第2日1時間目  調査設計のいろいろ

(1) 量的調査と質的調査

 社会調査は,大きくわけると量的調査 quantitative research と質的調査 qualitative research に分けられる。量的調査の代表はアンケート調査であり,従来は統計調査と呼ばれることが多かった。今日では質的調査との対応で量的調査と呼ばれることが多くなっている。この種の調査では,一定の統計的集団について,男と女の割合はどうかとか,平均年齢はどうかとか,平均収入はいくらかとか,ある意見に賛成する者や反対する者の割合はどうかなど,人間の属性や意識や行動の断片的で皮相的な側面に注目するものがほとんである。鳴り物入りの調査のように思えても,その内容をみるとあっけらかんとしていて,人間行動というものはもっと複雑であって、こんなもので捉えきれるものではない,という印象を受けることも多いだろう。社会生活の全体関連性というものを捉えていないのではないか,という不満がもたれる。

 全体関連性の把握  断片的で皮相的な事実ではなく,色々な要素を絡めて浮かび上がる生活の全体像の把握と理解を重視する場合は,質的調査を用いる。質的調査は従来事例調査と呼ばれることが多かったが,個人や家族や小集団や組織機関など,直接目でみて観察したり質問したりして確認できる小規模の対象について記録をとっていく方法である。古くは,ヘンリー・メイヒューの『ロンドンの労働とロンドンの貧民』(1861 )などが有名なものである。この中では,19 世紀中頃のロンドンの街角に見られる呼び売り商人などの実態が生き生きと描き出されている。アンケート調査のような量的調査から,このような社会生活の全体像を浮かび上がらせるのは,極めて困難な課題である。では,なぜ量的調査を行うのだろうか。

 集団の中での個体の位置づけ  量的調査によって集団の把握がなされていない世界を想像してみよう。子供の不登校や暴力や非行などの問題に悩む親は,まわりを見回すと皆が幸福そうに思え,悩みを持つのは自分だけだと悲観して悩みが一層深まり思い詰めてしまう。あるいは,教師やソーシャルワーカーなど指導援助の役割を担う人々は,自分が子供だったころの経験に照らしながら,自分の主観で描き出した子供像をよりどころに職務に当たることもあるだろう。しかし,多くの親が同じ問題に悩み,現実の児童の姿は時代と共に変化し,大人が自分の過去の経験から導き出したものとはかけ離れたものであることがわかれば,悩みも和らぎ指導方針も見直さざるを得ないことになる。そのためには,量的調査によって児童を集団として捉えて記述し,個々の児童の事例が特殊なものか一般的に見られるものか,集団のなかに位置づけて理解することが重要になる。社会福祉における量的調査には,集団を記述し,さらにその上で,個別事例を集団全体の中に位置づけて個別の援助実践の方向付けを行う役割がある。

 法則の蓋然(がいぜん)性  説明目的の調査は,ある事象の発生する理由を他の事象との関連によって説明するのであるが,事象間の関連性ないし法則は集団を観察することによって始めて認識できるという特性がある。ある原因があれば必ず特定の結果が現れるという考え方を決定論 determinism という。しかし,いろいろの原因が同時に作用している現象では,法則は確率的にしか捉えることができず,集団の観察が必要である。これを法則の蓋然性という。例えば,在宅要介護高齢者ではケア・マネージメントを受けることによってより多くの福祉サービスを利用できる,という仮説を検証するにはどうしたよいだろうか。質的調査によって少数事例を比較検討してみると,仮説を支持するような事例もあるだろうし支持しない事例もあるだろう。なぜなら,福祉サービスを利用するには料金を支払わなければならず,経済的に許される程度のサービスしか利用できないから,同じくケア・マネージメントを受けていても,経済力の違いによって利用するサービスの量が違うのである。また,個人や世帯のサービスに対する選好の違いなどの要因も働いているだろう。このような場合には,多数の要介護高齢者を調査して,ケア・マネージメントを受けている集団と受けていない集団に分けてサービス利用量を比較してみて,ケア・マネージメントを受けている集団の方がサービスをより多く利用する「確率が高い」という形でしか関係を認識することができない。そのためには,量的調査が必要になるのである。

(2) 横断的調査と縦断的調査

 横断的調査  ある一時点で調査した結果を,男女別や年齢階級別や収入階級別などに分類して集団の断面を分析するものを横断的調査 cross-sectional study という。横断的調査は,探索,記述,説明の各目的で行われるが,説明目的の場合には固有の困難がある。本来の因果関係は,原因が先にあって結果が後で現れるという時間の前後関係をもっているはずだが,横断的調査では一時点で調べたデータから因果関係を検討して結論を導かなければならない矛盾がある。例えば,病院から退院した高齢者集団を一時点で調査して,家族と同居している高齢者と同居していない高齢者を比較した結果,同居している高齢者の方が予後がよいといった関係が見いだされても,退院する前から症状が改善していたかもしれないから,居住形態が症状に影響を与えたとは断定できないのである。あるいは,運動や休息などの保健行動が高齢者の健康状態に影響を及ぼしているかどうかを検討する場合でも,横断的調査では,健康だから運動ができた,と逆の解釈も成り立つのである。 こうした原理的な困難があるとはいえ,横断的調査から知られる変数間の関連は,後述するように多変量解析法など用いることによって現象を説明するうえで重要な役割をもつことができる。

 縦断的調査  一時点で1回限りしか行わないのではなく,一定の時間間隔をおいて繰り返し行う調査を縦断的調査 longitudinal study といい,傾向分析 trend study,パネル調査 panel survey および コーホート分析 cohort study の3つの種類がある。
 傾向分析は,5年ごとに行われる国勢調査とか毎年行われる国民生活基礎調査のように,定期的に調査を行って調査対象集団における特性の変化の傾向を把握するものである。こうして得られるデータを時系列データという。傾向分析では,調査対象集団の定義は変化しないが,集団内部の個体は変化している。国勢調査では,日本の領土内に居住する人という調査対象の定義は変わらないが,5年間の間には新しく生まれた人,死亡した人,国外へ転出したり,国外から転入した人などがおり,集団の中身である個体は前とは別の人々を含んでいる。高齢者の福祉ニーズの出現率が年々上昇しているかどうかを調べる場合でも,65 以上人口という調査対象集団の定義は変わらないが,その中身は変化している。
 パネル分析は,第1回目の調査相手と同じ相手を繰り返して調査する純粋な追跡調査であり,各回の調査をウエーブという。福祉サービスの効果を問題にする場合,福祉サービスを実施する前と後に調査を行って両者を比較するが,両方の調査相手は同じ人々でなければ意味がない。つまり,パネル分析は原因と結果が時間的に前後関係にある因果関係の検討に適した方法である。しかし,パネル調査では1回目と2回目の調査の間に,死亡したり行く先不明となったり重篤の病気なったりして,調査相手の数が少なくなるとか,何回も同じ調査をするのでうるさがられるという問題がある。そこで,これに似たコーホート分析で代用することもある。
 コーホート分析は,同時期に生まれた人口集団を追跡して同一の調査を繰り返すものである。高齢者の知的能力が年齢と共にどのように変化するかを調べる場合,横断的調査では1時点でいろいろな年齢の人に知能テスト実施して年齢別に分析する。しかし,高齢であるほど就学年数の短い人が多く,そうした世代的な要因が影響している可能性があるので,年齢の上昇につれて知的能力が本当に変化したかどうかはわからない。そこで,コーホート分析では,同時期に生まれた(年齢の等しい)集団を追跡調査する。コーホート集団は同じ時代を生きてきた集団であるから,時代の影響を取り除いた年齢の効果を分析することができるのである。この場合,調査対象集団の定義は同時期に生まれた人々ということであり,集団の中身は違ってもよい。つまり,1980 年に 6569 歳人口について標本調査を実施したら,1985 年には 7074 歳人口の標本調査,1990 年には 7574 歳の標本調査というように追いかけて行くが,標本を構成する個体は各回で異なっている。

(3) 実験計画法

 2つの変数,すなわち,独立変数と従属変数の関係が単なる相関関係ではなく因果関係であると断言するためには,ラザースフェルド(Lazarsfeld, 1959)が提唱した3つの条件を満足しなければならない。すなわち,@結果に対する原因の時間的先行性,A2変数間の相関関係の存在,B2変数間の相関関係が疑似相関 spurious correlation でないこと,の3つである。時間の前後関係を考慮した調査設計にはパネル分析があったが,それだけでは原因と結果の間に割り込んでくる攪乱要因を除去できない問題があり,これを解決するための調査設計に実験計画法 experimental design がある。
 実験計画法は,攪乱要因をコントールした調査設計である。コントロールというのは,因果関係を攪乱する可能性のある要因を一定に保つという意味である。自然科学で行われる実験室実験では,計測装置に狂いがでないように気温や気圧を一定に保つとか,空気抵抗の影響を除去するために真空にするなど,実験環境を人工的に設定して攪乱要因をコントールする。しかし,社会科学における実験は人工的環境で行うのではなく,通常の生活環境の中で行う野外実験 field experiment である。
 社会福祉調査では福祉サービスの効果分析において実験計画法を用いるのが典型的利用法である。ある集団に福祉サービスを実施する前と実施した後に同じ従属変数を調査によって測定する。変数の値に変化がみられた場合でも、その変化が福祉サービスによって生じたのか、他の原因によって生じたのかを区別できるような調査の設計が必要である。効果評価のための実験計画にはいろいろなものがある。もっとも代表的なものは、調査対象をサービスを提供する集団(実験群) experimental group と何も行わない集団(統制群ないし対照群)control group に分けて、サービス実施後に両者を比較する古典的実験計画法 classical experimental design である。重要なことは、実験群と統制群に振り分けるときに、くじ引きのような方法で無作為に分ける random assignment ことである。そうすることで、両群の集団としての均質性を確保し、サービスを提供するかしないかだけが両群の相違点になる状態を設定することになる。これを実験の内的妥当性 internal validity という。ただし,統制群を確保することが実際には難しいため,実験群によく似た比較群 comparison group を設定して行う疑似実験計画 quasi-experimental design を用いることが多い。この他に,集団ではなく1個人や1家族などの単一の対象を相手に行う単一被験者法 single-subject design も開発されている。