サイバーアジア(44)

シンガポール "No Art Day"

 2000年末、香港中文大学はシンガポール前首相、リー・クアンユーに名誉博士号を授与した。キャンパス内はリーの政治手法に反発する教員、学生、市民らの抗議行動で騒然となった。権威主義的なスタイルが香港統治のモデルになるのではないかという危惧の現れでもあった。衛星放送やインターネットなどの越境メディアへの早くからの規制に見られるよう、シンガポールは良くも悪しくも高度に管理された国家であることは間違いないだろう。
 それから3週間後の12月29日、シンガポールで演劇関係者を中心に "No Art Day" が行われることがStraits Times <http://straitstimes.asia1.com.sg/>Bussiness Times <http://business-times.asia1.com.sg/> など現地の主要英字紙で報じられた。一般の反応はStraits Times Interactive Chat <http://stchat.asia1.com.sg/> のArt 掲示版にくわしいが、24時間アートなしで過ごし、生活の中のアートの役割を再認識しようという試みだ。表現の自由を求める意味合いもあり、直接抗議の対象となったのは宗教、ジェンダー問題を扱って話題を呼んだAgni Koothu劇団のタミル語劇「離婚」の英語、マレー語版の上演禁止措置である。当日、数十名のアーティストが創作も鑑賞も行わない "No Art Day" を過ごした。こうした行為自体がパフォーマンスであるという見方もでき、単純に抗議行動と片づけられない。芸術において圧倒的に入超で、国産アートの乏しいシンガポールにあって、政府も今回の試みを創作の端緒として見守ったようだ。一般の関心はともかく、こうしたやり方は小国家シンガポールだからこそ、意味を持つものなのだろう。

(初出:『アジアクラブマンスリー』アジアクラブ、2001.2)