サイバーアジア(57)

著作権

 人民網<http://www.people.com.cn/>によると、四川在住の女流作家がヤフーなど国内外のポータルサイトによる自作の無断配布を提訴したという。電子図書館サイトへの提訴はすでにあったが、検索サイトなどポータルを巻き込んだのは中国ではじめてだ。
 中国はガットの後身である世界貿易機関(WTO)<http://member.nifty.ne.jp/menu/aboutwto/index.htm>に加入したが、WTOの附属書には知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)があり、ベルヌ条約、パリ条約など著作権制度への言及がある。海賊版大国と悪評の高かった国内でも、著作権についての意識が高まっている。なお、冒頭のケースは「リンク」に当たり、サーバー内で送信を可能にする行為や不特定多数への送信が行われていないので、著作権が及ぶ行為ではないだろう。
 著作権法令はアングロサクソン法の英米と大陸法のヨーロッパでは著作権の保護水準が異なる。中国も日本と同じく大陸法系だが、香港はアングロサクソン法系という複雑な事情を抱えている。アングロサクソン法では著作権の中でも経済的権利に特化し、実演者、製作者など伝達者の権利保護が弱くなっている。アメリカ英語で本来著作権の一部である「コピーライト」(無断コピーされない権利)が著作権と同義になっているのがその一例だ。
 著作権法は国内法で各国ごと<http://www.cric.or.jp/>だが、アジアには世界有数の著作権先進国がある。意外にも日本である。たとえばネット上でのMP3形式の音楽ファイルの無料交換サービスが日本でも開始<http://www.filerogue.net/>され、ネット上の音楽ソフトは無料との意識が定着してはたいへんと、日本レコード協会が著作権侵害の幇助を訴えている。日本の著作権法では従来の放送のように常に送信されている方式でなく、端末からアクセスした場合のみ送信されるインタラクティブ送信についても、すでに1986年に著作者の権利が確立し、1998年には今回のケースに当たるサーバーへのアップロード行為も権利の対象としている。
 このようなアジアを含む世界のIT化に対応する著作権制度について、ベルヌ条約事務局の後身である世界知的所有権機関(WIPO)<http://www.wipo.org/>を中心に検討が行われてきた。著作権が非関税障壁としてアメリカなど大国の国益の手段とされるのでなく、人類共通の文化的資産を協力して守っていくという目標に向かって行くことを見守っていきたい。

(初出:『アジアクラブマンスリー』アジアクラブ、2002.3)