冤罪・誤判の防止のために!

(下記の書評は、評者と出版社の承諾をえて掲載しています。12/26/97)
(市民にも大いに役立つことが、最後まで読んでいただくとわかります。)

弁護士に大いに役立つ一書
荒木伸怡著『刑事訴訟法読本 冤罪・誤判の防止のために』

A5版・243頁・2369円 1996年・弘文堂
山下幸夫弁護士による書評
  
1 弁護士になって刑事裁判を手がけるようになると、研究者が書いた刑事訴訟
法の教科書では、具体的な問題にほとんど役に立たないことが多い。それは、教
科書類が、裁判所の立場を中心として客観的に記述されていることと、現実に行
われている裁判の実務についてほとんど言及されていないことが理由であると思
われる。他方、実務家が執筆した実務書などは、学説の紹介と裁判例の分析が主
であり、理論的な分析に欠けることが多い。したがって、これまで弁護士が刑事
弁護を手がける場合に、参考になるようなテキストはほとんどなかったように思
われる。

2 本書は、もともと大学における刑事訴訟法の講義の際の副読本として執筆さ
れたものである。しかし、私の読後感としては、実務家、とりわけ弁護士には大
いに役立つ本であるが、実際の刑事裁判を知らない学生にとってはかなり難しい
本だろうという印象を持った。
 荒木教授は、現に裁判が進行中であるいくつかの冤罪事件について、刑事裁判
記録を通読し、裁判傍聴を行うなど積極的な関わり方をしている数少ない研究者
の一人である。私が現在弁護人をしている調布駅南口傷害事件においても、荒木
教授は、膨大な刑事訴訟記録を丹念に読み、熱心に裁判傍聴に通い、また、弁護
団会議にも参加されて有益なアドバイスをしてもらっている。
 本書は、これまで生の刑事裁判を法廷傍聴したり、生の刑事訴訟記録に触れて
きた荒木教授の経験が十二分に生かされた力作である。

3 本書の最大の特徴は、冤罪が今なお発生し続けている刑事裁判について、基
本的には性善説に立った上で、職業裁判官を前提とする現在の刑事裁判制度の下
でも冤罪を防止することが可能であるというスタンスを取った上で(本書98頁注
(13))、冤罪を防止するための具体的な方策を述べられている点にあるだろう。
 本書においては、副題でもある「誤判・冤罪の防止」のためという明確な目的
意識から、刑事裁判は具体的にどうあるべきかという問題解決的アプローチが取
られている。そのため、従来、学説が当然の前提してきた概念に批判を加えたり
(例えば、「共犯者の自白」という概念に対して「共犯者の供述」という用語を
提唱している。195頁以下)、概念の有用性に疑問を呈して、独自の議論を展開
する場合がある(例えば、虚偽排除説と違法排除説についての159頁以下、補強
証拠の範囲についての形式説と実質説についての188頁以下)。

4 また、「誤判・冤罪の防止」のために、時には、弁護人側に対しても、厳し
い注文を付けることもある(例えば、弁護人の冒頭陳述についての151頁以下な
ど)。
 本書はこのような特徴を持ちながら、「人を得て物を求める捜査」と「物を得
て人を求める捜査」との対比(29頁以下)、供述調書は司法警察員の意向が反映
しているから証明力は大きくないとの指摘(38頁)、否認している被疑者の勾留
場所を代用監獄と指定することは自白を強要せよと勾留裁判官が命じていること
と同義であるとの厳しい指摘(71頁)、事件単位説は我が国の捜査の現状を踏ま
えていないと批判して手続単位説を支持する記述(77頁)、変遷後の自白には全
く証明力がないとの指摘(87頁)、必要的弁護制度につき肯定的な説明をするこ
とには危険性があるとの指摘(126頁)、準備手続が裁判官室で行われてしまっ
て法廷でほとんど告知されていない現状への厳しい批判(135頁)、共犯者の供
述が有するひっぱり込みの危険性につき、最高裁判所規則により、共犯者の供述
以外にひっぱり込まれた第三者が犯人であることについての補強証拠を要求すべ
きであるとのユニークな提言(202頁以下)など、従来の刑事訴訟法の教科書な
どで十分に論じられていなかった問題が掘り下げて論じられている。

5 このように本書は、刑事弁護を手がける弁護士にとっては大変に参考になる
とともに叱咤激励してくれる書物として、また、現在の刑事裁判に関心を持って
いる市民の方々にとっても、現在の刑事裁判の現状とその問題点を知る入門書兼
参考書として、ぜひとも本書を推薦したい。
      山下幸夫(やました・ゆきお/弁護士)
      『季刊刑事弁護』第10号161頁 book review

「H大学S教授による本書への批判」に対する荒木の反論も、是非お読み下さい。

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