サイバーアジア(37)

網上文学II

 安倍公房の遺稿「飛ぶ男」「モグラの日記」がワープロのフロッピーから見つかって7年。文学作品もデジタルデータが第一稿という時代になりつつある。DTP(卓上印刷)で版下作成する出版社が増え、活版印刷の時代は去って「活字離れ」という言葉も通じなくなるかもしれない。
 紙媒体で発表済みの作品を転載しているネット図書館として、日本では青空文庫<http://www.aozora.gr.jp/>があり、最近登録作品が1000冊を超えた。芥川龍之介、森鴎外など、日本文学を中心に著作者の死後50年を経て著作権が消滅した作品や、著作権者が公開に同意した作品が掲載されている。以前紹介した中国のネット図書館、新語絲<http://www.xys.org/index.html>では、中国国内で著作権法が実施された1999年1月以降の作品ついては版権を尊重しているが、それ以前の1998年までに出版された作品については、そのままネット上での掲載を継続しているようだ。
 ホームページでの作品発表が先行するというケースも増えている。上海発の文芸ページ「榕樹下」<http://www.rongshu.com/>は、すべてのメディアを通じて初めて発表された「原創作品」に限って掲載される。紙媒体の世界にも文芸同人誌が数多くあって、それらの内容やレベルはまちまちだ。ネット出版の場合も同人誌レベルを超えるものは多くないだろうが、「榕樹下」のような初出作品専門サイトが出現した今、ネット上でごろりと原石が出てくるのは希にしても、砂金くらいはすくえるのかもしれない。

(初出:『アジアクラブマンスリー』アジアクラブ、2000.7)