2005年度租税法


講義ノート1〜118頁(pdf)


試験問題 (解答・解説はこの色で 講評はこの色で
2005年度 立教大学法学部 試験問題
科目名:EX410 租税法  担当者:浅妻章如
試験実施日:2005年1月24日(火)2時限
試験時間:80分  六法の使用:不可

問題文
以下の各問いに全て答えよ。解答の順序は問わないが、解答に際してはどの問いについてのものであるか明示せよ。なお、後掲租税法抜粋に示されていない租税法の条文番号を明記しないことや、租税法上の数値の間違いなどは減点対象としない。ただし、数値例を自作して説明する場合に、その数値例やその後の説明に矛盾があれば、それは減点対象となる。例えば、法によれば税率が30%であるはずなのに、解答において40%であるという前提を示して解答しても、それ自体では減点対象とならない。しかし、40%で課税されるという数値例を自作して説明していながら、その後の説明が50%の税率を前提としているような場合には、減点対象となる。

第一問 課税要件が明確でなければ、人々が取引について萎縮する、と言われることがある。どうして萎縮するのか、また、萎縮することがなぜいけないことなのか、説明せよ。(20点)

講義ノート2.2.3.款:課税要件明確主義参照
解答例 もし、取引の前にどのような課税がなされるかが分からなければ、納税者はリスクに晒されることとなり、一般的に人がリスクを嫌う(risk averse)傾向があるとすると、人々はリスクを避けるために取引を控える可能性がある。取引は社会の厚生を増大させるものである(お互いに得だと思うからこそ取引は成立する)ところ、取引が萎縮すれば、発生しえた社会の厚生が失われることとなるので、取引を萎縮させることはいけないことである。

 前半部分について。憲法84条が租税法律主義を採用していることの理由の一つとして「課税要件が明確でなければ、人々が取引について萎縮する」ということがしばしば言われますが、さらに詰めてその理由はどういうことなのか、をここでは問うています。課税の結果が分からなくなってしまうとか、法的安定性・予測可能性が欠ける、とかいった、問題文の反復の域を超えない答案が多いのは残念でした。授業でも述べたように、「課税の結果が分からなくても、分からないなりに、不明確な課税の結果を予想しながら保険などでリスクを抑えて同じように取引できるはずではないか」といった反論が予想されるので、そうした反論を更に超える理屈をここでは問うているわけです。私はリスク嫌いという一般的な傾向によって説明できるのではないかと考えていますが、何か他の説明が考えられるかもしれません。しかし、同語反復の域を超える答案が少なかったことは残念でした。

 問いの後半部分について。経済が停滞するから悪い、だけでは、ほぼ、取引が萎縮するの反復にすぎず、満点は与えられません。それがなぜいけないのかの説明を求めているのです。
 悩ませた解答として「経済が停滞し税収が減ってしまう」という旨のものが幾つかありました。経済が停滞することの悪さを説明できているかやや疑問が残りましたが、一応の説明になっていると考え、満点としました。
 「投資が海外に向けられるようになってしまうから」という趣旨の解答が一つありました。想定外の解答でしたが、なぜいけないかの説明ができているので後半部分については満点としました。

第二問 以下の各問いに全て答えよ。なお、本問では、現在価値に割り引く計算は不要とする(市場利子率=0である、ということと同じ)。(20点)
(1) 後掲相続税法21条の7、租税特別措置法70条の2を見ながら、一度に1億円贈与する場合の贈与税額を計算せよ。
(2) 同じ条文を見ながら、10年間にわたり毎年1000万円ずつ贈与する場合の総贈与税額を計算せよ。
(3) 2000年12月31日、甲が乙に対し、「来年から10年間、つまり2001年から2010年にかけて、毎年年末に現金1000万円を贈与する」と話した。乙はこれを承諾した。乙は2001年度から贈与税申告納税義務が生ずるものと考えたが、税務署長は、2000年に1億円の贈与契約が締結されたものとして(1)で計算した通りの税額の納付を求めてきた。納税者の立場に立ち、税務署長の主張に反駁せよ。

講義ノート6.2.1.款、§ 521.01 NOTE 1参照
(1) 200×10%+(300−200)×15%+(400−300)×20%+(600−400)×30%+(1000−600)×40%+(9890−1000)×50%=20+15+20+60+160+4445=4720 よって4720万円
(2) 200×10%+(300−200)×15%+(400−300)×20%+(600−400)×30%+(890−600)×40%=20+15+20+60+116=231 よって2310万円
(3) 解答例 甲乙がしたのは書面によらない贈与であるので、民法550条により履行が終わっていない部分について撤回されうる。従って、乙は2000年の時点で贈与を受けることが法的に確定したとはいえない。
 (3)のポイントは、2000年の時点で贈与が法的に確定したかです。権利確定主義について、講義ノート3.4.2.款を参照してください。民法の原則によれば、意思の合致があった時点が契約の成立時点です。税務署長は、2000年に贈与契約が成立したので2000年に納税義務が発生すると主張してきています。納税者の立場に立った解答が本問では求められていますので、2000年の時点で法的な確定がなかった、と主張しなければなりません。「法的な確定がない」という主張が第一のポイントです。更に、なぜ「法的な確定がない」と主張できるかが問われます。ここでは、通常の契約とは異なり、書面によらない贈与契約が締結されている点がポイントとなります。六法使用不可の試験ですから民法550条を掲記することは要求しませんが、「書面によらない贈与であるので、甲はいつでも撤回できるから」など、何らかの理由で乙の受贈が法的に確定したとはいえないという主張をすることが第二のポイントです。

 (1)(2)は各5点。4720万円と2310万円の数値だけでも正解としています。サービス問題のつもりでしたが、正答率が非常に低く、ショックを受けました。超過累進税率の場合の税額の計算は講義中で何度も行なったはずです。110万円の控除を税額から行なっている答案も散見されました。単なる計算間違いの答案はごく僅かです。0点でなかったのは6人、(1)(2)とも正解したのは3人、(1)(2)合わせて10点満点中平均点が1.02点、最も平均点の低い問題となりました。

 (3)につき、現金がないのに納税を迫るのは酷である、といった政策論を述べている答案がありましたが、この問題文で政策論を語った人は、法学答案の書き方について深刻に反省すべきです。裁判官の前で税務署長の主張を覆すような解釈論上の理屈を求めていることは明らかな筈です。この問題を見て、担税力や納税資金や租税負担の公平といった議論をしても、とても正解とはいえません。
 実現主義をとるべきである、という答案が複数ありましたが、無意味です。税務署長は、贈与契約の締結があった2000年に贈与税の課税対象となる事実が実現したと考えているはずだからです。
 租税回避は否認規定がない限り認められるはずである、という類の答案も複数ありましたが、これも的外れです。税務署長は租税回避の否認を行なったのではありません。「2000年に1億円の贈与契約が締結された」という私法上の性質決定を元にしているのです。
 当事者の真意は、各年度において贈与契約を締結することである、とする答案が若干ありました。この主張を塞ぐために、問題文に「乙はこれを承諾した」とはっきり書いたのですが、ありえない主張ではないので、満点には及びませんが若干得点を増やしました。

第三問 付加価値税(付加価値を課税標準とする税)と比較して取引高税(売上を課税標準とする税)がどのような非中立性をもたらすか、数値例を自作しながら、説明せよ。(20点)

数値例については講義ノート7.2.1.款:取引高税・小売売上税・付加価値税参照。
取引高税の非中立性は、垂直的統合をしている企業の方が税負担が軽くなる、というところにあります。
解答例 税のない世界で、甲が仕入0円で商品を製造し、乙に4000円で売却し、乙は消費者に同商品を6000円で販売しているとする。また、丙は同種の商品を自ら製造し、そして直接消費者に6000円で販売しているとする。ここで5%の付加価値税が導入されると、甲から乙への税込売却価格は4200円になり、乙の税込小売価格は6300円になり、丙の税込小売価格も6300円になる。この場合、甲乙と丙とを比べて両者が中立的に扱われている。他方、5%の取引高税が導入されると、丙の小売価格は6300円でそのままであるが、乙がそれまでの2000円の税抜き売買差額を維持しようとすると、乙は小売価格を6300円ではなく6200×1.05つまり6510円に設定しなければならない。従って、取引高税では垂直統合をした事業者が有利になるという非中立性がある。

 なぜか、「利子率10%として〜」と値上がり益に対する課税の議論をしだした答案が複数ありました。混乱したのでしょう。
 数値例の部分についても、垂直的統合を有利にするという非中立性の部分も、あまり答えられていませんでした。
 付加価値税と取引高税のどちらが有利か、という議論をする答案が散見されましたが、的外れです。問われているのは取引高税がもたらす非中立性についてです。国語の勉強が必要です。

第四問 甲社(同族会社には当たらない)は表向きには古物商を営む法人である。が、実際は、がらくた同然の絵画を骨董品と称して無知の消費者に売りつけていた。甲の取締役である乙は、個人で鑑定業を営む丙に、鑑定書の偽造を依頼していた。丙は、最初は良心の咎めを覚え、「乙さん、私は違法なことには手を貸せない」と乙に言った。しかし、乙から「丙よ、お前の代わりなど幾らでもいるのだぞ」と脅され、丙はついに乙に屈し、乙のいうがままに鑑定書を偽造するようになってしまっていた。甲は、丙に鑑定料を支払った後の残りの利益の殆どを、給与という名目で乙に支払っていた。以下の各問いに全て答えよ。
(1) 丙は、「自分の甲に対する役務提供は、甲に従属した関係の中でなされたものであるから、甲から受けた鑑定料は給与所得に該当する」と主張した。丙が給与所得該当性を主張する利点はどのようなことであると推測されるか、説明せよ。(10点)
(2) 甲が丙に支払った鑑定料につき、甲の損金算入を否認する理由を、税務署長の立場に立って考え、説明せよ。(10点)
(3) 甲が乙に給与名目で支払った部分につき甲と乙全体でなるべく税額が増えるような法律構成を、税務署長の立場に立って考え、説明せよ。(20点)

(1) 講義ノート3.6.5.款:給与所得、§ 223.01 弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁、§ 223.04 税制調査会参照。
 通常、給与所得該当性を主張する場合、実際の経費を控除するよりも有利な給与所得控除(所得税法28条参照)を狙っている場合が多いと推測されます。ただし本問の設例においては「個人で鑑定業を営む丙」という記述があるので、甲から丙に対する鑑定料支払が給与所得と認められる可能性は低いでしょう。

(2) 講義ノート3.6.7.款:事業所得、§ 231.02 高松市塩田宅地事件・高松地判昭和48年6月28日行集24巻6=7号511頁、講義ノート4.2.3.款:損金の意義、§ 323.03 株式会社エス・ヴィ・シー事件・最決平成6年9月16日刑集48巻6号357頁参照。
 違法な支出であっても、§ 231.02にあるように一般論としてはその控除又は損金算入が直ちに否定されるとは考えにくいものです。しかし、違法な支出をした場合にその損金算入を認めてしまうと税負担も軽くなってしまうことから、そうした支出を違法とすることの趣旨が弱められてしまうのではないかという懸念があり、公序の理論として、違法であることの趣旨を尊重して税務上も損金算入を認めるべきではない、という議論があります(私は、日本では解釈論上支持できないのではないかと考えていますが、本問は「税務署長の立場に立って考え」ることを前提としていますので、こうした立論も妨げられないというべきでしょう)。
 別の立論として、§ 323.03におけるような議論が考えられます。法人税法22条4項が公正妥当な会計処理の基準に従って計算することを要請しているところ、違法な支出を損失又は費用として損金の額に計上することは公正妥当な会計処理の基準に従ったものであるとはいえないので、税務上も損金算入が認められない、とする立論です。私の採点の方針としては、前者の立論(公序の理論)で後者の立論(公正処理基準違反)でも正解としますが、外部で試験を受ける場合には、裁判例もあることですから、後者の立論の方が安全でしょう。

(3) 講義ノート4.2.3.款:損金の意義参照。
 甲社の計算上損金算入されるか、と、乙にとって何所得となるか、がポイントです。「なるべく税額が増えるように」という要求ですから、当然、甲社の所得の計算において損金算入ができない法律構成を考えねばなりません。
 第一に、乙に対する給与名目の支払は、乙の役務の対価の性質を有するのではなく、利益の処分に当たる、ということを考えます。乙は甲社の取締役ですから、最初に考えられるのは、給与名目の支払であっても、役員賞与(法人税法35条)であって、税務上損金算入できない、とする構成です。別の可能性として、寄附金(法人税法37条)に当たり損金算入できない、という構成も考えられます。
 なお、本問では明確に「同族会社には当たらない」と断り書きがあるので、同族会社の行為計算否認規定(法人税法132条)を論じても加点できません。
 第二に、乙の扱いについて考えます。給与名目で支払われているので給与として扱うことがまず考えられます。しかし、甲社の所得の計算上、乙に対する支払は給与(役務の対価)ではなく利益の処分であるとしていることとの整合上、乙が受け取ったのは法人からの贈与に当たる、とする考え方もありえます。この場合、一時所得となります。給与所得と一時所得とを比べると、一般的には一時所得の方が税負担が軽くなります。ですので、税務署長の立場からすれば、「甲社の所得の計算においては乙に対する支払は利益処分であるが、乙の扱いにおいては給与所得である」とした方が、有利であることになります。しかし、税務署長が課税処分を打つ際に、甲社に対する場合と乙に対する場合とで理由を変えるような不整合な扱いはできない(もし乙の所得を給与所得として課税処分を打ってしまうと、後者に対して利益処分として課税処分を打とうとする時に裁判官を説得しにくくなるかもしれない)といった理由付けがあれば、本問の解答として一時所得としても認められるべきでしょう。
 通常は給与所得か一時所得かの争いになると思われますが、雑所得の可能性もあるかもしれません。法人からの贈与には当たらず、役務の対価ではあるが、給与所得には該当しない、と考えれば、雑所得となるでしょう。一般には雑所得の場合には一時所得や給与所得の場合よりも税額が増えますから、こうした立論の上で雑所得として解答した場合も正解とすべきでしょう。

(1) 丙は「個人で鑑定業を営」んでいるのですから、普通に考えれば、丙が得た所得は事業所得のはずです。従って、本問において給与所得と比較すべきは事業所得です。しかし、贈与税と比較した答案がありました。一枚だけ、丙は真っ当な鑑定業を行なわないで所得を得たのだからそれは贈与であるはずである、と、贈与該当性について説明した答案があり、そのような説明があれば贈与税の扱いと給与所得の場合の扱いとを比較することが可能となりえますが(しかしそれもかなり苦しい説明ですが)、そうした説明がなくいきなり贈与税との比較だけを述べている答案については、得点を低くしなければなりません。
 また、給与所得について「税率」が有利になる、という前提で議論をした答案が複数ありましたが、所得税法はそのように設計されていません。「所得控除」だけ言及してれば満点ですが、「所得控除及び税率」と述べている場合は、本来ならば減点対象とすべきところであるでしょう。
 「丙は自身の従属性を主張することによって刑事罰の軽減を図っている」という旨の答案が複数ありましたが、論外です。

(2) ここでも(1)の続きで贈与と構成している答案がありました。贈与と構成する理由が説明されている答案は一つだけであり(それも苦しい理由付けですが)、そちらは加点対象としましたが、理由もなくいきなり贈与とする答案については加点幅を小さくしなければなりません。
 違法性について言及できた答案は幾つかありました。しかし、上述の通り、違法な支出というだけでは損金算入が必ずしも否定されるとは限りません(寧ろ違法であっても支出がある以上原則としては損金算入が認められると考えられる)ので、違法な支出だとなぜ損金算入が否定できるかの理由も求められています。従って、違法性だけを述べた答案は満点には至りません。

(3) 全般的に殆ど出来ていませんでした。
 法人からの贈与が一時所得になる、ということが分からない答案が複数ありました。贈与税の課税対象になるものとならないものとの区別に注意してください。


採点基準 (基準緩和後の採点基準であるため、本来ならば加点要素とならないものも加点要素としている部分があります)
第一問
課税の結果が分からなけいので取引が萎縮する、予測可能性・法的安定性を欠く だけなら、問題文の繰返しに過ぎないので 5点
リスク嫌い等、同語反復の域を超えた説明があって 10点満点

取引が行われなくなる だけなら5点
取引が行われないと社会全体の効用が減ってしまうことまで説明して 10点満点
経済が停滞し税収が減ってしまうから、市場における資源配分が損なわれるから、という説明でも 10点満点 

第二問
(1)(2)は最後の数値があっているかのみ審査 各5点
(3) 法的確定がないこと、法的確定がないことの理由を述べていること セットで 10点満点
実際に富が増えた時点まで待つべきである、現金主義・実現主義を採るべきである、という主張については 5点
租税回避の否認の可否、という筋で論じているものは 5点
各年度において贈与契約を締結したものである、という主張は、8点
担税力、納税資金、租税負担の公平といった政策論を語っている場合は 0点

第三問
数値計算と、垂直統合ができて20点満点
数値計算だけの場合、10点
付加価値税または取引高税どちらかだけの計算なら 5点
付加価値税または取引高税の計算が一段階の取引についてしか書かれていなければ 2点
垂直統合の話ではなく、減価率の高い業種が不利であるという主張の場合 5点
垂直統合の話ではなく取引高税についてtax on taxだけがいえている場合 5点

第四問
(1) 給与所得控除のことに言及していれば 10点満点
贈与税と比較しているものは 5点
単なる所得と異なり給与所得ならば必要経費として控除できる 5点

(2) 違法な支出 + 公序の理論or構成処理基準違反 がいえていれば10点満点
違法な支出の損金算入否定だけを論じている場合 5点
乙が鑑定業務を行ったわけではないから贈与であるという場合 5点(説明もなく贈与である、と言っている場合は2点)

(3) 利益処分であり、役員賞与or寄付金 が主張できていれば10点満点
損金算入否定だけならば 5点
甲社の利益であって乙の給与でない 2点
贈与に当たるだけならば 2点(贈与だから損金算入の否定ならば5点)

給与所得、一時所得 もしくは雑所得といった検討ができていれば 10点満点
配当所得・事業所得に該当するという主張には無理があるので 5点
乙にとって贈与税が課される(甲の損金算入の可否に着目してない) 3点

全体で、法人から個人への贈与であるという主張のみの場合、全体で5点


全体について
 昨年より問題は難しくなっていないはずです(寧ろ昨年より若干易しい問題としたはずです)。最高点は90点(最低点は0点)であり、受験人数と80点以上の人の割合は昨年とほぼ同様です。講義の内容を理解した学生にとっては、容易な試験であったはずです。しかし、昨年より大幅に平均点が下がりました。昨年の平均点は43点でしたが、今年は(採点基準見直し前は)24.1点でした。昨年と比べ講義ノートが倍に増えたので、試験前の復習が追いつかなくなった、ということが原因として考えられますが、単位が倍に増えたのですから復習が大変になるのは当たり前のことです。
 昨年と同じ基準を適用すると、受験者の7割を不可にしなければならなくなる、という事態になりました。昨年不可となった人のことを思うと、今年になって突然基準を緩めてしまってよいものか、とても悩みました。しかし、消化しがたい講義をしてしまった私にも原因があると考え、採点基準を見直し、またCの基準の緩和をしました。今年Cであった人は、昨年の基準のままならばDです。
 採点基準見直し後の平均点は30.0点です。全体的に4年生の方が悪い成績です。D9人中8人が4年生です。

S 1人
A 8人
B 5人
C 21人
D 9人

平均点 合計 30.0点
問1     11.9点
問2-(1)(2) 1.0点
問2-(3)   4.7点
問3     3.0点
問4-(1)   3.9点
問4-(2)   2.4点
問4-(3)   3.1点



 配布資料は、「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。



紙で配布した講義ノートの訂正(下の電子ファイルでは訂正済み)
11頁22行目 「ために好ましい。」」の後に「(金子租税法88頁)」を追加。
11頁2.3.2款の§131.02直前に次の一行を挿入 「参照:渡辺智之「所得・消費・資産」ジュリスト1289号218-223頁(2005.5.1-15)」
14頁6行目 「自発」 → 「自殺」
19頁§ 211.02 「再犯」 → 「最判」
19頁§ 211.03の前 「変換」 → 「返還」
26頁§ 323.09 ケンウッド事件 引用文中「法人税方」 → 「法人税法」
31頁 Eisner v. Macomberの後に次の文章を追加
 「(日本では株式配当は現金配当と同様に課税される。所基通24-3参照。但し通達は法令ではないから根拠ではない。所得税法24条・36条が形式的根拠)
所得税法基本通達24 −3(法人が株主に交付した株式に対する課税関係)
 法人が株主に交付した株式…に対する課税関係は、次のようになることに留意する。…
(1) 法人が自己の保有する株式をもって利益の配当をした場合の当該株式については、法第36条第2項《収入金額》の規定により、当該株式の価額によって配当等に係る収入金額を計算する。((2)省略)」
39頁§ 212.04 NOTE 3 「参入」 → 「算入」
46頁 3.6.3.の5行上 「1000万延長」 → 「1000万円超」
47頁§ 222.05 の事実・争点 「〜〜AはXの対第三者債務を〜〜Xの対第三者債務(合計2600万円)」 → 「〜〜XはAの対第三者債務を〜〜Aの対第三者債務(合計2600万円)」 
58頁§231.01 NOTE 2.&3.(1) 「取得費算入・減価償却と〜」 → 「資本的支出・取得費算入・減価償却と〜」
               「借入金利子100」 → 「機械関連費用100」
62頁§242.02 判旨 「意志」 → 「意思」

講義ノート1〜118頁(pdf)

11月18日(金)18:30- 於8101 法務研究科特別セミナー
Taxation of Business in a Changing World
Professor Oliver Oldman(Harvad Law School)をお招きして、国際課税についてのセミナーが行なわれました。
中里実教授(東京大学)、岩倉正和弁護士(西村ときわ)を交え、企業課税の課題についてお話していただきました。

シラバスから転載

科目コード/科目名 EX410/租税法
担当者(フリガナ) 浅妻 章如(アサツマ アキユキ)
学期/単位数 後期/4単位
備   考 法学科 国際・比較法学科 政治学科 (旧カリキュラム適用者)

ねらい・授業内容:租税法を勉強する意義は大きく言ってふたつあります。実学の側面と公平の側面です。 第一に,民法・商法などで幾つかの法形式を教わったことと思いますが,その法形式の選択次第では租税負担が重くなったり軽くなったりすることがあります。納税者の立場からはどのようにすれば余計な租税負担を負わないようにすることができるかを,課税する方の立場からは納税者が租税を免れようとする時に何を考えているのかを,学ぶ必要があります。この実学の側面は,主に解釈・運用の場面に関わります。
 第二に,租税負担の配分はどのようにするのが公平に適うかという哲学的な問いをも,租税法は含んでいます。何が公平かについて生の価値判断を述べることは法律家のよくするところではありませんが,公平について議論する際の考慮事項は,今後皆さんが主権者として政策決定に関わる際に知っておくべき事柄です。公平の側面は,主に立法論・政策論に関わります。
 法科大学院では第一の側面が中心となるでしょうが,この講義では第二の側面も取り上げるため,必ずしも法学的な内容にこだわらず,経済学的な方法論も盛り込んでいく予定です。どちらの側面に関しても,所得の操作ということについて,イメージできるようになることを目指します。

授業計画:教科書には所得税・法人税・相続税しかありませんが,その他に消費税も取り上げます。地方税・個別消費税・流通税・関税については,時間に余裕があれば言及します。また,国際租税法についても若干扱います。教科書に指定したものは必ずしも教科書として書かれた物ではありませんので,必要に応じてレジュメを配布して補います(教科書にない消費税・国際租税法についてはレジュメが中心となります)。
 概ね,以下のスケジュールを予定しています。
1.序論及び憲法論(2回)
2.所得税(8回)
3.法人税(5回)
4.相続税・贈与税(3回)
5.消費税(3回)
6.国際租税法(4回)

成績評価方法:筆記試験

教科書:金子宏他『ケースブック租税法』(弘文堂)

参考書:金子宏『租税法』(弘文堂)。
 ほぼ毎回レジュメを配布し,その他の参考文献も講義中に随時紹介します。

その他:民法の法人論及び会社法を受講済みもしくは並行して受講していることが望ましいです。

表紙へ