Shuichi Sakata

ソーシャルワーカーのための調査論

1 社会福祉調査の意義と基本的性格

1) 社会福祉調査とは何か

 社会福祉調査は、社会福祉やそれに関連する事象を社会調査の方法を用いて実証的に明らかにするものである。社会調査は、社会学や政治学のような社会科学の研究方法として用いられるほか、世論調査市場調査などとして政治・経済・社会の動向についての情報収集や分析に広く用いられているものだから、社会福祉援助に固有の技術というわけではない。

社会福祉に関する世論調査のようなものとは別に、福祉的援助に直接かかわる事柄に限定した調査をソーシャルワーク・リサーチと英語で呼んで区別することがある。社会福祉援助を合理的・効果的に進めるために、社会調査の方法を活用するということである。例としては、福祉ニーズを調べることや、福祉援助の効果を調べることなどがソーシャルワーク・リサーチの主なテーマになる。

社会調査法は数多くの細かい理論や技術を含んでいてなかなか奥が深く、専門の書物を何度も紐解き、実地の訓練を重ねてはじめて修得できるものである。ここでは、大切な要点だけをキーワードを中心にしながら述べる。

2) 社会調査の特質

 情報収集にはいろいろなタイプがある。書物を読むことも、インターネットでホームページにアクセスして資料を調べることも情報収集の一種である。これに対して、社会調査は、現地調査を行って事実を把握するタイプの情報収集だという点に特徴がある。痴ほう症を患っている高齢者と共に暮らす家族の生活困難に対してどのような福祉援助を行うべきかを例にあげると、それをテーマにした小説を読んで洞察を得ることもあるだろう。しかし、人々の暮らしの現実は、筋立てに合うように都合よく創られた小説とは違うから、事実を把握することなしにはどんな問題があるのかもわからず問題解決の糸口にたどり着くのは難しい。だから、そうした家庭を訪問して暮らしの事実をつかむ必要が出てくる。

現地調査には、現場を訪問して直に目で見る狭い意味の観察のほかに、大量の質問紙を配って質問に答えてもらうなどの多様な方法が含まれる。事実を把握するさまざまな方法全体を指して広い意味の観察という。

とにかく現地に出かけて調べればよい、というのでは社会調査の意味を正確にとらえたことにならない。調べなければならないことは何なのか、どのようにしてそれを調べ整理分析したらよいのか、あらかじめよく考えてそれに適したデータ収集法や分析法を用いなければならない。これを調査設計という。そうした設計を踏まえて、現地において事実を把握し、そうした事実と関連の深い社会的背景を明らかにしようとするのが社会調査である。

3) 社会福祉において調査が必要な理由

 社会福祉において調査が必要な理由として、社会福祉援助が科学的な基礎をもった専門的実践であるべきだという古くからの考え方と、援助のアカウンタビリティを高めるためという新しい考え方がある。

 アカウンタビリティは日本語では説明責任と翻訳されている。福祉援助を行うにあたって、その見通し、経過、結果を説明できること、と理解すればよいだろう。「ありがた迷惑」という言葉があるように、「よいことをやっているから、よい成果があがっている」とは必ずしも言えない。つまり、経過や成果がデータとして把握されていない実践を評価することは難しい。アカウンタブルであるためには、社会調査を活用してデータを把握する方法が必要になる。

 そのようなデータは、@意図した事象を的確に表現する妥当性があること、A他のひとがもう一度同じ相手を調査しても同じ結果が得られる信頼性があること、B一部に偏った知識ではなく、一般化できる代表性を備えていなければならない。この3つの性質を備えたデータを科学的データという。

4) アクション・リサーチ

 現に生じている福祉問題を解決するために、被害を受けている人々やその支援をしているソーシャルワーカーなどの当事者が実施する調査を、アクション・リサーチという。自分たちの暮らす町のバリアフリー化を進めるために、障害者団体やその支援者が、道路・公共建物・商業建物その他の生活環境について、地域の人々の意見を調べることなどはその例である。これは、単に現状を明らかにすることだけが目的ではなく、そのデータを基にして問題解決へのアクション(行動)戦略をたてるために行われるものだから、そのように呼ばれている。

 アクション・リサーチは、人々とともに問題を学び知識を共有することによって、変化をもたらそうとする応用的実践的動機で行われる。つまり、変化をもたらしたいという価値判断、すなわち、よいことや望ましいことに関する明確な判断に基づいて行われるものである。しかし、自分たちに都合のよいデータを得ようとして作為を加えることがあっては、信頼は得られない。他の人々が同じ調査を実施しても同じ結果が得られる信頼性の高いものにするには、調査の方法は適正な手続きを踏まえたものでなければならない。

 

2 調査設計の諸類型

 調査の計画にあたっては、何をどんな方法で把握するのか、調査の全過程で想定される問題点をひとつ一つ明らかにして、資金面・時間面の制約や倫理的判断を交えて実行可能な方針を決める。また、さまざまな調査設計から課題に適したものを選ぶには、どのような類型があるかを理解しておかなければならない。

1) 記述的調査と説明的調査

 児童虐待の発生数を調べるとか、福祉サービスの水準が自治体によって違っている原因に関心があるとか、具体的な調査テーマはさまざまである。しかし、それらを抽象化してみると、2つの調査目的に分類できることが知られている。1つは事象を「記述」すること、2つめは事象を「説明」することである。アメリカの社会調査教科書などでは、前者をwhat問題、後者をwhy問題と区別することが多い。「探索」と「予測」を追加して4つの調査目的に分類する場合もある。

 記述目的の調査は、介護の必要な人が何人いるかとか、その男女内訳はどうなっているかとか、症状の重さで分類したらどうなっているかなど人口の構成を明らかにすることがその典型であるように、事実を正確にとらえて表現することを課題にしている。人口のような集団事象ばかりでなく、事例調査のように特定個人の生活状態や生育歴を調べて報告することも記述に含まれる。

 説明目的の調査は、why問題といわれるように、事象の発生原因を明らかにすることを課題にしている。この調査目的では、例えば、ある特定の中学生が不登校になったその原因は何かという個別的事例の検討よりも、統計的集団についての一般的な傾向を発見することに関心が注がれる。この種の調査は、学者が理論の検証を目指して行うことが多いが、高齢者の健康や生きがいを増進するにはどのような施策や事業を行ったらよいかを問うなどの実践的なテーマでもこのタイプの調査は重要である。

説明目的の調査は、結果を表す事象ばかりでなく原因と考えられる事象の両方を調査項目に含めていないと、両者の関連を分析することができない。原因に当たる事象を測定する調査項目を独立変数または説明変数といい、結果に当たる事象を測定する調査項目を従属変数または被説明変数という。因果関係を変数間の関連として表したものを作業仮説という

変数とは典型的には数学で用いられる言葉だが、社会調査では調査項目の別名として用いている。例えば、人間には性別(変数)の違いがあり、ひとによって男または女の属性(値)を示す。つまり、人によって値が変わる、すなわち変数である。ちなみに、男子だけとか女子だけの集団を調査する場合には性別は変数ではなく定数である。

2) 量的調査と質的調査

 量的調査の代表はアンケート調査であり、従来は統計調査と呼ばれることが多かった。今日では質的調査との対比で量的調査と呼ばれることが多い。この種の調査では、一定の統計的集団について、男女の割合や平均年齢や平均収入とか、ある意見に賛成する者や反対する者の割合など、人間の属性や意識や行動の断面を把握することが多い。

しかし、人間行動というものはもっと複雑なもので、量的調査は社会生活の全体関連性をとらえていない、という不満がもたれる。そこで、色々な要素を絡めて浮かび上がる生活の全体像を理解しようとする場合は、質的調査を用いる。

質的調査は、事例調査と呼ばれることが多かった。個人や家族や小集団や組織機関などを事例として取り上げ、観察やインタビューを用いてデータを収集する方法だからである。ヘンリー・メイヒューの『ロンドンの労働とロンドンの貧民』(1861)は、19世紀中頃のロンドンの街角に見られる呼び売り商人などの実態を生き生きと描き出した質的調査である。アンケート調査のような量的調査から、このような社会生活の全体像を浮かび上がらせるのは困難である。では、なぜ量的調査を行うのだろうか。

 集団の中での個体の位置づけ 社会福祉における量的調査には、個別事例を集団全体の中に位置づけて個別の援助実践の方向付けを行う役割がある。

子供の不登校や暴力や非行などの問題に悩む親は、まわりを見回すと皆が幸福そうに思え、悩みを持つのは自分だけだと悲観して悩みが一層深まり思い詰めてしまう。このような場合、児童を集団としてとらえて記述した量的調査が行われていれば、個々の児童の事例が特殊なものか一般的に見られるものか、集団のなかに位置づけて理解することができる。

 法則の蓋然(がいぜん)性 説明目的の調査は、ある事象の発生する理由を他の事象に関連づけて理解しようとするものである。例えば、在宅要介護高齢者ではケア・マネジメントを受けることによってより多くの介護サービスを利用できる、という仮説を検証するにはどうしたよいだろうか。質的調査によって少数事例を比較検討してみると、仮説を支持するような事例もあるだろうし支持しない事例もあるだろう。なぜなら、介護保険のサービスを利用するには自己負担分を支払わなければならず、同じくケア・マネジメントを受けていても、世帯の経済力の違いによって利用するサービスの量が違うからである。このような場合には、ケア・マネジメントを受けている集団と受けていない集団に分けて、サービス利用量を比較調査してみることで、ケア・マネジメントを受けている集団の方がサービスをより多く利用する「確率が高い」という形で関係を認識することになる。

いくつかの原因が同時に作用している上記のような事象では、関連性は確率的な表現で認識される。これを法則の蓋然性という。つまり、事象間の関連(規則性や法則)は集団を調査することによって始めて認識できるという特性があるため、量的調査が必要になる。

3) 全数調査と標本調査

 代表性 チャールズ・ブースやシーボーム・ラウントリーが19世紀末に実施した貧困調査は、ロンドン市民やヨーク市民全員を調べたものであった。これが、彼らの貧困調査が科学的社会調査の始まりといわれる理由の一つである。社会調査が科学的であるための一つの条件は、調査結果が、その調査によって究極に知りたい対象全体を代表し一般化できる性質を備えていることである。

 全数調査 調査結果に代表性を持たせる一つの方法は、調査の対象全体を悉く調べることである。こうした調査を全数調査または悉皆(しっかい)調査という。しかし、今日では、国勢調査などわずかの例外を除けば、全数調査が行われることはほとんどない。

 標本調査 その理由は、母集団から無作為に選びだした一部分である標本(サンプル)について調べたデータから、元の母集団の特性を推定できる統計的方法が完成しているからである。標本は母集団の一部分であるからどうしも誤差がつきまとう。しかし、その誤差を計算によって明らかにし、母集団での比率や平均値などを一定の確率のもとで推定できるのであれば、代表性をもつと考えるのである。

 全数調査と標本調査の選択 調査の設計に当たって全数調査と標本調査のどちらを選択したほうがよいかは、母集団の大きさと調査予算に依存する。予算的に実施可能な大きさの母集団であれば、標本抽出の手間も省けるし推計値の計算のような面倒なこともいらないので、全数調査を実施すればよいであろう。しかし、全国の高齢者とか、ある大都市に住んでいる身体障害者全員などというように調査対象の規模がきわめて大きい場合には標本調査を選ぶことになる。

全数調査には、次のような固有の欠点もある。@ 十分に訓練された調査員を大量に確保することが難しい。A調査対象全員が説明なしに理解できる単純な内容の質問に限られる。B 集計作業が膨大で時間を要するため、質問の数が少数に限られる。このように、標本調査よりも全数調査のほうが優れているとはいえない理由があるから、調査内容や予算などの諸条件との関連で選択すべきものである。

4) 横断的調査と縦断的調査

 横断的調査 ある一時点で調査した結果を、男女別や年齢階級別や収入階級別などに分類して集団の断面を分析するものを横断的調査という。横断的調査は、記述目的には適しているが、説明目的の調査では固有の困難がある。横断的調査は一時点のデータだから、因果関係に本来備わっている時間の前後関係をとらえることができず、結論がえられない。

 単純な例をあげると、保健行動と健康の関連に関する量的調査を一回実施して、運動をしない(原因)人には健康状態が良くない(結果)人が多いという結果が得られても、この関係を逆転して、健康状態が良くない(原因)人には運動をしない(結果)人が多いとも解釈できるから、真の因果関係はわからない。

 縦断的調査 一定の時間間隔をおいて繰り返し行う調査を縦断的調査という。これには、パネル調査、コーホート分析および傾向分析の3つの種類がある。

 パネル調査は、第1回目の調査相手と同じ相手を繰り返し調査する純粋な追跡調査であり、各回の調査をウエーブという。福祉サービスを実施する前と後に調査を行って利用者に生じた変化を調べるには、両方の調査相手は同じ人々でなければ意味がない。つまり、パネル分析は原因と結果が時間的に前後関係にある因果関係の検討に適した方法である。しかし、1回目と2回目の調査の間に、死亡したり行く先不明になったり重篤の病気なったりして、調査相手の数が少なくなるとか、何回も同じ調査をするのでうるさがられるという問題がある。

 コーホート分析は、同時期に生まれた人口集団(コーホート)を追跡して同一の調査を繰り返すものである。つまり、1995 年に 6569 歳人口について標本調査を実施したら、2000 年には 7074 歳人口の標本調査、2005 年には 7574 歳の標本調査を実施するというように追いかける。しかし、標本を構成する個体は各回で入れ替わっている点がパネル調査との違いである。人々の知的能力が年齢と共にどのように変化するかを調べる場合、コーホート集団は同じ時代を生きてきた集団であるから、時代変化の影響を取り除いて年齢の影響を分析できる利点がある。

 傾向分析は、5年ごとに行われる国勢調査とか毎年行われる国民生活基礎調査のように定期的に調査を行って、集団のもつ特性が時代とともに変化していく傾向をとらえるものだからこの名前がついている。傾向分析では、調査対象集団の定義は同じだが、集団内部の個体は変化している。例えば、国勢調査では、日本の領土内に居住する人という調査対象の定義は変わらないが、5年間には新しく生まれた人、死亡した人、国外へ転出した人、国外から転入した人などがおり、集団の中身である個体は前とは別の人々を含んでいる。

5) 実験計画法

 社会福祉調査では福祉サービスの効果分析において実験計画法を用いた方がよいと考えられるようになってきた。ある集団に福祉サービスを実施する前と実施した後に効果指標を調査し、その値に変化がみられれば福祉サービスを実施したことが原因で変化がおこったと考えるのである。

そのためには、その変化が福祉サービスを受けたことによるのか、他の原因によって生じたのかを区別できるように調査を設計しなければならない。これを実験計画法という。もっとも代表的なものは、福祉サービスを提供する集団(実験群)と何も行わない集団(統制群)に分けて、サービス実施後に両者を比較する古典的実験計画法である。重要なことは、実験群と統制群に振り分けるときに、くじ引きのような方法で無作為に分けることである。そうすることで、両群の集団としての均質性が確保され、サービスを提供したかどうかだけが両群の相違点だといえることになる。これを実験の内的妥当性という。ただし、統制群を確保することが難しい場合には、実験群によく似てはいるが無作為に割り当てたものではない比較群を設定して行う。これを疑似実験計画法という。この他に、集団ではなく一個人や一家族などの単一の対象を相手に行う単一被験者法 single-subject design も開発されている。

 

3 質的調査(事例調査)の調査技術

 質的調査は、現場に出向いて、野外手帳に記録をとって進めるので、フィールド・リサーチとも言わる。データを得る手段は観察法面接法(インタビュー)である。写真機やビデオカメラやテープレコーダーを補助的に用いることもある。

1) 面接法(インタビュー)

 質的調査でのインタビューは、アンケート調査のインタビューと違って、相手との会話の流れを止めない臨機応変の対応が求められる。質問の仕方などを厳密に指示しないので、非指示的面接法といわれる。深層面接法は、調査のテーマだけが示されていて、どのようなアプローチでそのテーマに迫るかは質問者にまかされている。これはまったく構造化されていない調査であり、そのための特別の訓練が必要である。

しかし、多くの場合は、質問事項をあらかじめ決めておかないと必要なことを聞き忘れたりするので、質問票(インタビュー・スケジュール)を作っておく。これは、質問すべき事項をメモ的に並べたもので、この程度の準備をしたもの半構造化された調査という。

インタビューは相手が一人だけの場合もあるし、グループの場合もある。焦点面接法(フォーカスド・インタビュー)は、調査テーマとなっている問題に詳しい人、例えば地域福祉活動がどのように展開されているかがテーマであれば、ボランティア団体のリーダーのような豊富な情報をもっている人(キー・インフォーマント)を選んでインタビューするものである。あるいは、障害者の親がどのような不安や困難をもっているかを詳しく聴くために、10人前後の親に集まってもらって、話し合いのプロセス、すなわち、グループのダイナミックスを活用して質問に答えてもらうやりかたもあり、フォーカス・グループ・インタビューという。

2) 観察法

 観察法には3つのタイプがある。例えば、痴ほう症の高齢者がどのような行動を行うかは、直接目で見なければわからない。しかし、行動のもつ意味や行動と行動の関連は、行動が行われる状況に関連づけてはじめて理解できる。ちょっとしたしぐさが、決定的に重要な意味をもつことは人間行動によくみられることである。外から観察するだけではそうした理解を得ることはむつかしいから、調査対象者と生活をともにしながら観察する。外から観察して行動を記録するタイプのものを非参与観察法というのに対して、生活や経験を共にして行動の意味を理解しようとするタイプのものを参与観察法という。この他には、例えば、家庭で行われる高齢者介護の仕事内容を把握するために、食事介助や排泄介助などあらかじめ記録する事項を定めておいて、そうした行動が行われる度に記録をとる方法がある。これは観察を計画化したもので、統制的観察法という。

 

4 量的調査(統計調査法)の調査技術

1) データ収集法

 量的調査のデータ収集法はサーベイといわれ、質問紙に調査員が記入する個別面接法電話法のような他記式調査と、質問紙を調査相手に配布し後で回収する留置き法郵送法のように調査相手が自分で回答を記入する自記式調査がある。他記式とは、調査相手にとっては他人である調査員が回答を記入することからこの名前がついている。調査相手に一箇所に集まってもらって、質問紙を配布しその場で回答を記入してもらうものを集合調査法という。

これらは、調査内容や予算などの条件を勘案して使い分ける。自記式調査は低廉なコストで実施できる長所があるが、質問技術を要するような複雑な内容には向いていない。また、記入したのが調査相手本人であるかどうか確認できないので、本人の意識とか意見を問う質問には向かない方法である。

2) 調査の誤差と偏り

調査で得たデータが真実を反映しないものでは困る。真実を反映しない原因を大きく分けると、@全体ではなく一部分を調べることから生ずる標本誤差と、Aデータの取り方がまずいために起こる非標本誤差(偏り)に分けられる。標本誤差を避けることはできないが、誤差がどの程度の大きさであるかが計算できれば、データの用い方も明確になる。また、標本サイズ(標本を構成する固体の数)を大きくして誤差を小さくすることもできる。

非標本誤差(偏り)は、それを生み出す原因を自覚して防止策を立てないと信頼性のない調査になる。コンピュータを駆使した鮮やかな分析を行ったとしても、データの質が悪ければ無意味であることは言うまでもないが、うっかりするとそういうことをしてしまうから注意しなければならない。以下では、最初に標本抽出法、次いでデータの質の問題を述べる。

3) 標本抽出法(サンプリング)

確率理論を適用して標本から母集団を推定するには、母集団に含まれるすべての個体が標本に選ばれるチャンス(確率) が等しくなるようにしなければならない。その方法を確率抽出法といい、4つ基本型がある。

乱数表の一部分

79152

53829

77250

20190

56536

18760

69942

44560

38750

83635

56540

64900

42912

13953

68328

83378

63369

71381

39564

05615

42451

46939

38689

58625

08342

30459

85863

20781

83544

86140

15707

96256

23068

13782

08467

スネデカー・コクラン『統計的方法』岩波書店 501頁より引用

単純無作為抽出法は、乱数表を用いてくじ引きと同じ方法で標本を抽出する。母集団のリストに一連番号を振った後で乱数表を引き、出てきた番号とリストの番号が一致する個体を標本に採用する。母集団リストが0番から 9999番までの場合は、乱数表の任意の場所から 4 桁分の数字を読む。この表では左上端から右方向に読むことに決めると、左上端の数字は 7915 であるから、母集団リストの 7915番の個体がサンプルに選ばれる。順次右方向へ 4 桁の数字をたどると、253829772502 と続くから、その番号のついた個体をサンプルとして採用する。

系統抽出法は、単純無作為抽出法を簡便にしたものである。等間隔抽出法という別名のほうがこの方法の内容を率直に表している。例えば、母集団 1 万人のなかから 1000 人を選ぶには、抽出間隔は10となるので、母集団リストに並んでいる最初の 10 人の中から乱数表で 1 人を選び、あとは 10 人間隔で採用していけばよい。つまり、乱数表を引くのは1回だけである。

 層別抽出法は、標本サイズを変えずに標本誤差を小さくできる方法である。まず、母集団をいくつかの層に分けておいて、各層から無作為に抽出する。母集団が個人の集まりである場合の最も典型的な層別基準は男女と年齢階級である。そこで、母集団リストを男女の層にわけて、さらに、男女の各層を年齢別に並べ替えたうえで無作為に抽出すれば、男女と年齢については母集団の構成と同じ割合の標本が抽出される。

 2段抽出法は、第1段階で調査する地点を選び(第1次抽出単位)、第2段階で選ばれた地点の中から個人(第2次抽出単位)を選ぶ方法である。調査対象者の居住する地域が広範であると、飛び離れた地域に出向くことが困難なのでこの方法を用いる。3段階や4段階になる場合は多段抽出法という。抽出段階が多くなるほど標本誤差は大きなる。

4) 標本サイズと標本誤差

 単純無作為法で抽出した標本の誤差は統計学の正規分布の理論から数学的に計算することができる。標本比率の標準誤差は次の公式で示される。

この式にあるように、標本サイズを大きくすれば誤差は小さくなる。公式によれば標本誤差は標本サイズの平方根に反比例する関係があるため、標本誤差を2分の1にするためには標本サイズを4倍にしなければならない。

5) 非標本誤差の回避

非標本誤差(偏り)の大きな原因は質問の仕方にある。数多くの調査相手からデータを取るものでは、質問項目と質問の仕方をあらかじめ厳密に決めて構造化しておかないと、人によって質問を取り違えたり、答え方が違ったりして、もう一度質問したときには違った答えが返ってくる可能性が大きい。壊れた体重計のようなもので、そのような調査は信頼性がない。

質問文の作り方や言葉づかい(ワーディング)によっても偏りが生ずる。@「老人介護施設として、老人保健施設と特別養護老人ホームのどちらを増やしたほうがいいと思いますか」という質問は、難しい専門用語が使われていて一般の人はどちらとも判断できない。A「あなたのご両親はしつけがきびしいほうですか」という質問は、父親と母親を一度に聞いているダブル・バーレル質問だから答えられない人がいる。B「あなたはお子さんを虐待したことがありますか」という質問は、本人のプライバシーに触れすぎたパーソナルな質問なので正直に答える人は少ない。Cまた、「虐待」の定義がはっきりせずあいまいな言葉なので、人によって意味が違って受け止められる。D「市の財政赤字がこれ以上増えても、市立の夜間保育を拡充すべきだと思いますか」という質問は、否定的回答が出るように意図的に誘導している。

 質問紙にはたくさんの質問が並べられているのが普通だが、その並べ方もデータの偏りの原因となる。直前の質問が次の質問の回答に影響を与えることをキャリーオーバー効果という。特に、具体的なことがらを質問した後で、一般的な意見を求める場合に回答が誘導されやすい。「老人ホームの建設費を不正に水増しした事件があったことを知っていますか」と質問した後で、「老人ホームに補助金を支出することに賛成ですか」と質問すると回答が誘導され、順序を逆にした場合と違う答えになる。

 いろいろ注意すべきことは多いが、質問文に含まれる問題点は調査者だけが検討しても気づかないことがある。本番に入る前に、事前調査プリテスト)を行って、調査相手の反応を確かめることが必須である。特に、無回答が多く出る質問は問題のあることが多い。

 

5 データの整理・分析

 データを集計するには質問紙の回答を数字などの符号に変えておかないと作業が不便である。コンピュータへの入力、集計、分析のためには回答を数字に変えたほうが都合がよい。回答もれがないかどうかを調べるエディティングを終えたら、回答を数字などの符号に変えるコーディングへと進む。このとき、符号を一覧表にしたコード・ブックを作成しないと、コードを取り違える危険がある。

調査データには質的データ量的データがある。質的調査によって得たものであっても年齢や収入といった変数は量的データであるから、調査方法とデータの性質は関係がない。足し算や引き算などの計算ができる数量としての意味をもつデータを量的データという。反対に、性別や職業など数量としての意味を持たず、分類カテゴリーになっているものを質的データという。

年齢や収入や家族人数などの量的データであれば、集団を記述するのに平均値中央値などの代表値標準偏差四分位偏差のような散布度で集団を記述することができる。また、相関係数回帰分析によって変数間の関連を調べることができる。性別や職業のような質的データの場合は、加減算に意味がないので、基本的には分類に基づく整理、すなわち、単純集計クロス集計を行う。

また、標本調査の場合は推定の他に、平均値や比率に有意差があるかどうか、仮説を立てて一定の確率のもとで統計的に検定する課題もある。

 

より深く学ぶために

1) 社会調査一般については日本語の文献がいろいろあります。各自の必要に応じて目を通してください。最近の文献では、大谷信介ほか『社会調査へのアプローチ 』ミネルヴァ書房,1999。古いものでは、原純輔・海野道郎著『社会調査演習』東大出版,1984などがよいでしょう。
 2)
統計量の概念を理解するにはEXCELなどのパソコンソフトを使って計算してみることが重要です。菅民郎著『Excelで学ぶ統計解析入門』オーム社開発局,1999,などで自習してください。また、昔から定評ある統計学の本として、森田優三・久次智雄著『新統計概論』改訂版(1993)日本評論社があります。

3)社会福祉リサーチに関する日本語の文献はありません。次の英語文献を参考にしてください。Rubin & Babbie, Research Method for Social Work, Wadsworth Inc,

次の文献は、社会福祉リサーチの事例を体系的に集めた本です。具体例から研究方法を学ぶのに適しています。Henry Wechesler, et. al. Social Work Research in the Human Services, Human Science Press, 1981.
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)サーヴェイ調査一般については、次の文献が参考になります。D. A. de Vaus, Surveys in Social Research, Contemporary Social Research: 11, George Allen & Unwin, 1986