痴漢えん罪の原因とその防止策


 
1 痴漢えん罪は市民生活を脅かしている
 痴漢が憎むべき犯罪行為でありその犯人の摘発が必要であることに、異論は
ない。しかし、痴漢を扱う刑事手続とその運用が痴漢えん罪を多数発生させて
いる現状を、看過し容認することはできない。何故なら、痴漢えん罪被害者の
多くは、犯行を否認しているが故に長期間勾留されて失職や家庭崩壊を余儀な
くされており、反省していないからと実刑を科されていて、一市民としての生
活を根底から覆されているからである。身に全く覚えがなくとも、女性から痴
漢犯人と名指しされれば、犯人扱いされてのアリ地獄。通勤のためなど電車に
乗る男性すべてにとり、痴漢えん罪の防止は決して他人事ではない。
 「痴漢事件には証拠が少なく事実認定が困難であり、痴漢被害者の言い分と
被疑者・被告人の言い分とのいずれを信用するかにより決着を付けざるをえな
い」と、言われることが多い。しかし、このような認識は、客観的根拠を欠い
た「虚偽」である。それにもかかわらず何となく説得力がありそうに見えてし
まい、痴漢えん罪の容認に通じかねないこの「常識」の内容を分析し検討して
おくことが、痴漢えん罪の防止に必要不可欠である。
 痴漢行為を実行中にその手を被害者につかまれたなど、被疑者・被告人と痴
漢犯人との同一性が明白なのが、典型的な自白事件である。ところが自白事件
の中には、警察・検察官による取調べの過程で、否認を続けると身柄拘束が続
き実刑判決を受けることとなるなどと告げられて、失職等を免れるためにやむ
をえず、身に覚えのない痴漢行為を行ったと認め、痴漢被害者の供述に沿って
作成された供述録取書に署名・指印をし、かつ、痴漢被害者との間に示談を成
立させることにより、起訴猶予処分とされたり、起訴されても執行猶予付き自
由刑の判決とされたりした事案、すなわち、本来は痴漢えん罪事件であるのに
外見上は自白事件として処理されている事案も、多数含まれている。それ故、
痴漢えん罪の防止策を考える際には、身に覚えがないと被疑者・被告人が争い
続けている否認事件のみでなく、痴漢えん罪事件であるのに自白事件と扱われ
ている事案をも、視野に入れるべきである。

2 事実認定は本当に困難か
 否認事件および外見上の自白事件において痴漢えん罪の発生を防ぐには、捜
査機関や裁判所が、痴漢被害者の述べる内容のような痴漢被害があったのか否
か、および、被疑者・被告人がその犯人であるか否かについて、両者が別問題
であることを自覚しながら、それぞれを確実な証拠に基づいて判断することが
必要不可欠である。
 否認事件における痴漢行為の内容について、痴漢被害者の主張するように、
例えば陰部を手でまさぐられたのか否かを判断する証拠は、痴漢被害者の供述
しかない。しかし、痴漢被害者の述べる被害態様が可能か不可能かや不合理か
否かなどは、車内の混雑度・停車駅と車内の人の流れ・被疑者の服装・被疑者
の股下の長さ・ホームの騒音等々、捜査機関にとり収集が容易であるのにそれ
らを収集していないので被告人・弁護人側が収集せざるをえない、客観的証拠
ないし状況証拠に照らして判断すべきである。
 携帯電話の使用を注意したことを恨まれて、被疑者が痴漢犯人であると警察
に通報されて逮捕・勾留されたものの最終的に不起訴とされた事案などは、車
内の混雑度を捜査機関が調べさえすれば、(自称)痴漢被害者による虚偽供述
であると直ちに気付いた筈である。痴漢被害者からの事情聴取を重ねる毎に、
(捜査機関の誘導に応じて)痴漢被害開始時点が時間的に前からに逆上り、か
つ、途中で可能な回避行動をしていない事案では、時間的に前に延びた痴漢被
害部分が虚偽であることが、状況証拠に照らせば明白である。すなわち、捜査
権限を有する捜査機関にとり収集の容易な客観的証拠ないし状況証拠の確認・
収集をせぬままに、(自称)痴漢被害者の供述のみに依存した事実認定を捜査
機関が行っていること、および、検察官が起訴した以上はその証拠評価に誤り
はなく、そのような痴漢行為が行われたと裁判所が事実認定してしまっている
ことが、痴漢えん罪事件の発生原因の一つである。
 被疑者・被告人と痴漢犯人との同一性については、痴漢被害者の供述と、そ
れを否定する被疑者・被告人の供述が、供述録取書や公判廷での供述として存
在する。捜査機関や裁判所は被疑者・被告人と痴漢犯人との同一性についても、
真面目な女子高校生や女子大生である痴漢被害者が虚偽の申立てをする訳はな
いからなどと、痴漢被害者の供述のみを一方的に信用した事実認定を行ってい
る。痴漢被害の有無について、そのように真面目な女性であれば、痴漢被害が
ないのに示談金の取得を目的とした虚偽の被害申告はしないであろう。しかし、
被疑者・被告人が痴漢犯人であるか否かは、被害者が真面目な女性であるか否
かとは無関係である。すなわち、被疑者・被告人が痴漢犯人であるか否かの事
実認定は、痴漢被害があったか否かの事実認定とは独立に、かつ、客観的証拠
ないし状況証拠に照らして行わなければならない。また、供述の信用性は、供
述同士の対比によってではなく、客観的証拠ないし状況証拠との一致度により
判断しなければならない。ところが、捜査機関や裁判所は、痴漢被害の有無と
同一性認定とを混同してしまっており、しかも、痴漢被害者による同一性認定
供述を安易に信用した事実認定を行っていることも、痴漢えん罪事件の発生原
因の一つである。
 被疑者・被告人と痴漢犯人との同一性に疑義のない事案は、前述した典型的
自白事件となっている。これに対して、前述した外見上の自白事件は、客観的
証拠ないし状況証拠が収集されていれば、同一性認定に疑義が残った事案であ
ろう。また、典型的な痴漢えん罪事件は、同一性の有無が正面から争われてい
る事案であり、かつ、捜査権限のない被告人・弁護人側が苦労して収集し提出
した状況証拠を、裁判所が証拠採用しないか、または、たとえ証拠採用しても
信用しなかった事案である。捜査機関は、捜査機関であるが故に収集の容易な、
客観的証拠ないし状況証拠をきちんと収集すべきである。捜査機関や裁判所は、
被害者供述や被疑者・被告人供述の信用性を、それらに照らしてきちんと判断
すべきなのである。
 痴漢えん罪被害者ネットワークは、痴漢被害者に被害の忍従を強いる運動で
はない。痴漢行為はいわゆる幕を使って行われる犯罪であるから、犯人は脇や
背後の男性ではないことが多い。痴漢被害者は、痴漢被害にその場で耐え続け
ていることなく、痴漢犯人の手を犯行中につかまえてその服装を確認するなど、
同一性識別に誤認の恐れがなく、それ故に痴漢えん罪の加害者とならずに済む
ような、摘発方法を是非採るべきなのである。
STOP!痴漢えん罪!

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