勾留307日! 痴漢えん罪裁判の実態〜再審請求に向けて


       2004年度荒木ゼミ論文集(エッセイ扱い)

勾留307日! 痴漢えん罪裁判の実態〜再審請求に向けて
                              伊藤 直樹

一 事件概要
ニ 現行犯逮捕の解釈
三 取調べの実態
四 裁判上の問題点
  1 起訴事実の疑問
  2 犯行時間の疑問
  3 被害者供述の明らかなる変遷
  4 人体構造上ムリ
  5 犯人識別と立ち位置認定に対する疑問
五 まとめ

一 事件概要

 私は1999年4月13日に、埼京線池袋駅から新宿駅に向かう電車内で、事件に巻き込ま
れました。池袋駅の乗降が終わり、電車が発車してからのことです。私とT字型に接触し
ていた女子高校生が、私のほうを振り返り「やめてください」といってきました。私は、
とっさに痴漢に間違えられたと思い、「俺じゃないよ」と否定しました。そしたら、私の斜
め前方にいた男性が「女の子が嫌がっているんだからヤメロよ」といったので、「オレじゃ
ないといっているだろう。お前(俺が触っているとこ)見たのか」と言い返したところ、
「下に目があるわけではないから見れない」とハッキリいいました。
 そして、男性と新宿駅に着くまで睨み合いが続きました。男性と言い合ってしばらくし
た頃、女子高校生は、私の左手を突然、思い出したようにガッと掴んできました。しかし、
私は、自分が何もしていないのに逃げるような行動をするのも嫌だし、あとで女性の腕を
振り払ったことを口実に「逃げた」と難癖つけられるのも嫌だったので、されるがままに
しておきました。
 新宿駅に電車が着くと、ホームに警察官らしき人物が数名おり、その人たちに向って、
睨み合っていた男性が「おまわりさーん、この人痴漢です。捕まえてください」と言いま
した。後日、聞いた話ですが、ちょうど4月というのは『痴漢取り締まり強化月間』にあ
たっており、鉄道警察隊がいたとのことでした。そして、鉄道警察隊の人に「とりあえず
駅事務所で話そう」と言われ向いましたが、そこでは話し合いはされないどころか、被害
者女性、助勢男性とも部屋を別々にされたままでした。すぐに「それ以上の話は別なとこ
ろで」と、白いワゴン車に乗せられて移動した先が新宿警察署でした。その日から、第一
審が終わる(平成11年11月18日結審)まで保釈が認められず、平成12年2月10日に保
釈されるまで307日間勾留されていました。
 私は、鉄道警察隊の事務所に連れて行かれたとき、そのまま「第三者立会いのもと、お
互いの言い分を言い合って勘違いでした」で帰れると思っていたし、警察署に連れて行か
れて「逮捕」といわれたときも、不起訴になると思っていました。また、裁判になっても、
まさか証拠も目撃者も何もないのに、女性の話だけを一方的に信用して有罪になるなどと
は夢にも思っていなかったので、勝訴を信じて疑いませんでした。
 その理由は、「やめろよ」といった男性は検察官の取調べでも、「事実痴漢行為自体は見
ていなかったので、犯人の男にこんな状態で見れるわけないだろう」(平成11年4月20
日助勢男性検面調書)と、現場のやり取りを語っています。要するに、この時点で(触って
いないので当然ですが)目撃者もいないという状況です。しかも、女の子の証言によれば、
乗り込んでから電車が発車するまでの「2分間」に、スカートの上から触られ、スカート
の中から触られ、またスカートの上から触られ、パンティーのウエスト部分から尾てい骨
あたりまで手が侵入し、最後にその手が抜けて、右側のお尻のパンティー下のゴムの部分
から入ってきて、パンティーの脚の付け根のゴムの部分を指先でつかまれてそれを持ち上
げられるように感じたと、犯行態様を証言しています。
 その犯行時間が乗り込んでから電車が発車するまでの間というのです。ご存知の通り、
乗り込んでから電車が発車するまでは「数十秒」しかなく、どんなラッシュ時でも1分間
もないハズです。その短時間でまるで集団痴漢にでもあったような被害を1人の犯人から
受けたと主張しました。また、犯行当時の女子高校生と私の立ち位置に関して、女性が「真
後ろにいた」と主張しているのに対して、助勢男性と私は「女性の斜め後方にいて、真後
ろよりはズレた位置にいた」と証言しています。それでも、この2点についての客観的事
実は裁判で聞き入れてもらえませんでした。
 1審の野口佳子裁判官は「女性の証言は具体的かつ詳細である」とし、判決理由の中に
も「数分間にわたり」と現場検証もせず、裏取りも何ひとつなされていない女子高校生の
証言を盲信し、採用して判決を下しました。
 こんなバカげた話があるでしょうか。これが平等であり、正当な手続きを踏み、理性的
な判断を下した裁判なのでしょうか? 我々マスコミだって、事件や証言に際しては、慎
重に裏取りし、間違いないとなった時点で報道します。そうしなければ「訴えられたら負
ける」という保身と、誤った情報を報道する恐ろしさや、人の一生を左右しかねない重要
な仕事という認識があるからです。
 当然、怒りとともに納得が行かず控訴しました。高裁は3回目で判決というスピード裁
判で棄却。さらに、上告も棄却され、1年2ヶ月の刑が確定(未決通算と法定通算を引かれ、
実質10ヶ月)してしまいました。私は、無実なのにどうして勾留され、刑務所に行かなく
てはいけないのでしょうか? この6年間、「何故」「どうして」という疑問ばかりで、怒
りは冷めるどころか、ますます燃え盛るばかりです。今日まで必ず合法的に一審の裁判官
と取調べ検事に仇を取りたいという思いで過ごしています。
 私は、こんなことで、負けるわけにはいきません! いえ、負けたと思っていません! 
痴漢事件において日本で初めて最高裁まで行き、実刑をくらい刑務所へ行ったモノとして、
もう1度、心を奮い立たせ、日本で初めて痴漢事件で再審の重い扉を開くように準備をし、
勝つまで徹底的に闘う覚悟です。
 そして、裁判所や司法というところが、いかにいい加減な取調べをし、裁判をしている
のか。裁判官の心証のみで判断されているのかを、明記するとともに、独自に調べた疑問
点を徹底的に検証しようと思い、今回、ゼミ論の場を借りて発表したいと思います。

ニ 現行犯逮捕の解釈

 痴漢事件は現行犯逮捕です。一般人が現行犯逮捕と聞くと、「犯行が行われているまさに
その瞬間」を捕まえられたという認識です。英語でいえば「現在進行形」か「現在完了形」
ということになります。ところが、法解釈上は「過去完了」まで含まれます。『岩波コンパ
クト六法 平成15(2003)年版』の『刑事訴訟法』〔現行犯人・準現行犯人〕の項によると、
第二一二条@ 現に罪を行い、又は現に罪を行い終わつた者を現行犯人とする。
A 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終わつてから間がないと明らかに認められると
きは、これを現行犯人とみなす。
一 犯人として追呼されているとき。
ニ 贓物(ぞうぶつ)又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他のものを所持し
ているとき。
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証拠があるとき。
四 誰何(すいか)されて逃走しようとするとき。
 とあります。これを素直に解釈し、今回の事件に当てはめて考えます―――。
 まず「第二一二条@」の現行犯についてですが、被害者女性の犯人認定は、「後ろにいた
から」というものであり、犯行現場を目撃したものでもなければ、犯行がいままさに行わ
れている手を掴まれたわけでも、犯行が終わった直後の手を掴まれたわけでもありません。
また、「やめろよ」といった助勢男性も登場するが、これも「(犯行そのものは)目撃してい
ない」と主張している。よって、目撃した者が存在しないので、「現に罪を行い、又は現に
罪を行い終わつた者」かどうか判断できないので、成立しないはずである。
 次に「第二一二条A」の準現行犯人の構成要件を見てみると――――。
A−一の「追呼」とは、例えば「泥棒!」と言われ追いかけられているときなどのことで
す。
A−ニの「贓物(ぞうぶつ)」とは、「窃盗・詐欺などの犯罪行為によって手に入れた品物。
贓品。類語−盗品」(学研『現代新国語辞典』金田一春彦編)とあるので、ひったくりや万
引き、通り魔殺傷事件などが想定されます。
A−三の「被服」とは、「着るものの総称。衣服」(学研『現代新国語辞典』金田一春彦編)
とあるので、「豊田商事永野会長刺殺事件」(1985年(昭和60年)6月18日)など、衣服に
血痕が付着していたりする場合が想定されます。
A−四の「誰何(すいか)」とは、「[警備の人が]『だれか』と声をかけて名や身分を問いた
だすこと」(学研『現代新国語辞典』金田一春彦編)とあります。
 上記の中で、目撃者がいなくても「痴漢の犯人だ」と推論できるのが、「A−三 身体又
は被服に犯罪の顕著な証拠があるとき。」ではないでしょうか。
 しかし、警察も検察も衣服や触ったとされる指や爪から繊維鑑定や垢などの科学的な鑑
定は一切されていません。(注1)
 要するに、厳密にいえば、現行犯とする要件は満たされていないので、違法逮捕という
ことになるのではないでしょうか。私は、この点に深い疑問を持ち、最高裁で「現行犯逮
捕は不当だと争いましょう」といいましたが、弁護士は「うーん」と唸ったきりで、全面
に出して訴えることはしませんでした。その後もさまざまな先生方に同意見について、「何
故ダメなんですか」と聞いても、明確な回答は得られませんでした。ただ、「勝てないよ」
「無理だよ」というのみで、何故、勝てないのか今もわかりません。
 駅構内に貼ってある「痴漢は犯罪です」のポスターでは、「触っている手を捕まえましょ
う」とあるのに、実際は、目撃していなくても「後ろから手が伸びてきて、後ろを見たら
その人がいたから」という被害女性の感覚や思い込みで現行犯逮捕されてしまっています。
(注1) 多くの痴漢えん罪事件の場合は、繊維鑑定を行わないか、行っても結果が出てこ
ないので、繊維鑑定をやった事実を隠す。「正式なテープを用いなかったので、結果がでな
かった」などと言い訳に終始する。中には、『長崎事件』のように、ウソの繊維鑑定をデッ
チ上げることもした。(弁護士が調べた結果、似ても似つかない下着の繊維である事が判明)

三 取調べの実態

 「駅事務所にいけば、被害者女性と話をさせてくれて、勘違いだったとわかってくれる
だろう」と、安易な気持ちで駅事務所に行ったところ、有無を言わせず警察官に引き渡さ
れて逮捕となってしまうのだが、これは『岩波コンパクト六法 平成15(2003)年版』の『刑
事訴訟法』〔一般人による現行犯逮捕と被逮捕者の引渡し〕の項によります。
第ニ一四条 検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したとき
は、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなけ
ればならない。
〔現行犯人を受け取った司法巡査の手続き〕
第二一五条@ 司法巡査は、現行犯人を受け取つたときは、速やかにこれを司法警察員に
引致しなければならない。
A 司法巡査は、犯人を受け取つた場合には、逮捕者の氏名、住居及び逮捕の事由を聞き
取らなければならない。必要があるときは、逮捕者に対しともに官公署に行くことを求め
ることができる。
 駅事務所などに連れて行かれても、駅員は調べることができないのです。私の場合も、
持ち物検査はされたが、ただ「痴漢したのか?」「女はやられたっていってるぞ」「やった
んなら素直に認めることだな」と、こちらが反論しても、「うんうん」とは聞くが、それは
真剣に聞いているという風ではなく、聞き流して適当に相槌を打ち、時間稼ぎしていると
いう感じでした。
 そして、1時間ほど経った頃でしょうか。「それ以上いいたいことがあるなら、別なとこ
ろで」と、白いワゴン車に乗せられ、新宿警察署へ。ワゴン車の中で「今日、原稿の締め
切りがあり、昼過ぎには人と会わなければならないんです。それまでには帰してください。
必要とあれば、また明日にでも出頭しますから」と私が言うと(いま思い返せば、何と間抜
けなんでしょう)、鉄道警察隊員は「さぁ、俺に言われてもわからねぇよ。そうお願いする
んだな」とそっけない対応でした(当たり前か)。
 そして、新宿署に到着すると、4階の刑事課(捜査一課)に連れて行かれました。いきな
り恰幅のいい猛者たちにダミ声で「オマエか、この変態野郎は」と、さんざん罵倒されな
がら、刑事課奥にある2畳ほどの取調室へ。そこは窓がなく、事務机が1つポンと置いて
ある寒々しく薄暗い部屋でした。ようやくまともな取調べが行われるのかと思えば、「オマ
エしかいないんだよ」の一点張り。取調べの最中に職業を聞かれて「マスコミです」と答
えたからか、身体に暴行を加えられることはなかったが、耳元でデカイ声を出されたり、
机を叩くという精神的な追い込みは何度も繰り返されました。刑事は代わる代わる入って
くるのですが、常時3人から4人に取り囲まれていました。
 テレビドラマによくあるように、若い刑事が怒鳴り、年配の刑事が「俺も男だ。満員電
車に乗って、ミニスカートの女子高校生が目の前にいたら、ムラムラっとくるよ。その気
持ちはわかるよ」とか「決してオマエが憎いんじゃないぞ。罪を憎んで人を憎まずだよ」
などと諭すという戦法でした。「このままだとどうなるんですか?」私が聞くと、「テメエ
ーのような犯罪者にそんなこと教える必要はない」と若い刑事がいう。
 こちらが、いくら否定(容疑そのものがないのだから、否認ではない)しても、一切、聞
く耳をもたず「目撃者もいるし、ダメなんだよ」というばかり。そんなことが繰り返され、
途中、女子高校生が婦警に連れられて、取調室のドアから顔を覗かせ、何事か言われ頷い
ていた。おそらく、「この人で間違えないよね」という確認だったと思うが、犯人じゃない
にしても、一緒に駅事務室に行っているのだから、そりゃ間違えないでしょう。それは、
正確にいえば、「女子高校生が犯人だと思い込んで、駅事務所に一緒にいった人はこの人だ
よね」と聞くべきでしょう。「やった」「やらない」と不毛な取り調べが数時間続いたのち、
「よしわかった。容疑否認のまま逮捕するからな」といってきたのです。証拠も何もない
のに、逮捕されるとは夢にも思わなかった私は驚きで言葉も出ませんでした。さらに罪状
が「強制ワイセツ罪」だという。ええっ!?
 そして、オモチャのように軽い手錠を両手にはめられ、腰縄をつけられ、椅子に結ばれ
たときの衝撃といったら、鉄球付きの手かせ足かせをはめられたような重さだった。頭の
中が真っ白になるという状況をはじめて体験しました。そして、調書は、駅事務所に行く
までの、前日からの1日の出来事・行動を時系列を追って順序良く語るというものでした。
 逮捕され、留置場に入れられると、翌日に検察庁に行き、さらにその翌日に裁判所に行
き勾留手続きのための勾留質問が行われました。それで「逃亡のおそれと罪証隠滅」とい
うお決まりなもので勾留決定されました。そして、20日間の勾留(私の場合は、GWがあ
ったので、実質は20日未満だった)。逮捕された日から起訴されるまでの10数日間で、
警察の取調べが逮捕当日を入れて3回。検察が送検の罪状と容疑否認の確認の調べを入れ
て3回と、1週間に1回のペースでした。調べる事が何もないのです。その間、警察官は、
「俺も忙しいんだよ。お前みたいなのに関わっていられないんだよ。早く認めろよ」とか
「まだ、いたのか。ばかだなぁ。オマエの場合は、条例違反か強制ワイセツかぎりぎりな
んだよ。認めれば、条例違反なのに。」と、言ってくるのです。
 検察の取調べも酷いものでした。「やっただろう。オマエはやっているよ」の一点張り。
雑談しては、その話になる。こちらが「やっていません」というと、「やっているよ。だっ
て、顔に書いてあるもん」と、加藤匡倫検事は言った。これには怒りを通り越して呆れる
よりほかなかった。日本の最高学府を卒業し、最難関の司法試験を合格した超エリートが、
まるで、小学生の子供のケンカのような低レベルな言葉を発したのです。
 それ以降、何を聞かれてもシカトしていると、顔を真っ赤にし、「キサマ、ナメてんのか。
何だその態度は」と、机を叩いて怒鳴り声を上げる。私は「そういう態度にさせているの
は誰ですか」と、いったきりシカトしました。警察も検察の取調べも、ただ「やっただろ
う」ばかり。実況見分もしなければ、現場検証もしない。女子高校生の着衣からの指紋採
取もしなければ、私の指からの繊維鑑定もしない。私の調書の裏取りもしない。科学的証
拠もないし目撃者もいないのないない尽くし。勾留期限が迫った前日に検察庁に行ったと
き、「強制ワイセツは何年か知っているか? 7年だよ。7年。刑務所に7年入れられるん
だよ」といったり、「記事にしようと思ってわざと、闘って刑務所いく気なんだろう。書い
てもいいけど、本当のことかけよ」と、バカにしたりする。こんなんで本当に起訴される
のか? 検察側は裁判に勝てるのか? と思っていたら、起訴されてしまった。
 さらに、驚いたのは調書が創作されているということでした。自分の調書に関しては、
「さすがライターだな。言ったことをそのまま書けばいいから楽だよ」などと、警察官が
笑いながら話していたので、ほぼこちらの話した通りのことが記載されていた。しかし、
驚いたのは、被害者と助勢男性の検面調書に実際にはなかったやりとりが書かれていると
いうことでした。
「相手の男は、私が、大きな声でやめて下さいと言ったのに、相手の男は『おされている
だけだよ』『俺が何したって言うんだ』等としらを切ったのです。すると、私の左側に立っ
ていた男の人(助勢男性)が、犯人に『やめろよ』等と注意してくれたのです。すると犯人
は『混んでいるだけだ』『ぶつかっただけだ』等と弁解し始めたので、間違いなくこの男が
犯人だと思いましたので、こんなに酷いことをしておきながら何を言っているんだと思い、
犯人に『どうしてパンツの中に手が入ってくるんですか』と怒ったように言い返してやっ
たのです」(平成11年4月21日付被害者検面調書)
「犯人の男は、大きな声で女子高校生に注意されて、女子高校生に対して、『俺がなにをし
たんだ』『押されているだけだよ』等と言い返しました。そして、女子高校生は、これに対
して、かなり怒った様子で、『じゃあ、何で下着の中に手が入ってくるのよ』と反論してお
り、犯人がパンツの中まで手を入れて痴漢していたことがわかりました」(平成11年4月
20日付助勢男性検面調書)
 何も知らない人が読めば、こういう事実があったのだろうと思いますが、全くありませ
んでした。だいたい、満員電車の中で女子高校生は、「やめてください」の言葉しか発して
おらず、16歳の高校1年生。しかも、4月で入学したてということを考えれば、注目を集
めた衆人環視の中で「どうしてパンツの中に手が入ってくるんですか」などと、大声でい
えるだろうか。それにスレていない女性は「パンティー」を指すとき、まず「パンツ」と
いう言葉は遣いません。若い女性が「パンツ」といえば、それは「ズボン」を意味する場
合です。本来の「パンツ」は「下着」というハズです。この語彙の使い方をみても、検面
調書が被害者の発言を口述筆記されたものではなく、創作されたものだということは一目
瞭然です。事実、一審の野口佳子裁判官は、何度も「下着」と言う言葉を使って被害者女
性に質問していました。
 そして、この一文が一審、二審とも、被告人の否認供述の信用性を低めている要因とな
っているのですから、シャレになりません。一刻も早く、警察・検察における取調べ状況
を、被告人のみならず被害者や目撃者など関係者においても客観的で透明にする必要があ
ります。

四 裁判上の問題点

1 起訴事実の疑問
 起訴状では、「同女のパンティーの中に手を差し入れて臀部及び陰部付近を撫で回すなど
し、もって、強いてわいせつな行為をしたものである」とあったものが、東京地裁判決(平
成11年11月18日)の罪となるべき事実には、「同女のパンティーの中に手を差し入れて
臀部及び陰部付近を触るなどし、もって、強いてわいせつな行為をしたものである」と「撫
で回す」が「触る」などと態様が曖昧になり、認定落ちしています。さらに重大なことは、
「私の右側のお尻のほうのパンティー下のゴムの部分から、入ってきました。パンティー
の脚の付け根の方のゴムの部分を指先でつかまれてそれを持ち上げられるような感じでし
た。私は、先ほどよりも、陰部に近いところを触られて、相手の手は、私のお尻だけでな
く、直接パンティーの中に手を入れて、陰部までをも触ろうとしているのだと思い」(平成
11年4月21日付被害者検面調書)
「右足の付け根のほうの部分……ちょうど、おしりの真ん中辺りくらいから……指をお尻
にそわせるようにして、それで、そのまま引っ掛けるような感じで」(平成11年7月16
日付第三回公判被害者供述調書)
 と、「右側のお尻の真ん中辺りの付け根部分から指がパンティーの中に侵入し、ゴムの部
分を持ち上げられた」だけであり、「陰部に近いところを触る」と思ったのは、被害者が勝
手にそう思っただけであり、事実ではないということです。
 とするならば、起訴状の「陰部付近を撫で回す」と判決の罪となる事実の「陰部付近を
触る」という犯行態様事態が存在しなかったということになりはしないでしょうか。「付近」
という言葉はかなり曖昧で、広範囲を指す場合もありますが、「右側のお尻の真ん中辺りの
付け根部分」が「陰部付近」というのはかなりムリがあると思われます。そうすると、起
訴事実そのものが「なかった」ということにならないでしょうか。

2 犯行時間の疑問
 女の子が証言した犯罪態様は、「乗り込んでから電車が発車するまでの二分間に渡って、
スカートの上から触られ、スカートの中から触られ、またスカートの上から触られ、最後
にパンティーのウエスト部分から尾てい骨あたりまで手が侵入した。最後にその手が抜け
て、私の右側のお尻のほうのパンティー下のゴムの部分から、入ってきました。パンティ
ーの脚の付け根の方のゴムの部分を指先でつかまれてそれを持ち上げられるような感じで
した」というものです。乗り込んでから電車が発車するまでは「数十秒」しかないことは
電車を利用している者にとっては明白な事実であり、朝夕の通勤ラッシュ時でさえ「1分」
ありません。
 インターネットの「えきから時刻表」の列車詳細によれば、犯行時刻とされた池袋駅朝
7時54分の電車は、「07:54着で07:54発」となっています。このようなことは、駅に連
絡するか時刻表を見れば一目瞭然で、我々も駅員に確認したところ「1分以内」という証
言を得、それを控訴趣意書などで述べています。にもかかわらず、そんな単純な検証も怠
り、一審では「数分間」と認定しているのは、職務怠慢と言わざるを得ません。科学的根
拠は存在しないのです。根拠となっているのは、女性の錯覚した証言だけということです。
いかに、野口佳子裁判官が被害者証言を盲信しているかの一端が窺えます。

3 被害者供述の明らかなる変遷
 捜査段階では、「私のお尻をパンティーの上から撫で回した後すぐに、今度は私のパンテ
ィーのウエストのゴムの所から、パンティーの中に手を入れて、私のお尻を直接触り始め
たのです……相手の手の動きはがーと言う感じでした」(平成11年4月21日付被害者検面
調書)
「力が強いと言うよりは、動きがとても早くて、とにかくがーっと撫で回されました」(同
被害者検面調書)
 と、抽象的というか観念的で、具体的にどんな痴漢行為だったのか不明でした。ところ
が、法廷証言では、「結構強い力で……右のお尻を揉むような形で……1回や2回じゃなく
てたくさん……動きとしては……早い」(平成11年7月16日付第三回公判被害者供述調書)
と、「撫で回し」から「強い力で揉む」となっているのです。
 人間の記憶というのは、時間が経過すればするほど曖昧になってくるものです。また反
対に、強烈な出来事ならば、時間が経過しても記憶が薄れるということはないはずです。
わずか3ヶ月で、明らかに具体的かつ詳細な証言に変遷したのは、そこに何らかの(誰かの)
意思が働いたことは明確です。それほど、明らかに証言が誇張されたものになっており、
変遷しているにも関わらず、この点も一審の裁判官は無視しています。

4 人体構造上ムリ
 女子高校生の身長すら法廷で明らかになっていないお粗末な裁判でした。ただ、それは
弁護士の問題にも関わってくることなので、ここでは深入りいたしません。
 私の記憶では、池袋駅でいったん降り、乗り込む際に、奥のほうから押し出され、私の
目の前に女子高校生が立った一瞬ではありましたが、私(身長170cm)と同じかやや高い印
象がありました。「背が高く脚が長い女性だなぁ」と思ったことを記憶しています(こうい
うと、警察・検察、裁判官は、女子高校生に興味があった。痴漢してやろうと目をつけて
いたと解釈し、鬼の首を取ったように喜びます)。
 女性の証言によれば、私は彼女の「真後ろにいた」ことになっています。そして、「身動
き出来ないぐらいの混雑状況」だったとも述べています。であるならば、彼女が被害にあ
った犯行態様の「パンティーのウエスト部分から尾てい骨あたりまで手が侵入した」と「私
の右側のお尻のほうのパンティー下のゴムの部分から、入ってきました。パンティーの脚
の付け根の方のゴムの部分を指先でつかまれてそれを持ち上げられるような感じでした」
は人体構造上、両立することは不可能と言わざるを得ません。
 まず、被害者女性と私との身長がほぼ同じと仮定したとき、脚の長さがわからないので
正確なことは言えませんが、「脚の付け根」のほうの犯行態様は、不自然さなく行えるが、
「ウエスト部分から尾てい骨あたり」まで手を垂直に下ろすことは手首の骨格上不可能で
ある。てのひらを上にした状態で、手首が外側に90度以上曲がるかどうかは、ほんの数
秒あれば誰でもわかることです。さらに背伸びしないと、ウエスト部分から手を垂直に入
れていくことは出来ません。
 逆に、被害者女性が私より低いと仮定すれば、「ウエスト部分」から手を差し入れること
は容易いでしょうが、「脚の付け根」の方は屈まないと不可能でしょう。満員電車の中で、
屈んでいればそれは明らかに不審な行動だし目立ちます。痴漢というのは、満員電車や女
性が身動き出来ない状況を利用して、女性にイタズラをするものというのが常識的な考え
方だとするならば、明らかに周囲からバレバレのような不自然な行動はとらないはずです。
 と、するならば、どちらかの被害があったか、別々の人にやられたか(複数犯)と考える
のが自然であります。また、真後ろに密着した状態で、ウエスト部分から尾てい骨に沿っ
て、垂直に手を下着の中に入れるという行為は、相当の身長差がなければ人体構造上不可
能なことなのです。この部分も検証することなしに看過され、女性証言を鵜呑みにした判
決となっています。

5 犯人識別と立ち位置認定に対する疑問
 女性の証言によれば、私は彼女の「真後ろにいた」ことになっています。そして、「身動
き出来ないぐらいの混雑状況」だったとも述べています。そして、彼女は右肩にカバンを
かけていたので、「振り返って『やめてください』といったら、後ろにいた人と目が合った
ので、犯人だと思った」と述べています。しかし、ギュウギュウ詰めの満員電車で、真後
ろにいる人間を見て目が合う状況というのは、首を動かしただけでは見えません。首をめ
いっぱい動かし、さらに肩も同時に20度以上回さなければ相手の顔をはっきりと識別で
きないはずです。また、私は女子高校生との位置関係を「私と女子高校生の左肩がT字型
に接触していた」と主張しています。(被害者側に立っている)助勢男性も「被害者女性の
左斜め後ろに犯人がいる」(平成11年4月20日付助勢男性検面調書)と、添付見取り図に
書き込んでいます。
 2対1なので、常識から考えれば、どちらの位置関係が正しいかは明白なのですが、助
勢男性と私が主張している位置関係を正しいと認定し、「右側のお尻を中心に痴漢された」
という女子高校生の発言も正しいとすると、私では犯行がやりづらくなってしまいます。
犯人は別にいたということになってしまうので、1審の野口佳子裁判官は「B(助勢男性)
は、被告人がA(被害者女性)の真後ろにいたと明確に供述し、B(助勢男性)なりに被告人が
犯人と思った理由を説明していること、口論になった際にはA(被害者女性)が少し左側に
振り向いたことからそのような図になったとも思われる」(平成11年11月18日判決文)
 と、しているが、助勢男性は当時の混雑状況を「ギュウギュウの状態でした。……私自
身も上半身をひねること位なら出来そうでしたが、身体の向きを変えることは出来ない事
様態でした」(平成11年4月20日付助勢男性検面調書)
 との証言を無視し、裁判官の“自由心証”を最大限に生かした可能性認定をしています。

五 まとめ

 このほかにも数々の疑問点があるにもかかわらず、裁判所や警察・検察は被告人・原告
双方の証言の検証は何一つなされていません。一審の野口佳子裁判官は「女性の証言は具
体的かつ詳細であり、不自然、不合理でない」と結論付けているが、これは暴論としか言
えません。また、控訴趣意書等で、数々の単純な疑問点を指摘したにもかかわらず、二審
の高裁判決は、「確かに、本件においては、犯人と被告人との同一性を認めるべき直接的な
証拠としては、被害者の原審証言しかなく、これを裏付けるべき客観的証拠に乏しいが、
本件のような手口、態様で敢行された犯行状況等からすれば、特段異とするに足りるもの
ではなく、このことが被害者の原審証言の信用性を左右するものとは認められない」(平成
12年5月17日高裁判決文)
 という苦しいものでした。普通、客観的証拠が乏しければ(というか、警察・検察によっ
て創作された調書と法廷で検察官から誘導された証言しかない)、「疑わしきは被告人の利
益に」という原則に立ち返り、不起訴や無罪にするべきです。いかに強引な判決をしてい
るか、裁判所自体の客観性・合理性に欠けたところかがわかる。被害者女性の証言を盲信
し、不利なことは全て看過するのであれば、別に一流大学を出て難しい司法試験に合格し
なくても誰でもできるのではないでしょうか。
 何故、痴漢事件だけ、たったひとりの女性証言(その証言事実に無理があろうとなかろ
うと)を唯一の「証拠」として、犯罪事実を認定し、人の一生を決めてしまう安易で無責
任な裁判がまかり通っているのでしょうか? 私の願いは、殺人事件やその他の凶悪事件
と同様に、キチンと証拠に基づいた調べをし、たとえ被害者の証言であろうと裏取りをし、
不可能なら不可能であると認める当たり前の裁判をしてほしい。ただ、それだけです。
STOP!痴漢えん罪!

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