2008年度租税法(EX410)


講義ノート128頁まで(完)(word/zip)

 配布資料は、「学生がノートを書く負担を減らして、話を聞くことに集中できるようにしているが、レジュメを見ただけでは理解しにくく、講義を耳で聞いて理解が深まる」というレベルを目指して作成しています。私自身の学生時代の経験から、耳で講義を聞いていた方が懸命に教科書を読んだだけというよりも理解が深まっている、と感じています。
 黄色のマーカー部分は訂正箇所です。
 青色マーカー部分は講義でとばした箇所であり、期末試験の対象外となります。

期末試験(2008年1月22日1限実施) 解説
2008年度 租税法 EX410 浅妻章如
解答の順序は問わないが、解答に際してはどの問いについてのものであるか明示せよ。

第一問 付加価値税の輸出免税は大企業優遇だという議論が巷に存在するが、実際は小規模事業者も輸出免税を選択することができる。小規模事業者に関する付加価値税の非課税と、輸出に関する付加価値税の免税について、数値例を自作しながら両制度の違いを分かりやすく説明し、小規模事業者であっても非課税事業者を選択しない方が有利な場合があることを説明せよ。(20点)

【解説】 講義ノート5.2.5.参照。 例えば、税率5%とし、税込価格840で仕入をして税抜価格1000で販売もしくは輸出する非課税事業者Aと輸出事業者Bを想定する。Aは1000の売上げについて付加価値税が課されないが、仕入先に支払った40の税額について還付を受けることができない。Aに他の費用がかかっていないとすればAの利益は160である。他方、Bは1000の売上げについて付加価値税が課されないだけでなく、仕入先に支払った40の税額について還付を受けることができる。Bに他の費用がかかっていないとすればBの利益は200である。

【講評】 分かる人はすらすら解ける、分からない人は何が何だか分からない、という感じだったようです。点数が上下にばらけました。付加価値税は必ず試験に出すと毎年予告しているのですが、付加価値税まで復習が追いつかないのでしょうか。

第二問 以下の(1)〜(3)の問のうち2つを選択して解答せよ。(15点×2)
(1) 国防以外の公共財の例を挙げ、その財についての非競合性・非排除性を説明しながら、どのように市場の失敗が起こるのか、論述せよ。
(2) 外国税額所得控除と外国税額控除と国外所得免税について、分かりやすい数値例を自作しながら説明せよ。
(3) 帰属所得非課税が持ち家を非中立的に促進しているということについて、分かりやすい数値例を自作しながら説明せよ。

【解説】 (1) 講義ノート1.4.参照。 例えば立法について考えると、日本国民が一人増えても立法に関する費用が増えるわけではないという意味での非競合性があり、また料金を支払わない人間に対して日本の立法による法整備の恩恵を及ぼさないようにすることはできないという意味での非排除性がある。立法による恩恵を受ける人から料金を徴収することが難しいため、市場に任せると立法による法整備が過小となる。
(2) 講義ノート6.1.2.参照。 例えば、A国の税率が40%、B国の税率が30%であり、A国法人であるC社がB国で100の税引き前所得を稼ぐとするとすると、C社はB国で30の税負担を負う。外国税額所得控除の場合、C社は100から30を控除した70の所得に対してA国の税率で課税され、A国には28を納税することとなる。外国税額控除の場合、C社は100の所得にA国の税率を乗じた40の税額からB国で納税済みの30の税額を控除してもらえるので、A国には10を納税することとなる。国外所得免税の場合、C社はA国に納税しない。
(3) 講義ノート2.3.8.参照。 例えば、5000の現金を有するAとBがいるとし、利子率は年3%であり、税率は20%であるとする。Aが4000の家を買い、1000を貯蓄すると、毎年30の利子所得が発生し、6の所得税が課せられる。税引後所得は24である。家に住むことにつき家賃相当の、例えば120程度の帰属所得がAに発生しているがそれについて所得税は課せられない。Bが5000を貯蓄し、年間家賃120の借家に住むとすると、毎年150の利子所得が発生し、30の所得が課せられ、税引後所得は120である。家賃支払後に使える所得は0である。このため持ち家を選択するAの方が有利である。

【講評】 (3)は選ばれにくいかなと思いましたが、実際には解答者が(1)〜(3)に平均的に分散しました。
(1) 非競合性・非排除性のどちらかに言及する答案が多かったです。
(2) 外国税額控除の説明は比較的よくできていました。外国税額所得控除との違いには意識が向かなかったようです。
(3) 帰属家賃非課税への言及は比較的よくできていましたが、数値例を作るのは難しかったようです。

第三問 A氏は従業員としてB社に勤務しながら、卓球用具メーカー・C社から卓球用具の(ラケット、ラバー、靴等)の提供を受けて、卓球の練習をしていた。そのAが日本代表として2009年世界卓球選手権横浜大会シングルスに出場することとなった。AとC社は、他社製造の卓球用具を使用してはならない、という趣旨の契約を締結していたが、D社の製造した卓球ラケットがAのプレイスタイルに適していることが大会直前に判明した。そしてAがどのラケットを使うかが日本中の関心事となった。AがC社に違約金を払える見込みはなかったが、破産覚悟でAはD社製のラケット及びC社製のラバーや靴を装備して大会に参加することにした。D社は、世界卓球選手権で使われることは自社の宣伝にもなると考えて、Aに無償でラケットを提供した。Aは見事優勝した。B社からAに特別褒賞金が支払われることとなった。1979年世界卓球選手権ピョンヤン大会の小野誠治選手以来の日本人選手の優勝ということで、日本中で卓球人気が沸騰し、C社・D社ともに卓球用具の売上が急上昇した。その後開催されたC社の取締役会では、他社製卓球用具使用にかかる違約金をAに請求するか、も議題になったが、今後のAの収入を考えれば違約金支払の資力は充分に見込めるにもかかわらず、「C社は空気読めない」といった世評に晒されることを恐れ、違約金請求権を放棄することとした。のみならず、C社製卓球用具売上増等も勘案し、C社は契約条件にない特別功労金をAに支払うこととした。
 十数年後、Aが死亡し、Aの子であるE氏が唯一の相続人として相続することとなった。が、浪費家のAに土地建物等のめぼしい遺産はなく、売り物になりそうなものといえば、Aが世界卓球選手権で優勝した時の卓球ラケットくらいしかなかった。
 A・Eともに日本居住者であり、B社・C社・D社はみな日本法人であって同族会社ではなく、租税法規は講義で扱ったものと変わっていないとする。なお、配点は解答時間の目安程度に考えてほしい。解答に予定以上に意味のある記述がある場合、ボーナス点の加算も考える。
(1) AがB社から受け取る特別報奨金及びC社から受け取る特別功労金について、税務上どのような所得として扱われるであろうか、違いがあるかどうかにも触れつつ、説明せよ。(10点)
(2) C社のAに対する違約金請求権放棄について、課税当局及びC社はそれぞれどのような主張をすると考えられるか、説明せよ。(15点)
(3) EがAからの相続により受け取ったラケットは、相続当時オークションにかければ1億円の値がつくと予想されていたとする。Eは暫くラケットを床の間に飾っていたが、飽きたので二年後にオークションにかけたところ、1億3000万円で売られた。Eが相続する際に単純承認していた場合と限定承認していた場合とに分けて、ラケットに関し相続税・所得税についてどのような扱いとなるか説明せよ。なお、条文がなく控除額や税率構造が不明のため、税額計算はしなくてよいが、短期か長期かの区別はせよ。(25点)

【解説】 (1) 講義ノート2.6.5.参照。 結論としては特別報奨金も特別功労金もともに事業所得・一時所得・雑所得などに該当する可能性があるでしょうが、前者については、Aが勤務先であるB社から受け取るものでありかつAの卓球での活躍がB社の利益に貢献する可能性もあるので、前者についてだけ給与所得に該当する可能性もある。
(2) 講義ノート3.2.2.及び3.2.5.など参照。 違約金請求権放棄が寄附金に当たるかの問題となる。課税当局側としては、違約金請求権によって回収できたであろう額をC社の益金と構成した上で、C社の違約金請求権放棄に係る額が寄附金に該当し、そのうちC社の寄附金の損金算入限度額を超える部分について損金算入を否定する、という主張をすると考えられる。他方、C社としては請求権放棄がC社の経営判断として合理的である旨を論じて、違約金請求権行使によって回収できたであろう額をC社の益金に算入しないことの合理性、もしくは仮にその益金算入を前提としても請求権放棄に係る全額を損金算入することの合理性を、主張すると考えられる。(なお、課税当局とC社との争いを問うているので、違約金請求権放棄による債務免除益をAの収入に計上すべきかなどを論ずることは出題趣旨から離れるが、それしか論じていない場合には若干の加点要素とする。)
(3) 講義ノート2.6.3.参照。 単純承認した場合、Eは1億円の相続をしたものとして相続税が課せられる(税額計算は不要)。Eがラケットを1億3000万円で売却したとき、所得税法60条によりAの取得費等の属性がEに引き継がれるので、Eは1億3000万円の長期譲渡所得を得たものとして所得税が課せられる。限定承認した場合、所得税法59条により相続時点で1億円で譲渡があったものと擬制され、1億円の長期譲渡所得として所得税が課せられる。更にEは相続税も課税される。Eがラケットを1億3000万円で売却したとき、所得税法60条の適用がないので、Eは3000万円の短期譲渡所得を得たものとして所得税が課せられる。

【講評】 (1) 給与所得該当性の可能性の有無を焦点にしましたが、比較的よく言及されていました。なお、結果的にB社からの特別報奨金について給与所得以外の所得と結論つけていても、給与所得該当の可能性を意識した上でそれを否定していれば、きちんと加点しています。
(2) C社の益金算入にはなかなか思い至らなかったようです。清水惣事件や興銀事件の判旨を意識した答案が幾つかあったのは喜ばしいところです。
(3) 所得税法59条のみなし譲渡の適用の有無が焦点となっているということは大体理解されたようでほっとしました。が、相続税と所得税の両方の課税関係が問われている、ということへの意識は弱かったようです。

【全体の講評】 サンプルが少なすぎるのであまり確かなことはいえませんが、今年は国際課税も試験範囲に含まれたので、試験範囲が広すぎると感じられたかもしれません。講義ノートを見返すときに、「ここの数値はどうしてこう計算されているのだろう?」と確認しながら復習すれば、色々な税制がそれなりに合理的に(時々おかしな課税結果になることもありますが)設計されていることが理解できると思います。

S 1人
A 4人
B 2人
C 4人
D 4人

平均点
第一問   3.00
第二問(1) 5.91 (11人)
第二問(2) 6.67 (09人)
第二問(3) 5.00 (10人)
第三問(1) 7.00
第三問(2) 4.00
第三問(3) 6.33
合計平均  32.0

最高点 80点 最低点 0点

シラバスより転載
EX410 租税法 通年 4単位
■授業の目標
租税法の仕組みの概要を知る。特に,所得の操作ということについて,イメージできるようになる。法律と政策論との関わりを理解する。

■授業の内容
租税法を勉強する意義は,大きく言ってふたつあります。実学の側面と公平の側面です。第一に,民法・商法等で幾つかの法形式を教わったことと思いますが,その法形式の選択次第では税負担が重くなったり軽くなったりすることがあります。納税者の立場からは,どのようにすれば余計な税負担を負わないようにすることができるかを,課税する方の立場からは納税者が租税を免れようとする時に何を考えているのかを,学ぶ必要があります。この実学の側面は,主に解釈・運用の場面に関わります。
第二に,税負担の配分は,どのようにするのが公平に適うかという哲学的な問いをも,租税法は含んでいます。何が公平かについて生の価値判断を述べることは法律家のよくするところではありませんが,公平について議論する際の考慮事項は,今後皆さんが主権者として政策決定に関わる際に知っておくべき事柄です。公平の側面は,主に立法論・政策論に関わります。

■授業計画
 教科書には所得税・法人税・相続税しかありませんが,その他に消費税も取り上げます。地方税・個別消費税・流通税・関税等については,時間に余裕があれば言及します(が余裕のある時はあまりありません)。また,国際租税法についても若干扱います。教科書に指定したものは,必ずしも教科書として書かれた物ではありませんので,必要に応じて講義ノートを配布して補います(教科書にない消費税・国際租税法については講義ノートが中心となります)。昨年の講義ノートはhttp://www.rikkyo.ne.jp/~asatsuma/07sozeihou.htmlからダウンロードできます。
 法人税の回数が少なく見えますが,所得計算に関わる部分は所得税の中であわせて論じますので,その分所得税が多く,法人税が少なく見えるだけです。
 概ね,以下のスケジュールを予定しています。
1.租税法序論(3回)
2.所得税(11回)
3.法人税(3回)
4.相続税・贈与税(2回)
5.消費税(2回)
6.国際租税法(4回)

■成績評価方法・基準
筆記試験

■テキスト
金子宏他『ケースブック租税法』(弘文堂)

■参考文献
金子宏『租税法』(弘文堂)。他,講義ノートを配付します。

■その他(HP等)
民法の法人論及び会社法を受講済み,もしくは並行して受講していることが望ましいです。


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