪!

戻る