2004年度国際租税法


試験解説 2005年1月26日公表 27日講評アップ 解答例は茶色 講評は緑色
科目名:EX329国際租税法 担当者:浅妻章如2005年1月26日 六法使用不可

第一問については、(1)〜(6)の問いのうち4つを選択し、解答してください。なお、5つ以上解答しても、前から4つしか得点計算に含めません。第二問・第三問については、全て解答してください。解答の順序は問いませんが、解答に際してはどの問いについての解答であるか明示してください。

第一問 (15点×4)
(1) たとい国際的二重課税が発生するとしても、租税法律主義の下で予め租税法規を見れば二重課税を受けることが分かっている以上、国際的二重課税を受ける納税者がかわいそうなわけではない、という議論があります。しかし、かわいそうでないにもかかわらず、国際的二重課税を放置してはならない、と考えられています。何故ですか、説明してください。

1頁1.3.参照 国際的二重課税を放置すれば、国際取引が国内取引よりも不利であるということになり、国際取引が萎縮してしまうから。

サービス問題のつもりでしたが、他の小問と比べてあまり点数は変わりませんでした。

(2) A国居住者であるB氏がC国源泉の1000の所得を稼ぎ、A国とC国の二国で課税されるとします。外国税額控除による国際的二重課税からの救済の仕組みを説明してください。A国の税率は35%、C国の税率は25%であるとします。

5頁1.5.2.、9頁2.3.参照 C国で250の課税を受ける。A国での元々の税額は350であるが、そこからC国での税額250が控除され、A国で納める税額は100にとどまる。結果として総税負担は350であり、B氏が国内で所得を得た場合の税率350と同じであるので、B氏は国際的二重課税から救済されている。

問題文の記述が「A国とC国の二国で課税される」とあるためか、先にA国で課され、次にC国での課税が問題となる、と考えている答案が散見されました。しかし、思考の順序としてはC国課税→A国課税です。

(3) 「資本輸出中立性」の意味を説明してください。

38頁4.1.2.参照 投資家がどこの国に投資しても同じ税率に直面するのであれば、どこの国に投資するかという選択について課税が歪みをもたらすことがない。これを資本輸出中立性という。

どこに投資するかの選択に関する問題であるということがキーポイントですが、分かりにくかったようです。

(4) 国家間の租税競争の良い面または悪い面のいずれかを説明してください。まず「良い面」もしくは「悪い面」と書き、次に改行してその説明を記してください。両方説明しても得点は倍になりません。

52頁5.7.参照
 良い面
 租税競争により国家は無駄な課税ができなくなり、無駄な財政支出が減る、という効率性の上昇が期待できる。
 悪い面
 フットワークの軽い企業や熟練労働者など、可動的な生産要素に対して課税することが難しくなり、可動性の低いもの、例えば不動産や未熟練労働者や生活必需品といったものへの課税を重くせざるを得なくなる。その結果、公平な租税負担の配分という政策目的が達成できなくなる恐れがある。

良い面として、経済活性化を挙げるのみで、財政の効率化に言及がされていない答案が、散見されました。 悪い面としてrace to the bottomについてのみ論ずる答案が散見されましたが、税率・税額が低くなること自体は、財政支出の効率化という「良い面」にも繋がりうる議論です。可動性の低いものへの課税ができなくなること、或いは福祉への支出ができなくなってしまうこと、その結果、納税者間の公平に問題が生じてしまうことが、ここでのポイントです。

(5) D氏は日本国籍を有していますが、2004年に所得を得たのに日本の課税を受けませんでした。他に損失を負っていて損益通算の結果純所得が0以下であったということではなく、確かに2004年の純所得はプラスであったのに、D氏は日本の課税を受けませんでした。D氏はどのような状況で所得を得たと推測されますか。

4頁1.5.1.参照 D氏は外国に居住し、外国に源泉を有する所得を得ていた、と推測される。

独創的な解答として、外国税額控除の結果、というものがありました。作問時に想定していなかった解答ですが、結果的に正しいので、満点(15点)としました。(別の要素による減点はあります)
作問時、第一問の(1)と(5)が最も簡単であろう、というつもりでいましたが、(1)には30人が解答したのに対し(5)に解答したのが14人しかいなかったことは意外でした。

(6) 消費税(付加価値税)の文脈においていわゆる原産地主義(源泉地主義)に則った課税が行なわれているとすると、どのような不都合が生じますか。

57〜58頁6.2.参照 税率の違いがそのまま商品価格に反映されてしまうため同じ所で売られるならば税率の低い国で生産された商品の方が有利であり、競争条件が歪められる。(税率の低い国に生産要素が過剰に投下されてしまうという非効率の問題がある、でもよい。)

解答者が少ないためか、解答した人は概ね分かっているようでした。

第二問 E国法人であるF社がG国法人であるH社に代理してもらい、F社がE国で製造した製品をG国法人のI社にH社を通じて売却しました。G国課税当局は、F社がG国に支店を置いていないにもかかわらず、F社のE国における製造に帰する所得に対し課税することを試みました。E国とG国とはOECDモデル租税条約と同じ租税条約を締結していました。租税条約の解釈論として、この課税は認められますか。まず「認められる」か「認められない」かの結論を書き、次に改行してその理由を記してください。(20点)

22-23頁3.3.3.参照 認められない。
 G国がF社に課税する根拠はH社がF社の代理人PEであるから、というものであろう。この代理人PEの要件が満たされているか設問の記述だけでは不明確であるが、仮に代理人PEが認められるとしても、代理人PEに帰属するとしてG国が課税できる所得は、当該代理人PEが別個のかつ分離した企業であったとしたならば得たであろう利得に限定される。「F社のE国における製造に関する所得」は代理人PEに帰属しないから、この所得に対するG国の課税は認められない。

PEまたは代理人PEについてしか論じてなく、PE・代理人PEとF社(のE国の事業所)との間の所得の帰属について論じていない答案が、多く見られました。
PEも代理人PEも認められないから本問の課税は認められない、という解答は、一見正しそうですが、本問では代理人PEが認められないとまでは言い切れません(認められるとも言い切れません)。そのため、代理人PEが認められる場合と認められない場合とに場合分けして論ずるか、或いは上記解答例のように、代理人PEが認められても認められなくてもそもそも所得配分の問題として課税が認められない、ということを論ずる必要があります。

第三問 
(1) 移転価格とはどのような問題ですか、3行以内で説明してください。(10点)

26頁3.4.2.参照 関連者間で取引する際の取引価格を恣意的に上げたり下げたりすることにより、関連企業グループ内の各会社に帰属する所得を恣意的に上げたり下げたりすること。

(1)・(2)ともに、利子支払と絡めた説明が散見され、過小資本の問題と混同されていることが伺われることがありました。利子支払についてもそれが過小或いは過大であれば移転価格の問題となるので、完全な間違いとはしませんでしたが、過小・過大ということを論じていない場合には減点対象としました。

(2) 移転価格問題は国内取引・国際取引問わず生じえますが、日本の租税法(租税特別措置法66条の4)の適用対象は国際取引に限定されています。納税者側に立ったつもりで、日本国内の関連者間取引で移転価格の技法を駆使し、日本における税額を減らす方法を考えてください。なお、連結納税制度は無視してください。(10点)

30頁3.4.4.参照 例えば親会社が黒字、子会社が赤字である場合、親会社から子会社に商品を売却する際、その価格を恣意的に低く設定することで、通常よりも当該取引に基因する所得が子会社に多く帰属するようにし、別に生じていた子会社の赤字と相殺するようにする。

そもそも解答を諦めた答案が多いことが、残念でした。今回の問題の中では難しめと思っていましたが、第二問より遥に低いのは意外でした。
国内の取引で、という条件が付されているにもかかわらず、外国に子会社を設立するとする解答が幾つか見られました。


総素点平均62.15
第一問(1)10.93(30人)
第一問(2)11.8(25人)
第一問(3)8.17(18人)
第一問(4)11.17(29人)
第一問(5)11.14(14人)
第一問(6)11.73(15人)*
第二問 10.09
第三問(1)5.82
第三問(2)3.03
* (1〜6)を合計しても132人(=33×4)になってないのは、4問選択しなかった人がいるからです。

最高点93
S:4人12.12%
A:5人15.15%
B:12人36.36%
C:8人24.24%
D:4人12.12%
計33人

作問時の目論見どおり、素点で80点を超える人が多数現れて、喜ばしく思っています。
中位層の点数も前期の租税法と比べると上がっています。(科目が異なるので比較対象として不適切ですが)
平均点は62点にとどまりましたが、下位層の点数が足を引っ張っているためと思われ、大方の人は試験内容をよく理解できていたものと思われます。これはC評価が前期の租税法のときより少ないこと(43.97%→24.24%)に表れているといってよいでしょう。


紙で配布した資料の訂正(下の電子ファイルでは訂正済み)
4頁 最終行 「居住者で有るか非居住者で有るか」 → 「居住者であるか非居住者であるか」
5頁 12行目 「日本の税収がなくなる。」 → 「日本の税収がなくなる。+産業空洞化の恐れ」
10頁 中ほど 「OECDモデル3条1項」「OECDモデル3条2項」 → 「OECDモデル4条1項」「OECDモデル4条2項」
10頁 2.3.5.の2行下 「cf. 0.組合の議論」 → 「cf. 2.1.1.組合の議論」
10頁 下から2行目 「南アメリカ」 → 「南アフリカ」
18頁 6行目 「33a従属代理人(independent agent)のみが」 → 「33a従属代理人(dependent agent)が」
29頁 下から8行目 「formularly apportionmen」 → 「formularly apportionment」
38頁 18行目 「税引前利益利」 → 「税引前利益率」
39頁 17行目 「資本輸出中立性は資本の亮が」 → 「資本輸出中立性は資本の量が」
53頁 5.3.2.について、「アメリカ」を「X国」に、「カナダ」を「Y国」に修正。


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シラバスから転載

科目コード  EX329
科目名    国際租税法
担当者(フリガナ) 浅妻 章如 / アサツマ アキユキ
学期/単位数 後期/2単位
備考     法学科 国際・比較法学科 政治学科
ねらい・授業内容:国際的な取引はますます盛んになっている。国際的な取引に対し、どのような課税がなされるのか、講義する。
 本講義では、納税者の視点と課税当局の視点を織り交ぜる。前者の視点では、国際的な取引について余計な税負担を負わないようにすることが重要であり、後者の視点では、国際的な取引について租税のとりはぐれを防ぐと同時に、課税を強化しすぎて却って経済の停滞を招くことがないようにすることが重要である。
 科目名は「国際」租税法であるが、越境(cross border)的な人・モノ・カネの移動について租税法がどう対応するかが問題であるので、本講義の内容は国内における地方公共団体間の関係にも応用のきくものである。本講義で地方税を直接扱うわけではないが、地方公共団体に携わる予定の者にも本講義の内容は意味を持つであろう。


授業計画:所得税法及びOECDモデル租税条約に沿って、以下の順序で講義する。
1.二重課税の排除、概論
2.居住地の判定
3.非居住者・外国法人に対する国内源泉所得課税
4.居住者・内国法人に対する国外源泉所得課税
5.越境取引と消費税
6.WTO・貿易協定との関係

 所得税(法人所得税を含む)が中心となるが、近年ますます重要になっている消費税にも触れる。時間に余裕があれば、貿易協定との関係についても言及する。


成績評価方法:筆記試験
教科書:特になし。 なお、OECDモデル租税条約を各自ダウンロードしておくこと。http://www.oecd.org/dataoecd/52/34/1914467.pdf アドレス変更があれば開講時に指定する
参考書:『租税条約関係法規集』(清文社)
その他:租税法の講義を受講済みであることが望ましい。
キーワード(15字 4つまで):

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