日本経済論2 5 軍産複合体 (2014/11/08)
台風のために休講となった第5講については、「参加推奨企画」として実施する。「参加推奨企画」とは、主として公開講演会等のうち本講義と関連が深いものへの参加・聴講を推奨し、参加・聴講者から簡単な参加レポートの提出を受けて、平常点に加点するものである。一斉休講の場合は同一曜日に一斉補講を行うのが筋であるが、その日程の調整は簡単ではないので、上記の方法で対応することとした。内容は世界的に高い評価を受けたドキュメンタリーである ”Why we fight?” を放映するものである。全編で100分ほどになるが、2時限目に設定し昼休み中も教室使用を確保したので、時間の許すかぎり、弁当でも食べながら全編を観ていただきたい。
1.アメリカ軍産複合体
日本の政治・外交・軍事・経済に多大な影響力を持つアメリカ合衆国。その政治・経済の中枢に、軍産複合体が存在する。第2次大戦後の日本経済を理解するうえで、このアメリカ軍産複合体の理解は欠かせない。そこで、2003/03/19にアメリカによる先制攻撃で始まったイラク戦争の開戦に至る過程を事例として、軍産複合体の姿を描き出したドキュメンタリー映画 ”Why
We Fight?”(NHKによる吹き替え版VHS)を紹介する。軍産複合体は、朝鮮戦争によってアメリカが準戦時体制に移行し、戦争費用と軍拡費用を含む国防費が連邦予算の最大項目となったことで、急速に成長し定着していった。
Charlotte Street
Produced by Eugene Jarecki , Susannah Shipman・/ Written & Directed by Eugene Jarecki
NHK BS World Documentary, 1st broadcasted 2005.09.04, 2nd 2007.03.21.
(次は、NHKによる紹介)
この番組は、2005年のサンダンス映画祭で最優秀賞を受賞した作品です。世界的にも高い評価を得たドキュメンタリー映画です。
アメリカはなぜ闘うのか 前編 〜巨大化する軍産複合体〜
ベトナム帰還兵ウィルトン・セクターは、同時多発テロの日の朝、仕事に向かう途中、息子の勤務先の世界貿易センタービルから煙が上がっているのを目撃した。やがてセクターとアメリカ全体が復讐にとりつかれていくことになる。そのなかで動き出したのが軍産複合体だった。
1960年退任を前にアイゼンハワー大統領はテレビ演説を行い、「この国には制御が困難な軍産複合体が生まれつつある」と警告した。息子で元軍人のジョン・アイゼンハワーは「父は予算拡大を求めるペンタゴンと戦い続けていた」と回想する。しかし、この警告にもかかわらず兵器産業は今もアメリカ各地に巨大な工場を持ち地元選出議員にも強い影響力を持つ。
カメラは国防予算を審議する連邦議会で露骨な利益誘導の演説を行う議員たちを映し出す。こうした政治と軍産複合体の癒着の象徴として行政監視NGOから非難されるのが、チェイニー副大統領がかつてCEOを勤めたハリバートン社がイラク戦争で入札なしにイラクの油田復興など巨額の事業をペンタゴンから請け負っている問題だ。
アメリカはなぜ闘うのか 後編 〜超大国への警告〜
経済的な理由から軍への入隊を考えていた23歳のソロモンは、「軍での経験が今後の人生に活かされる」というスカウトの言葉を鵜呑みにし、入隊を決意する。9・11テロで息子を失ったセクザーは、イラク攻撃で使われる爆弾に息子の名前を刻むことで無念を晴らそうとするが、後になって、イラクとアルカイダに繋がりが無かったことを知り、国に裏切られたという大きな失望感を味わう。
イラク戦争の開戦直前まで国防総省にいた女性は、アメリカのイラク政策を決めていたのが、政府に強い影響力を持つ保守系シンクタンクのメンバーであったことを証言。巨大化した軍産複合体は、アイゼンハワーの警告通り政府機関の中で大きな影響力を獲得するに至り、何も知らない国民を戦争に向かわせている。
○ 主な証言者
ウィルトン・セクザー(元ニューヨーク市警巡査部長,9.11テロ被害者遺族,ベトナム帰還兵)
ウィリアム・ソロモン(米陸軍入隊志願者、23歳)[後編]
ダン・ラザー(CBS ニュースキャスター)[後編]
リチャード・パール(国防総省顧問)
ウィリアム・クリストル(Think-Tank「アメリカの新世紀プロジェクト」理事長)
ケン・アデルマン(国防総省 国防政策委員会メンバー)[後編]
ジョン・マケイン(上院議員:共和党)
リッチ・トレッドウェイ大佐(米空軍F117ステルス戦闘爆撃機隊指揮官)
ステルス戦闘爆撃機パイロット2名
ジェームズ・ロシェ(米空軍長官,2001-2005、元ノースロップ・グラマン・エレクトロニック・システム社長)
ウォーリー・セイガー大佐(米空軍装備局長)
アン・デュオン(国防科学者)[ベトナム難民]
ドオ・エリントン(レイセオン・ミサイル・システムズ社取締役)[前篇]
マイケル・バレンタイン軍曹(米陸軍新兵募集担当官)[後編]
スーザン・アイゼンハワー(孫)
ジョン・アイゼンハワー(息子)
ナージ・シーシャン(バクダッド遺体保管所所長)[後編]
ラムズフェルド、ウォルフォビッツ、チェイニー、ブッシュ父子、ロバート・バード(上院議員:民主党)ほかの映像記録
○ 解説的証言者
チャルマーズ・ジョンソン(元CIA顧問,1967-1973)
カレン・クウィアトコフスキ(元国防総省付中佐:空軍)
フランクリン・スピニー(元国防総省分析官,1977-2003)
ジョーゼフ・シリンシオーネ(カーネギー国際平和財団)
ゴア・ヴィダル(「インペリアル・アメリカ」著者)
チャールズ・ルイス(公共サービス調査機関)
グウェイン・ダイアー(軍事史家)
前篇の概要
1.イントロダクション
○ アイゼンハワー(Dwight David
Eisenhower)大統領離任演説(1961年1月)原文
国民のみなさん。
20世紀に入って60年の間に大きな戦争が4つ起きました。
わが国はそのうち3つに関わり、恒常的かつ大規模な軍需産業を作り出してきました。
現在、国防に携わる人の数は350万にのぼります。
巨大な軍部と軍需産業との結合は、アメリカが初めて経験するものです。
軍備の発達は必要不可欠であると同時に、大きな危険をはらんでいることを忘れてはいけません。
・・・
軍産複合体が、政府機関の中で不当な影響力を持たないよう警戒する必要があります。
・・・
何事に対しても警戒を怠らない分別ある市民のみが、巨大な産業と軍部の複合体に平和的な手段と目的を持たせ、安全と自由を手に入れるのです。
☆ Abraham Lincoln:40歳になったら人は自分の顔に責任を持たなければならない。
○ なぜアメリカは戦うのか? 市民インタビュー+発言記録
自由、民主主義、正義、民族自決、平和、世界のため
ジョン・マケイン議員、ケネディ大統領、少年・少女、クリストル、ジョンソン大統領、レーガン大統領、クリントン大統領、ブッシュ大統領
2.9.11 同時多発テロ
セクザー(元NY市警) WTCビルで息子が働いていた
C.ジョンソン CIA用語「ブローバックblowback」 秘密工作が予期せぬ反応を起こすこと
報復を受けた場合、工作の事実を知らない国民には理由がわからない
アメリカ政府は、テロ直後から「ならずもの国家の仕業」と決めつけた
ゼクサー:テロリストに「つぐないをさせる」
○ 9.12 国家安全保障チーム召集 イラク先制攻撃も話題に
第2次大戦時にはアメリカは世界に信頼されていたが、昨今は敵意を持たれている。何が変わったのか?
第2次世界大戦後、アメリカはいつでもどこかで戦争をしてきた。国民は国益のためと思っているが、実際にはどうか?
ソ連崩壊(1991/07〜12)を受け、先代ブッシュ政権のチェイニー国防長官はウォルフォビッツ政策担当国防次官らに冷戦後の世界戦略の立案を命令。1992年3月の報告書で、唯一の超大国となったアメリカは「新たなローマ帝国」となると主張。9.11テロを、この提案を実行に移すチャンス・口実にした。
→ ブッシュ・ドクトリン(2002/01/29一般教書演説など)
・テロリストだけでなく「テロ支援国家」を倒す。
・先制攻撃を辞さない。
ステルス戦闘機隊へのバクダッド南部爆撃命令(2003/03/19 3:30出撃 5:30爆弾投下)
先制攻撃の思想は以前から。原爆を事例に説明。
第2次大戦がアメリカを軍事大国にした。
自由と民主主義を守るためファシズム諸国と戦う。ベルリン陥落、焦土化した日本の敗戦は確実化。しかし、トルーマンは原爆投下を命じた。
使わなければアメリカの戦死者が100万人増える? スターリンに力の差を見せつけるため。予防戦争の始まりか。
○ 市民インタビュー なぜアメリカは戦うのか?
回答の差異の拡大 意見が多様化
セクザー 「息子のために何かしてやりたい」
新兵器開発
ぺネトレーター・精密誘導爆弾(ユニット21) ⇒ 開戦と同時にイラク指導者を攻撃する
先制攻撃の理由:大量破壊兵器の保有、テロ支援、イラク・中東民主化の障害[これは他国への内政干渉となる]
○ 市民インタビュー イラク(女性、牧夫、農民、労働者)
3.冷戦と軍産複合体の成長
○ 1950年代は危険な時代 ドミノ理論による軍拡
アイゼンハワーの抵抗 ex.重爆撃機1機の費用=30都市の学校建設
1961.1.17 大統領離任演説
軍産複合体は自由と民主主義への脅威
(軍国主義の影) 航空ショー、遊園地の射的、戦闘ゲームソフト(標的にサダムの顔)
○ 国防予算 連邦予算の最大の項目 4017億ドル>(NATO+中国+ロシア)の軍事費
1)兵器メーカー
陸軍兵器展示会 KBRを中心に、ロッキード・マーチン(Lockheed
Martin)、ボーイング(Boeing)、レイセオン(Raytheon)など
予算編成プロセス 軍需産業の新兵器の売り込み(対国防総省)
採用決定後、軍需産業は予算承認のため連邦議員にロビーイング(地元有権者の雇用確保などを訴える)
予算成立後、祝会
2)軍事サービス
71社が委託を受けている。トップ10社は積極的に国防総省の高官を役員等に採用。彼らの所得は急増する。
1992年、ハリバートン社のCEOであったチェイニー国防長官は、ハリバートンの子会社であるKBRに軍事活動民間委託案の作成を依頼(委託費900万ドル)。その後、KBRなどの軍事サービス委託とチェイニーの純資産は急増。合法的汚職システム。
○ 2002.10 連邦議会は、イラクへの武力行使権限を大統領に与える共同決議を採択
後編の概要
1.イントロダクション
アイゼンハワー離任演説の一部
前篇のテーマ アメリカが戦争の正当性をどう説明してきたか
後編のテーマ アメリカが向かおうとしている方向、そこで生じる問題
志願兵制度 − 兵士募集ポスター Every generation
has its heroes. This one is no different.
ウィリアム・ソロモンの陸軍への入隊決定までの経緯
母子家庭で育ち、最近母を亡くした。高卒のまま。軍でキャリアを積み、退役後に将来を開きたい。
募集担当のバレンタイン軍曹から、ソロモンの応募状況の説明
陸軍の兵士募集広告費 2002-03で12億ドル
志願兵制度の解説 スピニーなど
ベトナム戦争では、徴兵が中産階級に及んだとき、休戦の動きが発生した
徴兵制から志願制に変更したあと、兵士出身階層と中産階級との経済格差が開いた
徴兵者より志願兵の方が使いやすい
2.開戦の口実
セクザーのベトナム戦争従軍の回想
セクザーは21歳でヘリコプター中隊に所属。上空からは、人を撃つという感覚がない。
デュオンのベトナム離脱の回想
デュオンは15歳でサイゴン陥落直前(1975/04/28)にアメリカに逃れた。
ジョンソン大統領が戦争拡大の理由としたトンキン湾事件が嘘だと判明(1971/06/13、NY Timesが国防総省秘密報告書をスクープ)。セクザーは怒る。
C.ルイスの解説 最近50-60年間の米軍の軍事行動(1955-2000、中南米・東南アジア・中東・アフリカ・東欧)で国民をだましていないものはない。開戦理由のほか、犠牲者や戦況についても。
冷戦や経済的利益の名のもとに、世界中の政府の転覆やクーデターを支援。人権を抑圧する国家も助け、虐待(拷問)の方法も教えてきた。この結果、多くが反米国家となっている。
経済的植民地主義と言ってよい。
3.石油利権
ハリバートン社の石油CM(1951年)
C.ジョンソン(元CIA)の説明
イランのモサデク首相が、イギリスの石油支配に対抗して国有化率引き上げを図る。イギリスの援助要請を受けてアイゼンハワー政権は、モサデクを共産主義者と決めつけ、CIAによる転覆を工作。1953年8月、軍事クーデターでパーレビ朝皇帝を帰国させる。しかし、1979年にイラン革命が起こり、ホメイニ(シーア派)政権が誕生した。
隣国イラクのサダム・フセイン(スンニー派政権)はイラン革命が国内に波及することを恐れ、イランに戦争をしかけたが不調。そこでレーガン大統領はラムズフェルドを派遣し、イラン情報と武器の提供を申し出た。
1990年にイラクはクェートに侵攻(→湾岸戦争)、サウジアラビアも狙うのでアメリカは軍を駐留させた。サウジが米軍を受け入れたことにオサマ・ビンラディンが反発した。アメリカ政府は、イラクが世界第2の石油埋蔵量を持つことにも着目し、国民がイラクをアメリカの敵と見なすよう仕向けて行った。
4.軍産複合体の第4の構成要素=シンクタンク(Think Tank)
クウィアトコフスキ元空軍中佐・国防総省付(サハラ以南のアフリカ及び中東を担当)の証言
国防総省の外から多数の政治専門家が加わりイラク問題に取り組み始めた。彼らは一部のシンクタンクの関係者だった。
アメリカの新世紀プロジェクトの報告書
Rebuilding America’s
Defenses Strategy, Forces and Resources For a New Century
A
Report of the Project for the New American Century, September 2000.
At present the United States faces no global rival. America’s grand
strategy should aim to preserve and extend this advantageous position as far
into the future as possible.
ESTABLISH FOUR CORE MISSIONS for U.S. military
forces:
defend the
American homeland;
fight and
decisively win multiple, simultaneous major theater wars;
perform the
“constabulary” duties associated with shaping the security environment in
critical regions;
transform U.S.
forces to exploit the “revolution in military affairs;”
To carry out these core missions, we need to
provide sufficient force and budgetary allocations.(後略)→アメリカ国防費をGDPの3.8%まで回復させる。
ブッシュ・ドクトリン(2002/01/29一般教書演説)の主要な内容が、こうしたシンクタンク関係者により提案されていた。
大量破壊兵器を保有しテロを支援する「悪の枢軸(axis of evil)」として、北朝鮮・イランとともにイラクを挙げ、攻撃理由を探す。
クウィアトコフスキ元空軍中佐:2002/08、国防総省に特別計画室を設けることが発表された。
イラクが大量破壊兵器を保有し、テロを支援している証拠を探す。しかし、これは情報操作であり、世論を操るもの。
セクザー:息子を殺した者に報復をしたい。イラクが悪いならイラクをたたけ。
イラク戦争で使用する爆弾に息子の名を書き入れることを軍に要望。
5.マスコミ操作
ダン・ラザー(CBSキャスター):「大衆は知る必要がない」が実行されている。
国防総省のニュース操作努力
ベトナム戦争では戦争を国民にさらしてしまった。
イラク戦争では、記者を軍に「埋め込む」こととした。→全体像の報道はなされなかった。
権力者との接触なしに報道はできない。→権力者の意を汲んだ報道に偏る。
ダン・ラザー:まるで全体主義国家のようだ。「偉大な人物」がますます偉大になる様を報道し、実像は隠される。
6.開戦
直前の動き
アメリカ陸軍合唱隊の歌(アメリカの新しい時代、アメリカを信じ続けよう、自由の大地だ)をバックに、
G. ブッシュ大統領:フセインは48時間以内にイラクを退去せよ。さもなくば攻撃を開始する。
ソロモン:入隊準備
クウィアトコフスキ:二人の息子は軍隊には入れない。帝国主義政策を助けることになる。
世界的なイラク攻撃反対デモ(2003/02)
ロバート・バード議員の演説(連邦議会上院) 議員はほとんど欠席
戦争の賛否に関する議論が、議会でなされていない。議員は軍産複合体から恩恵を受けている。
同様に、マスコミ・研究者も、表立った反対はしない。
最初の攻撃
ステルス攻撃隊員 目標はバクダッドのドーラ農場、2000ポンド精密誘導爆弾を投下
開戦直前・直後のバクダッドからのTV中継 静寂→空襲警報→爆弾の爆発
バクダッドの医師:最初の爆撃の犠牲者は市民ばかり
ラムズフェルド:イラク首脳陣への攻撃は成功
ドーラ農場の被害状況報道 爆弾は二発ともはずれ、一発は隣の建物を破壊した
セクザー:爆弾への名前記入の希望はかなえられた。2000ポンド精密誘導爆弾に。04/01に投下された。
C.ジョンソン:精密誘導爆弾の精度は高くない。失敗しても罰せられた者がいないことが、これを証明。
精密誘導爆弾の初めの50回の投下のうち42回は市民を巻き込んだ。
ナージ・シーシャン(バクダッド遺体保管所所長):犠牲者の90%は市民。安全も自由もない。
虚構の崩壊
G. ブッシュ大統領:フセインがテロに関与した証拠が見つからない。
セクザー:国民が大統領を信頼できない。体制がおかしい。爆弾に息子の名を書いてもらったことを恥じる。
エンディング
常備軍設置へのG.ワシントンの警告:常備軍が政府の構造を破壊する。
宣戦布告権限は憲法で議会に与えられていたが、議会は大統領に委ねてしまった。
ルイス:アメリカの歴史は、資本主義と民主主義の戦いの歴史でもある。資本主義が優勢のようだ。
イラク被爆農民:アメリカは大国なのにそれにふさわしい行為をしていない。他の国にとってかわられる。
軍産複合体(常備軍と政治家・軍需産業をコアとする)は、アメリカの政治・軍事・外交・経済に多大の影響を及ぼし、ひいては世界の政治・経済にも極めて大きな影響を与えてきた。とくに日本は、日米安全保障条約を基礎に、アメリカの影響が軍事・政治・外交・経済の中枢に及ぶ構造をもっている。
○ 本日の課題